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第二章 向田さんちの無花果の樹
女神しゃまが降臨なさる。俺のHPを半分消費して……。心の底から消費しないで欲しい。
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「バイサクっ」
「バイサクっ」
「バイサクっ」
「バイサクっ」
「バイサクっ」
しまらない決戦が終わり、俺一人だけ落ち込んでいる中、ブーちゃんは兵士だの騎士だのに名前を叫ばれながら胴上げされて宙を舞っている。
おおおお、太った子供がぽんぽん飛んどるわ。
「あの子はやればできる子ってわかってたざます」
後ろからからありがちな母親台詞を吐くザマスおばさんの声がした。
決戦が終わったから息子のとこに来たんだろう。
「あの子は……きっとこの国を担える王になると、素晴らしい王になれると思っていたざます」
ザマスおばさんは泣き声だな。
息子の勇姿に感極まってる感じなんだろう。
「あの子は……きっと歴史に名を残した英雄のようになると、わかってたざます」
俺の仲間がみんな、いやあんただよ、て台詞を飲み込んだことはわかった。
「……ザマスおばさん、なんでそんな格好してんの?」
「え?あ、これざます?、せっかく安田様にすごい剣をもらったざますから、剣に合いそうな装備を城の宝物庫から見繕ってきたんざます。なんか装備できたんざますよ。似合うざます?」
うん似合ってはいない。
変形して飛行機になりそう。
そして王城で内々の戦勝パーティーだか祝勝パーティーだかをするために城に帰ることになった。
国をあげての戦勝パーティーはまた後日あるらしい。
「ハッ!!」
「ハッ!!」
「ハッ!!」
「ハッ!!」
今は夜、城で内々のパーティーをするって話だったが、結構人がいる盛大なパーティーに見える。
俺の中の内々なパーティーっていうとたこ焼きパーティー位の規模だわ。
ちなみに、ハッ!!ハッ!!、て言うのはこの国の伝統的な踊りらしくパンツ一丁の騎士のおじさん達が、ハッって言う度にムキムキの筋肉を見せつけてくる変なやつだ。
第三騎士団の隊長もやってる。
すげえ笑顔だ。
ていうかこれボディービルだな。
誰か日本人がボディービルの文化を伝えたのか……。
伝えるなそんなもん。
パーティーに来ている貴族のおばちゃん達は大盛り上がりだが、俺はおじさんの筋肉に一ミリも興味がないので、なんなら苦痛なので、さっさと別の場所に移動する。
あ、鈴木さんと向田さんが同じテーブルで酒を飲んでいる。
「義くん、君の母親のことなんだがね」
「……はい」
あ、なんかあれな場面だ。
とうとう鈴木さんの家族の秘密を打ち明けるんだろうか。
「実はね……君の母親と、私は……」
「……」
鈴木さんは緊張している。
なんだかわかんないが全く関係ない俺も緊張している。
「昔ね……………………、カバディ大会に一緒に出たことがあるんじゃよ」
じじいがひよった。
「……僕ルールも知らないですね」
俺も知らねえや。
「カバディっていうのはね息の続く限り……」
ひよったじじいがカバディのルールを説明しだしたから別のところに行くとする。
あのじじいは仕事はできるが家庭面で問題を抱えるタイプのじじいだな。
「勇者様っ」
ん?俺のことかな?
