本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!

九重

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容疑者多数……すぎませんか?!

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そんなこんなで、はじめての実地訓練が終わったところに、レヴィアとナハトが戻ってくる。

「ご苦労さま」

「まったくだ。何故この私が、こんな下働きのような真似をしなければならない」

派手に暴れられなかったレヴィアは、ご機嫌斜めだ。

「まあまあ、人知れず影から支えるって、なんとなくカッコイイと思うでしょう?」

「その割に、易々と騎士たちに、我らの存在をバラしていたようだが?」

いや、あれは不可抗力だろう。
ブツブツと文句を言うレヴィアを宥めていれば、小さな子猫サイズになったナハトがミナの足下に絡みついてきた。

「ナハトもご苦労さま」

小さな声で囁きながら、ミナは子猫を抱き上げた。
さすがに魔獣であるナハトを公にはできないので、エレーヌたちにはペットの子猫がついてきてしまったのだと言ってある。

(ずっと影に潜んでもらっていたんやけど、たまたま外に出たところをエレーヌに見つかってしもうたんよね)

あれは失敗だった。
今後は二度としないよう注意しよう。

腕の中からミナをジッと見つめるナハトは、ツンと口を突き出した。
見れば何かをくわえている。
それは、親指の頭くらいの大きさの黒い破片だった。


――――ものすごく既視感があるものだ。

(これって、最初に魔物の大量発生を調べた時に拾った破片にそっくりやないか?)

ミナはびっくりしてしまう。
あの時の破片は、その後いくら調べても元が何かはわからなかった。
そのまま棚に上げていたのだが、再び同じようなものを魔物の大量発生の現場で見つけたとなると、話は違ってくる。

(いったいなんなんやろう?)

ナハトから破片を受け取ったミナは、目の前にかざしてじっくり観察した。


そこに、討伐を終えた副団長が、団長を連れてやってくる。

「エストマン伯爵令嬢、今回の戦いでのあなたの助力に感謝する。また、それを確かめるために盗聴のような真似までしてしまったことを謝罪する」

団長は真面目な性格らしく、ピンと背筋を伸ばしたまま四角四面な感謝と謝罪の言葉を告げてくる。
ミナは黙って聞いていたのだが、団長の言葉が途切れた瞬間を狙って、声を上げた。

「あの! 教えていただきたいことがあるのですが!」

「――――あ?」

「これがなんだかわかりますか?」

戦場に落ちていたのだ。戦場経験が豊富な人に聞いてみるのが一番である。
黒い破片を突然目の前に突きつけられた団長は、目をパチパチさせて面食らった。

「…………これ?」

完全に戸惑っている。
代わりに副団長が顔を近づけてきた。

「こんな小さな破片では、該当しそうなものがたくさんあって絞りきれないな」

目を細めて破片を見たまま、副団長は首を横に振った。
やはりダメかと思ったとき、「あ!」と団長が声を上げる。

「これとまったく同じではないが、似たものを見たことがあるぞ」

「ホントですか!?」

思わずミナは食いついた。
ズッと前に出れば、団長は「近い」と呟いて後退る。

「どこで見たんですか? 教えてください!」



「あ……いや、今朝方ゴミ捨て場でだ」

迫るミナの勢いに、たじたじとなりながら、団長は申し訳なさそうにそう言った。
副団長は呆れたような目を向ける。

「ゴミ捨て場って……そりゃ、こんな感じの破片ならいくらでもあるでしょうね」

騎士団のゴミ捨て場に捨てられるのは、日本で言うところの不燃ゴミ。
金属やガラス製品、陶器磁器などの壊れた物が捨てられるという。

「そ、それは、そうだがっ! 破片の形状が……その、似ているような気が…………して――――」

副団長の指摘に、自分でも自信がなかったのだろう。団長はだんだん声を小さくした。

「それが何か教えていただいてもいいですか?」

「いや。本当に似ているような気がしただけで――――」

ミナのお願いにも逃げ腰だ。

「それでかまいません! どうか教えてください!」

再度頼めば、しぶしぶと言った感じで頷いた。


「それは、魔道ランプの壊れた核に似ているんだ」


そう言った。




「魔道ランプ?」

「ああ。騎士団の魔道ランプは、時々割れることがある。結露したり、素手で触って手の脂を付けたり、元々の作りが甘かったり――――均一に魔法が巡らなくてはならないのに、ちょっとしたことで魔力が歪んで割れてしまうんだ。なんとかしてほしいと、研究機関に申請しているんだが、そもそも扱いが粗雑すぎると文句を言われて、なかなか改良できないでいる」

屋内で使うランプなら、いつも安定した環境下にあるし、外灯ほどの大きさならば外部の影響に対処する装置をいくらでも付けることができる。
しかし、騎士団が野営に使うことを前提に作られた魔道ランプは、元々が消耗品。ある程度使えば壊れるのは当然というのが制作する側も使用する側も持っている共通認識で、改良には至らないという。

