本格RPGの世界に転生しました。艱難辛苦の冒険なんてお断りです!

九重

文字の大きさ
上 下
17 / 75

サブヒロインとすれ違いました

しおりを挟む
なだらかな丘にそびえる白い建造物。
形は様々ながら外壁は白で統一された十棟ほどの建物が、今日からミナの通う王立ラキセラ学園だ。
生徒は十歳から十五歳までの魔力を持つ者で、魔力さえあれば貴族も平民も平等に教育を受けられる。

(まあそれはあくまで建前で、身分の差は歴としてあるんやけどな)

十歳から十一歳までは魔法と学問の基礎を教えられ、その後それぞれの進路に従って学科が分けられる。
魔法剣士を目指す騎士学科や、魔法の探求を目指す研究学科。治癒魔法を専門とする医学科に、将来領主や重臣となる貴族のための法律経済学科等々。

どの学科を選ぶのかは自由となっているが、人気のある学科には選抜試験が行われる。
そしてそこで優先的に受かるのはやっぱり貴族だった。
平民はよほど優秀でなければ自分の希望する学科には入れないのが現状だ。

(まあ、それでも死ぬ気で頑張れば平民でも入れるっちゅうのが、学園が平等やいうん根拠なんよね)

平民の希望は門前払いではないのだ。
――――限りなく、それに近い状態ではあるものの。


ちなみに、ミナの兄のアウレリウスは法律経済学科と騎士学科の両方に入っている。
これはたいへん珍しいケースで、なんでも将来伯爵家を継ぐからと法律経済学科を希望したアウレリウスに対し、彼の魔法の才能を惜しんだ騎士学科が是非自分のところに入ってほしいと懇願した結果なのだそうだ。

ミナに対してはいつも兄バカ丸出しで少々情けないアウレリウスだが、実はかなりチートらしい。

しかし、本当にこれは超のつくほどのレアケースだった。
法律経済学科も騎士学科もとても人気のある学科で、入るのは貴族でも難しく、ましてや平民では不可能とまで言われる学科だ。



(ああでも。将来ヴィルヘルミナの旅の仲間になるサブヒロインが、そういえば平民出身で不可能と言われた騎士学科にはじめて入るんやったな)

ハルトムートを救うため艱難辛苦の旅に出るヴィルヘルミナ。
RPGゲームの定番だが、もちろん彼女には旅の仲間がいた。
妖精騎士レヴィアも本来なら物語終盤に仲間になるキャラクターだ。

そしてはじめから一緒に旅立つ仲間の一人が、平民出身のサブヒロインだった。

(まあサブヒロインいうても最初の性別選択で主人公が男を選べば、彼女がメインヒロインになるんやけど)

そのためとても可愛らしい女性だった。
キレイな赤毛を肩くらいの長さで切りそろえていて、目はヘーゼル。容貌が整っているのはもちろんだが、健康的な小麦色の肌でともかく元気がいいキャラだ。

(暗くなりがちな旅の雰囲気を明るくしてくれるムードメーカーなんよね。彼女の笑顔に何度救われたことか……確か、名前は)

考えながらミナは兄に手を引かれ馬車から降りる。


丁度そのタイミングで馬車の横を一人の女の子が通って行った。
鮮やかな赤い髪が視界をよぎる。


「……ルージュ」


ポツリとミナは呟いた。

(そうや。ルージュや。……ルージュ・ブラン。……サブヒロインの名前や!)

赤い髪の女の子にルージュという名は安直すぎやしないかと思ったのでよく覚えている。
小さな呟きはルージュに届かず赤い髪は颯爽と去っていった。


「知っている子かい? ミナ」

呟きの聞こえたアウレリウスが聞いてくる。

ミナは……首を横に振った。


「いいえ。お兄さま。とてもキレイなルージュだなと思っただけです」


ミナの答えにアウレリウスも「ああ」と頷く。

「そうだね。確かにキレイだけれど……私にはミナの金髪の方が美しく見えるよ」

ミナとアウレリウスは、そっくり同じ金髪の兄妹である。



「……お兄さま」

呆れたように呟くミナの頭に、アウレリウスはくちづけを落とした。

「ミナの柔らかな金髪は私より数万倍キレイだよ」

ミナにはどこからどう見ても同じにしか思えない。

(……そういうのを身内の欲目って言うんやで)

年を追うごとにますます溺愛が深くなる兄が心配になるミナだった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

【完結】名前もない悪役令嬢の従姉妹は、愛されエキストラでした

犬野きらり
恋愛
アーシャ・ドミルトンは、引越してきた屋敷の中で、初めて紹介された従姉妹の言動に思わず呟く『悪役令嬢みたい』と。 思い出したこの世界は、最終回まで私自身がアシスタントの1人として仕事をしていた漫画だった。自分自身の名前には全く覚えが無い。でも悪役令嬢の周りの人間は消えていく…はず。日に日に忘れる記憶を暗記して、物語のストーリー通りに進むのかと思いきや何故かちょこちょこと私、運良く!?偶然!?現場に居合わす。 何故、私いるのかしら?従姉妹ってだけなんだけど!悪役令嬢の取り巻きには絶対になりません。出来れば関わりたくはないけど、未来を知っているとついつい手を出して、余計なお喋りもしてしまう。気づけば私の周りは、主要キャラばかりになっているかも。何か変?は、私が変えてしまったストーリーだけど…