なんか見知らぬおっさんが話しかけてきた。
「この度は戦勝おめでとうございます」
「あ、はいありがとうございます」
誰だべ、このおっさん。
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
おっさんの後ろをついてきて、おめでとうとか言ってきたおばちゃんと姉ちゃん見て気がついた。
これ魔王のおっさんだ。
小汚ない髭もじゃだったのに今はなにやら小綺麗な魔法使いっぽいローブを着て、頭がきっちりした七三になっている。
変われば変わるもんだ。
野生のおっさんから分かりやすいおっさんへ進化している。
どっちにしてもおっさん感は抜群だが。
「おっさん仕事は大丈夫かい?」
顔見て誰だかわからなかったのはすっとぼけて普通に会話しよう。
「はい、勇者様方のお陰でとてもよい職場に巡り会えました」
「本当にありがとうございます」
「ありがとうございます」
奥さんと娘さんが思いきり頭下げてお礼をしてくる。
そんな頭下げなくても、大したことやって無いんだがな。
……いやまあそれは嘘だけどね。
超大したことやったけどね。
「……さ、あなた、まだまだ貯えも無いのだから、パックに料理を詰めますよ」
「そうだね。お父さん、美味しいものを一杯持って帰ろう」
たくましい発言が出た。
「おいおい、勇者様申し訳ありません」
「いやいいよ、おっさんたちのことはザマスおばさん、あー、マドリーヌ王妃にも言ってあるからなにかあればあの人に訴えてくれれば何とかしてくれると思うよ」
あの人なら大概のことは何とかしてくれるべ。
「……何から何まで、本当に、ありがとうございます」
おっさんもすごい頭下げてくる。
まあ、おっさん一家がニコニコできてるならそれでいいよ。
「先生っ」
「先生っ」
お、ブーちゃんと弟の王子兄弟が走ってこっち来た。
「お、またおでこの目が光ってるぞ」
「うんっ」
弟くんがすごいいい笑顔でうんって言った。
いやそれ不気味だからね。
「安田様、お疲れ様でした」
お、角王妃だ。
頭には今日も立派な角がそびえ立ってる。
ブーちゃんと弟くんの面倒見てるんだろうか?
しかし、この人結局最後まで角被ったまんまだったな。
「先生、またダンジョンに行こう、ジェットも余ももっとレベルを上げたいのだっ」
「行きたいっ」
あんなおっかないとこに行きたいとか、血生臭い兄弟になってしまったぜ。
俺は二人の頭を撫でて、無言で微笑む。
微笑んで、頷いて、すっと別な場所に行こう。
「あれ?先生」
「先生?」
「バイサク様、ジェット、あれはね。大人の必殺技THEスルーよ。大人がね、めんどくさい時に使うものなのよ」
角王妃が大人の必殺技を解説してる中、俺はまた別な場所に向かう。
お、東くんが騎士達に囲まれてなにやら盛り上がっている。
「ですからね。こう手首と肩を連動して引くと腕だろうが首だろうが切り落とせるわけです」
「なるほどっ、さすが東様だ」
「いや全く」
「素晴らしい」
東くんと騎士達の会話の内容が怖すぎるわ。
近寄りたくもないわー。
つうか暑くなってきたな。
ベランダにでも行くべかな。
「お、龍臣」
あ、ベランダにはカワウソの子供組を膝にのせて一杯やっている吸血鬼の女王がいたわ。
「こんなとこで酒飲むなよな」
「よいではないか、よいではないか」
なんだそのご機嫌な返事は。
お前はエロい殿様か。
はあーあ、今日はくたびれたなあ。
俺は京の横にあるデッキチェアに横になる。
つうか、どうするべ。
女神しゃまだかを召還するかね?
やっぱしないとダメなんだろうか?
鑑定結果
しないと世界的に一週間ほど常時より2~3パーセントほど死人が増えます。
2~3パーセントか。
具体的な数字が出ないのは俺が見たくないと思ってるからだろうな。
あーあ、最悪だ。
HP半分消費して召還するとかさあ。
この世界に来てから今だかつてHPがそんなに減ったことないからね。
初日にカップ麺のスープ浴びて1減った位だからな。
奇しくもこんな事態になってるのもカップ麺のせいだからね。
なんやねんカップ麺よう。
俺は愛してんのにカップ麺には愛されてないな。
はーあ、やっぱ痛かったりするのかな?
鑑定結果
こむら返りの三倍くらい痛いですね。
あと回復魔法とかは効きません。
失ったHPは自然治癒で回復してください。
こむら返りの三倍くらい痛いのか……。
なんてわかりづらい表現だ。
あと魔法で治せないって最悪な情報も追加された。
痛いままやんけー。
「龍臣、何を思い悩んでいるのだ?」
京が横から人の顔を覗き込んできた。
数センチ横に京の顔がある。
……間合いが近いんだよ。
「……これから俺女神しゃまを召還しないといけないんでね」
「……女神しゃま?」
「はーあ、京、多分俺これから気を失うと思うからよろしくね」
「……何を言ってる?」
なに話したところで絶対YESの選択肢選ぶことになるので、気絶した時に頼みになりそうなこいつの横でやろう。
どうせやらないと人死んじゃうんでしょ?
ハイハイやりますよ。
こむら返りの三倍くらい痛いだけで人死ななくてすむなら大概は誰でもやる方選ぶっつうの。
始まりの女神しゃまを降臨させますか?
