17 / 60
異世界迷走中
3
しおりを挟む
インフラ……社会基盤の整備は文明を支える重要事項である。
がっちりとした強固なインフラの上にこそ、高度で豊かな文明は栄える。
「我々は現状を直視し、持てる叡智の全てをもって後世に残るインフラを整備していかなければならない!」
アディの力説を聞いて……俺は、穴を掘ってどこかに隠れたくなった。
俺が偉そうにアディに語って聞かせた言葉を、そっくりそのまま国王の演説として拝聴させられるなんて、どんな拷問だと思う。
(恥ずかし過ぎる)
うん。もう二度と調子に乗って語るのは止めよう。話すのと聞くのとでは大違いだ。
――――俺とアディは、お忍びの視察という名目で王都に来ていた。
そう、お忍びなんである。
アディは地味な服を着て帽子を深く被り目立つ金髪を隠している。
(……全然、役立っていないだろう?)
背が高くイケメンなアディは……髪なんか隠してもやっぱりイケメンで、もの凄く目立っていた。
どこからどう見てもアディが一般市民でないことなんか、丸わかりだ。
(騎士だっているし)
当然、周囲は警護の騎士達で囲まれていた。もちろん彼らも私服で目立たぬようにとの努力はしているようだったが、威圧感と迫力が半端ない。
強面でがたいのイイ男達を引き連れて歩くイケメン兄ちゃん……に懐かれている、平凡な俺。
(どんな図だよ……)
俺の泳いだ視線が、例の黒髪の騎士と合った。
相変わらずニコリともしない不機嫌そうな顔をしていたが、その目からは以前のような警戒の光が消えている。
俺の縋り付くようなSOSの視線をサラッと無視しやがった。
「ユウ! 彼らに下水のトラップ枡の役割と必要性を教えてやってくれ」
トラップ枡とは、雨水なんかを汚水と合流させる際に、汚水の臭いや虫、有毒ガスが上がるのを防ぐために汚水管の空気を遮断する仕組みの枡である。
そう、俺達は下水道工事の現場に来ているのであった。
(お忍びの視察は、どこ行ったんだよ)
工事現場に着いたアディは、さっさと工事の責任者に自ら身分を明かし、工事の進捗状況を聞いて労働者をねぎらい、演説をぶっ放して、真剣に打ち合わせをはじめていた。
これが普通の王都案内なのか?
(どうでもいいけど、俺を巻き込むな!)
アディはニコニコと無駄にキレイな笑みを振りまいて、上機嫌に俺を呼ぶ。
「彼はユウ。この上下水道整備をはじめとした最近の都市計画の立案者で、俺の信頼する一番の友だ」
周囲の人々の目が驚愕に見開かれ、信じられないように俺を見た。
まあ、当然の反応だよな。これが反対の立場なら、俺だって信じたくない。
黒髪黒瞳もあいまって、俺はどう見てもちょっと顔立ちの変わった先住民の一般人にしか見えないのだろう。
「ユウ。それと、ここの工事だが……」
だが、そんな俺や周囲におかまいなしに、アディは俺を傍らに呼び寄せ、図面を見せて相談してくる。
(ああ。もうっ……)
仕方なしに、俺はその相談に乗ってやった。
「そもそも、下水道計画の基本は、汚水量と雨水量をできるだけ正確に推定することだ――――」
気づけば俺は、トラップ枡の説明はもちろん、汚水や雨水の計画水量の推定方法と共に下水処理のより良い方法、発生する汚泥処理の有効活用までを……滔々と語っていた。
アディは、もの凄く嬉しそうに頷きながら聞いている。
周囲は、ほとんど……ドン引いていた。
我に返った俺は、言葉を失い、口をパクパクと開閉する。
だって仕方ないだろう!
