本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!

九重

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責任をとらなければならないようです

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そして、ヴィルヘルミナの母と、母お気に入りの王都屈指のデザイナーが最強タッグを組んだ衣装が完成した翌日、フォクト王国建立二百十八年を祝う式典が煌びやかに幕を上げた。

美しさの中にも威容を誇る白亜の城に、ミナたちは足を運ぶ。


「ほ、本当に俺たちまで来てよかったのか? 今からでも帰った方がよくはないか?」

恐る恐る確認してくるのはルーノである。
彼の隣でルージュも、同意するよう首を縦に振っている。

「ルーノは、ハルトムートのお付きで、ルージュは私のお付きなの。全然問題ないから気にしなくていいわ」

先ほどから同じ説明をしているのに、ルーノもルージュも心配そうだ。二人は、はじめて王城に来たのだから仕方ないのかもしれない。

(ホンマはムリに連れて来ん方がよかったんやろうけど、でもハルトムートがどういう扱いを受けるかわからん内は、身内で守りを固めたかったんよね)

現に、王族であるはずのハルトムートは、現時点で招待客と同じ待遇を受けている。
決してないがしろにされているわけではなく、すごく丁寧なものなのだが――――それでも自国の第二王子へのものでないのは明らかだ。

(なんや一貫性がないんよね? ココは、いったいどうなっとるんやろ?)

ミナは心の中で首を傾げる。


「行くぞ」

当のハルトムートは、まるで動じていなかった。平然とした態度でミナに腕を差し出してくる。

今日のミナのエスコート役は、ハルトムートだ。兄のアウレリウスは、かなりごねたのだが、ヴィルヘルミナ自らが望んでそう決まった。

(どう考えても、お兄さまよりハルトムートの方が心配なんやもん)

だから腕を差し出されるのは当然で、ミナはハルトムートの腕に自分の手を絡ませなければならない。

(でも! なんか、こっぱずかしいっちゅうか? うちらまだ十一歳なんやもん! 普通に手を繋ぐとかでもいいんやないか!?)

いや、それはまたそれで恥ずかしいのだが――――ミナは内心悶えてしまう。
とはいえ、それを態度に出すことはなく、するりとハルトムートに寄り添い自然な形で手を絡ませた。
体が密着して、心臓がドキドキと高鳴る。

ハルトムートが歩き出せば、ミナもつられて足を運んだ。

(なんや頭がふわふわするような?)

いやいや、こんなことではいけないと、ミナは心を引き締める。

二人の後ろからルーノとルージュが遅れまいと着いてきた。
既にこの場所には他の招待客もいて、ミナたちを遠巻きにしていた彼らは、四人が移動すると同時に、サッと道をあける。

(モーゼの十戒の映画みたいや)

海が割れるシーンを思い出しながら、ミナは歩いた。
いくらなんでも、たかが学生四人に対し、この反応はいかがなものか?

そんなことを考えていれば、あっという間に式典の会場となる大広間に着いた。
豪華絢爛な大広間には、着飾った貴族たちが集い、それぞれの思惑の元に笑いさざめいている。

しかし、彼らは、ハルトムートを見た途端、シンと静まりかえった。
その後、ハッとしたように頭を下げ道をあけるのだが、そのくせ、ハルトムートとミナが通りすぎれば、ヒソヒソとささやき不躾な視線を向けてくる。

(なんや、えろう感じ悪いやないか。……言いたいことがあるんなら面と向かって言えばいいんに)

ミナは心の内でぼやく。

その声が聞こえたわけではないのだろうが、一人の男が真っ直ぐこちらに近寄ってきた。


「ハルトムート殿下、お久しぶりですね」

表面上はにこやかに笑う男は、たしか公爵家の嫡男だったはず。曾祖母が王家から降嫁していて、ハルトムートの再従甥はとこおいにあたる青年だ。
二十歳くらいに見える男は、あまり特徴のない顔をしていた。派手な服を着ているが、衣装負けをしていることは明らかだ。
本当に平凡そうな男だったが…………ただ一点、本人ではなく、その背後にフワフワと小さな妖精を連れていることで目立っていた。
きっと彼が契約している妖精なのだろう。


