本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!

九重

文字の大きさ
上 下
53 / 75

母は、ますます強し!

しおりを挟む
「…………デザイナー?」

ギギギッと首を回して、ミナは母の方を振り向く。
目が合った母は、とても二児の母とは信じられないような若々しい美貌で微笑んでくれた。

「ええ。建立記念日パーティーに行くのなら、それ相応の衣装が必要でしょう? 急いで仕立て上げられるように、もう予約しておいたの。今日はデザイナーの人がきてくれて話し合いをする段取りになっているのよ。着る人の意見もお聞きしたいって言われているから、早速お部屋に行きましょう」

貴族の貴婦人は、着飾ることにとても情熱を傾けている。ヴィルヘルミナの母も例外ではなく、母との衣装選びは、ものすごく時間がかかるのが、いつものことだ。

ミナは、この世の終わりのような表情で天井を見上げた。

木目の美しい天井には、落ち着いた雰囲気のシャンデリアが輝いていて、キラキラまぶしい灯りが、目にしみる。涙の滲みかかった目をそっとぬぐうミナを、アウレリウスとハルトムートが、ご愁傷様という表情で見てきた。

「私は、今持っているドレスで十分――――」

それでもミナは諦めきれず、儚い抵抗をしようとする。

「まあ! なにを言っているの。王宮のパーティーなんだから目一杯着飾るに決まっているでしょう。私の“子供たち”が着古しの服で参加するなんてありえないわ!」

ヴィルヘルミナの母は、バッサリその抵抗を切り捨てた。



「…………子供たち?」

そして、思わぬ余波がアウレリウスに飛び火する。
母の言葉を聞いた兄は、顔色を青くした。

「ええ、アウレリウス、あなたも一緒に衣装を作るのよ」

無慈悲な言葉に、アウレリウスはガックリと肩を落とす。
その肩を慰めるようにハルトムートが叩いたのだが――――。

「もちろん、ハルトムートさま。あなたもご一緒ですからね」

母の言葉に、ハルトムートは、ギクリと体を強ばらせた。


「――――は?」

「当家でお暮らしいただいている限り、ハルトムートさまも、私の“家族”ですから。衣装を仕立てていただくので、一緒に行きましょうね」

ハルトムートは、今度はポカンと口をあける。

「…………家族」

「当然ですわ。そのつもりがなければ、私はハルトムートさまをお預かりしておりませんもの」

きっぱり言い切ったヴィルヘルミナの母は、美しく笑った。

ミナも、ハルトムートに対してニカリと笑う。

「一緒に衣装を仕立てられて、嬉しいですわ。どうせですからお揃いにしますか?」

「ああ、それはいいな。ゆっくりじっくり選ぶとしよう」

アウレリウスは、逃がしてなるものかというように、ハルトムートの肩をがっちりと掴む。

ハルトムートは――――ものすごく複雑な表情を浮かべた。

「…………ここは喜んでいいのか? それとも悲しむべきなのか?」

その場でブツブツと呟きだす。

「もちろん! 大喜びするところですわ」

断言するミナに、ハルトムートは疑わしそうな視線を向けた。

「当然喜ぶべきだな。家族は一蓮托生だ」

ハルトムートの肩から首に、自分の腕を回したアウレリウスが、爽やかに言い放つ。



ハルトムートは――――ついに、プッ! と吹き出した。

「そうか、一蓮托生か?」

聞き返す顔は――――晴れ晴れとしている。

「ええ。もちろん。だから行きますわよ、地獄の着せ替えごっこに!」

しかし、ミナの言葉を聞いた途端、たちまち不安そうな顔になった。地獄なんて言われれば、当然の反応だ。

「ヴィルヘルミナ! なんです。その地獄というのは!?」

母に叱られたミナは、ペロリと舌を出した。

「まったく、あなたという子は…………さあ、行きましょう。デザイナーの人が待っていますわ」

母に手を引かれたミナは、渋々歩きだす。
その後を、ハルトムートを捕まえたアウレリウスがついて行った。

「おい! 引っ張るな」

「はいはい。だが、逃げてもムダだぞ。…………実は、母は父よりも怖いんだ」

後半部分を、ひそひそとアウレリウスは囁く。
しかし――――

「アウレリウス、聞こえていますよ」

すかざす母の叱責が飛んだ。

「はい! すみません母上」

アウレリウスは、ピシッと背を正して頭を下げる。
そこには、いつもの頼れる兄の姿は欠片もない。




こうして三人は、母に連行されていった。

エストマン伯爵夫人との衣装選びは本当にたいへんで、子供たち三人は、取っ替え引っ替え最新流行の衣装を着せられ続けることになる。

「――――いや、私はもう先ほどの服で」

どれほどハルトムートが遠慮しても、ミナの母は止まらない。

「そうおっしゃらずに、もう一着だけ着てみてください。…………ほら、こちらの服は殿下の黒髪がとてもよく映えそうですわ! アウレリウスもヴィルヘルミナも私と同じ金髪で、正直つまらないと思っていたのです。その点殿下ならいろいろ“楽しめ”そうですわ! ああ、本当になんて美しい御髪でしょう!」

昔はともかく、ハルトムートが闇属性とわかってからは、誰もが蔑みの目を向けた黒髪を、ミナの母は喜々として触れてくる。

その手は温かく優しかった。
思わず頬を赤らめるハルトムートに、すかさず母は衣装を手渡す。

「では、次はこちらを着てみてください。あ、ミナはこっちよ!」

テキパキと指示を出す伯爵夫人に、誰も逆らえない。


(…………なんか、おかんに似てるかも)


思わずそう思ってしまうミナだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...