アディみたいな熱心な聞き手は滅多にいないんだ。
っていうか、俺がここまで語っても呆れない相手に出会えたのは、アディがはじめてだ。
助けを求めるように見回した視線が、黒髪の騎士に合い……黙って視線を逸らされた。
(……終わった)
俺はがっくりと肩を落とす。
しかも、何故かアディの隣にアディ同様嬉しそうに、俺を熱心に見てくるおっさんがいた。
「ユウさま。分流式の下水道の利点と必要性ですが――――」
ユウさまって誰だよ。……あぁ、俺か。
畏れ多くも王様のお友だちだものな。
工事の設計士だというそのおっさんは俺を質問攻めにした。
俺の答えにだんだんと目の輝きが強くなるのが、怖い。
おっさんの熱い視線……マジいらねぇ。
時間に急かされ惜しまれながらも工事現場を後にして、俺は心底ホッとした。
がっちりとした強固なインフラの上にこそ、高度で豊かな文明は栄える。
「我々は現状を直視し、持てる叡智の全てをもって後世に残るインフラを整備していかなければならない!」
アディの力説を聞いて……俺は、穴を掘ってどこかに隠れたくなった。
俺が偉そうにアディに語って聞かせた言葉を、そっくりそのまま国王の演説として拝聴させられるなんて、どんな拷問だと思う。
(恥ずかし過ぎる)
うん。もう二度と調子に乗って語るのは止めよう。話すのと聞くのとでは大違いだ。
――――俺とアディは、お忍びの視察という名目で王都に来ていた。
そう、お忍びなんである。
アディは地味な服を着て帽子を深く被り目立つ金髪を隠している。
(……全然、役立っていないだろう?)
背が高くイケメンなアディは……髪なんか隠してもやっぱりイケメンで、もの凄く目立っていた。
どこからどう見てもアディが一般市民でないことなんか、丸わかりだ。
(騎士だっているし)
当然、周囲は警護の騎士達で囲まれていた。もちろん彼らも私服で目立たぬようにとの努力はしているようだったが、威圧感と迫力が半端ない。
強面でがたいのイイ男達を引き連れて歩くイケメン兄ちゃん……に懐かれている、平凡な俺。
(どんな図だよ……)
俺の泳いだ視線が、例の黒髪の騎士と合った。
相変わらずニコリともしない不機嫌そうな顔をしていたが、その目からは以前のような警戒の光が消えている。
俺の縋り付くようなSOSの視線をサラッと無視しやがった。
「ユウ! 彼らに下水のトラップ枡の役割と必要性を教えてやってくれ」
トラップ枡とは、雨水なんかを汚水と合流させる際に、汚水の臭いや虫、有毒ガスが上がるのを防ぐために汚水管の空気を遮断する仕組みの枡である。
そう、俺達は下水道工事の現場に来ているのであった。
(お忍びの視察は、どこ行ったんだよ)
工事現場に着いたアディは、さっさと工事の責任者に自ら身分を明かし、工事の進捗状況を聞いて労働者をねぎらい、演説をぶっ放して、真剣に打ち合わせをはじめていた。
これが普通の王都案内なのか?
(どうでもいいけど、俺を巻き込むな!)
アディはニコニコと無駄にキレイな笑みを振りまいて、上機嫌に俺を呼ぶ。
「彼はユウ。この上下水道整備をはじめとした最近の都市計画の立案者で、俺の信頼する一番の友だ」
周囲の人々の目が驚愕に見開かれ、信じられないように俺を見た。
まあ、当然の反応だよな。これが反対の立場なら、俺だって信じたくない。
黒髪黒瞳もあいまって、俺はどう見てもちょっと顔立ちの変わった先住民の一般人にしか見えないのだろう。
「ユウ。それと、ここの工事だが……」
だが、そんな俺や周囲におかまいなしに、アディは俺を傍らに呼び寄せ、図面を見せて相談してくる。
(ああ。もうっ……)
仕方なしに、俺はその相談に乗ってやった。
「そもそも、下水道計画の基本は、汚水量と雨水量をできるだけ正確に推定することだ――――」
気づけば俺は、トラップ枡の説明はもちろん、汚水や雨水の計画水量の推定方法と共に下水処理のより良い方法、発生する汚泥処理の有効活用までを……滔々と語っていた。
アディは、もの凄く嬉しそうに頷きながら聞いている。
周囲は、ほとんど……ドン引いていた。
我に返った俺は、言葉を失い、口をパクパクと開閉する。
だって仕方ないだろう!
