19 / 60
異世界迷走中
5
しおりを挟む
(どこだ? ここは)
俺はあたりを見回す。
(王城が見えない)
城自体はそれ程高い建物ではないが、あの塔が見えなくなるなんて思ってもみなかった。
(完全に防御都市をなめていた。稲妻状道路の機能と目的は十分わかっていたはずなのに、ここまで見通しが悪くなるなんて)
百聞は一見にしかず。
実際体験しなければわからぬものがあるというのはこういう事なのだろう。
城が見えないどころか方角さえもわからなくなった俺は途方に暮れる。
とりあえず少しでも見晴らしの良いところを目指して進んでいるはずなのだが、周囲は似たような色合いと雰囲気の建物と、そっくり同じ壁の連なりで、何度も同じ場所をグルグルしているような気にさえなってくる。
(せめて、人がいれば)
最初の内は、まさかこの年で迷子になりましたとは言いたくなくて、すれ違う通行人に道を聞くなんてことができなかった。
しかし、いよいよどうにもならなくなって聞こうと決意した時には、今度は肝心の通行人がいなくなっていたのだ。
それほど路地裏に迷い込んだ自覚はなかったのだが、いないものはいない。
どうしようと思って、もうこれは恥を忍んで適当な家を訪ねて城への道を聞くしかないかと思いかけた時、俺はようやく通りの向こうに人影を見つけた。
もう、マジ助かった。
「あ!?」
しかも、あれは……
「すいません!」
俺は懸命に走り出した。
その人影がびっくりしたように立ち止まる。
振り返った目が真ん丸に見開かれていた。
「よかった。城の人ですよね。俺、マジ道に迷っちゃって」
青みががった長い髪と一緒に揺れる青い垂れ耳。
背中を向けている格好だから、可愛いお尻を包むショートパンツから、ポン! と丸いフワフワ尻尾が飛び出しているのが丸見えだ。
(すっげぇ、本当にホンモノなのか?)
真ん中が青くて毛先に行くほど純白になる本物のファーのポンポン尻尾は、姉貴が好んで頭に付けるヘアーアクセとそっくり同じに見えた。
(姉貴よりこの娘の方がずっと可愛いけど)
「俺、覚えている? 一度塔ですれ違った事があるんだけど」
あの時はびっくりマジマジ見られていたけれど、俺みたいな平凡顔は直ぐに忘れ去られていたって不思議はない。
中学、高校の同級生の女の子だって、ほとんど俺なんか覚えていないだろう。
「城の塔に昇る途中で荷物を落としただろう? あの時居た――――」
懸命に俺は説明する。
なんとか思い出してもらって、城までの道を教えてもらわなきゃならない。
いや、別に案内ついでに一緒に帰ろうだなんて、そんな虫のいいことは、ちょっぴりしか思っていないさ。
俺には心の恋人リーファがいるんだ。俺は好きな娘には一筋の男だからな。
それにしても、本当に可愛い娘だった。
びっくりして見開いた目は真紅で、なおのことウサギを連想させる。
(でもちょっと、驚きすぎじゃないか?)
そう思って、俺はリーファの言葉を思い出した。
『――――お声をかけても、おそらく意味は伝わりません』
そうだった。
リーファはそう言っていたのだった。
俺はそんな事はとても信じられなかったのだが……
「あの。俺の言っている事、わかる?」
恐る恐る聞けば、呆然としながらもウサ耳ちゃん(仮名:俺命名)は、コクリと頷いた。
やった! やっぱり俺の勘は間違っていなかったんだ。
「……わかります」
おお! 喋った。すっげぇ、小さくて可愛い声!
俺は思わず耳を近づける。
そうしないと聞き取れない程、か細い声だったからだ。
「……わかるから、わからない。この前もわからなかった。…………どうして、あなたは人間なのに、獣人の言葉を話しているのですか?」
……へっ?
俺はあたりを見回す。
(王城が見えない)
城自体はそれ程高い建物ではないが、あの塔が見えなくなるなんて思ってもみなかった。
(完全に防御都市をなめていた。稲妻状道路の機能と目的は十分わかっていたはずなのに、ここまで見通しが悪くなるなんて)
百聞は一見にしかず。
実際体験しなければわからぬものがあるというのはこういう事なのだろう。
城が見えないどころか方角さえもわからなくなった俺は途方に暮れる。
とりあえず少しでも見晴らしの良いところを目指して進んでいるはずなのだが、周囲は似たような色合いと雰囲気の建物と、そっくり同じ壁の連なりで、何度も同じ場所をグルグルしているような気にさえなってくる。
(せめて、人がいれば)
最初の内は、まさかこの年で迷子になりましたとは言いたくなくて、すれ違う通行人に道を聞くなんてことができなかった。
しかし、いよいよどうにもならなくなって聞こうと決意した時には、今度は肝心の通行人がいなくなっていたのだ。
それほど路地裏に迷い込んだ自覚はなかったのだが、いないものはいない。
どうしようと思って、もうこれは恥を忍んで適当な家を訪ねて城への道を聞くしかないかと思いかけた時、俺はようやく通りの向こうに人影を見つけた。
もう、マジ助かった。
「あ!?」
しかも、あれは……
「すいません!」
俺は懸命に走り出した。
その人影がびっくりしたように立ち止まる。
振り返った目が真ん丸に見開かれていた。
「よかった。城の人ですよね。俺、マジ道に迷っちゃって」
青みががった長い髪と一緒に揺れる青い垂れ耳。
背中を向けている格好だから、可愛いお尻を包むショートパンツから、ポン! と丸いフワフワ尻尾が飛び出しているのが丸見えだ。
(すっげぇ、本当にホンモノなのか?)
真ん中が青くて毛先に行くほど純白になる本物のファーのポンポン尻尾は、姉貴が好んで頭に付けるヘアーアクセとそっくり同じに見えた。
(姉貴よりこの娘の方がずっと可愛いけど)
「俺、覚えている? 一度塔ですれ違った事があるんだけど」
あの時はびっくりマジマジ見られていたけれど、俺みたいな平凡顔は直ぐに忘れ去られていたって不思議はない。
中学、高校の同級生の女の子だって、ほとんど俺なんか覚えていないだろう。
「城の塔に昇る途中で荷物を落としただろう? あの時居た――――」
懸命に俺は説明する。
なんとか思い出してもらって、城までの道を教えてもらわなきゃならない。
いや、別に案内ついでに一緒に帰ろうだなんて、そんな虫のいいことは、ちょっぴりしか思っていないさ。
俺には心の恋人リーファがいるんだ。俺は好きな娘には一筋の男だからな。
それにしても、本当に可愛い娘だった。
びっくりして見開いた目は真紅で、なおのことウサギを連想させる。
(でもちょっと、驚きすぎじゃないか?)
そう思って、俺はリーファの言葉を思い出した。
『――――お声をかけても、おそらく意味は伝わりません』
そうだった。
リーファはそう言っていたのだった。
俺はそんな事はとても信じられなかったのだが……
「あの。俺の言っている事、わかる?」
恐る恐る聞けば、呆然としながらもウサ耳ちゃん(仮名:俺命名)は、コクリと頷いた。
やった! やっぱり俺の勘は間違っていなかったんだ。
「……わかります」
おお! 喋った。すっげぇ、小さくて可愛い声!
俺は思わず耳を近づける。
そうしないと聞き取れない程、か細い声だったからだ。
「……わかるから、わからない。この前もわからなかった。…………どうして、あなたは人間なのに、獣人の言葉を話しているのですか?」
……へっ?
24
お気に入りに追加
214
あなたにおすすめの小説

