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心に、固く! 誓いました
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その日の夜。ミナは疲れ切った体でベッドにダイブした。
「う~。もうダメ。一ミリも動きたくない」
手足を投げ出し大の字になって、ミナはうめく。
「無茶な練習をするからだ。――――今夜の訓練は休みにするか?」
ミナの他は誰もいない部屋の中、ペンダントから顕現したレヴィアが呆れたように聞いてきた。
ベッドの下ではナハトが気遣うように「ニャー」と鳴く。
――――昼間、コックスの授業でオーブを満タンにできなかったミナは、学校から帰宅後の実戦訓練にいつも以上に熱を入れてしまったのだ。
当然それはハルトムートもで、鬼気迫る二人の勢いに、最初は止めようとしたアウレリウスも、最後には肩をすくめて諦めた。
結果動けなくなってしまうのは当然のことで、ミナはベッドの上で呻いている。
いつもなら、この後、結界を張ってもらい、レヴィアとナハトと訓練をするのだが、それを止めるかとレヴィアは聞いているのだった。
「訓練を休むのはイヤよ。練習を一日休むと『他の誰にわからなくても自分にはわかる』っていうもの。そんなことで自己嫌悪したくないわ」
確か、どこかの作曲家の言葉だったはずだ。
引きこもり気味だったミナは、他人の評価には無頓着だが、自分で自分を見下げたくはない。
それに、よくよく考えたらミナの最終目標は、ハルトムートの闇落ちを防ぐため彼をふん縛ることだったのだ。
(なのに一緒に訓練して、ふん縛る相手を強くしてどうするんや! っちゅうことなんよ)
こうなれば、ハルトムート以上に訓練して、彼より強くなるしか手がないのだ。
(負けへんで! 絶対ふん縛ったるからな!)
……何度も言うようだが、ミナの最終目標は闇落ちを防ぐことであって、ふん縛ることではない。
目的と手段が逆になっていることに、ミナは気づけるのだろうか?
ともかく! 訓練を休みたくないミナは、自分の体にむち打ってベッドの上に上半身を起こした。
ところが、直ぐにレヴィアの手が伸びてきて、せっかく起こした体をベッドに押し倒す。
「何をするの!?」
ベッドにポスンと埋まったミナは、キッとレヴィアを睨んだ。
「……訓練の前に話がある」
ひどく真面目な顔でレヴィアはそう言ってくる。
見目麗しい妖精騎士のそんな表情に、ミナは思わずドキンとした。
(なんやなんや? ベッドに押し倒されて『話がある』なんて言われたら、ときめいてしまうやないか!)
とはいえ、聖奈はともかく、ヴィルヘルミナはまだ十歳。
レヴィアの話がそんな色っぽいものではないのは、考えるまでもない。
(第一、レヴィアの好きなんは妖精女王――――バリバリ年上のできる女や。間違ってもロリコンやないもんな)
だとすれば、話の内容は自ずと知れる。
「ルージュの話ですね」
確信を持ってたずねれば、レヴィアは肩をすくめた。
「……つまらぬな。少しは焦った顔が見られると思ったんだが」
――――いったい何を期待しているのだろう。
ジロリと睨んで先を促せば、レヴィアは話しはじめた。
「ルージュ・ブランは、もらい子だ。以前は、祖父母と両親、幼い弟妹と一緒に明るく元気に暮らしていたのだそうだが……二年前、王宮の下級兵士だった父親が職を失い、生活が苦しくなったため、裕福な商人である叔父夫婦に引き取られた」
「……父親が、失職?」
「ああ。父親が門番をしていた日に、ハルトムートが城を抜け出して軽い怪我をしたそうだ。もちろん悪いのはハルトムートで自業自得というものだが……脱走を許した門番もお咎めなしというわけにはいかなかったのだろうな。ようは責任を押しつけられたのだ」
ミナは目を見開いた。
(そんな! ゲームでは、ルージュは大家族で仲良く暮らしているはずなのに!)
何故そんなことになったのだろう?
二年前といえば、ゲームではヴィルヘルミナとハルトムートが順調に仲良くなっていた頃だ。
(城でヴィルヘルミナと会っていたハルトムートは、確かにやんちゃなところはあったけど、勝手に城を抜け出すような悪ガキじゃなかったはずなんに――――)
ミナは幼い二人が城で遊ぶ美しいスチルを思い出す。
これは、やはりヴィルヘルミナとハルトムートが出会わなかったことによる弊害なのだろうか?