YES/NO
はい、じゃあYESで。
ピキ。
あ、体から変な音した。
「いで、いててててっ」
「た、龍臣どうした?、強く当たられたサッカー選手みたいになってるぞっ」
あ、痛い、なぜか右のふくらはぎだけが痛い。
思わずうずくまっちゃうほど痛い。
「いだだだだ、こむら返りの三倍位痛いっ、こむら返りの三倍くらい痛いっ、こむら返りの三倍くらい痛いっなぜか右のふくらはぎだけピンポイントで痛いっ」
ホントにこむら返りの三倍くらい痛いっ。
場所もこむら返りと一緒っ。
なんでだよっ!!
「こむら返りっ!?足つったのか?」
ああー、もうダメ、目がチカチカするわ。
なんか京が足つったサッカー選手がよくやられてる片足上げてグーってするやつをやってくれてるが痛いままだ。
ああー、これはもうダメ。
あー…………。
んん?
なにやら真っ白なとこにいる。
あ、このふわふわした感覚は田中くんが俺の頭の中の世界に来るときの感覚だ。
ふむ、つまりこれは頭の中の世界か。
「こんにちはー」
む、頭の中の世界にかん高い女性の声が響く。
「こんにちはー」
こんにちはって言ってる。
どうしようか。
「おばんですー」
あ、おばんですって言っちゃった。
「あ、聞こえてる?あなたがヤスダよね。ヤスダさんよね?」
「そうですけど、そういうあなたは始まりの女神しゃまですか?」
「あははは、なつかしい呼び名じゃん、そうですっ、あなたの召還に応じて来ちゃいました。女神です」
……無駄にキャラが明るい。
ていうかなんかこのかん高い声聞いてるとこむら返りの痛みがぶり返して来る気がするわ。
「あら?女神がきゃぴきゃぴしてるんで驚いちゃったかな?」
きゃぴきゃぴ……。
「でもね。神様ってそういうものなのよ。神様の力の強さは確固たる自分を持っていることが何より重要なの、生まれてから那由多の那由多倍位生きてても私の自己はギャルのままなのよ」
ギャルって……。
もうどうでもいいよ。
ふくらはぎ痛いし。
「あなたのお陰で神々が悩まされてきた崩壊の力に対する対策が講じられるのよ。ありがとうね」
「しかしあなたの神としての力はやたらめったらに強いんだかなんなんだかわからないのだけど、やたらキラキラしてるのよね。なんでか知らないんだけど、なんなのかしらねホントに、離れてる平行宇宙からでもすぐわかるほど輝いてるのよ。だから時々覗きに来てたんだけど……」
「あなたは面白いわね。いやいや言いながら人を助けて、ヘラヘラしながら人を助けて、あなたほど人間くさい神様もめずらしいわよ」
「だから来てあげました。手伝うためにね。面白そうだし……どうしたの?なんでうずくまってるの?」
「……ふくらはぎが痛い」
「ええ!?、ここ頭の中の世界なのに?」
「痛いものは痛い」
「……強く当たられたサッカー選手みたいなポーズになってるわね。ええ?なんで?……プ、プラシーボ効果みたいなやつかしら?」
俺もう話始め辺りから地面にうずくまってたからね。
「……もうなんでもいいんで帰ってくれます?」
「え!?帰るの!?あたし結構大事な話したつもりなんだけど!?」
「痛くてなんにも頭に入ってこなかった」
「ええ!?聞いてなかったの!?まじで!?」
「安田さんっ!!大丈夫!?」
なんだ!?急に真っ白な世界にもう一人誰かが現れた。
あっ、この世界で一番どこにでもいそうな顔の持ち主は……。
「田中くんか」
「や、安田さん大丈夫!?なんかHPが半分になってたから来たんだけど、……どうしたの?強く当たられたサッカー選手みたいなポーズになってるよ」
「サッカー選手サッカー選手うるさい。なんだお前らは、みんな感性一緒かっ?」
「頭の中の世界なのにね」
「え!?誰!?なんか声が聞こえるっ!?」
「あ、どうも始まりの女神しゃまです」
「え?女神しゃま?……あ、どうも、こんにちは」
「俺がHP半分消費して召還した」
「え?ああ、あるあるそういうやつ、……安田さんもしかしてHP半分になったから気絶したの?」
なにニヤニヤしてやがんだ。この世界で一番どこにでもいそうな顔の男めっ。
「人の頭の中の世界に土足で入ってくんなっ、もう出てけ出てけっ謎のギャルとキングオブ平凡め」
「あ、ちょっ、安田さん、やす……」
「あー、あれだからね。起きたら私が見えると思うし、こっちからも見えてるからー……」
そうして頭の中にだけ時々出てくる平凡な男と謎のギャルを頭から追い出した。
「龍臣っ、龍臣、大丈夫か?」
あ、起きたら目の前に京の顔がある。
あ、膝枕されてるわ。
ん?ていうか俺のパーティーメンバーやら王族やらなにやらみんな居るな。
「先生、心配しましたぞ」
「全くだよ。どうしたの安田くん」
「大丈夫ですか安田さん」
「安田殿はまたとんでもないことしたんじゃないか?」
「先生、余より目立つなよ」
「先生はすごいなあ」
「いやあ、またとんでもないことをしたざますね」
みんなが口々に心配したりしてくれる。
……とんでもないことってなんだ?
