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こんにちは、異世界

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そして――――――――

「ユウさまの今おられるここは城の居住館になります。この奥には砦や貯蔵の役目を果たす塔が立ち並び、前面は城門と外部の者への謁見の間となっています。右手が軍の司令部、左手が神殿の礼拝堂です」

世にも妙なる美声に、うっとりと聞き惚れてしまう。

俺は、今信じられない事に、絶世の美少女リーファィア・ロダ・ミアンと城内の最中だった。

白銀の髪が目の前で揺れて、青い瞳が俺を見上げ、赤い唇が語りかけてくる。


……幸せすぎて死にそうだ。


リーファィアは、名前からわかる通りアディの妹だった。
兄妹そろって美形だなんて羨ましすぎるだろうと思う。
俺と姉貴の姉弟とは違い過ぎて、比べる気にもならない。

彼女はこの国の巫女なのだそうで、みんなからは巫女姫様と呼ばれていた。

ヤバい、存在が萌えすぎる。

そんな美少女巫女姫とのデート!

……例え彼女の隣に相変わらず目つきの悪いエイべット卿がひっついていようとも、更にその背後にいかつい騎士が2人もついて来ていようとも、これは俺の中では、人生初の立派なデートである!

誰が何と言ったって、そこは譲れない。



「ユウさま。大丈夫ですか。お疲れになっておられませんか?」

はじめてのデートに舞い上がり心ここに在らずの俺をリーファィアが心配そうに気遣ってくれる。

「も、もちろんです」

俺は、俺にしてはテンション高く答えた。

リーファィアの横で、エイベット卿が、こいつちゃんと聞いているのかよ? みたいな顔で睨んでくるが、幸せの絶頂にいる俺にそんな顔は効かない。

だいたい俺にとっては城の構造なんざわざわざ聞くまでもないものだった。

「外には水壕がありますよね?」

俺の質問にリーファィアがびっくりしたように青い目を見開いて「ユウさまは何でもおわかりになるのですね」とうっとりしてくれる。

俺はドヤ顔で、ますます眉間の皺を酷くするエイベット卿を見た。

(都市工学専攻していてよかった)

俺は、大学に入ってはじめてそう思う。

――実は、海からちょっと遡った河口に築かれた城が水城だなんていうことは、都市工学をちょっとでもかじった奴なら誰だって知っている事だった。
しかも、この国は建国10年の若い国なんだ。
その城が中世の要塞にちょっと毛の生えた程度の構造だろうって事だって考えるまでもなくわかることだろう。

城の説明なんて正直どうでも良かった。

リーファィアが話してくれるのなら、俺はその内容が般若心経でも寿限無じゅげむでも喜んで傾聴するに決まっている。
だから何でも気にせずに話してくれればいいと思っているのに……


「やはり、私のようなものではユウさまのご案内役には力不足だったのかもしれません。今からでも陛下におかわりしていただいた方がよろしいでしょうか?」

リーファィアは申し訳なさそうにそんな事を言ってきた。

「そんな事ない! ……って、あ、いや、だってアディは忙しいだろ? じゃなくて、お忙しいんだろう?」

慌てた俺は素のままで否定してしまって、取り繕うとして、ますます失敗した。

エイベット卿のこめかみがピクピクと動く。


(こ……怖ぇ)


だって慌てもするだろう?
俺はリーファィアちゃんに城の案内役をしてもらうために、もの凄く頑張ったんだぞ。
今更アディと交替なんて絶対して欲しくない!

―――実は、俺が目覚めてある程度動くのに支障が無い程に回復した時、アディは俺を自ら案内する気満々だったのだ。

俺が何と言って断っても「ユウに俺の城を見せたい」と、アディは言い張っていた。
……だけどそこに運悪く(俺にとっては運よく)アディへ仕事が舞い込んだんだ。

俺は、俺の案内のために仕事を後回しにしようとするアディを誠心誠意説得させてもらったさ。

当然だよな?

「国を治める仕事を後回しにするようなマネをアディはしないだろう」

俺は、アディにそう言った。

王さまを案内役にするだなんて地雷を誰が踏みたいもんか。

「ユウは本当に真面目で立派な男だな」

感極まったようにアディは感心してくれる。
そんな事はないと否定したのだが聞いてもらえなかった。
相変わらず思い込みの激しいアディである。



そんなこんなのゴタゴタの中で「ならば私がご案内いたしましょうか?」と鈴を振るような美声で言い出してくれたのがリーファィアだった。

俺がその案に飛びついたのは言うまでもない。
王さまに案内させるのも巫女姫に案内させるのも、たいして変わらないのでは? というツッコミは、どうか無しの方向で頼みたい。
女の子(しかも美少女)が案内してくれるっていうのを断る男なんて、男と呼べないと言うのが俺の持論である。

何故かエイベット卿や騎士達まで付いて来てしまったが、この状況に俺は十分満足していた。

「お、俺は、リーファ…ィア様に案内してもらいたいです」

絞り出すようにそう言った。

びっくりしたように青い目を丸くしたリーファィアは、本当に嬉しそうに笑う。


「リーファでいいです。」


俺は目をパチパチさせてしまった。
それから、ようやくリーファィアが自分の名前の呼び方の話をしているのだとわかる。
信じられない事態に夢心地で俺は、恐る恐る彼女の名前を呼んだ。


「リーファ……さま?」


「呼捨てでかまいません。」



きっぱり言い切られてしまった。

美少女を愛称で呼捨てなんて……俺の心臓止まったらどうしよう?

エイベット卿の皺は、これ以上ないくらい深くなった。


でも、俺は呼ぶけどな!


「……リーファ」

「はい。ユウさま」



(我が人生に悔いなし――)



俺は両拳を握りしめ心の中で感動に打ち震えた。
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