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お兄さま攻略!
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ヴィルヘルミナの前世である聖奈は、さばさばした性格だった。
切り替えが早くあまり物事にくよくよしない。
(自分がどう見られるかとか、わりとどうでもよかったんよね。せやから好きなことに熱中して、半ひきこもりのインドア生活謳歌してたんやもん)
ゲームのヴィルヘルミナは、優しくて#健気__けなげ__#。
長じては、思いやり深さの中にも一本芯の通った強さを持つ完璧ヒロインとなる。
しかし今のヴィルヘルミナは、自分がそんな風になれるとは到底思えなかった。
(まあ、中身聖奈やし。……そんな疲れそうなヒロインになりとうないもんな)
前世の記憶がよみがえったせいなのか、ヴィルヘルミナの性格は、少し変わってしまったようだった。
だから、ハルトムートとの最初の出会いをふいにしてしまった彼女は、その件についてはきっぱりすっかり諦めることにした。
(会えんかったもんは、しかたない)
いくら母親同士が仲良しだとはいえ、御年七歳の伯爵令嬢が第二王子の元に押しかけるなどできるはずもない。
王子闇堕ち阻止計画は、開始する前から実行不可能になったのだ。
だったらどうしたらいいかと考えたヴィルヘルミナは、――――とりあえず自分を鍛えることにした。
(冒険の旅は絶対イヤやけど、それとは別に能力を磨くのは悪いことやあらへんもんな)
光の魔法属性を持つヴィルヘルミナ。
今はまだ幼いため、魔法属性は判明しておらず、彼女自身たいした魔法は使えていないが、将来はかなり強い魔法の使い手になるはずだった。
しかも運動神経抜群。
剣のセンスもあって、鍛えれば鍛えるほど伸びるという素晴らしい才能の持ち主でもある。
(なんせ、ヒロインやものな)
これほどの才能、伸ばさずにどうするというのだろう?
たとえ冒険の旅に出ないにしても、埋もれさせるのはもったいなかった。
(それに、いざとなったら、魔に引きずり込まれそうになるハルトムートを、力づくで抑え込むっちゅうのも、ありやもしれん)
ハルトムートが闇堕ちするイベントが起きるのは、ヴィルヘルミナと彼が十五歳になってから。
学園の卒業式間近に魔物の大量発生が起こり、そこで戦っている最中に、味方に裏切られたハルトムートが魔に引き込まれてしまうのだ。
(そうなる前に、ハルトムートを荒縄でグルグル巻きにふん縛って、戦いに参加させへんのも、ひとつの手や)
戦うから、闇堕ちするのだ。
だったら戦わせなければ、闇堕ちする心配もない。
我ながら、なかなかいい考えだと自画自賛したヴィルヘルミナは、さっそく自分を鍛えるための行動を起こすことにした。
侍女を連れ、ヴィルヘルミナの兄――――アウレリウス・エストマンの部屋へと向かう。
「……ヴィルヘルミナさま。本当にアウレリウスさまに、お会いになるのですか?」
ヴィルヘルミナの後ろをついてきながら、彼女の世話係の侍女が心配そうにたずねてきた。
侍女の名はヒルダ。年は二十歳で、少し気は弱いが優しい女性だ。
ゲームの中でも、なにくれとなくヴィルヘルミナの世話をやいていた。
「レリウスお兄さまに、お願いがあるのです。ミナがお願いするのですから、こちらからおたずねするのが すじなのです」
アウレリウスの愛称は、レリウス。
ヴィルヘルミナの愛称は、ミナである。
幼いながらもきっぱりとしたミナの言葉に、ヒルダは複雑そうに黙りこむ。
ヒルダのこの態度には理由があった。
アウレリウスは間違いなくミナの兄なのだが、彼の妹への接し方はあまり芳しくないのだ。
例えば――――
妹のミナが一生懸命話しかけても、ろくに返事もせず直ぐにその場を離れたり。
ミナが手を伸ばして触れようとすると、顔を強張らせ睨みつけたり。
血を分けた妹を、撫でようとも抱きしめようともしない兄の態度は、エストマン伯爵家最大の懸念事項になっていた。
何故かと理由をたずねても、アウレリウスは黙り込むばかりで話そうとしない。
これには、父も母も邸に仕える使用人一同までも、困惑していた
(実際、ヴィルヘルミナもアウレリウスの態度に『私は、お兄さまに嫌われているんだわ』って思いこんで、悲しんでいたもんね)
しかし、実際は違う。
実は、アウレリウスは極度のシスコン。小さな頃ヴィルヘルミナをかまい過ぎ、わんわんと泣かれてから、どう接してよいかわからないでいるのだ。
顔が強張ったり挙動不審になったりするのも、内面の動揺が原因。
しかも、そんな自分が情けなく誰にも相談できないでいる。
ゲームをやりこんだ聖奈は、そのことを知っていた。
(外面は完璧なくせに、本当に好きな妹には不器用になってしまうなんて……どこの乙女や! と思うたもんな)
この事実が発覚するのは、ヴィルヘルミナが十五歳で冒険の旅に出る直前。
『行くな』と止めるアウレリウスの心境を、世間知らずの妹が旅先でエストマン伯爵家の名に泥を塗るのではないかと恐れているためだと思ったヴィルヘルミナの誤解を解くため語られる。
『嫌いでなどない! ミナは、私の大切な妹だ!』
(――――頬を赤くして叫ぶアウレリウス、眼福やったなぁ)
アウレリウスは、ヴィルヘルミナより四歳年上。
同じ金髪と青い目だが、容姿は母親似のヴィルヘルミナに対し、父親似でキリリとしてカッコイイ。
そんなイケメンが、恥じらいながらも最愛の妹を止めるため、自分のトラウマを乗り越え必死になって叫ぶ。
(あれに萌えずして、なんに萌えろっていうんや! っちゅうくらいの萌えやった)
思い出したミナは、少々だらしなく表情をゆるめる。
(だから大丈夫。レリウス兄さまは、ミナが大好きなんや。きっとあたしのお願いを聞いてくれる!)
