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異世界迷走中
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しおりを挟む「アディ、お前は政務は良いのか?」
「昨日ユウ達が城内を回っている間に、自棄になって頑張って手を回したからな。今日はあと数時間はユウの側に居られる」
……自棄ってなんだよ?
この国の政務が、心配になってきてしまう。
本当は、今日は俺に騎士の訓練とかいろいろ見せて、できれば体験してもらいたかったのだと、アディは残念そうに笑う。
……すまん! 筋肉痛の俺には、そんなハードな体験は無理だ。
筋肉痛でなくたってお断りしたい。
情けなく謝る俺に、アディは「気にするな」と笑った。
相変わらず長椅子の隣に座ったままである。
本当に近過ぎるだろうと俺は思う。
キレイな笑顔が目に痛い。
警護する人数が減ったために、今この部屋に残っているのは俺とアディ、そして例の先住民上がりの黒髪の騎士だけだった。
「……アディ、彼は信用できる男か?」
俺の質問にアディはモチロンと即答する。
先住民から努力して出世した男だ。それを可能にしたのはアディの政策や差別をしないという考え方のおかげもあるだろうから、アディには心酔しているのかもしれない。
(だったら大丈夫かな?)
お偉いさんの騎士なんだから、誤解して他人を斬るなんて事もないだろう。
信じさせてくれよという視線を俺はその騎士に投げた。
怪訝そうに眉をひそめられる。
(まあ、いいさ。……なるようになれ)
俺はアディをちょいちょいと手招きした。
偉いはずの王さまは、無防備に「何だ?」と顔を近づけてくる。
俺は――――問答無用で、アディの頭を俺の膝の上に引き倒した。
「なっ、ユウ!」
ガチャッと音がする。
「いいから、少し寝ろ!そんな隈のできた顔を側に寄せられたんじゃ、俺が楽々できないんだよ」
いくらイケメンだって、一目で睡眠不足ですってわかる顔を間近で見るのは俺の精神衛生上もの凄く悪い。
ジタバタしていたアディの体が驚いたように止まった。
俺はできるだけ首を動かさないように視線だけ向けて、黒髪の騎士に上掛けを取ってくれるように頼む。
うん。俺の首の頸動脈の一歩手前で騎士の剣が止まっている。
(こ、怖ぇぇぇ~)
騎士の腕、凄すぎだろう?
……死なないで良かった。
騎士は呆気にとられたように俺を見ると、それでも俺の頼みを聞いてベッドから上掛けを1枚取ってくれた。
俺はそれを問答無用でアディの体に掛ける。
俺の膝の上でアディの金髪がもぞもぞと動いた。
「寝ろ!」
軽く頭をポンと叩いてやる。
今度は、騎士は動かなかった。
俺はいったい何が悲しくて野郎に膝枕なんかしているんだろうと天を仰ぐ。
膝の上でアディがクスクスと笑った。
「やっぱりユウは、俺の思ったとおりの男だ」
それは褒めているのか? それとも呆れているのか?
「……ユウ、俺は? 俺はお前の想像どおりだったか?」
(そんなわけあるものか! 第一、小学生じゃなかったじゃないか)
俺の想像のアディは、小学生で……素直で、熱血漢のイイ奴だ。
「----ああ。お前は俺の思ったとおりの奴だったよ」
だから、俺はそう答えた。
アディは嬉しそうに笑って……本当に寝やがった。
筋肉痛の上に膝枕なんかした俺が、暫く長椅子から立ち上がれなかった事は仕方の無い事だろう。
目を覚ました後、そんな俺の様子を見て、アディはゲラゲラ笑う。
くそっ、王様のくせにそんな笑い方していいのかよ?
「やっぱりユウは、思ったとおりのお人好しだな」
俺は、もう二度と膝枕なんかするもんかと心に誓った。
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