「俺どのくらい寝てた?」
「数十分位だな」
京が教えてくれる。
そうか、割りとすぐだな。
あー、ふくらはぎはもう痛くないけど体だるいな。
「ところで龍臣」
「んー?」
「なんかな、龍臣が気を失ってから、龍臣の体から光が出てな」
「……うん、それで?」
「……天に昇った光の方角に、アレが出てきたんだが……」
京が目線で見て欲しい方角を促す。
……この世界の月は二つだったんだけどな。
なんか一個増えてるわ。
確かに起きたら女神しゃまが見えるわな。
向こうにもこっちが見えてるらしい。
「……女神しゃまでっけえ」
「女神しゃまってなんなんだ?龍臣はとうとうおかしな月を作っちゃったのか?」
それから、数時間後にはあれと同じデザインの頭をしたてるてる坊主みたいなのに魔物から助けられたって言う話が世界中で報告されることになる。
まあ、めでたしめでたしだな。
この世界の月っぽいの一つ増やしちゃったけど。
「バイサクっ」
「バイサクっ」
「バイサクっ」
「バイサクっ」
しまらない決戦が終わり、俺一人だけ落ち込んでいる中、ブーちゃんは兵士だの騎士だのに名前を叫ばれながら胴上げされて宙を舞っている。
おおおお、太った子供がぽんぽん飛んどるわ。
「あの子はやればできる子ってわかってたざます」
後ろからからありがちな母親台詞を吐くザマスおばさんの声がした。
決戦が終わったから息子のとこに来たんだろう。
「あの子は……きっとこの国を担える王になると、素晴らしい王になれると思っていたざます」
ザマスおばさんは泣き声だな。
息子の勇姿に感極まってる感じなんだろう。
「あの子は……きっと歴史に名を残した英雄のようになると、わかってたざます」
俺の仲間がみんな、いやあんただよ、て台詞を飲み込んだことはわかった。
「……ザマスおばさん、なんでそんな格好してんの?」
「え?あ、これざます?、せっかく安田様にすごい剣をもらったざますから、剣に合いそうな装備を城の宝物庫から見繕ってきたんざます。なんか装備できたんざますよ。似合うざます?」
うん似合ってはいない。
変形して飛行機になりそう。
そして王城で内々の戦勝パーティーだか祝勝パーティーだかをするために城に帰ることになった。
国をあげての戦勝パーティーはまた後日あるらしい。
「ハッ!!」
「ハッ!!」
「ハッ!!」
「ハッ!!」
今は夜、城で内々のパーティーをするって話だったが、結構人がいる盛大なパーティーに見える。
俺の中の内々なパーティーっていうとたこ焼きパーティー位の規模だわ。
ちなみに、ハッ!!ハッ!!、て言うのはこの国の伝統的な踊りらしくパンツ一丁の騎士のおじさん達が、ハッって言う度にムキムキの筋肉を見せつけてくる変なやつだ。
第三騎士団の隊長もやってる。
すげえ笑顔だ。
ていうかこれボディービルだな。
誰か日本人がボディービルの文化を伝えたのか……。
伝えるなそんなもん。
パーティーに来ている貴族のおばちゃん達は大盛り上がりだが、俺はおじさんの筋肉に一ミリも興味がないので、なんなら苦痛なので、さっさと別の場所に移動する。
あ、鈴木さんと向田さんが同じテーブルで酒を飲んでいる。
「義くん、君の母親のことなんだがね」
「……はい」
あ、なんかあれな場面だ。
とうとう鈴木さんの家族の秘密を打ち明けるんだろうか。
「実はね……君の母親と、私は……」
「……」
鈴木さんは緊張している。
なんだかわかんないが全く関係ない俺も緊張している。
「昔ね……………………、カバディ大会に一緒に出たことがあるんじゃよ」
じじいがひよった。
「……僕ルールも知らないですね」
俺も知らねえや。
「カバディっていうのはね息の続く限り……」
ひよったじじいがカバディのルールを説明しだしたから別のところに行くとする。
あのじじいは仕事はできるが家庭面で問題を抱えるタイプのじじいだな。
「勇者様っ」
ん?俺のことかな?