【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない

朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。

【完結】転生したら少女漫画の悪役令嬢でした〜アホ王子との婚約フラグを壊したら義理の兄に溺愛されました〜

まほりろ
恋愛
ムーンライトノベルズで日間総合1位、週間総合2位になった作品です。 【完結】「ディアーナ・フォークト! 貴様との婚約を破棄する!!」見目麗しい第二王子にそう言い渡されたとき、ディアーナは騎士団長の子息に取り押さえられ膝をついていた。王子の側近により読み上げられるディアーナの罪状。第二王子の腕の中で幸せそうに微笑むヒロインのユリア。悪役令嬢のディアーナはユリアに斬りかかり、義理の兄で第二王子の近衛隊のフリードに斬り殺される。 三日月杏奈は漫画好きの普通の女の子、バナナの皮で滑って転んで死んだ。享年二十歳。 目を覚ました杏奈は少女漫画「クリンゲル学園の天使」悪役令嬢ディアーナ・フォークト転生していた。破滅フラグを壊す為に義理の兄と仲良くしようとしたら溺愛されました。 私の事を大切にしてくれるお義兄様と仲良く暮らします。王子殿下私のことは放っておいてください。 ムーンライトノベルズにも投稿しています。 「Copyright(C)2021-九十九沢まほろ」 表紙素材はあぐりりんこ様よりお借りしております。

ヒロイン気質がゼロなので攻略はお断りします! ~塩対応しているのに何で好感度が上がるんですか?!~

浅海 景
恋愛
幼い頃に誘拐されたことがきっかけで、サーシャは自分の前世を思い出す。その知識によりこの世界が乙女ゲームの舞台で、自分がヒロイン役である可能性に思い至ってしまう。貴族のしきたりなんて面倒くさいし、侍女として働くほうがよっぽど楽しいと思うサーシャは平穏な未来を手にいれるため、攻略対象たちと距離を取ろうとするのだが、彼らは何故かサーシャに興味を持ち関わろうとしてくるのだ。 「これってゲームの強制力?!」 周囲の人間関係をハッピーエンドに収めつつ、普通の生活を手に入れようとするヒロイン気質ゼロのサーシャが奮闘する物語。 ※2024.8.4 おまけ②とおまけ③を追加しました。

いくら政略結婚だからって、そこまで嫌わなくてもいいんじゃないですか?いい加減、腹が立ってきたんですけど!

夢呼
恋愛
伯爵令嬢のローゼは大好きな婚約者アーサー・レイモンド侯爵令息との結婚式を今か今かと待ち望んでいた。 しかし、結婚式の僅か10日前、その大好きなアーサーから「私から愛されたいという思いがあったら捨ててくれ。それに応えることは出来ない」と告げられる。 ローゼはその言葉にショックを受け、熱を出し寝込んでしまう。数日間うなされ続け、やっと目を覚ました。前世の記憶と共に・・・。 愛されることは無いと分かっていても、覆すことが出来ないのが貴族間の政略結婚。日本で生きたアラサー女子の「私」が八割心を占めているローゼが、この政略結婚に臨むことになる。 いくら政略結婚といえども、親に孫を見せてあげて親孝行をしたいという願いを持つローゼは、何とかアーサーに振り向いてもらおうと頑張るが、鉄壁のアーサーには敵わず。それどころか益々嫌われる始末。 一体私の何が気に入らないんだか。そこまで嫌わなくてもいいんじゃないんですかね!いい加減腹立つわっ! 世界観はゆるいです! カクヨム様にも投稿しております。 ※10万文字を超えたので長編に変更しました。

乙女ゲームの悪役令嬢は断罪回避したらイケメン半魔騎士に執着されました

白猫ケイ
恋愛
【本編完結】魔法学園を舞台に異世界から召喚された聖女がヒロイン王太子含む7人のイケメンルートを選べる人気のゲーム、ドキ☆ストの悪役令嬢の幼少期に転生したルイーズは、断罪回避のため5歳にして名前を変え家を出る決意をする。小さな孤児院で平和に暮らすある日、行き倒れの子供を拾い懐かれるが、断罪回避のためメインストーリー終了まで他国逃亡を決意。 「会いたかったーー……!」 一瞬何が起きたか理解が遅れる。新聞に載るような噂の騎士に抱きすくめられる様をみた、周囲の人がざわめく。 【イラストは自分で描いたイメージです。サクッと読める短めのお話です!ページ下部のいいね等お気軽にお願いします!執筆の励みになります!】

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...