本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!

九重

文字の大きさ
上 下
70 / 75

前代未聞の勝負

しおりを挟む
「生け贄……ですか?」

「そうだ! 魔獣を鎮めるには生け贄がいる。それははるか昔より王家に言い伝えられてきたこと。我が王家は民から犠牲を出すことを潔しとせず、その都度王族から生け贄を出してきた。俺は、闇属性で役立たずのお前を栄えある生け贄に選んでやる! ありがたく役目を受け入れて、国の犠牲となれ!」

王太子は、なんだか無茶苦茶を言い出した。



「……わけがわからん」

ハルトムートは、途方に暮れたようにポツリと呟く。
ミナも深く頷いた。

「なんで突然生け贄なんて話になっているのでしょう?」

通常、生け贄とは神や悪魔に捧げる供物。雨乞いや豊作祈願など、人の力ではどうにもならないことを願うために牛馬や羊、時には人間の命を差し出すものだ。

「ハルトムート! きさま、兄の私の言葉が聞けないのか!」

真っ赤になって怒り出す王太子に、ハルトムートは眉をひそめた。

「たとえ兄上のお言葉でも不条理なものには従えません」

「不条理だと!?」

「この状況の“どこ”に生け贄を差し出す必要があると言うのです?」

ハルトムートはそう言って、ぐるりと周囲を見回した。
そこにあるのは、既にあらかた魔獣の討伐を終え、残るは四天王のみという現状だ。


「そ、そこに! 強大な魔物が四体もおるではないか!!」

「強大?」

「それほどでもないわよね?」

ハルトムートとミナは、顔を見合わせ、首を傾げた。

「それほどでもないだと!?」

王太子は驚愕したようだ。

「少なくとも、ミナより全然弱い」

「人を勝手に引き合いに出さないでください! ハルトムートさまだって、四人まとめてサクッとやっつけられるくらいには強いでしょう!」

二人の会話に、王太子は顔色を悪くした。



「…………サクッと」

信じられないように呟く。

「バカを言え。俺だってこいつら相手なら少しくらいは手こずる!」

「“少し”でしょう? きっとものの十分もかからないに決まっていますわ」

「お前なら三分でいける」

「私を即席ラーメンみたいに言わないでください!」

「即席ラーメン?」

そうでなければウルトラ○ンだ。

(あたしはカラータイマーなんか持ってへんねんで!)

ミナは、ここが日本でないことを心底悔やみながら、心で叫んだ。

(このネタで漫才ができへんなんて……悔しすぎる!)




――――あくまでミナは真剣である。

「おい」

そんな二人にレヴィアから不機嫌そうな声がかかった。

「お前たちが煽るから、こっちの四人が爆発しそうになっているぞ」

そう言って指し示したのは、魔族の四天王だった。
やれ十分でサクッとやっつけるだの、三分でできるだのと言い争われては当然かもしれない。
見れば四人が四人とも、射殺しそうな視線でミナとハルトムートを睨んでいる。
それでも襲いかかってこないのは、レヴィアとガストン、それにナハトの牽制が効いているのだろう。

「ちょうどいい。俺とお前と、どっちがより長く手こずるかの勝負だ! 俺は、あの狼頭とでかい尻尾のやつをやる。お前は、巻角と羽の方にしろ」

どちらがより早く倒せるかの勝負はあっても、どちらがより遅く倒せるかの勝負は、前代未聞だろう。

「受けて立ちます! わざと手を抜いたら許しませんからね!」

「当然だ。手加減したとわかった時点で、そちらの方の負けとする!」

ミナとハルトムートは、真剣に睨み合う。
ハルトムートは大剣を、ミナは日本刀を握りしめた。

どちらも一度刃先を下に落とし、次の瞬間、声もかけずに同時に飛び出す!

「息がピッタリだな」

ガストンが楽しそうに笑った。

「フン」

レヴィアは不機嫌そうに顔をしかめる。

「ニャー」

ナハトが「まあまあ」と取りなすように鳴いた。


そして、たったそれだけの間に、ハルトムートとミナの剣は、敵を切り裂いている!
三体の魔物の驚愕に見開いた目が閉じぬ内に、彼らは塵と消えた。

そう、三体である。

残ったのは鋭いスパイクつきの長い尾を持つ一体。つい先ほど、その目立つ尾だけを残し消え失せたと思ったのだが、残った尾からたちまち体を再生したのだ。

(切り落とされた尾を再生させるトカゲは、ぎょうさんいるけれど、尾から本体を再生させるなんて、いくらなんでも反則技すぎるんやないか?)

いくら魔物といえど、規格外である。

「見たか、俺は一体打ち損じたぞ!」

何故か自慢げにハルトムートが言った。

「そんな再生能力があるのですもの、打ち損じたのも不可抗力ですわ。決してハルトムートさまの能力が私より劣っているからではないと思います」

ミナは殊勝なことを言う。

「いや、お前ならきっと尾の先一ミリも残さずに殲滅したに違いない」

「いやですわ。買いかぶらないでください」

ハハハ、ウフフと二人は笑い合う。
その隙を突いて生き残った魔獣が逃げだそうとしたのだが――――とたん「グケギャ~!」と叫んで燃え上がった。


「まあ、さすがハルトムートさま。逃がさないように保険をかけていたのですね」

ミナが褒めれば、ハルトムートは「チッ」と舌打ちをする。

「そのまま動かずにいればもうしばらくは生かしてやったものを」

忌々しそうな言葉に、ミナは朗らかな笑みを浮かべた。

「つまりは、最初の一撃の内に相手の命は全て手中にしていた――――ということ。勝負は引き分けですね?」

「いや、打ち損じた時点で俺の負けだ」

「いえいえ、私ではそこまで用意周到に魔法を仕掛けられませんもの。ハルトムートさまの方が一枚上手ですわ」

「お前の場合は、そんな小細工が必要ないだけだろう?」



――――どっちもどっちだと、二人を除く全員が思っていた。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...