なんか見知らぬおっさんが話しかけてきた。
「この度は戦勝おめでとうございます」
「あ、はいありがとうございます」
誰だべ、このおっさん。
「おめでとうございます」
「おめでとうございます」
おっさんの後ろをついてきて、おめでとうとか言ってきたおばちゃんと姉ちゃん見て気がついた。
これ魔王のおっさんだ。
小汚ない髭もじゃだったのに今はなにやら小綺麗な魔法使いっぽいローブを着て、頭がきっちりした七三になっている。
変われば変わるもんだ。
野生のおっさんから分かりやすいおっさんへ進化している。
どっちにしてもおっさん感は抜群だが。
「おっさん仕事は大丈夫かい?」
顔見て誰だかわからなかったのはすっとぼけて普通に会話しよう。
「はい、勇者様方のお陰でとてもよい職場に巡り会えました」
「本当にありがとうございます」
「ありがとうございます」
奥さんと娘さんが思いきり頭下げてお礼をしてくる。
そんな頭下げなくても、大したことやって無いんだがな。
……いやまあそれは嘘だけどね。
超大したことやったけどね。
「……さ、あなた、まだまだ貯えも無いのだから、パックに料理を詰めますよ」
「そうだね。お父さん、美味しいものを一杯持って帰ろう」
たくましい発言が出た。
「おいおい、勇者様申し訳ありません」
「いやいいよ、おっさんたちのことはザマスおばさん、あー、マドリーヌ王妃にも言ってあるからなにかあればあの人に訴えてくれれば何とかしてくれると思うよ」
あの人なら大概のことは何とかしてくれるべ。
「……何から何まで、本当に、ありがとうございます」
おっさんもすごい頭下げてくる。
まあ、おっさん一家がニコニコできてるならそれでいいよ。
「先生っ」
「先生っ」
お、ブーちゃんと弟の王子兄弟が走ってこっち来た。
「お、またおでこの目が光ってるぞ」
「うんっ」
弟くんがすごいいい笑顔でうんって言った。
いやそれ不気味だからね。
「安田様、お疲れ様でした」
お、角王妃だ。
頭には今日も立派な角がそびえ立ってる。
ブーちゃんと弟くんの面倒見てるんだろうか?
しかし、この人結局最後まで角被ったまんまだったな。
「先生、またダンジョンに行こう、ジェットも余ももっとレベルを上げたいのだっ」
「行きたいっ」
あんなおっかないとこに行きたいとか、血生臭い兄弟になってしまったぜ。
俺は二人の頭を撫でて、無言で微笑む。
微笑んで、頷いて、すっと別な場所に行こう。
「あれ?先生」
「先生?」
「バイサク様、ジェット、あれはね。大人の必殺技THEスルーよ。大人がね、めんどくさい時に使うものなのよ」
角王妃が大人の必殺技を解説してる中、俺はまた別な場所に向かう。
お、東くんが騎士達に囲まれてなにやら盛り上がっている。
「ですからね。こう手首と肩を連動して引くと腕だろうが首だろうが切り落とせるわけです」
「なるほどっ、さすが東様だ」
「いや全く」
「素晴らしい」
東くんと騎士達の会話の内容が怖すぎるわ。
近寄りたくもないわー。
つうか暑くなってきたな。
ベランダにでも行くべかな。
「お、龍臣」
あ、ベランダにはカワウソの子供組を膝にのせて一杯やっている吸血鬼の女王がいたわ。
「こんなとこで酒飲むなよな」
「よいではないか、よいではないか」
なんだそのご機嫌な返事は。
お前はエロい殿様か。
はあーあ、今日はくたびれたなあ。
俺は京の横にあるデッキチェアに横になる。
つうか、どうするべ。
女神しゃまだかを召還するかね?
