虹色のプレゼントボックス

紀道侑

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第二章 向田さんちの無花果の樹

魔王との対決か、対決って単語自体嫌いだわ。

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名前   ナラン・ヒリップフード ♂ ※呪い
年齢   45才
職業   黒色体術魔導師
種族   人族
称号   呪われ人

レベル  36
HP   47/177 
MP   216/216

STR   83 -30
AGI  105 -30
VIT   72 -30
INT  123
MND   85
DEX   97

装備

罪人の呪いの腕輪

所持スキル

闇魔法レベル4
鈍足の呪い、恨みの炎、黒色音叉、下級召喚魔法、中級召喚魔法、上級召喚魔法

体術レベル2

正拳、回し蹴り、受け流し、クミン式魔法体術二段

説明

某国の元宮廷魔導師、善良で思いやりに溢れる男だったが濡れ衣を着せられ無実の罪で外れない呪いの装備をつけられて国外追放処分になった。
妻と娘が居たが国外追放からの十年に渡る放浪生活のせいでナピーナップに流れ着いた頃に二人とも病におかされ亡くなっている。
妻と娘は父の無実を知っており、病床についても最後まで父を励まし続けていた。
この世界に絶望している魔王の卵。
魔王とは、全てがどうでもよくなり心の底から世界が滅亡してほしいと思っている生粋の破滅主義者が崩壊のサイクルとシンクロして発生する存在。
人としての人生を終えてなお恨み辛みを遺し数百年、数千年の時を経て恨み辛みを溜め込みに溜め込んだ存在、つまり魔王として生まれ変わる。
ぶっちゃけ数千年後に地面からボコッとゾンビみたいに出てくる。
レベルが妙に高いのは魔王の卵になったから。
レベルが上がっていることに本人も気づいていない。

解決方法

飲みにでも連れていってあげればいいのではないでしょうか。



「……重たっ」

 自分の部屋で鑑定結果を眺めて思わず独り言が出てしまった。
 ……うん重い。ヘビーすぎる。
 こんな不幸な人見たこと無い。
 見たこと無いし心の底から可哀想。
 うん。確かに可哀想なんだが……。

「……なんだろうなこれ」

 いやいやいやいや、まず解決方法が書いてあるのにもびっくりしたが、その解決方法があまりに軽い。
 話の重たさに比べて解決方法の軽さは何?
 バランスが全く合っていない。
 隕石とスナック菓子くらい重量差がある。

 無実の罪で国外追放されて妻と娘を病気で亡くした人を飲みに誘っただけでどうにかできるとは全く思えない。

 第一に世界滅べって心から思ってるオッサンを飲みに誘うの?
 濡れ衣着せられて奥さんと娘さん亡くしてる人を?
 「オッサン酒飲みいかない?」とかっつって?
 世界まだ滅んでないはずなのに地獄なんですけど。


「どうしたんだ龍臣、考え込んでる顔だな」

 ソファーであぐらかいてる俺を見て京が話かけてくる。
 ……そういやこの子2000年生きてんだっけか。
 相談してみるか、年の功ってので何かをいい考えが出るかもしれん。

「ちょっと京ちゃん聞いとくれよ」

「……なんで時代劇に出てくるおばさんみたいな喋りなんだ?」

 俺は京に濡れ衣魔王のオッサンの話を一通りしてみた。




「……重たっ」

 ああ、ダメだこの女。
 俺と全く同じリアクションだ。

「なんだそれは、すごい不幸な男だな。2000年生きてる私でも中々お目にかかれないレベルだ。家族亡くしたヤツも濡れ衣着せられたやつも見たことはあるがダブルパンチは無いぞ、しかも善人だというのならもはや全く見たこと無いな」