「魔道ランプが壊れるとき、中に埋め込まれた魔力を込めた核も一緒に壊れるのだが、バラバラになるはずの破片の一つが、必ずこれと同じような大きさの破片になる。魔核へ魔力を込める時に親指を当てて込めるから、その箇所が残るんじゃないかと言われている」

団長の説明を聞いた副団長は「ああ、そう言えば」と頷く。

ミナは、なるほどと思った。
同じような形の破片を拾ったのは二回目だ。
これが魔道ランプの破片なら、討伐に来た騎士団が壊したものかもしれない。

「ではこれは、この騎士団の魔道ランプの破片なんですね」

納得して頷けば、団長は「ああ、いや――――」と言って、言葉を濁す。
副団長が困ったように顔をしかめた。


「それは、うちの魔道ランプではないよ。消耗品とは言え騎士団に支給されるものは、各団で取り違えないように色を分けてあるんだ。うちの団の場合は赤だね」


破片は黒である。
では、これは他の騎士団の魔道ランプの破片なのだろうか?

「他の騎士団も今回の討伐に来ているのですか?」

「……いや。事前の偵察も準備も、今回は全てうちの団が行った。他から派兵されるとは聞いていないな」



――――それは、おかしな話だった。
では、なぜここに、この破片があるのか?

「だから、似ているような気がしただけだと言っただろう。……きっとそれは違うモノの破片だ。武具かもしれないし馬具かもしれない」

その言葉は間違っていないのだろうが、何故かしっくりこない。


「黒い魔道ランプを使うのは、どの騎士団ですか?」


ミナの質問に、団長はムッと口を引き結び黙りこんだ。
副団長も眉間にしわを寄せている。


やがて――――。


「……調べようと思えば簡単にわかることだからな。……黒を使うのは近衛騎士団。その中でもハルトムート殿下の部隊だ」


いかにも言いづらそうに告げられた副団長の言葉に、ミナは呆気にとられる。

「え? ハルトムート殿下に近衛騎士団なんてあったんですか?」

「気になるのは、そこかい?」

「…………王族には、それぞれ騎士団がつくのが当然だ。もっともハルトムート殿下が王宮を離れておられた間は『そんなモノは、いらない』というエストマン伯爵の意向で騎士団は解散させられていたが」

ミナの言葉に呆れる副団長と生真面目に答える団長。



(へ? それっておかしいやろ?)

ミナが最初に破片を見つけたとき、ハルトムートはエストマン伯爵家で一緒に暮らしていた。
つまり彼の騎士団は解散されていたわけで、なのにどうして魔道ランプが使われていたのだろう?

(いや。だからこれは魔道ランプの破片やないっちゅうことなんやろうけど)

ミナの心はもやもやする。


「魔道ランプは、本当にその団の人しか使えないんですか? 消耗品だって言っていましたけれど、きちんと管理されているのですか?」


ミナの質問に団長は目を泳がす。
副団長は大きくため息をついた。

「そのはずだよ。ただし、やろうと思えば消耗品を誤魔化すことは難しくない。王宮の宝物庫に番人はいても、消耗品置き場に番人はいないからね」

たしかに、そんなところにまで人を置いたら人件費の方が高くついてしまう。

(異世界でも、そういうところが世知辛いんは、おんなじなんやな)

誰でも使える魔道ランプの破片では、なんの手がかりにもならないだろう。
ミナはガックリと肩を落とす。



「…………ただ、騎士以外の人間が消耗品を使うことは難しいだろうな」

「え?」

「消耗品の中でも武具や防具など戦闘に必要な物には、我が国の騎士団以外の人間が持ち去れないような使用者限定魔法がかけてあるはずだ。武具ではないが、夜戦に必要不可欠な魔道ランプも、その対象になっている」

騎士ならば、よほどおかしな内容でない限り、消耗品の持ち出しを許可される。
騎士以外の者が使えないとわかっているからこそ、消耗品の管理はゆるゆるなのだ。

副団長の説明を聞いたミナは考える。


(容疑者が、不特定多数から騎士団限定になったんやろうけど……)


「騎士団って何人いるんですか?」


「一口に騎士団と言っても、構成はさまざまだ。我らのような正規の騎士もいれば、君のお父上のように、平時は自領を統治し有事の際には軍の一角を担う貴族籍の騎士とその配下もいる。正規の騎士団の中にも事務官や書記官、君たちが目指す治癒魔法使いだって騎士団専属となれば、団の構成員として数えられる――――」

「ああ、わかりました! 魔道ランプを持ち出すことが可能な騎士団の方は何人ですか?」

生真面目に答えようとした団長を遮り、ミナは質問を変える。
苦笑した副団長が答えた。


「千人くらいではないかな? 少なく見積もってだけれど」


――――うん。犯人捜しは諦めよう。

ミナは、早々に白旗を上げた。
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