本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!

九重

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その後、王太子はエストマン伯爵立ち会いのもと、厳しい取り調べを受けた。
結果、判明したのは巧妙な手口の魔族の介入。
王太子は、弟ハルトムートへのコンプレックスを魔族に利用されていたのだ。

――――王太子は、よくも悪くも普通の人間。
とくに秀でたところはないけれど、劣っているわけではない。
王太子として課せられた重責を、努力することで果たせる人物だ。

対してハルトムートは、天才肌。
幼い頃はわがままで地道な努力など大嫌い。
遊びほうけているくせに、いざとなれば要領よく切り抜ける。
闇属性とわかり忌み嫌われるようになるまでは、破天荒な行いに眉をひそめられながらも、最後には「ハルトムートさまにはかなわない」と、笑って許される子供だった。

弟より何倍も努力して結果を出しているのに、周囲の人々は、なんら努力をしない第二王子に好意を向ける。
そんな現実に、王太子は人知れず傷ついていた。

ハルトムートが闇属性とわかったときには、ほの暗い喜びを感じてしまうほどに。

このまま周囲に忌み嫌われて、一生日陰者でいればいいと思っていたのに、学園に入学し、エストマン伯爵に引き取られてから、ハルトムートは変わってしまった。
わがままを言わず、ひたむきに努力を重ね、前を向く姿は、以前とは別人のよう。

同時に、そのハルトムートに怖れることなく向き合う人間も現れた。
ヴィルヘルミナ・エストマン伯爵令嬢だ。
希有な光属性を持つ眩しいほどに美しい少女が、ハルトムートに寄り添って、日の当たる場所へと誘っていく。

気づけば、疎まれていたはずの第二王子は、揺るぎない実力と自信、そして周囲の信頼を得ていた。

王太子は、それに我慢できなかったのだ。
なんとかしてハルトムートを不幸にしてやろうと思っていた彼に、人間に擬態した魔族四天王の一人が悪魔の言葉を囁いてくる。
黒い六枚の翼を隠した男は、魔道ランプを使用した魔物を大量発生させる方法を教えてくれたのだそうだ。しかもその魔道ランプにハルトムートの近衛騎士団の証である黒いランプを使えば、彼に罪を着せられるのだとも教えてくれた。

きっとこの時、既に王太子は、心の闇を四天王に操られていたのだろう。
結果、魔族の傀儡となり彼らがこの国へと侵攻する手助けをしてしまった。




「……王太子が、そのようなことを」

報告を聞いた国王は呆然とした。

「お前の教育が悪いせいだ」

歯に衣着せず物言うエストマン伯爵に対し「そうだな」と力なく項垂れる。
王妃は、気絶する一歩手前でエストマン伯爵夫人に支えられ立っていた。

(まあ、それでも気絶せえへんかったんは、成長かな)

自分の母より年上の女性に対し、ミナはそんなことを思う。


ここは王城。
謁見の間で、ミナは家族と一緒に、つまびらかになったことの顛末を聞いている。
他にいるのは、ハルトムートと国王夫妻、ルーノとルージュも一緒だ。
もちろん姿は見えないけれど、レヴィアとナハト、ガストンもいる。

非公式の場ということで、エストマン伯爵の発言を咎める者は誰もいなかった。

(いや、お父さまならどんな公式の場でも、同じことを言いそうやけど)



「実の兄が弟を陥れようとするとは。……そして私はそのことに気づきもしなかった。本当に王としても父としても失格だ。……ハルトムート、すまなかったな」

国王は、我が子に対し深々と頭を下げる。

ハルトムートは、なんとも言いがたい複雑な表情で父を見た。

国王の謝罪は王太子の凶行に責任を感じてのことなのか?
それとも気づけなかった己への反省なのか?


「謝罪は、私にではなく魔獣の発生で被害を被った民へ行ってください」

「……そうか。そうだな」

ハルトムートの正論に、国王は寂しそうに笑った。
そこにいるのは国王ではなく、我が子に謝罪すら受け入れてもらえなかった哀れな父親だ。

(まあ、自業自得やもんな)

ミナはあっさりとそう断じた。
同情なんてするつもりはない。ハルトムートは、もっと辛かったのだから。

それに、そんなことよりも、もっと大切な用件があった。



「陛下、発言をお許し願いますか?」

ゆっくり歩み出て頭を下げる。

「あ、ああ。もちろんだ。此度のヴィルヘルミナ嬢の働きには深く感謝している。なんでも申してみよ」

ハルトムートとの冷ややかなやり取りに水を差してもらえて嬉しかったのだろう、国王は愛想よくミナと向き合う。

ミナはニッコリ笑った。

「ありがとうございます。……陛下は、以前私としたお約束を覚えていらっしゃるでしょうか? ――――私が学園を卒業したあかつきには、望みを叶えてくださるとお約束してくださいましたよね?」

ミナの問いかけに、国王はしっかり頷く。

「もちろん覚えておるとも。金でも宝石でも身分でも、なんでも好きに与えると言ったあの約束だな。……卒業祝いだけではなく、今回の事件のこともある。報償も兼ねて、ヴィルヘルミナ嬢には可能な限りなんでも与えたいと思う。遠慮せずに望みを言うがいい」

ミナは今度は心の中でニヤリと笑った。
優雅に一礼する。



「ではお願いです。…………私に、ハルトムートさまをください」


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