可愛らしく素直な婚約者候補を得て、幼いながら精一杯背伸びをして大人ぶろうとしていただろうゲームのハルトムートと、そんな相手は誰もいず自由気ままにわがまま放題だった現実のハルトムート。
だからそんな事件が起こり――――その影響がルージュの父親に及んでしまった。
(……あたしのせいなんか)
ミナはぎゅっと唇をかむ。
「商売に忙しい叔父夫婦は、姪には無関心。本当は引き取りたいとも思っていなかったが、ルージュが平民にしてはたぐいまれな魔力を持っていると知り、商品に投資するような気持ちで引き取った。ルージュの父親のことも『せっかく城に勤めていたのにクビになった要領の悪い男』と、ルージュの前でも平気で馬鹿にするような愚か者たちだ。当然ルージュと叔父夫婦の仲は冷え切っていて、家では必要最低限の会話しかないという有り様だそうだ」
ルージュの炎の魔力に惹かれ、傍にいるという炎の妖精から聞いた話を、レヴィアは淡々と話してくれる。
「……ルージュは、ハルトムートを恨んでいるのかしら?」
父がクビになった原因のハルトムートをルージュが恨んでいる可能性は大きい。
学園では、そんな風には見えなかったが、隠していたのかもしれなかった。
ところがレヴィアは、首を横に振る。
「お前は、あの娘をみくびっているのか? 炎の妖精が慕う者の性根は、まっすぐで歪みない。あの娘が恨んでいるとしたならば、それは家族離散の危機になんの力もなかった自分自身だ。己が不甲斐なさを嘆くことはあっても、他者を恨むことなど、あの娘はしないだろう」
「……ルージュは、たった八歳だったのに?」
「年齢など関係ない。お前だってそうだろう?」
ミナはくしゃりと苦笑した。
自分が年齢に関係なく振る舞うのは、前世の記憶があるせいだ。
「……そうやね。ルージュは、そういうキャラやった。どこまでも明るくまっすぐで、人を恨んだりしないんや」
「……言葉に地が出ているぞ」
呆れたようにレヴィアが指摘した。
付き合いが長くなった彼は、ミナが時々エセ関西弁で話したり思考したりしていることを知っている。
(ルージュは、ルージュやった。ゲームとは違うけど……でも、根本は変わらない。あたしの大好きなサブヒロインや)
心の中で確信したミナは、顔を上げる。
「……今日の訓練をはじめましょう。――――ナハト、行くわよ。――――レヴィア、結界を張って」
ミナの呼びかけで、ナハトが立ち上がり、レヴィアは苦笑する。
「ニャー」
「お前の望むままに、我が主よ」
ゲームとは、まるで違ってしまったこの世界。
その影響は、ルージュの境遇のように、ミナの知らないところにも広がっている。
(もうこの世界は、あたしの知っている『闇夜の星』やないんやな)
それでも、この世界で誰もが精一杯生きていた。
(……だったら、あたしだって頑張る以外ないやろう!)
ミナは、そう思う。
(ハルトムートもルージュも……他のみんなも――――あたしが大好きだったキャラたちが、頑張っているんや。あたしだけ落ち込んでてたまるかい! 絶対幸せになったるで!)
心に固く誓うミナだった。
ーーーーーーーーーーー
お話がツイッターの呟きに追いついてきました。
更新頻度が下がりますが、ご了承ください。
<(_ _)>
「う~。もうダメ。一ミリも動きたくない」
手足を投げ出し大の字になって、ミナはうめく。
「無茶な練習をするからだ。――――今夜の訓練は休みにするか?」
ミナの他は誰もいない部屋の中、ペンダントから顕現したレヴィアが呆れたように聞いてきた。
ベッドの下ではナハトが気遣うように「ニャー」と鳴く。
――――昼間、コックスの授業でオーブを満タンにできなかったミナは、学校から帰宅後の実戦訓練にいつも以上に熱を入れてしまったのだ。
当然それはハルトムートもで、鬼気迫る二人の勢いに、最初は止めようとしたアウレリウスも、最後には肩をすくめて諦めた。
結果動けなくなってしまうのは当然のことで、ミナはベッドの上で呻いている。
いつもなら、この後、結界を張ってもらい、レヴィアとナハトと訓練をするのだが、それを止めるかとレヴィアは聞いているのだった。
「訓練を休むのはイヤよ。練習を一日休むと『他の誰にわからなくても自分にはわかる』っていうもの。そんなことで自己嫌悪したくないわ」
確か、どこかの作曲家の言葉だったはずだ。
引きこもり気味だったミナは、他人の評価には無頓着だが、自分で自分を見下げたくはない。
それに、よくよく考えたらミナの最終目標は、ハルトムートの闇落ちを防ぐため彼をふん縛ることだったのだ。
(なのに一緒に訓練して、ふん縛る相手を強くしてどうするんや! っちゅうことなんよ)
こうなれば、ハルトムート以上に訓練して、彼より強くなるしか手がないのだ。
(負けへんで! 絶対ふん縛ったるからな!)
……何度も言うようだが、ミナの最終目標は闇落ちを防ぐことであって、ふん縛ることではない。
目的と手段が逆になっていることに、ミナは気づけるのだろうか?
