本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!

九重

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想定外でした

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最初に魔物の大量発生が起こったのは、それから一月後のことだった。

ところは、フォクト王国の北端。
険しい山脈が隣国との国境となっている場所で、誰も立ち入らない樹海の奥から魔物が次々と現れたそうだ。

すぐに王国騎士団から討伐部隊が編成、派遣された。
幸いにして、大量発生とはいいながら、数は思ったよりは多くなく、また強い魔物も少なかったため、討伐は難なく成功した。

喜ぶ者の多い中で、ミナは一人危機感を覚える。

(なんでこんなに早いんや? 最初の大量発生が起きるんは“一年後”のはずなんに)

少なくともゲームの中ではそうだった。

ヴィルヘルミナが二年になってから魔物の大量発生が起こり、そして最初は簡単に討伐できていた魔物が、徐々に数と強さを増していき手こずるようになっていくのだ。
発生場所も、人間の住まない未開の地から、人口の多い場所へと移っていき、当然犠牲者も増えていく。

(たしか、3年生になってからエストマン伯爵領でも大量発生が起こるんよね。お父さまとお兄さまの活躍で大きな被害を出さずにおさめられたんやけど、まだ学生で何もできない自分を、ヴィルヘルミナは悔しく思うんや)

確実に迫りくる脅威に、誰もが不安を抱えるようになり、そしてそんな中、ついに王都――――それも学園に魔物が大量発生する。

(それが卒業式で、ハルトムートが闇落ちするイベントなんや)

ゲームでは、そうだったはずなのに、このタイミングのは、いったいどういうことだろう?

(もしかして、ゲームでは語られへんかったけど、実際、大量発生はその前に起きていたんか?)

あまりあり得ない可能性だが、考えられないわけではない。
そうでなければ、他に何か魔物の大量発生を促すような“バグ”が起こったのか?

そこまで考えて、ミナは首をプルプルと横に振った。

(あかん! あかん! バグやなんて! この世界が、もうゲームじゃなく現実なんやって、あたしは思ったはずなんに!)

現実世界にバグはない。
どんな事態も、それは起こるべくして起こった現象であり、紛うかたなき事実だ。
ミナがやるべきことは、この事実をきちんと受け止め対処すること。

(……とはいえ、あたしができることなんか、今まで通りに訓練を頑張る以外にはないんやけど)

はるか北方で起こった魔物の大量発生を、ただの一学生であるミナが調べることなんてできない。

(せめて移動手段でもあれば、現場を見に行くことくらいできるかもしれへんのやけど)

それも普通の移動手段ではダメだろう。
まだ親の庇護下にあるミナが、家を離れていられる限度は、せいぜいが日帰りくらい。
新幹線――――いや、飛行機くらいの速さがなければ、現場まで日帰り往復なんてムリだ。



(新幹線や飛行機……あ! あるやないか! それより早い移動手段が!!)

ミナは、カッ! と目を見開いた。
視線を自分の影に向ける。
なんの変哲もない黒い影には、魔獣ナハトが潜んでいた。

(ナハトに乗って北までひとっ飛びすればいいんやないんか!? 影から影へ移動するナハトなら、あっという間に着くはずやもん)

それは言うならば、人類滅亡を防ぐために旅立った超有名な宇宙戦艦のワープみたいなもの。
ナハトが一度にどれだけの距離を移動できるのか、はっきりとしたことはわからないが、それでもかなりの距離を跳べるはずだった。

(ゲームの中では、それで何度も逃がしてしもうたもんな。ハルトムートと一緒に逃げ出したこともあったから、人を運ぶこともできるはずや。……うんうん。いいアイデアやな。さすが、あたしや! 丁度明日は学園が休みやし、一日中ビーズアクセサリーを作る言うて、部屋に引きこもるふりして、行ってこよ!)

ミナは自画自賛する。
そして、自分では完璧と思われる計画を実行するべく行動に移した。



しかし――――

「…………えっと、ハルトムートさま? どうしてここへ?」

翌日、いざ行かん! と自室にこもったまでは良かったのだが――――ミナは、そこにいたハルトムートの姿に目を見開き驚いてしまう。

「ハン! お前が何かを企んでいることなど丸わかりだからな。先回りしたのだ」

ハルトムートは、ドヤ顔だった。

「ハ! よく言う。ガストンに命じて、ミナの動きを見張らせていたくせに」

小馬鹿にしたように笑うのはレヴィアだ。
ミナの妖精騎士は、呼んでもいないのにドロンと、その場に姿を現す。

「それだって立派な戦略だろう?」

レヴィアの言葉など気にした風もなく、ハルトムートは笑った。

「さあ、何をポカンとしている。さっさと行くぞ」

ミナを急かして部屋の中央に移動すると、ハルトムートは闇魔法を展開する。
途端、彼の足下に、深い闇が広がった。

「俺の力も使えば、闇の魔獣の移動距離はさらに長くなる。――――どうだ? 俺を連れて行くのは、お前にとっても、都合のいい話だろう?」



いったいハルトムートは、ミナの情報をどこまで知っているのだろう?