「……その人を飲みに誘うと良いらしいよ」

「……オッサン酒飲みいこうぜ、とか言ってか?濡れ衣着せられて家族亡くして世界滅べって思ってる男を?……なんだそれは、地獄か?」

 ……ダメだこの女、俺とほぼ同じリアクションだ。

 よし、ここは最近知り合った最年長勇者の知恵を借りよう。
 2万年生きてるような傑物ならなにかしらいい考えがあるだろう。
 俺は向田さんに話をしに行くことにした。







「……重たいい~、なんだいそれは、重たいねえ~」

 ……こりゃダメだっ。
 2万年生きてる勇者でも同じリアクションなら万事休すだわ。

「その彼は魔王なのかい?」

「魔王の卵らしいですよ。死んでから何千年か経ってからゾンビみたいに出てくるんですって」

「うむ、魔王かあ……」

 向田さんが魔王って単語にやたら反応する。

「何か知ってるんですか?」

「うん、魔王って千年に一度くらい現れるんだよねえ。魔物だったり人だったりするんだが、まあ大抵は世界滅べとばかりに大暴れするんじゃよね。しかしなるほど、そういうシステムになってたのか」

 大暴れすんのか、まあ世界滅べって思ってるんだからそりゃ世界滅ぼそうとするわな。

「龍臣、とりあえずソイツ見に行ってみたらどうだ?」

 ……あーあ、京が核心をついてしまったな。
 まあ、じゃあ、うーん、気が進まないけど見に行ってみるか~。

「ワシも行こう。危ないかもしれんしね」

 いつも通りまんじゅうを腰につけて、向田さんと京と一緒に濡れ衣を着せられた不幸な男を見に行くことになった。


 彼は世界樹の根本辺りにある職人街的な場所にいるらしい。
 変な浮かんでるでっかい石を使った昇降機で世界樹の枝にある町から根本の町に降りていく。

「この辺りはね、昔は天丼屋が多かったんだよ」

 向田さんがまた昔を懐かしんだ話をしている。
 一万年以上昔の話なのだが、一万年も経過してるのに天丼屋が牛丼屋に変わってるくらいの違いしかないらしい。
 なんでやねん。

「で龍臣、その男はどの辺りにいるんだ?」

 おっと、そうだった。
 サザ○さん時空みたいな現実に思考を奪われてる場合じゃなかった。
 えーと。

鑑定結果

そこの角を曲がったところに居ます。


 お、すぐ近くにいるらしい。

「そこの角曲がったとこにいるってよ」

「ほう」
「どれどれ」

 京と向田さんの二人が先行して角を曲がる。
 どれ、俺も。






「あれか?龍臣」

「……あれだな」

 どうしようか、日本の公園に生息してたりする野生のオジサンそのものだ。
 いやなんかちょっとだけ妖精っぽい要素があるような。無いような……。
 まあ、魔王っぽさは全く無い。
 うーん。

「飲みに誘うのかい?」

 向田さんがあんまり考えたくないことを聞いてくる。
 ……うーん。

「私がちょっと道を通るふりして様子を見てきてやろう」

 京が斥候として行ってくれるらしい。
 お願いします。

 京が道を歩いていく、あ、オジサンの前を少しゆっくりめに通った。
 オジサンは気づいてない。
 気づいてないっていうかなんかずっと空を見ている。
 正直ヤバそうだ。

 京が通りをぐるっと一周して戻って来た。

「どうだった?」

「うん、なんかぶつぶつ言ってたな。よく聞いたら、こんな世界滅べばいい、こんな世界滅べばいい、こんな世界滅べばいいってずっと言ってた」

 ……うわあ、それは、いたたまれない。
 日本にも時々いる何かをぶつぶついってるオジサン要素もあるのか……。
 ……うーん。

「……安田くん、こう言ってはなんだが、彼はもう楽にしてあげたほうがいいのではないかな?」

「ん?どういう意味?」

 向田さんが何かを思いついたらしい。

「……彼は妻も子も失い、生きる意味を失い、無実の罪で呪われてさえいる。罪を晴らすことくらいなら我々にもできようが、失った物があまりに大きすぎて生きる意味はもはや取り戻せないだろう」

 ……んん?
 だから何?どういう意味?

