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飼う? お金や手間暇を考えるのは常識よ

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 私は、安堵のあまり倒れそうになる。
 それをアーサーが、グッと力を入れて抱きしめることで防いでくれた。

「まだ気を抜くな。アマーリア、こいつはドラゴンなんだぞ」

 ちゃんと注意をしてくれるところが頼もしい。

(アーサーが頼もしいとか、ちょっと悔しいけれど……でも、言っていることはもっともだし、今は意地を張っている場合じゃないわよね)

 そう思った私は、アーサーの腕に掴まりながら体勢を立て直す。

「甘いのって、何?」

 ドラゴンにそう聞いた。

『甘いのは、甘いのだよ! ――――それ!』

 目の前のドラゴンの口から、シュルシュルと長い舌が伸びてきて、私の手の甲の傷を舐める。

『うん! あ・まぁ~い!!』

 固まりかけていた血が、きれいさっぱり無くなった。
 ついでに傷もきれいに治っている。

「え? え? え! 血を舐めて、治癒って! えぇぇぇっ!? どうなっているの?」

 ドラゴンが血を好むとか、ましてや治癒の力を持っているとか、聞いたことがない。




「ひょっとしてぇ、ひょっとしたらぁ~、そのドラゴンちゃん、ホーリードラゴンちゃんかもぉ、しれませんわぁ~!」

 背後から、間の抜けた声がした。
 そう言えば、マリアがいたのだった。すっかり存在を忘れていた。

「ホーリードラゴン?」

「なんだそれ?」

 疑問の声を上げるのは、アーサーとイアン。
 どうやら知らなかったのは、私だけではなかったらしい。

「ホーリードラゴンちゃんはぁ、未成熟でぇ生まれちゃったせいでぇ~、自らを癒すためにぃ治癒の力を発現させたぁ~、チョー特別なぁドラゴンちゃんだってぇ、院長先生がぁ言ってましたぁ~」

 未成熟なドラゴン?

 たしかに、このドラゴンは本来なら五年後に生まれるはずだった。
 それが今回、たぶん私たちがここに来たことで早く生まれてしまったのだ。
 そのせいで、ホーリードラゴンと呼ばれる特別なドラゴンになってしまったというのだろうか?

「ホーリー? 聖属性のドラゴンということか? ひょっとしてそのせいで、ドラゴンスレイヤーの剣が効かなかったのか?」

 ドラゴンスレイヤーの剣は、邪悪な存在となったドラゴンを征伐するために、心身を清める潔斎を極めた鍛冶師が鍛え上げ、最高聖職者の祝福を受けた聖なる剣と言われている。
 魔に染まった暗黒ドラゴンには効果抜群の剣なのだが、生まれたばかりで良いことも悪いこともしていないホーリードラゴンには痛くもかゆくもない剣だったのかもしれない。

(だからって、食べなくってもいいと思うけど)

 バリボリゴックンは、ないだろう?
 あの剣一本いくらすると思うの?
 国宝級のお宝なのよ!

「あとぉ~、ホーリードラゴンちゃんはぁ、未熟児だからぁ、大きくなるまではぁ、栄養価の高いぃ~、いいぃお肉なんかを~たくさん食べるってぇ、言ってましたぁ~。血の滴るようなぁレアがぁ、お好みらしいですよぉ~。いいぃお肉ぅ、羨ましいぃぃぃですぅぅぅ!」


 ――――孤児院の院長、ホーリードラゴン情報に詳しすぎだろう。
 ひょっとしたら、幻獣マニアなのかもしれない。

 そして、マリア。よだれが垂れているわよ……。

 私は、意図せず得てしまったホーリードラゴン情報に頭を抱えた。

 どうやらこの子ドラゴンは、養育費が馬鹿にならない問題児らしい。
 国宝級の剣と血の滴るレアな高級肉を主食とするようなペットは、正直お断りしたい!

(このまま、この洞窟に捨てドラゴンしちゃダメかしら?)

『ママ、ママ、甘いの、もっと!』

 私の気持ちなどまったく知らず、ドラゴンは大きな口を開ける。

「もうっ、食いしん坊なドラゴンね! とりあえず、“これ”でも舐めていなさい!」

 そう言うと私は、先ほど私を庇ったために血塗れになっていたアーサーをドンとドラゴンの方に突き飛ばした。

「なっ! おい、アマーリア!」

『わぁ~い! 美味しそう!!』

 ペロペロと子ドラゴンはアーサーを舐めはじめる。

「うわぁ! ちょっ! 止めろ! くすぐったい!! ……アマーリア!」」

 アーサーの悲鳴には、心の耳を塞ぐ。
 傷も治るはずだから一石二鳥だろう。

『美味しいぃ! ねぇ、ママ、ちょっと囓っちゃだめ?』

「――――そんなモノ食べたら、お腹を壊すから止めなさい」

「アマーリア! お前っ!! ――――って、ワハハハ……止めろぉ~!」

 洞窟内には、しばらくアーサーの楽しそうな(?)笑い声が響いたのだった。

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