やっぱしないとダメなんだろうか?
鑑定結果
しないと世界的に一週間ほど常時より2~3パーセントほど死人が増えます。
2~3パーセントか。
具体的な数字が出ないのは俺が見たくないと思ってるからだろうな。
あーあ、最悪だ。
HP半分消費して召還するとかさあ。
この世界に来てから今だかつてHPがそんなに減ったことないからね。
初日にカップ麺のスープ浴びて1減った位だからな。
奇しくもこんな事態になってるのもカップ麺のせいだからね。
なんやねんカップ麺よう。
俺は愛してんのにカップ麺には愛されてないな。
はーあ、やっぱ痛かったりするのかな?
鑑定結果
こむら返りの三倍くらい痛いですね。
あと回復魔法とかは効きません。
失ったHPは自然治癒で回復してください。
こむら返りの三倍くらい痛いのか……。
なんてわかりづらい表現だ。
あと魔法で治せないって最悪な情報も追加された。
痛いままやんけー。
「龍臣、何を思い悩んでいるのだ?」
京が横から人の顔を覗き込んできた。
数センチ横に京の顔がある。
……間合いが近いんだよ。
「……これから俺女神しゃまを召還しないといけないんでね」
「……女神しゃま?」
「はーあ、京、多分俺これから気を失うと思うからよろしくね」
「……何を言ってる?」
なに話したところで絶対YESの選択肢選ぶことになるので、気絶した時に頼みになりそうなこいつの横でやろう。
どうせやらないと人死んじゃうんでしょ?
ハイハイやりますよ。
こむら返りの三倍くらい痛いだけで人死ななくてすむなら大概は誰でもやる方選ぶっつうの。
始まりの女神しゃまを降臨させますか?
YES/NO
はい、じゃあYESで。
ピキ。
あ、体から変な音した。
「いで、いててててっ」
「た、龍臣どうした?、強く当たられたサッカー選手みたいになってるぞっ」
あ、痛い、なぜか右のふくらはぎだけが痛い。
思わずうずくまっちゃうほど痛い。
「いだだだだ、こむら返りの三倍位痛いっ、こむら返りの三倍くらい痛いっ、こむら返りの三倍くらい痛いっなぜか右のふくらはぎだけピンポイントで痛いっ」
ホントにこむら返りの三倍くらい痛いっ。
場所もこむら返りと一緒っ。
なんでだよっ!!
「こむら返りっ!?足つったのか?」
ああー、もうダメ、目がチカチカするわ。
なんか京が足つったサッカー選手がよくやられてる片足上げてグーってするやつをやってくれてるが痛いままだ。
ああー、これはもうダメ。
あー…………。
んん?
なにやら真っ白なとこにいる。
あ、このふわふわした感覚は田中くんが俺の頭の中の世界に来るときの感覚だ。
ふむ、つまりこれは頭の中の世界か。
「こんにちはー」
む、頭の中の世界にかん高い女性の声が響く。
「こんにちはー」
こんにちはって言ってる。
どうしようか。
「おばんですー」
あ、おばんですって言っちゃった。
「あ、聞こえてる?あなたがヤスダよね。ヤスダさんよね?」
「そうですけど、そういうあなたは始まりの女神しゃまですか?」
「あははは、なつかしい呼び名じゃん、そうですっ、あなたの召還に応じて来ちゃいました。女神です」
……無駄にキャラが明るい。
ていうかなんかこのかん高い声聞いてるとこむら返りの痛みがぶり返して来る気がするわ。
「あら?女神がきゃぴきゃぴしてるんで驚いちゃったかな?」
きゃぴきゃぴ……。
「でもね。神様ってそういうものなのよ。神様の力の強さは確固たる自分を持っていることが何より重要なの、生まれてから那由多の那由多倍位生きてても私の自己はギャルのままなのよ」
ギャルって……。
もうどうでもいいよ。
ふくらはぎ痛いし。
「あなたのお陰で神々が悩まされてきた崩壊の力に対する対策が講じられるのよ。ありがとうね」
「しかしあなたの神としての力はやたらめったらに強いんだかなんなんだかわからないのだけど、やたらキラキラしてるのよね。なんでか知らないんだけど、なんなのかしらねホントに、離れてる平行宇宙からでもすぐわかるほど輝いてるのよ。だから時々覗きに来てたんだけど……」
「あなたは面白いわね。いやいや言いながら人を助けて、ヘラヘラしながら人を助けて、あなたほど人間くさい神様もめずらしいわよ」