アディみたいな熱心な聞き手は滅多にいないんだ。
っていうか、俺がここまで語っても呆れない相手に出会えたのは、アディがはじめてだ。
助けを求めるように見回した視線が、黒髪の騎士に合い……黙って視線を逸らされた。
(……終わった)
俺はがっくりと肩を落とす。
しかも、何故かアディの隣にアディ同様嬉しそうに、俺を熱心に見てくるおっさんがいた。
「ユウさま。分流式の下水道の利点と必要性ですが――――」
ユウさまって誰だよ。……あぁ、俺か。
畏れ多くも王様のお友だちだものな。
工事の設計士だというそのおっさんは俺を質問攻めにした。
俺の答えにだんだんと目の輝きが強くなるのが、怖い。
おっさんの熱い視線……マジいらねぇ。
時間に急かされ惜しまれながらも工事現場を後にして、俺は心底ホッとした。
26
お気に入りに追加
220
あなたにおすすめの小説
目が覚めたら異世界で魔法使いだった。
いみじき
BL
ごく平凡な高校球児だったはずが、目がさめると異世界で銀髪碧眼の魔法使いになっていた。おまけに邪神を名乗る美青年ミクラエヴァに「主」と呼ばれ、恋人だったと迫られるが、何も覚えていない。果たして自分は何者なのか。
《書き下ろしつき同人誌販売中》

続・聖女の兄で、すみません!
たっぷりチョコ
BL
『聖女の兄で、すみません!』(完結)の続編になります。
あらすじ
異世界に再び召喚され、一ヶ月経った主人公の古河大矢(こがだいや)。妹の桃花が聖女になりアリッシュは魔物のいない平和な国になったが、新たな問題が発生していた。


魔女の呪いで男を手懐けられるようになってしまった俺
ウミガメ
BL
魔女の呪いで余命が"1年"になってしまった俺。
その代わりに『触れた男を例外なく全員"好き"にさせてしまう』チート能力を得た。
呪いを解くためには男からの"真実の愛"を手に入れなければならない……!?
果たして失った生命を取り戻すことはできるのか……!
男たちとのラブでムフフな冒険が今始まる(?)
~~~~
主人公総攻めのBLです。
一部に性的な表現を含むことがあります。要素を含む場合「★」をつけておりますが、苦手な方はご注意ください。
※この小説は他サイトとの重複掲載をしております。ご了承ください。


この僕が、いろんな人に詰め寄られまくって困ってます!〜まだ無自覚編〜
小屋瀬 千風
BL
〜まだ無自覚編〜のあらすじ
アニメ・漫画ヲタクの主人公、薄井 凌(うすい りょう)と、幼なじみの金持ち息子の悠斗(ゆうと)、ストーカー気質の天才少年の遊佐(ゆさ)。そしていつもだるーんとしてる担任の幸崎(さいざき)teacher。
主にこれらのメンバーで構成される相関図激ヤバ案件のBL物語。
他にも天才遊佐の事が好きな科学者だったり、悠斗Loveの悠斗の実の兄だったりと個性豊かな人達が出てくるよ☆
〜自覚編〜 のあらすじ(書く予定)
アニメ・漫画をこよなく愛し、スポーツ万能、頭も良い、ヲタク男子&陽キャな主人公、薄井 凌(うすい りょう)には、とある悩みがある。
それは、何人かの同性の人たちに好意を寄せられていることに気づいてしまったからである。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
【超重要】
☆まず、主人公が各キャラからの好意を自覚するまでの間、結構な文字数がかかると思います。(まぁ、「自覚する前」ということを踏まえて呼んでくだせぇ)
また、自覚した後、今まで通りの頻度で物語を書くかどうかは気分次第です。(だって書くの疲れるんだもん)
ですので、それでもいいよって方や、気長に待つよって方、どうぞどうぞ、読んでってくだせぇな!
(まぁ「長編」設定してますもん。)
・女性キャラが出てくることがありますが、主人公との恋愛には発展しません。
・突然そういうシーンが出てくることがあります。ご了承ください。
・気分にもよりますが、3日に1回は新しい話を更新します(3日以内に投稿されない場合もあります。まぁ、そこは善処します。(その時はまた近況ボード等でお知らせすると思います。))。


花屋の息子
きの
BL
ひょんなことから異世界転移してしまった、至って普通の男子高校生、橘伊織。
森の中を一人彷徨っていると運良く優しい夫婦に出会い、ひとまずその世界で過ごしていくことにするが___?
瞳を見て相手の感情がわかる能力を持つ、普段は冷静沈着無愛想だけど受けにだけ甘くて溺愛な攻め×至って普通の男子高校生な受け
の、お話です。
不定期更新。大体一週間間隔のつもりです。
攻めが出てくるまでちょっとかかります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる