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異世界迷走中
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俺は間抜けな事に、ここではじめて自分が話している言葉について思い至った。
(そういや、何で俺は異世界のアディ達と普通に言葉が通じているんだ?)
俺は、普通に日本語で会話をしている……いや、会話しているつもりだった。
(だって[よろず相談サイト]では、アディは普通に日本語使っていたし)
サイトでのやりとりは、当然日本語だ。だから俺はアディの外見がモロ外国人でも日本語で会話することに何の不思議も覚えなかったのだ。
しかし、よくよく考えれば、アディはともかくエイベット卿や他の人達まで日本語ペラペラなのは、おかし過ぎる。
(異世界の公用語が日本語のわけないし……)
ひょっとしてこれは、異世界トリップ定番の自動翻訳機能の恩恵なのか?
俺は日本語で話しているつもりでも相手には相手の言語に聞こえて、そして相手は自分の言語で話しているのに俺には日本語で聞こえるという、あの超便利な。
そう考えれば何もかもつじつまが合った。
アディのサイトの相談も、おそらくアディはこの国の言語でやっていたのだろう。
(これも『神の賜いし御力』なのか?)
便利すぎだろうと、俺は思う。
こんなに都合が良すぎていいんだろうか。
いや、全然気づかずに恩恵に与っていた俺が言うことでもないけどな。
何はともあれ、それが正解のようだった。
そしてそのために、今目の前のこの娘には俺が獣人の言葉を喋っているように聞こえているってわけだ。
(どう説明しよう?)
悩みながらも俺は、自分の勘が当たっていた事を複雑な思いで確信していた。
(獣人には、独自の言葉がある。しかも、それを巧妙に隠す知恵もあるんだ)
そんな存在を、ただの使役動物だなんて思えるはずがなかった。
いったい何の目的で、獣人達が自分達の言葉を隠し、奴隷なんていう立場に甘んじているのかはわからないが、俺は俺がとんでもなく面倒な事態に足を突っ込みかけているのを感じた。
「えっと。俺は別に君達の言葉がわかるわけじゃなくて……その、俺はここの人間じゃないから」
しどろもどろに俺は説明する。
真紅の瞳がパチパチと瞬いた。可愛らしく首が傾げられ、長い耳がユラリと揺れる。
俺の心臓が爆発する。
……ケモミミの破壊力、マジ凄すぎる。
「あ……俺は、別の世界からここに来たんだ。異世界トリップってわかるかな?」
別の世界と言いながら、俺はなんとなく空を指差した。
つられて獣人の女の子も上を向く。
建物の間から青い空が見えた。
「別の世界? ………………あなたは、降りて来られたのですか?」
うんうんと俺は頷く。
----この時、俺は自分が致命的なミスをした事に気づかなかった。
彼女の目が限界まで見開かれる。
丁度その瞬間、
「ユウさま!」
俺は、名前を呼ばれて慌てて振り返った。
そこには俺の方に駆けてくる例の黒髪の騎士がいた。
(すげぇ……はじめて声を聞いた)
どうでもいいことに感動する。
「ユウさま。勝手に動くなと目で合図をしたでしょう! あなたは何をしているのです!」
黒髪の騎士は滅茶苦茶怒っていた。
……どうやら彼が広場でアディの元に行く前に俺を睨み付けたのは、そこで待っていろという彼なりのアイコンタクトだったらしい。
(そんなもん、わかるわけないだろう?)
彼と俺との間にそんな高度な意思疎通ができるはずがない。
何せ声も今はじめて聞いたくらいの仲なのだ。
なのに黒髪の騎士は、俺の行動がいかに無分別で、周囲に迷惑をかけて、しかも国王陛下をもの凄く心配させているかを、懇々と俺に言い聞かせた。
なんとアディは王都の全軍を動かして俺を捜索しようとしているらしい。
過保護にも程があると思う。
「さあ、一刻も早く戻りますよ!」
俺の手をガッシと掴んで黒髪の騎士が道路を戻り出す。
無口でクールだとばかり思っていた男の、思いもよらぬ饒舌さと熱い行動に面食らいながらも俺は後に続く。
獣人の女の子は、いつの間にか姿を消していた。
まあ、城へは無事戻れそうだから、別にいいんだけれど……
俺は、自分が今知った真実をどうするべきかを考え込みながら、騎士に引っ張られていったのだった。
(そういや、何で俺は異世界のアディ達と普通に言葉が通じているんだ?)
俺は、普通に日本語で会話をしている……いや、会話しているつもりだった。
(だって[よろず相談サイト]では、アディは普通に日本語使っていたし)
サイトでのやりとりは、当然日本語だ。だから俺はアディの外見がモロ外国人でも日本語で会話することに何の不思議も覚えなかったのだ。
しかし、よくよく考えれば、アディはともかくエイベット卿や他の人達まで日本語ペラペラなのは、おかし過ぎる。
(異世界の公用語が日本語のわけないし……)
ひょっとしてこれは、異世界トリップ定番の自動翻訳機能の恩恵なのか?
俺は日本語で話しているつもりでも相手には相手の言語に聞こえて、そして相手は自分の言語で話しているのに俺には日本語で聞こえるという、あの超便利な。
そう考えれば何もかもつじつまが合った。
アディのサイトの相談も、おそらくアディはこの国の言語でやっていたのだろう。
(これも『神の賜いし御力』なのか?)
便利すぎだろうと、俺は思う。
こんなに都合が良すぎていいんだろうか。
いや、全然気づかずに恩恵に与っていた俺が言うことでもないけどな。
何はともあれ、それが正解のようだった。
そしてそのために、今目の前のこの娘には俺が獣人の言葉を喋っているように聞こえているってわけだ。
(どう説明しよう?)
悩みながらも俺は、自分の勘が当たっていた事を複雑な思いで確信していた。
(獣人には、独自の言葉がある。しかも、それを巧妙に隠す知恵もあるんだ)
そんな存在を、ただの使役動物だなんて思えるはずがなかった。
いったい何の目的で、獣人達が自分達の言葉を隠し、奴隷なんていう立場に甘んじているのかはわからないが、俺は俺がとんでもなく面倒な事態に足を突っ込みかけているのを感じた。
「えっと。俺は別に君達の言葉がわかるわけじゃなくて……その、俺はここの人間じゃないから」
しどろもどろに俺は説明する。
真紅の瞳がパチパチと瞬いた。可愛らしく首が傾げられ、長い耳がユラリと揺れる。
俺の心臓が爆発する。
……ケモミミの破壊力、マジ凄すぎる。
「あ……俺は、別の世界からここに来たんだ。異世界トリップってわかるかな?」
別の世界と言いながら、俺はなんとなく空を指差した。
つられて獣人の女の子も上を向く。
建物の間から青い空が見えた。
「別の世界? ………………あなたは、降りて来られたのですか?」
うんうんと俺は頷く。
----この時、俺は自分が致命的なミスをした事に気づかなかった。
彼女の目が限界まで見開かれる。
丁度その瞬間、
「ユウさま!」
俺は、名前を呼ばれて慌てて振り返った。
そこには俺の方に駆けてくる例の黒髪の騎士がいた。
(すげぇ……はじめて声を聞いた)
どうでもいいことに感動する。
「ユウさま。勝手に動くなと目で合図をしたでしょう! あなたは何をしているのです!」
黒髪の騎士は滅茶苦茶怒っていた。
……どうやら彼が広場でアディの元に行く前に俺を睨み付けたのは、そこで待っていろという彼なりのアイコンタクトだったらしい。
(そんなもん、わかるわけないだろう?)
彼と俺との間にそんな高度な意思疎通ができるはずがない。
何せ声も今はじめて聞いたくらいの仲なのだ。
なのに黒髪の騎士は、俺の行動がいかに無分別で、周囲に迷惑をかけて、しかも国王陛下をもの凄く心配させているかを、懇々と俺に言い聞かせた。
なんとアディは王都の全軍を動かして俺を捜索しようとしているらしい。
過保護にも程があると思う。
「さあ、一刻も早く戻りますよ!」
俺の手をガッシと掴んで黒髪の騎士が道路を戻り出す。
無口でクールだとばかり思っていた男の、思いもよらぬ饒舌さと熱い行動に面食らいながらも俺は後に続く。
獣人の女の子は、いつの間にか姿を消していた。
まあ、城へは無事戻れそうだから、別にいいんだけれど……
俺は、自分が今知った真実をどうするべきかを考え込みながら、騎士に引っ張られていったのだった。
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