「……龍臣、今この場で苦しまずに死なせてやったほうがいいのではないか、とじい様は言っているのだ」

 はあ!?
 なんでだよじじいっ。
 なんだその斜め上通り越して弾道ミサイルみたいな発想っ。
 見切りがあまりにはえーよっ。

「龍臣、正直私もそう思うぞ。私ならヒジで一瞬のうちに首を切り落とすことも可能だ」

 え、ヒジで!?
 腰に差してる刀とかアクション漫画みたいに手刀とかじゃなくてヒジで!?
 なんだこいつっ、おっかねえっ!!

「安田くん、ワシもこの仕込み杖でなら苦しまずに逝かせられるよ」

 じじいっ、それ仕込み杖だったのかよっ。
 こいつらおっかねえっ!!

「では、じい様一思いに」
「そうですな、では」

 じじいと吸血鬼がなんか変なオーラ出しながら行こうとしてる。

「おいじじいやめろっ、そのもはや助からないからむしろ止めを刺すみたいなシビアな戦場の発想やめろっ」

「いや、しかしな龍臣」
「そうじゃよ安田くん、ほれ、多数決でも2対1じゃよ」

「民主主義の国で生まれ育ったが、その多数決には絶対従わねえからなっ」

 くそう、よくよく考えたらこいつら血生臭い吸血鬼とスパイの世界の住人だったっ。
 この野蛮人ども連れてきたのが間違いだっ。
 俺は走り出すっ。

「おじさーんっ、酒飲みいこうぜっ」 

 オッサンの首は俺が守るっ。



 というわけで近くにあった飲み屋の個室に場所を移しております。
 オジサンはわりと簡単についてきた。
 ダメになっちゃったオジサンの好物は基本お酒だからな。
 ご多分に漏れずこのオジサンも無言でついてきた。

「……」

 だがオッサンはひたすら無言だ。
 無言でついてきて無言で酒を飲んでる。
 ……うーん。

「……変なオジサンをおちょくって遊ぶいたずらかな?」

 あ、喋った。

「いやいやいたずらなんかじゃないですよ、オジサンが世界に絶望した顔してたのでね」

「……」

「若いの、あまり人生に絶望してはいかんよ。一歩一歩進むんじゃ、辛くとも悲しくとも、歩みを進めることこそ人の生というものじゃよ」

 ……このじじい、さっきまで一歩も進ませずに首切り落とそうとしてたくせに。

「……あなた方にはなにもわからないでしょう」

 オジサンはボーッとした焦点合わない目でよくありがちな台詞を呟いてる。
 まあ、実は結構知ってるけどね。

「他人のことが手に取るようにわかる者などこの世にはいない。だがわかろうとするからこそ、わかってやろうとするからこそ人という字は支えあう二本の棒の形をしているのだ」

 吸血鬼がなんかいい台詞を言っている。
 なんだこのじじいと吸血鬼は、さっきまで首を切り落とそうとしてたくせに、こいつらのこの切り替えの早さはなんだ。

「……ふっ」

 下を向きながらオジサンは失笑だ。
 響いてないなー。

 うーん、どうしようか、なんか俺もいい台詞を言ったほうがいいような気がしてきたな。

「あれですよ。運が悪かったんでしょう」

 あれ?なんかすごい薄っぺらな台詞が出てしまったよ。

「……」

 あ、オジサンが始めてこっち見た。
 あ、ちょっといらっとしてる?

「君はワシに比べたらまだまだ若い。今は全てが終わっているように感じていても、上を見上げながら歩いていれば世界にはまだまだ光が満ち溢れとると感じる時がくるやもしれん」

「……」

 再度向田さんのいい台詞攻撃が炸裂したが、オジサンの目ん玉は真っ暗だ。
 これは俗に言うところの死んだ魚の目ってやつだな。
 絶望感がすごい。

「そうだぞ、じい様の言う通りだ。私も人生に疲れ底無しの暗闇にいるように感じた時があったが、おかしな男に出会って魂を救い上げられたことがある。しかもたった一言で、ものの数十秒で見るもの全てが変えられてしまった」

