本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!

九重

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私はお笑い担当だったようです

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その後も時々魔獣の大発生が起こった。

とはいえ、それは最初の時と同じく難なく討伐できる規模のものばかりだったため、それほど大きな問題とはならなかった。
場所も王都から遠く人里からも離れたところが多かったため、被害も少ない。
討伐後の浄化も、ミナがそれとなく父に話して、軍できっちり行うように指導してもらった。

(その度に、引きこもってアクセサリー作りしていますってわけにもいかへんもんな)

結果、日々は平穏に過ぎている。

(平穏すぎて、怖いくらいや)

ミナとハルトムートは、無事二年に進級した。
クラスは持ち上がりで顔ぶれは変わらず、ビーズアクセサリー作りで親交を深めたミナは、概ね良好な関係をクラスメートとの間に築いている。
ルーノとルージュも、もちろん一緒のクラスだ。
そのおかげかどうかはわからないが、ハルトムートは、ゲームほどクラスから浮いていない。
誰もが気軽に声をかけられる存在ではないが、疎まれたり嫌われたりはしていない――――と思う。

(…………て、いうより、なんかあたしとセットになっていて、みんなが見てくる目が生温かいような?)

ミナとハルトムートが会話していると、何故だかクラスメートの視線を感じるのだ。
何かと思って見返せば、慌ててそっぽを向かれるか、微妙な笑顔を返される。

(特に用事があるようやないから放っといてるんやけど…………なんなんやろな?)

ミナに心当たりはない。
一度ハルトムートに相談してみたことがあるのだが、ムッとされて返事はなかった。

「少しくらい一緒に考えてくれてもいいのに」

「いやいや、ミナの方が鈍すぎだろう」

「……ハルトムートさま、お可哀そう」

不満を漏らせば、ルーノやルージュにまで、そんな風に言われてしまう。
だからといって、問い詰めても返事はもらえなかった。

“こういうこと”は、自分で気づかないといけないのだそうだ。

(“こういうこと”ってなんなんや? わからんから聞いてるっちゅうに。世知辛い世の中や)

ミナは、そう思う。


それでも、ハルトムートが嫌われたり疎まれたりしていないのだから、不平不満を言うつもりは、なかった。
このままいけば、ハルトムートの闇落ちルートはないと思われるからだ。

(まあ、万が一闇落ちルートのイベントが発生しても、断固阻止するだけやけど)

ミナは、毎日休まずにずっと鍛錬を続けている。そんじょそこらの魔獣に負けるつもりはさらさらないのである。

(――――いざとなったらふん縛る!)

そこだけは、相変わらずのミナだった。






こうして、一見平穏に見える日々を送っていたミナたちの元に、ある日一通の手紙が届く。
いや、正確にはミナとハルトムート宛てに一通ずつ、同じ内容の手紙が届いたのだ。

「…………王宮からの招待状」

手紙に目を落としたミナが呟く横で、ハルトムートはくしゃりと手紙を握りつぶす。
それは、王国建立二百十八年を祝う式典への出席案内だった。

(なんちゅうか、微妙な数字よね)

まあ、要は毎年恒例の建立記念日のパーティーで、昨年も同じ日に同じパーティーが開かれている。

(でも、ハルトムートは招かれなかった)

招かれるというより、本来王族は主催者側。第二王子であるハルトムートも当然そちらなのだが、学業に専念するようにという国王命令で参加を免じられたのだ。

(実態は“免じた”じゃなく“禁じた”――――だけど)

その知らせを受けた時のハルトムートの、悲しいくらい平静だった顔を覚えている。
もっと怒っていいのにと、ミナは歯がゆく思ったものだ。

それなのに今年は出席案内が、ミナの分まで届いたのだ。
いったいどういう情勢の変化なのだろう?
首を傾げるものの、思い当たる理由はない。

悩む二人に答えらしきものをくれたのは、兄のアウレリウスだった。

「ミナもハルトムートさまも、学園はじまって以来という優秀な成績を出しているからね。陛下も無視できなくなってきたんじゃないかな?」

たしかにヴィルヘルミナは、珍しい光属性というだけでなく豊富な魔力量とそれを使いこなす高度な魔法を駆使することで、国の内外から多大な注目を集めている。
同時に、そのヴィルヘルミナに拮抗する力の持ち主として、ハルトムートもまた注目を集めていた。
以前は闇属性の王子として蔑まれるばかりだったハルトムートだが、ヴィルヘルミナと共にあることで、属性以外の面にも光が当たり、きちんと評価されるようになったのだ。
剣術でも座学でも他のどんな教科でも、ヴィルヘルミナとハルトムートは常にトップを争っている。
ヴィルヘルミナを評価するには、彼女のライバルであるハルトムート抜きでは語れなかった。
自然ハルトムートの評価も上がったということだ。

(しかも最近は生温かい目で見られているし)

それがハルトムートにとって嬉しいことかどうかは別として、今や彼への評価は右肩上がり。
だから王宮サイドもハルトムートをいないものとして扱うことができなくなってきたのだろう。


(ずいぶん身勝手な話しやけどな)

いらないと言って放り出し、周囲の評価が上がったからと呼び戻そうとする。

(ええ根性してるやないかい)

「ミナ、ミナ、顔がものすごく怖くなっているよ。まるで魔王みたいだ」

アウレリウスが苦笑しながら注意してきた。
ミナは慌てて顔に両手を当てる。ペタペタと触って、感触を確かめた。

(あかん。たしかに強ばって、変に固まっているかもしれん)

今度はパチパチと頬を叩いて顔を柔らかくしてから、ニッと口角を上げる。

「……これで大丈夫ですか?」

恐る恐る確認すれば、ハルトムートがブッと吹き出した。

「お前、なんだ、その反応。おかしすぎるだろう!」

笑いながらそんなことを言ってくる。
「おかしい」とは、レディに対しずいぶん失礼な言葉である。
ミナがプンプンとむくれれば、ハルトムートの笑いはますます大きくなる。


「ハハ! ハハハ! …………まったく、お前といるとおちおち、落ち込んでもいられない」


笑いすぎたせいだろうか、目尻に滲んだ涙を拭いながらハルトムートは、そう話す。

「おちおち……落ち?」

聞き返せば、弾けるようにもう一度笑った。

「もう! 笑いすぎでしょう!?」

ミナが怒れば「ごめん」と笑いながら、腕を伸ばしてくる。
そのままギュッと抱き込まれた。

「へ? ハルトムート?」



「――――お前がいれば、俺は笑っていられる」



ミナの耳元で、ハルトムートはそう囁く。




(えっと? ……なんやそれ? あたしは、吉○喜劇的な何かなんか?)

…………本当に残念なミナだった。
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