ミナは、魔法の力や剣の訓練を受けるため、兄のアウレリウスに一緒に習わせてほしいとお願いするつもりでいた。
現在、アウレリウスは十一歳。
既に学園に入学し授業を受けているのだが、それとは別にエストマン伯爵家で雇った家庭教師に幼い頃より魔法と剣技を習っている。
いわゆる英才教育で、貴族の子弟にはよくあることだ。
同時にこの英才教育には、強すぎる魔力を制御する目的もあった。
魔力の暴走は大きな被害を生む。
このため、一定以上の魔力を持つ子供が英才教育を受けることは、国にも推奨されていた。
ヴィルヘルミナにも、十歳で学園に入学した後には家庭教師がつく予定になっている。
(でも、それじゃ遅いんや! よく言うやろ。鉄は熱いうちに叩けって)
兄と一緒に授業を受けたいのなら、本来は父であるエストマン伯爵に頼むのが筋だ。
しかし娘を可愛がっている伯爵は、常日頃からミナに、魔法や剣技ではなく礼儀作法の家庭教師をつけようと画策していた。
ミナが家庭教師に習いたいなどと言えば、父は嬉々として淑女教育の教師を雇うだろう。
(そんなもん、お断りや!)
ダンスやマナーを磨いても、ハルトムートの闇堕ちは防げない。
ミナが必要としているのは実戦で役立つ能力なのだ。
だからミナは、兄から口説き堕とそうと思っていた。
自信満々に、兄の部屋を訪れ向かい合う。
「――――ダメだ」
しかしアウレリウスは、ミナの話を聞き終わると同時にそう言った。
「そんな! どうしてですか、お兄さま?」
「まだ早い」
ブスッとした表情で素っ気なく断るアウレリウス。
彼の眼光鋭く、眉は顰められ、十一歳だというのにその表情は冷たく恐ろしい。
ミナの背後で、ヒルダが「ヒッ!」と息を呑む気配がした。
もちろんミナはへっちゃらだ。
「ミナは、お兄さまと一緒に勉強がしたいのです」
両手を胸の前で組み、ミナは首をコテンと傾げる。
我ながらほれぼれとするような、あざと可愛い姿であるのは何度も鏡で確認済みだ。
アウレリウスの頬がピクリと動いて、耳の先がほんのり赤くなった。
(いける! いけるでぇ!)
バッチリ手応えを感じたミナは、今度はそのまま上目遣いで兄を見上げる。
「お願いします。……お・に・い・さ・ま」
一語一語、声を区切ってねだった。語尾にはもちろんハートマーク付きだ。
「……うっ! ……そ、それは、しかし」
「お兄さまがご一緒なら、ミナは安心です。学園に通うようになってから、お兄さまとはあまりお会いできなくて、ミナは寂しいのです」
大好きな可愛い妹に、会えなくなって寂しいから一緒にいたいのだとお願いされて、いったい誰が断れるだろう?
少なくとも、レリウスにはできなかったようだった。
「……わかった。僕から父上に許可をいただいておく」
その後、数度の『お・ね・が・い』の後に、アウレリウスは渋々といったふうに承諾する。
彼の顔は、ゆでだこみたいに真っ赤になっていた。
ミナの背後では、ヒルダが信じられないとばかりに目を見開き、アウレリウスを凝視している。
(やった! やったでぇ!)