(フム。低位妖精の一種だな)

ミナの頭の中に、レヴィアの声が響く。

同時に、小さな妖精がビクッと体を震わせた。
レヴィアの声が聞こえたのだろう、明らかに怯えて逃げたそうにしているのだが、男は気づかずハルトムートの前に立つ。
ミナの方を見て、少し驚いたように目を見開いた。

「これは、可愛らしいレディだ! 殿下、ご紹介いただけますか?」

ジロジロと不躾な視線を向けてきながら頼んでくる。

「――――必要ない」

ハルトムートは、素っ気なく断った。

「おやおや」と呆れながら、男は肩を竦める。

「相変わらずなのですね。王宮を出られて少しは変わられたのかと思いましたが――」

嘆かわしそうに言う男に、ハルトムートは、ジロリと睨むだけで返事をしなかった。

男は、今度は呆れたように首を横に振る。

「まあ、お元気そうでよかったですよ。なんでも、学園ではずいぶんご活躍だそうで。――――学年で一位の座を争っておられると聞きましたよ。……とはいえ、しょせん人の操る魔力での話。妖精の力に比べれば微々たるものでしょうがね」

青年はフフンと笑いながら、自分の妖精にチラリと自慢げな目を向ける。

(ほほぉ~。いかにも考えの足りなそうな人間だが、少しは正しい知識を持っているようだな)

貶しているのか褒めているのか、わからないような感想をレヴィアは漏らした。


――――妖精の力は、“普通”の人間より大きい。
そんな妖精を召喚するのが召喚魔法だが、一時だけでなく、契約してずっと使役できるのは、かなりレアなことなのだ。
常に妖精を連れている人物は、周囲から賞賛と羨望の目を向けられる。

そんな、今さら名“常識”を、ようやくミナは思い出した。

(……いや、だって……ねぇ? あたしとレヴィアとは、もう三年くらいの付き合いになるんやもん。一緒にいるのが当たり前すぎて、レアなんて思いもせえへんかったわ)

どおりで男は、鼻高々で、ハルトムートに対し上から目線のはずだ。
いくら公爵家の嫡男とはいえ――――いや、嫡男であればなおのことハルトムートに対し、慎重な態度をとるはずなのに、おかしいと思っていたのだ。

(ハルトムートは、王宮から追い出されてはいても、実際に廃嫡されたわけではないんやもん。第二王子とはいえ、次期王になる可能性が少しでも有る限り、保守意識の高い高位貴族があからさまに絡んでくることなんてないはずなんや)

なのに、男の態度は横柄極まりない。
彼は自分が妖精と契約したことに、よほどの自信を持っているのだろう。

ミナは、あちゃ~と頭を抱えた。
なんでこんな男が妖精と契約できたのだろうと思ったのだが――――よく見れば、男性はどこかで見たようなキラキラのビーズアクセサリーを身につけている。
確認するまでもなく、自分が作ったものだとわかった。

(きっと、妖精が宿るなんてわからずに、張り切って作っていた最初の頃のモノよね? 公爵家になんて渡したことなかったんだけど)

金は天下の回りものと言うが、おそらくビーズアクセサリーも、巡り巡って男の手に渡ったものと思われる。
そして、多少魔法の素養があった男は、宿っていた妖精と契約したというわけだ。



(え? ってことは、こいつの鼻高、あたしのせいなん?)

ミナはガックリうなだれる。

(どうやらそのようだな。……となれば、その高い鼻を我らの責任で折ってやらねばなるぬというわけだ)

いったいどこからミナの思考を聞き取っていたのか、レヴィアがそんなことを言い出した。
その口調は楽しそうで、非常に悪い予感しかしない。

(ちょっ! ちょっと、レヴィア何をするつ――――)

ミナが言葉をいい終わらぬ内に、その場にキラキラと光が集いはじめた。

誰もが驚き、注視する中に――――妖精騎士レヴィアが顕現した!
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