 京がなんか人生語りだした。
 そんなすごいやつがいるのか、なんかこっち見てる気がするがそんなことした覚えは全くないんだが。

 ていうか俺も再度何かいい台詞を言わなきゃならんなこれは。

「まあ、人生って確率ですからね。びっくりするほど不幸に苛まれる人もいればウハウハに笑ってばっかの人生の人もいますよ」

 あれ?ダメだな変な台詞しか出ないな。
 おかしい、調子よくない。

「……」

 オジサンがまたこっち見てる気がするわ。
 さっきは死んだ魚の目をしてたのに今は心底イライラしてる目線を向けられてる気がする。
 いや、気がするんじゃねえなこれは、思いきり睨まれてるわ。
 おお、どうしようか、なにかいい台詞を言わねば、えーと。

「まああれですよ。俺が思うにね。死ぬまで不幸の連続で良いこと一つもない善人もいれば、死ぬまでずっと幸せの絶頂で笑いながら人生終える悪人もこの世にはいると思うんですよね。だって確率の問題ですもん。宝くじ当たるのも雷に打たれて死ぬのも確率の問題ですしね」

「……ぎぎぎ、なんだ貴様ーっ!!!!さっきから心に響かない薄っぺらなイライラしかしないことばかりいいおってええっ!!!!」
 
 ガクガクガクガクガクガクっ。

 うわあっ、オッサンがご乱心だっ!!
 胸ぐらすごい捕まれてものすごいガクガクされてるっ!!

 とうとう魔王の本性が現れたっ!!
 大変だっ!!
 もうだめだっ!!

「京っ、もうだめだっ、オッサンが正体現したっ!!ヒジでいけっ、切り落とせっ」

 首を狙ってけっ!!

「いや龍臣、完全にお前が悪い」

 なんだとっ!?
 飼い犬に手を噛まれるとはまさにこのことかっ!?
 獅子身中の虫とはまさにこいつのことか!?

「貴様なんぞに何がわかると言うのだっ!!貴様のような甘やかされて育ってそうな一人っ子丸出しのやつにっ、何がわかると言うのだっ!!!!」

 鋭いっ、家庭環境を思いきり言い当てられたっ。
 無駄に鋭い観察眼してやがるっ。

「どうすれば良かったと言うのだっ!!やってもいない横領で国を追放され、私を信じついてきてくれた妻と娘には苦労をかけるだけかけた上に病で先立たれっ!!なんなのだこれはっ!!私が何をしたというのだっ!!私はっ、こんな世界など糞だっ……くだらないっ!!くそっ、くそっ……う、ぐう、くそう……ぐうう」

 ああ、俺をガクガクするだけしたら今度は泣き出してしまった。
 胸ぐらを掴んでいる手にも力が全く無くなった。
 ええー、オジサンがわんわん泣いとる。
 つうかもうなんとかならないのかなこの人、可哀想すぎるんですけど。
 うーん。

鑑定結果

ナラン・ヒリップフードが激昂して崩壊のサイクルとのシンクロが少しずれました。
ナラン・ヒリップフードの妻と娘の魂エネルギーは魔王の卵としての能力でナラン本人の中に吸収され霧散せずにとどまっています。
今激昂して少しだけ生に執着したことで魔王化から少しずれて能力が発動しなくなり不純物の無い魂エネルギーを取り出すことが可能になりました。
今なら安田の隣にいる地球上で最も呪術に精通している吸血鬼と、そこにいる領域支配の能力を持っているじいさんと、今安田の腰に引っ付いて寝ているまんじゅうがいれば妻と娘を生き返らせることが出来ます。


 え、マジで?
 おいおいおいおい、それ有りなパターンなの?


鑑定結果

有りです。
向田がナラン・ヒリップフードの妻と娘の墓にバリアを張り、余計な精神エネルギーなどの不純物を取り除いた空間を作り出し、遺体があるお墓にまんじゅうの回復魔法の水をぶちまけ、唯川京が反魂の術をかけることで途中一瞬だけゾンビを挟みますが、生前の姿や年齢で完全に生き返らせることが可能です。

余談

そもそも一人前の神が三人も揃っている状態で頑張ればそりゃあ人の一人や二人は生き返らせられます。
お前ら神様なんだぜ。


「オッサンっなんとかなるっ、なんとかなるゾッ」

「……何を言っている、何がなんとかなると言うのだっ」

「奥さんと娘さん生き返らせられることができるっ、この女とじいさんがいればっ」

「……なっ!?」

「何!?」

「安田くん何言ってるの!?」

 おおう、オッサンも京も向田さんもびっくりしている。

「オッサン、墓場に連れてけっ、俺たちが何とかしてやるっ」

 正確には俺以外のまんじゅうとこの二人がっ!!