異世界へ下宿屋と共にトリップしたようで。
やの有麻
BL
山に囲まれた小さな村で下宿屋を営んでる倉科 静。29歳で独身。
昨日泊めた外国人を玄関の前で見送り家の中へ入ると、疲労が溜まってたのか急に眠くなり玄関の前で倒れてしまった。そして気付いたら住み慣れた下宿屋と共に異世界へとトリップしてしまったらしい!・・・え?どーゆうこと?
前編・後編・あとがきの3話です。1話7~8千文字。0時に更新。
*ご都合主義で適当に書きました。実際にこんな村はありません。
*フィクションです。感想は受付ますが、法律が~国が~など現実を突き詰めないでください。あくまで私が描いた空想世界です。
*男性出産関連の表現がちょっと入ってます。苦手な方はオススメしません。

ヒロイン不在の異世界ハーレム
藤雪たすく
BL
男にからまれていた女の子を助けに入っただけなのに……手違いで異世界へ飛ばされてしまった。
神様からの謝罪のスキルは別の勇者へ授けた後の残り物。
飛ばされたのは神がいなくなった混沌の世界。
ハーレムもチート無双も期待薄な世界で俺は幸せを掴めるのか?


完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
当て馬系ヤンデレキャラになったら、思ったよりもツラかった件。
マツヲ。
BL
ふと気がつけば自分が知るBLゲームのなかの、当て馬系ヤンデレキャラになっていた。
いつでもポーカーフェイスのそのキャラクターを俺は嫌っていたはずなのに、その無表情の下にはこんなにも苦しい思いが隠されていたなんて……。
こういうはじまりの、ゲームのその後の世界で、手探り状態のまま徐々に受けとしての才能を開花させていく主人公のお話が読みたいな、という気持ちで書いたものです。
続編、ゆっくりとですが連載開始します。
「当て馬系ヤンデレキャラからの脱却を図ったら、スピンオフに突入していた件。」(https://www.alphapolis.co.jp/novel/239008972/578503599)

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。
柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。
そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。
すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。
「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」
そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。
魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。
甘々ハピエン。

信じて送り出した養い子が、魔王の首を手柄に俺へ迫ってくるんだが……
鳥羽ミワ
BL
ミルはとある貴族の家で使用人として働いていた。そこの末息子・レオンは、不吉な赤目や強い黒魔力を持つことで忌み嫌われている。それを見かねたミルは、レオンを離れへ隔離するという名目で、彼の面倒を見ていた。
そんなある日、魔王復活の知らせが届く。レオンは勇者候補として戦地へ向かうこととなった。心配でたまらないミルだが、レオンはあっさり魔王を討ち取った。
これでレオンの将来は安泰だ! と喜んだのも束の間、レオンはミルに求婚する。
「俺はずっと、ミルのことが好きだった」
そんなこと聞いてないが!? だけどうるうるの瞳(※ミル視点)で迫るレオンを、ミルは拒み切れなくて……。
お人よしでほだされやすい鈍感使用人と、彼をずっと恋い慕い続けた令息。長年の執着の粘り勝ちを見届けろ!
※エブリスタ様、カクヨム様、pixiv様にも掲載しています

主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる