星架の望み《ステラデイズ》・星

零元天魔

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竜殺し編・《焔喰らう竜》

第七話・「竜伐隊(3)」

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 焔囲う町を三人で駆け抜ける。
 道中、何度かフリーカーに遭遇したが、魔術師二人の圧倒的な力によって難なく撃破される。
 クレア一人でも余裕だったが、ルジュが加わった現在、あんまりにも簡単に殻が倒される。本来はきっと、こんなにも容易な道程ではなかったのだろうけど、二人が強過ぎてイマイチ苦労をしている感がない。
 命の危機がないのは大変ありがたいのだが、こうも楽な道程だと気持ちが緩んでしまう。
 気、引き締めなきゃな……。
 こんな状況だ、何が起きてもおかしくない。いくら二人が強いからと言って、絶対の安全はない。自分の身は自分で守る。
 今一度、気を引き締めて行こうと気持ちを改める。
 しかし――
 気持ちを改めたのはいいが、結局道中で危険な状況というものは起こらず、ルジュのガヤガヤとうるさい話や駄々をこねている姿を見ている内に、目的地らしき場所へ到着した。
 不満はない……けど、ほんのり遣る瀬無い。
 そう行き場のない感情を抱きながらクレアとルジュに付いて走る。
 そして、俺は周囲の光景に少し驚く。
 一体、これは……?
 大型のテント、おそらく軍事用と思われるテントが無数に張られた場所。
 不意にクレアが足を止め、俺とルジュも同様に足を止めた。そして、俺は周囲の光景をより深く観察した。

 大規模な仮設拠点――

 様々な器材や武具が置かれた広場では、慌てた様子の人が懸け回っている。
 テントの中に目を向けると、大量の銃器や武具、それと用途不明の物体が運ばれていた。様相からして、魔術的な何かなのだろうけど、それらの知識がない俺には一切どのような物なのかわからなかった。
 そして、この場にいる人物達もよくわからない集団だ。
 人種、背格好共に多種多様。西洋風の貴族を思わせる服装や現代的な服装の人物、修道服を着ている教会の人間、巫女や神主と思われる装束を身に纏った人までいる。
 統一感がないな。
 まさに千差万別。あんまりにも節操のない集団に驚きと戸惑い、そして若干の呆れに見舞われた。
 これらの光景でこの場所がいかに、現実離れした空間なのかを理解できる。この場にいる彼らは皆、クレアやルジュのように――達だ。
 そして同時に、この場にいる者達の表情から現状いまが、どれだけ逼迫ひっぱくしてるのかがわかる。それほどまでに、その表情には緊張が走っていた。
 「――――」
 この場の空気感に呑まれ、こちらも何だか体が重く感じる。
 「叢真むらま。ここが私達、星十字団の仮拠点」
 ピリついた空気感に圧倒されていると、不意にクレアが俺の肩を叩いてそう言った。
 視線を彼女の方へ向ける。
 彼女は優しく微笑みを浮かべて俺を見ていた。そんな彼女を見て、変に張り詰めてしまった心が融解し、肩から力が抜けたのを感じた。
 「……一応、ありがとう」
 「はて、何の事かな?」
 ワザとらしくそういう彼女に、苦笑いを浮かべる。
 すると、彼女はそんな俺を見て満足そうに笑みを見せた。
 「クレア、とりあえずミサリに会いに行きましょ!」
 「ええ」
 ルジュの言葉に同意した彼女は再び歩き出した。
 次にルジュがその後ろを付いて行ったが、数歩進んだ後――クルッ、と上半身だけを後ろに向ける。
 そして、彼女は俺へ視線を向けて言った。
 「平民、アンタも付いて来なさいよ」
 命令口調、上から目線。
 普通ならイラッとしそうだが、既に慣れてきてしまった俺は無反応。
 「アンタをどうするかは行った先で考えるわ。だから、アンタは黙ってついて来なさい」
 「ああ、わかった」
 「…………」
 すんなり自身の意見が聞き入れられたことに驚く。
 じんわりと頬を赤らめる彼女は、それを隠すように俺の方へ向けた上半身を戻して歩き出した。
 今にでもスキップしてしまいそうなほどルンルンな様子のルジュに、少し呆れつつも、俺は止まっていた足を動かし、彼女達に付いて行った。


 見慣れない物の数々に目を見開きながらも、二人に付いて先へ進む。
 道中、軍用トラックや戦車が通り過ぎるという、少し現実感のない光景を前に驚愕し、ふと、自身の認識の甘さに呆れた。
 現実感がない、か……まだ安穏な考えでいるのか、俺は。
 わかっているつもりだが、それでも心のどこかでまだ現状を甘く考えているところがある。ゆえに、これらの光景を前に、より強く理解した。竜という厄災の脅威がどれほど強大なのかを。
 相手は正真正銘――。人類は全霊を以て、その存在を排除しなければならない。
 無情な現実に歯噛みする。だが、それ以外に道がない以上、俺は立ち止まるわけにはいかない。俺は無情でも前に進み続ける。
 ……生き残るには戦うしかない、か。
 拳を強く握り締め、目の前の現実を呑み込んだ。
 その後、しばらく進んだ先で一際大きなテントの前に着いた。
 周囲のテント以上に、多くの人物が忙しなく出入りしているところを見るに、この仮設拠点における重要な場所なのがわかる。
 不思議と緊迫した雰囲気を漂わせているように感じる。
 そんな風に思って少し身構えた俺だったが、同行者二人は躊躇いなく中へ入って行く。
 一切の躊躇いのない二人の姿を見て、変にビクついていた自分が馬鹿に思えて、肩に入れた力を抜き、二人を追ってテントの中へ入ろうとした。
 その時――

 「?」

 そう、背後から名前を呼ばれた気がした。
 「っ――!」
 驚愕と共にすぐさま振り返る。
 が――そこには誰もいなかった。
 ……き、気のせいか?
 確かに名を……それも、で呼ばれたと思ったが。
 だがしかし、振り返った先に広がっているのは虚空だけ、名を呼んだであろうヌシはいない。
 やはり、気のせいだったのだろうか?
 「何してんの、アンタ? 早く来なさいよ」
 「……あ、ああ」
 「?」
 俺の不可思議な様子に首を傾げるルジュ。
 そんな彼女を先に行かせ、俺も疑念を振り払いテントの中へ入ることにした。
 ――ん?
 テントの幕に手を掛け入ろうとした時――不思議な違和感に襲われた。
 思わず手を止め、再び振り返る。
 「――――」
 スッと鋭く視線を違和感の先に目を向ける。
 が、その瞬間――バシッ!と頭を叩かれた。
 「痛――ッ」
 「早く来なさいって言ってるでしょうがっ!」
 痛烈な衝撃。
 一瞬、視界が真っ白になるほどの一撃を受け倒れそうになる。
 どうやら、中々テントの中へ来ない俺に、痺れを切らしたルジュが頭部に全力の一撃を叩き込んで来たようだ。いくら何でもやり過ぎなんじゃ? と思ったが、さっきこれ以上にひどいことをした俺は口を紡ぐことにした。
 「ほら、早く行くわよ」
 ムカムカと怒った様子でそう言うと、彼女は天幕の奥へと去って行った。
 「――――、……まあいいか」
 これ以上ルジュを怒らせるのは得策じゃないと考え、ビルの向こう側へ軽く視線を向けた後、形相把握を止めて素直にテントに入ることにした。
 今は竜がだ……それ以外は考えなくていい。
 そう思いテントの中へ入った。
 中へ入ると外観通りそれなりに大きな空間が広がっていた。
 敷き詰められるように机が置かれ、その上には沢山の器材と仮設された無数のモニター。外観的に、おそらく指令室?というやつだろう。
 そんな光景に少し驚きつつ、俺はクレアとルジュの後に付く。
 少し進んだ先で、人が集まっている光景を目撃する。
 その中心には、煌く金色の長髪を持ち、透き通る宝石のような黄色の瞳……トパーズのような輝きを放つ瞳を持った女性いた。
 綺麗な人だな。
 素直にそう思う。クレアやルジュも十分美人であるが、そこにいた女性は二人にはない大人特有の魅力のようなものを感じる。それと、服を押し上げるほどバストが大きい。(ルジュのペッタンコとは比べものにならない)
 ほんのり上がった口角が優しげな笑みを作り、キッカリとした佇まいでありながら、どこか柔らかさを孕ませた立ち姿。そんな様子から、不思議と彼女に穏やかな印象を抱かされる。
 「おや?」
 周囲の人間が引くまで待っていると、不意にその女性の方が俺達の存在に気付く。
 視線はクレア、ルジュの順に移り変わる。
 そして、スッと一瞬その視線が俺へ向いた。するとその宝石のような瞳がほんのり開かれ、浮かべていた笑みが固まる。だが、その反応を見せたのは、ほんの一瞬――カウンタによる強化をした俺でなければ気付かないほど、微細な驚きだった。
 視線を戻し、固まった笑みを解凍させる。ニッコリ優しげな笑みを浮かべて彼女は言った。
 「こんばんわ、二人とも」
 緊迫した状況とは思えないほど、緩く緊張感のない声でそう口にする。
 あんまりにも雰囲気を顧みない様子に、隣のクレアは面白そうに微笑を浮かべ、その隣にいるルジュは酷く呆れた様子を見せていた。
 だが、ここで俺は一つ思った。
 クレアの反応は兎も角として、道中の緊迫した雰囲気を木端微塵に破壊し、その後もフザケタ態度を取り続けたルジュに、この人の様子にトヤカク言う資格は普通にないと思う。
 などと考えジト目をぶつけていると、クレアが女性へ向けて声を出した。
 「ミサリ。雑談でもしたいところだけど、今は時間がない。簡潔に情報共有を済ませて、竜の元目的地へ向かわせてもらうよ」
 「ええ、わかったわ」
 クレアの簡潔な申し出に了承した彼女はすぐさま話をしようとする。
 しかし、何かを口にしようとしたその時、不意に何かの気付いたように、あ、と声を上げて言った。
 「クレアさん。情報共有も大切だけど、その前に――」
 「?」
 不意に俺へ視線が向いて驚く。
 「そちらの子に、自己紹介をね」
 ニッコリ優しい笑みを浮かべて彼女はそう言った。
 「私は、この星十字団の総司令官をやっている者です。名前はミサリ・フォンズ・アルマーク、気軽にミサリさんと呼んでくださいね?」
 「え、あ、俺は――逆刃大さかばだ叢真です」
 そう自己紹介すると共に手が差し出され、動揺しながらも掴みそう名乗った。
 「逆刃大、叢真……うん、いい名前ね。よろしく、叢真くん」
 「あ、はい。よろしくお願いします、ミサリさん」
 「うん、素直な子はお姉さん好きですよ?」
 握り返した手を優しく握りながら彼女はそういい、再びニッコリと笑みを浮かべた。
 ……なんだ、この感じ?
 優しい笑みを浮かべている彼女を見て、なんだかえもいわれぬ感覚に襲われる。別に嫌な感じではない、異物感?とでも言うのだろうか、そんな不思議な感覚を覚えた。
 次の瞬間――グッと手を引かれ、顔が触れそうな位置まで引き寄せられる。
 「「「!?」」」
 突然の事に驚愕と共に酷く動揺した。
 隣の二人もミサリさんのこの行動は予想外のようで、ひどく驚いた様子でこちらを覗いていた。
 スッと瞳の奥を覗くように、ミサリさんが顔をどんどん近づける。トパーズのような透き通る瞳が、眼前までせまったところで急に動揺が消える。
 ――――、――――
 次に、胸の奥が気持ちの悪い感覚に襲われる。
 まるで自分の中身を覗かれているような、気色の悪い感覚。でも、向けられた瞳から視線を逸らすことができず、その目をジッと見つめた。
 「ふむ、……なるほど」
 ミサリさんはそう呟くとさっきとは違い、なにやら面白いものでも見たような笑みを零した。
 …………。
 その表情を見て体が硬直する。
 不思議な懐かしさ……いや、懐かしいというほど昔でもない。
 記憶にる――その、奇異の目を向けながら、張り付いたような笑みを浮かべる人を。
 ……一体、誰だっただろうか?
 思い出せない――
 思い出さない――
 「――――」
 宝石のような瞳を見つめる度、胸の奥に巣くう気持ち悪さが強くなる。
 でも――自分から視線を外そうとは思わなかった。
 「アンタ、いつまで叢真にくっ付いてんのよっ!」
 不意にルジュが怒気を孕んだ声でそう叫び、突き飛ばすようにミサリさんを弾いた。
 彼女は少し驚いたような動きを見せた後、再び口元に笑みを浮かべた。
 一方、ミサリさんと距離を取れた俺は、堪えていた吐き気のようなものに襲われた。その場で口を押え、胃の中の物が逆流するのを防ぐ。
 「叢真?」
 「……大丈夫、何でもない」
 「…………」
 何とか吐き気に耐え切ったところで、心配そうに声を掛けてくれたクレアにそう言葉を返した。
 体調が戻ったところで視線をミサリさんに戻す。
 「で――ミサリ、本題に移ってもいい?」
 「もちろんです。こっちの要件はもう済みました……それでは、現状についてお伝えさせて頂きます」
 クレアの言葉に優しく笑みを見せ、情報を口にし始める。
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