「――――ナハトが闇の魔獣だってことに気づいていたんですね?」

夜の特訓で一緒に戦っているナハトだが、ミナはナハトが魔獣だと説明はしたものの、その属性が闇だとまでは、打ち明けなかった。
それをいつの間にかハルトムートは知っていたらしい。

「あれだけ闇を利用した攻撃を仕掛けられれば、イヤでも気づく。……それに妖精は、基本嘘をつくのを嫌うからな。いろいろ話しかけ“かま”をかければ、見えてくるモノはたくさんある」

どうやらハルトムートは、自分の予想をガストンやレヴィアの反応から、それとなく裏付けていたようだ。
まだ十歳だというのに、末恐ろしいことを言うハルトムートに、ミナは呆れる。
さすが王子というべきなのだろうが……心境は複雑だ。

(年相応な単純なところもいっぱいあるっちゅうんに。アンバランスすぎるやろう?)

それでも、それがハルトムートなのならば、受け入れる以外ない。


「安心しろ。そやつが暴いたつもりになっている秘密など、我らにとって知られても痛くもかゆくもないことばかりだ。たかが人間風情が妖精の裏をかこうなどと、片腹痛いわ」

レヴィアは、馬鹿にしたように笑った。
それはそれで、今度は妖精の方が恐ろしいと、ミナは思う。


「フン。強がりを」

「そう思っているがいい」

ハルトムートとレヴィアの仲の悪さは相変わらずだ。
俺さまとナルシストでは、仲良くなりようがないのかもしれない。



「ハハハ、相変わらず仲がいいな」

とはいえ、そう思わない者もいるようだ。
突如現れたガストンは、自分の主とレヴィアを見て、楽しそうに笑った。
二人共からジロリと睨まれてもどこ吹く風だ。

「相変わらず貴様の目は腐っているな」

「こんな性格の悪い妖精騎士と、仲良くなんてあるものか」

絶対零度の雰囲気で言い返されても、ガストンはビクともしない

「もちろん、私とて大事なあるじが、レヴィアのような問題のある性格の妖精と親交を深めるのを許容したくはないが…………仕方ないだろう? 二人とも同じ相手に振り回されているのだから」

聞いた途端、ハルトムートもレヴィアも嫌そうに顔をしかめた。
振り回しているというのは、ひょっとしたらミナのことだろうか?

(違うやろ! 振り回されているのはあたしの方やで!)

憤懣やるかたないミナだが、ここで言い争っては時間が無駄になるばかり。


「……もう仕方ないわよね。おいで、ナハト。私とハルトムートさまを乗せてちょうだい」


ミナの声に応えて近寄ってきたナハトは、彼女の言葉に従って大きな魔獣の姿になった。
その背に、ためらいもなくハルトムートがサッと乗る。
ナハトは、嫌そうに尻尾をビシッと一振りしたが、ジッと耐えていた。
ハルトムートは、ミナの方に手を伸ばしてくる。

「つかまれ」

どうやら乗るのを手伝ってくれるらしい。

(そんなことしなくても、ひとりで乗れるんやけど?)

とは思ったが、ここは素直に彼の手をとった。
機嫌を損ねると後々面倒だからだ。

最近の特訓でメキメキと力をつけてきているハルトムートは、軽々とミナを引き上げる。
そのまま自分の前に座らせた。

背中にハルトムートの体温をダイレクトに感じて、ミナはちょっとときめいてしまう。
大人と違い、すっぽり包み込むような大きさは感じないが、高めの体温と同じくらいのぬくもりが、くすぐったいような照れくさいような、不思議な感覚を呼び起こす。


「行くぞ」


耳に直接声が響いて、ドキドキが大きくなった。
顔が熱くてしかたない。


(うわぁ~! あたしはショタやないはずなんに!? これも、みんなハルトムートがイケメンなんが悪いんや!)


心の中で叫びながら、ミナはナハトに出発の合図を送った。
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