 そしてオッサンに案内してもらい俺達は奥さんと娘さんのお墓に連れて来てもらった。
 わりとすぐ近くにあった。
 オッサンはずっと家族の側にいたらしい。
 小高い丘の上、見晴らしがいい場所だ。

「龍臣、反魂の術ってのは確かにあるが、私は成功したことはないぞ、第一あれは禁呪って扱いで使っちゃダメってことにしてるんだぞ、私の弟子の安倍晴明にも絶対使わせなかったんだ。なんかな生き返ってもどこか別人になるし、結局その後すぐ亡くなっちゃうんだぞ」

 安倍晴明が弟子なの!?
 あれほんとに居たの?
 この間は柳生十兵衛出てきたし、なんなんだこいつの人生、歴史の波をサーフィンしてんな。

「大丈夫、成功しなかったのは魂エネルギーってのの純度が足りなかったから起きたんだ。今回はこのオッサンの中に不純物無しの綺麗な状態で魂エネルギーが残ってるらしいから大丈夫っ」

「……ほんとか?」

 魂エネルギーってのは多分遺伝子みたいなもんなんだろう数パーセント違ったら人間がチンパンジーになるみたいな。
 普通は死んじゃったらすぐにぐちゃぐちゃってなっちゃうんだろうな。

「それで、安田くんワシは何をすればいいって?」

「向田さんはこのお墓のまわりに幽霊みたいな魔物を寄せ付けない結界を張って」

「結界を?」

「つまりね、向田さんが無菌状態の手術室を作って、京が外科手術をするみたいなもんだ」

「……ほう、少しわかりやすくなった」
「うん、なるほどね」

 お、京と向田さんにスイッチ入ったな。
 できる奴等は切り替えのスピードが違う。
 あ、これいけるっ。いけるぞっ。

「……あなた方は、一体」

 オッサンが困惑している。
 でももう死んだ魚の目はしてない。
 ただの小汚ないオッサンになった。

「俺達勇者なんだよ」

「なんですとっ!?」

「んなことどうでもいいんだよっ、いいかオッサン、今この時だけなら多分オッサンは世界で一番運がいいっ、勇者が三人揃っててオッサンが魔王になりかけてたお陰で奥さんと娘さん生き返るっ、このチャンスを絶対逃すなっ、具体的には早くその二つの墓の間に寝転べっ」

「魔王!?、いえ、寝転べばいいんですなっ!!」

「そうっ、早くっ」

 魔王とか勇者とか色々あるだろうが完全に切り替えたらしく、全てをスルーしてオッサンが頷く。

「オッサン、さっきも言ったが人生は確率だからっ、今オッサンに確率の波が良い方にきてるんだよっ、絶対大丈夫っ」

 俺の薄っぺらな台詞にオッサンが力強く再度頷いて、お墓の間の地面に寝転ぶ。
 よし。

「向田さん」

「うむ、全力でやろう、この二つのお墓を囲むだけでいいんだね」

 俺は向田さんに頷くと向田さんは両手をお墓に向けてすぐにキラキラ光る壁で囲まれた部屋みたいのを作ってくれた。

「今呪を書いている。動くなよ」

 京がオッサンの顔やら体に変な筆で字を書き始めた。
 なにその筆。

「お願いします勇者様、私はどうなっても構いませんっ、妻と娘だけはどうか、どうか」

 オッサンが涙目で京に懇願している。

「……案ずるな。私はかつて卑弥呼と呼ばれていた大和の王、呪術を極め日出ずる国をおさめていた女だ。ここまでお膳立てされたら絶対に失敗せん。愛する龍臣に顔向けができん。そなたは妻と娘に笑顔でまた会える」

