本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!

九重

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決戦前日(閑話)

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そして、いよいよその時がやってくる。
ミナたちは、順調に最終学年となり、明日は卒業式というところまできていた。
空は青く快晴で、雲一つない。


(…………う~、おもんないわ。なんでこうなったんやろか)

しかし、ミナの心は曇りっぱなしだ。眉間にしわを寄せ、唇を尖らせている。
特に何か不都合が起こっているとかそういうことではない。
ミナたちの日々の鍛錬は順調で、強くなった彼女たちは、卒業式でどんな魔獣が現れても秒で瞬殺できるほどの実力を兼ね備えている。
彼女たちは成長した。

そう、成長した!

そのことこそが、今ミナの心を曇り空にしているのだ!
現在ミナたちは十五歳。
その年頃の男子の成長は、著しく――――



「なにを顰めっ面しているんだ?」

突如、上から降ってきた言葉に、ミナの顔はますます顰められてしまった。

「おい?」

悔しさを堪えて上を向く。
そこにあるのは、最近凜々しさが際立ってきたハルトムートの顔だ。

そう、以前同じくらいの高さにあったハルトムートの頭が、今は見上げるほどの位置にある。
成長期を迎えたハルトムートは、めきめきと身長が伸び、いつの間にかミナよりも背が高くなってしまったのだ。

(恐るべし、成長期。こんなはずやなかったんに!)

もちろん身長が越されたからと言って実力が劣ったかと言えばそうではない。
ミナとハルトムートの力はほぼ互角――――いや、三本に二本は自分が勝てるとミナは思っている。

(なのに、見下ろされなあかんという、この屈辱! なんで男女差なんてもんがこの世にあるんや!)

あまり顔を上げると首が痛くなるため、ミナは上目遣いでハルトムートを睨む。
悔しさで、頬は赤く上気して、目は涙目になっているだろう自覚がある。

ハルトムートは、「うっ」と呻いて口を手で覆った。

「お前、その顔は反則だろう」

何故か、そんな抗議を受ける。
顔が反則とは、ヒドい言いようである。
ミナはますますむくれてしまった。


「最近のお前は、その……あれなんだから、迂闊にそんな顔をするな!」

顔を真っ赤にして怒るハルトムートの言葉は…………意味がわからない。

「あれって、何ですか!?」

「あれ……は、その……あれだ! ……成長して、その――――」

モゴモゴと口を動かすものの、ハルトムートの言葉は要領をえず、口の中に消えていく。

成長したからなんだと言うのだろう?
残念なことに、ミナの身長は伸びていないから、その他の変化のことを言いたいのだろうか?


(そう言えば体重は増えたんやった。………………へ? ひょっとしてあたし太ったんか?)

そうではない! と思いたいのだが……残念なことに実際に体重は増えている。
成長期だし、体重の増加は当然で、体型も標準――――むしろ運動している分痩せ気味だと思っていたのだが……自己評価が甘すぎたのかもしれない。

(ただでさえ、身長で負けているのに、体型でも劣ったらたいへんやわ!)

ミナは、心に焦りを抱く。


「ハルトムートさま! 訓練をはじめましょう!」


だから、そう叫んだ。
運動して痩せるのだ!



「は? ……なんだ、急に? その……俺の話は、気にならないのか?」

「気になるから訓練するんです! 私、絶対負けませんから!」

「…………お前、なにか誤解しているだろう?」

「していませんよ! さあ、訓練です!」


まるでかみ合わない会話をミナとハルトムートは交わす。
張り切るミナを、ハルトムートは諦めたように見つめた。







「…………ヘタレ」

ポツリと呟いたのは、ルーノかルージュか、はたまたレヴィアかガストンか。
大きなあくびをしているナハトでないことだけは確実である。
――――もっとも、言葉が話せないだけで、同じ事を思っていそうだが。


決戦の日を前にしても、ミナはやっぱりマイペースだった。
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