「だから来てあげました。手伝うためにね。面白そうだし……どうしたの?なんでうずくまってるの?」
「……ふくらはぎが痛い」
「ええ!?、ここ頭の中の世界なのに?」
「痛いものは痛い」
「……強く当たられたサッカー選手みたいなポーズになってるわね。ええ?なんで?……プ、プラシーボ効果みたいなやつかしら?」
俺もう話始め辺りから地面にうずくまってたからね。
「……もうなんでもいいんで帰ってくれます?」
「え!?帰るの!?あたし結構大事な話したつもりなんだけど!?」
「痛くてなんにも頭に入ってこなかった」
「ええ!?聞いてなかったの!?まじで!?」
「安田さんっ!!大丈夫!?」
なんだ!?急に真っ白な世界にもう一人誰かが現れた。
あっ、この世界で一番どこにでもいそうな顔の持ち主は……。
「田中くんか」
「や、安田さん大丈夫!?なんかHPが半分になってたから来たんだけど、……どうしたの?強く当たられたサッカー選手みたいなポーズになってるよ」
「サッカー選手サッカー選手うるさい。なんだお前らは、みんな感性一緒かっ?」
「頭の中の世界なのにね」
「え!?誰!?なんか声が聞こえるっ!?」
「あ、どうも始まりの女神しゃまです」
「え?女神しゃま?……あ、どうも、こんにちは」
「俺がHP半分消費して召還した」
「え?ああ、あるあるそういうやつ、……安田さんもしかしてHP半分になったから気絶したの?」
なにニヤニヤしてやがんだ。この世界で一番どこにでもいそうな顔の男めっ。
「人の頭の中の世界に土足で入ってくんなっ、もう出てけ出てけっ謎のギャルとキングオブ平凡め」
「あ、ちょっ、安田さん、やす……」
「あー、あれだからね。起きたら私が見えると思うし、こっちからも見えてるからー……」
そうして頭の中にだけ時々出てくる平凡な男と謎のギャルを頭から追い出した。
「龍臣っ、龍臣、大丈夫か?」
あ、起きたら目の前に京の顔がある。
あ、膝枕されてるわ。
ん?ていうか俺のパーティーメンバーやら王族やらなにやらみんな居るな。
「先生、心配しましたぞ」
「全くだよ。どうしたの安田くん」
「大丈夫ですか安田さん」
「安田殿はまたとんでもないことしたんじゃないか?」
「先生、余より目立つなよ」
「先生はすごいなあ」
「いやあ、またとんでもないことをしたざますね」
みんなが口々に心配したりしてくれる。
……とんでもないことってなんだ?
「俺どのくらい寝てた?」
「数十分位だな」
京が教えてくれる。
そうか、割りとすぐだな。
あー、ふくらはぎはもう痛くないけど体だるいな。
「ところで龍臣」
「んー?」
「なんかな、龍臣が気を失ってから、龍臣の体から光が出てな」
「……うん、それで?」
「……天に昇った光の方角に、アレが出てきたんだが……」
京が目線で見て欲しい方角を促す。
……この世界の月は二つだったんだけどな。
なんか一個増えてるわ。
確かに起きたら女神しゃまが見えるわな。
向こうにもこっちが見えてるらしい。
「……女神しゃまでっけえ」
「女神しゃまってなんなんだ?龍臣はとうとうおかしな月を作っちゃったのか?」
それから、数時間後にはあれと同じデザインの頭をしたてるてる坊主みたいなのに魔物から助けられたって言う話が世界中で報告されることになる。
まあ、めでたしめでたしだな。
この世界の月っぽいの一つ増やしちゃったけど。
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えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
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【第2章 王城と私】 第7騎士団での功績が認められて、次は第3騎士団へ行く事になったラモン。勤務地である王城では毎日誰かと何かやらかしてます。第3騎士団には馴染めるかな? って、またまた異動? 果たしてラモンの行き着く先はどこに?
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