 今なんかとうとう正体明かす的なとんでもないことを愛の告白と共に言ってた気がするが、まあっ、今はどうでもいいっ。

「京っ、絶対失敗すんなよっ」

「……任せろ」

 京がアクション漫画の主人公のような鋭いスマイルをしている。
 イケイケだ。
 今この子イケイケですっ。

「よし、まんじゅう回復魔法だ」

 リンリンリンっ。

 寝てたから全く事態を理解していないまんじゅうが、とりあえず回復魔法やればいいのね。
 のリンリンリンを鳴らして魔法を発動する。
 結界の中にどしゃ降りヒールを降らす。
 おっと、なんだ?水の玉が光ってる気がする。
 あと中の二人が濡れてない。
 いつもと違う。

 色々考えてる間に京がなんか踊り始めた。

「●■〇∞℃●▽◎◆◇★」

 んん!?なんだ?なんか日舞みたいな感じでくるくる踊りながら歌ってるがなに言ってんだが全然聞こえない。
 聞こえてるはずなのに母音すらわからない。

「……これは呪言、聞こえぬ歌声、やはり京さんは紬の里の女王だったのか」

 向田さんが結界を操作しながらなんか言ってる。
 吸血鬼だって知ってたのか、それとも今気づいたのか。

「……スパイ業界と吸血鬼の業界って繋がってたんですか?」

「……ふふふ、やはりばれていたんだね。うん、京さん、いやあの方は有名だよ。我が国の影の歴史に様々な形で出てくる。日の本の守護者と言われていた方だよ」

「マジで?」

「マジだよ。あと義くんにはワシのことは秘密にしといてね」

「……はいはい言ってないから大丈夫」

 ぶっちゃけ鈴木さんは多分気づいてるが。

 ん?、なんか変化がある。
 お墓の地面が光輝いてる。
 ギンギラギンな光じゃなくて柔らかい光だ。

 あ、お墓から透けるように死装束を着てる遺体?ぽいのが浮かんで出てきた。
 ふくよかな奥さんとふくよかな娘さんだ。
 優しそうな二人の顔は青白いが全く死んでるように見えない。
 言い方間違ってんのかも知んないけどすごいみずみずしい。
 死にたてっ、死にたてっぽい。

 あ、死んでる二人がうっすら目を開けようとしてる気がする。

「マー」

 ……マーって言った。
 あ、そうだ。途中ゾンビ挟むって書いてあった。
 青白い安らかな顔で浮かんでる奥さんと娘さんがオッサンと京を中心にマーって言いながらくるくる回ってる。

 おお、なんだこの状況は、京はいまだに集中をきらさずに歌いながら踊ってるが、マーって言いながらくるくる浮いてるゾンビが神聖な雰囲気を台無しにしている。

「●▽◎◆■◇〇★っ」

 あ、京の歌が終わった。

「戻ってきてくれ」

 オッサンの涙声の懇願が聞こえたと同時にオッサンの体から光の奔流が溢れた。

 ―――――まぶしいっ。
 何も見えない。

















 ――――――すごいすごいっ。


















 ん?なんだ?なんか嬉しそうな子供の声が聞こえた気がした。















「―――――龍臣、龍臣っ」


 んあ!?

 あれ?目の前に京の顔がある。

 あれ?
 なんか俺地面に倒れてる。

「安田くん光にびっくりしたのか気を失ってたよ」

 向田さんに教えられた。
 まじか、また俺チカチカしすぎて気絶したのか……。
 ……軟弱なり。

「あっ、オッサンどうなった!?」

 京が笑顔でオッサンの方向に促す。













「………ミサオ、ミシン、なのか?」


「……あなた?」
「……おとうさん?」


「おお、おおおお、おおう、神よ」

 泣きまくりだな。

「ちょっと、あははははは、あなたなにその汚い格好、小綺麗なとこがあなたの良いところなのに」

「おとうさん汚いよー、あははははっ、臭いなー」

 奥さんと娘さんが笑いながらオッサンをくさいくさいと罵倒している。

「……うん、汚いな。お前達が居ないとお父さんは何もできないよ」

 オッサンは笑いながら泣きながら奥さんと娘さんと会話を続けていた。
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