ともかく! 訓練を休みたくないミナは、自分の体にむち打ってベッドの上に上半身を起こした。
ところが、直ぐにレヴィアの手が伸びてきて、せっかく起こした体をベッドに押し倒す。
「何をするの!?」
ベッドにポスンと埋まったミナは、キッとレヴィアを睨んだ。
「……訓練の前に話がある」
ひどく真面目な顔でレヴィアはそう言ってくる。
見目麗しい妖精騎士のそんな表情に、ミナは思わずドキンとした。
(なんやなんや? ベッドに押し倒されて『話がある』なんて言われたら、ときめいてしまうやないか!)
とはいえ、聖奈はともかく、ヴィルヘルミナはまだ十歳。
レヴィアの話がそんな色っぽいものではないのは、考えるまでもない。
(第一、レヴィアの好きなんは妖精女王――――バリバリ年上のできる女や。間違ってもロリコンやないもんな)
だとすれば、話の内容は自ずと知れる。
「ルージュの話ですね」
確信を持ってたずねれば、レヴィアは肩をすくめた。
「……つまらぬな。少しは焦った顔が見られると思ったんだが」
――――いったい何を期待しているのだろう。
ジロリと睨んで先を促せば、レヴィアは話しはじめた。
「ルージュ・ブランは、もらい子だ。以前は、祖父母と両親、幼い弟妹と一緒に明るく元気に暮らしていたのだそうだが……二年前、王宮の下級兵士だった父親が職を失い、生活が苦しくなったため、裕福な商人である叔父夫婦に引き取られた」
「……父親が、失職?」
「ああ。父親が門番をしていた日に、ハルトムートが城を抜け出して軽い怪我をしたそうだ。もちろん悪いのはハルトムートで自業自得というものだが……脱走を許した門番もお咎めなしというわけにはいかなかったのだろうな。ようは責任を押しつけられたのだ」
ミナは目を見開いた。
(そんな! ゲームでは、ルージュは大家族で仲良く暮らしているはずなのに!)
何故そんなことになったのだろう?
二年前といえば、ゲームではヴィルヘルミナとハルトムートが順調に仲良くなっていた頃だ。
(城でヴィルヘルミナと会っていたハルトムートは、確かにやんちゃなところはあったけど、勝手に城を抜け出すような悪ガキじゃなかったはずなんに――――)
ミナは幼い二人が城で遊ぶ美しいスチルを思い出す。
これは、やはりヴィルヘルミナとハルトムートが出会わなかったことによる弊害なのだろうか?
可愛らしく素直な婚約者候補を得て、幼いながら精一杯背伸びをして大人ぶろうとしていただろうゲームのハルトムートと、そんな相手は誰もいず自由気ままにわがまま放題だった現実のハルトムート。
だからそんな事件が起こり――――その影響がルージュの父親に及んでしまった。
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ミナはぎゅっと唇をかむ。
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ルージュの炎の魔力に惹かれ、傍にいるという炎の妖精から聞いた話を、レヴィアは淡々と話してくれる。
「……ルージュは、ハルトムートを恨んでいるのかしら?」
父がクビになった原因のハルトムートをルージュが恨んでいる可能性は大きい。
学園では、そんな風には見えなかったが、隠していたのかもしれなかった。
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「……ルージュは、たった八歳だったのに?」
「年齢など関係ない。お前だってそうだろう?」
ミナはくしゃりと苦笑した。
自分が年齢に関係なく振る舞うのは、前世の記憶があるせいだ。
「……そうやね。ルージュは、そういうキャラやった。どこまでも明るくまっすぐで、人を恨んだりしないんや」
「……言葉に地が出ているぞ」
呆れたようにレヴィアが指摘した。
付き合いが長くなった彼は、ミナが時々エセ関西弁で話したり思考したりしていることを知っている。
(ルージュは、ルージュやった。ゲームとは違うけど……でも、根本は変わらない。あたしの大好きなサブヒロインや)
心の中で確信したミナは、顔を上げる。
「……今日の訓練をはじめましょう。――――ナハト、行くわよ。――――レヴィア、結界を張って」
ミナの呼びかけで、ナハトが立ち上がり、レヴィアは苦笑する。
「ニャー」
「お前の望むままに、我が主よ」
ゲームとは、まるで違ってしまったこの世界。
その影響は、ルージュの境遇のように、ミナの知らないところにも広がっている。
(もうこの世界は、あたしの知っている『闇夜の星』やないんやな)
それでも、この世界で誰もが精一杯生きていた。
(……だったら、あたしだって頑張る以外ないやろう!)
ミナは、そう思う。
(ハルトムートもルージュも……他のみんなも――――あたしが大好きだったキャラたちが、頑張っているんや。あたしだけ落ち込んでてたまるかい! 絶対幸せになったるで!)
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