ミナは、心の中で拳を天に突き上げた。
切り替えが早くあまり物事にくよくよしない。
(自分がどう見られるかとか、わりとどうでもよかったんよね。せやから好きなことに熱中して、半ひきこもりのインドア生活謳歌してたんやもん)
ゲームのヴィルヘルミナは、優しくて#健気__けなげ__#。
長じては、思いやり深さの中にも一本芯の通った強さを持つ完璧ヒロインとなる。
しかし今のヴィルヘルミナは、自分がそんな風になれるとは到底思えなかった。
(まあ、中身聖奈やし。……そんな疲れそうなヒロインになりとうないもんな)
前世の記憶がよみがえったせいなのか、ヴィルヘルミナの性格は、少し変わってしまったようだった。
だから、ハルトムートとの最初の出会いをふいにしてしまった彼女は、その件についてはきっぱりすっかり諦めることにした。
(会えんかったもんは、しかたない)
いくら母親同士が仲良しだとはいえ、御年七歳の伯爵令嬢が第二王子の元に押しかけるなどできるはずもない。
王子闇堕ち阻止計画は、開始する前から実行不可能になったのだ。
だったらどうしたらいいかと考えたヴィルヘルミナは、――――とりあえず自分を鍛えることにした。
(冒険の旅は絶対イヤやけど、それとは別に能力を磨くのは悪いことやあらへんもんな)
光の魔法属性を持つヴィルヘルミナ。
今はまだ幼いため、魔法属性は判明しておらず、彼女自身たいした魔法は使えていないが、将来はかなり強い魔法の使い手になるはずだった。
しかも運動神経抜群。
剣のセンスもあって、鍛えれば鍛えるほど伸びるという素晴らしい才能の持ち主でもある。
(なんせ、ヒロインやものな)
これほどの才能、伸ばさずにどうするというのだろう?
たとえ冒険の旅に出ないにしても、埋もれさせるのはもったいなかった。
(それに、いざとなったら、魔に引きずり込まれそうになるハルトムートを、力づくで抑え込むっちゅうのも、ありやもしれん)
ハルトムートが闇堕ちするイベントが起きるのは、ヴィルヘルミナと彼が十五歳になってから。
学園の卒業式間近に魔物の大量発生が起こり、そこで戦っている最中に、味方に裏切られたハルトムートが魔に引き込まれてしまうのだ。
(そうなる前に、ハルトムートを荒縄でグルグル巻きにふん縛って、戦いに参加させへんのも、ひとつの手や)
戦うから、闇堕ちするのだ。
だったら戦わせなければ、闇堕ちする心配もない。
我ながら、なかなかいい考えだと自画自賛したヴィルヘルミナは、さっそく自分を鍛えるための行動を起こすことにした。
侍女を連れ、ヴィルヘルミナの兄――――アウレリウス・エストマンの部屋へと向かう。
「……ヴィルヘルミナさま。本当にアウレリウスさまに、お会いになるのですか?」
ヴィルヘルミナの後ろをついてきながら、彼女の世話係の侍女が心配そうにたずねてきた。
侍女の名はヒルダ。年は二十歳で、少し気は弱いが優しい女性だ。
ゲームの中でも、なにくれとなくヴィルヘルミナの世話をやいていた。
「レリウスお兄さまに、お願いがあるのです。ミナがお願いするのですから、こちらからおたずねするのが すじなのです」
アウレリウスの愛称は、レリウス。
ヴィルヘルミナの愛称は、ミナである。
幼いながらもきっぱりとしたミナの言葉に、ヒルダは複雑そうに黙りこむ。
ヒルダのこの態度には理由があった。
アウレリウスは間違いなくミナの兄なのだが、彼の妹への接し方はあまり芳しくないのだ。
例えば――――
妹のミナが一生懸命話しかけても、ろくに返事もせず直ぐにその場を離れたり。
ミナが手を伸ばして触れようとすると、顔を強張らせ睨みつけたり。
血を分けた妹を、撫でようとも抱きしめようともしない兄の態度は、エストマン伯爵家最大の懸念事項になっていた。
何故かと理由をたずねても、アウレリウスは黙り込むばかりで話そうとしない。
これには、父も母も邸に仕える使用人一同までも、困惑していた
(実際、ヴィルヘルミナもアウレリウスの態度に『私は、お兄さまに嫌われているんだわ』って思いこんで、悲しんでいたもんね)
しかし、実際は違う。
実は、アウレリウスは極度のシスコン。小さな頃ヴィルヘルミナをかまい過ぎ、わんわんと泣かれてから、どう接してよいかわからないでいるのだ。
顔が強張ったり挙動不審になったりするのも、内面の動揺が原因。
しかも、そんな自分が情けなく誰にも相談できないでいる。
ゲームをやりこんだ聖奈は、そのことを知っていた。
(外面は完璧なくせに、本当に好きな妹には不器用になってしまうなんて……どこの乙女や! と思うたもんな)
この事実が発覚するのは、ヴィルヘルミナが十五歳で冒険の旅に出る直前。
『行くな』と止めるアウレリウスの心境を、世間知らずの妹が旅先でエストマン伯爵家の名に泥を塗るのではないかと恐れているためだと思ったヴィルヘルミナの誤解を解くため語られる。
『嫌いでなどない! ミナは、私の大切な妹だ!』
(――――頬を赤くして叫ぶアウレリウス、眼福やったなぁ)
アウレリウスは、ヴィルヘルミナより四歳年上。
同じ金髪と青い目だが、容姿は母親似のヴィルヘルミナに対し、父親似でキリリとしてカッコイイ。
そんなイケメンが、恥じらいながらも最愛の妹を止めるため、自分のトラウマを乗り越え必死になって叫ぶ。
(あれに萌えずして、なんに萌えろっていうんや! っちゅうくらいの萌えやった)
思い出したミナは、少々だらしなく表情をゆるめる。
(だから大丈夫。レリウス兄さまは、ミナが大好きなんや。きっとあたしのお願いを聞いてくれる!)
ミナは、魔法の力や剣の訓練を受けるため、兄のアウレリウスに一緒に習わせてほしいとお願いするつもりでいた。
現在、アウレリウスは十一歳。
既に学園に入学し授業を受けているのだが、それとは別にエストマン伯爵家で雇った家庭教師に幼い頃より魔法と剣技を習っている。
いわゆる英才教育で、貴族の子弟にはよくあることだ。
同時にこの英才教育には、強すぎる魔力を制御する目的もあった。
魔力の暴走は大きな被害を生む。
このため、一定以上の魔力を持つ子供が英才教育を受けることは、国にも推奨されていた。
ヴィルヘルミナにも、十歳で学園に入学した後には家庭教師がつく予定になっている。
(でも、それじゃ遅いんや! よく言うやろ。鉄は熱いうちに叩けって)
兄と一緒に授業を受けたいのなら、本来は父であるエストマン伯爵に頼むのが筋だ。
しかし娘を可愛がっている伯爵は、常日頃からミナに、魔法や剣技ではなく礼儀作法の家庭教師をつけようと画策していた。
ミナが家庭教師に習いたいなどと言えば、父は嬉々として淑女教育の教師を雇うだろう。
(そんなもん、お断りや!)
ダンスやマナーを磨いても、ハルトムートの闇堕ちは防げない。
ミナが必要としているのは実戦で役立つ能力なのだ。
だからミナは、兄から口説き堕とそうと思っていた。
自信満々に、兄の部屋を訪れ向かい合う。
「――――ダメだ」
しかしアウレリウスは、ミナの話を聞き終わると同時にそう言った。
「そんな! どうしてですか、お兄さま?」
「まだ早い」
ブスッとした表情で素っ気なく断るアウレリウス。
彼の眼光鋭く、眉は顰められ、十一歳だというのにその表情は冷たく恐ろしい。
ミナの背後で、ヒルダが「ヒッ!」と息を呑む気配がした。
もちろんミナはへっちゃらだ。
「ミナは、お兄さまと一緒に勉強がしたいのです」
両手を胸の前で組み、ミナは首をコテンと傾げる。
我ながらほれぼれとするような、あざと可愛い姿であるのは何度も鏡で確認済みだ。
アウレリウスの頬がピクリと動いて、耳の先がほんのり赤くなった。
(いける! いけるでぇ!)
バッチリ手応えを感じたミナは、今度はそのまま上目遣いで兄を見上げる。
「お願いします。……お・に・い・さ・ま」
一語一語、声を区切ってねだった。語尾にはもちろんハートマーク付きだ。
「……うっ! ……そ、それは、しかし」
「お兄さまがご一緒なら、ミナは安心です。学園に通うようになってから、お兄さまとはあまりお会いできなくて、ミナは寂しいのです」
大好きな可愛い妹に、会えなくなって寂しいから一緒にいたいのだとお願いされて、いったい誰が断れるだろう?
少なくとも、レリウスにはできなかったようだった。
「……わかった。僕から父上に許可をいただいておく」
その後、数度の『お・ね・が・い』の後に、アウレリウスは渋々といったふうに承諾する。
彼の顔は、ゆでだこみたいに真っ赤になっていた。
ミナの背後では、ヒルダが信じられないとばかりに目を見開き、アウレリウスを凝視している。
(やった! やったでぇ!)
ミナは、心の中で拳を天に突き上げた。
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