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第二章 向田さんちの無花果の樹
じゃあ数日しか経ってないけど、また向田さんに会いに行こうか。
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ユニコーンの森で無花果石を採取した俺達は全部で3機の飛行船で王様一家と向田さんの家に向かっているところだ。
今は俺のパーティーの主要メンバーと王様達の飛行船にお邪魔させて貰っている。
王族が乗る飛行船はやはりきらびやかだった。
なんか装飾とかすごく凝ってる。
ところで無花果石を取ってきたのは角王妃様の呪いを解くためだったのだが、角王妃様の首から上にはいまだに角の被り物が乗ったままだ。
無花果石を砕いてその粉を振りまけばユニコーンの呪いは完全に解ける。
そして俺達はばっさばっさと確かに粉を振り撒いたはずなのに「では寝る時には外しますね」の一言で終わってしまった。
呪いは完全に解けているはずなのに被り物を取らない。
この角王妃、この被り物を心底気に入ってるらしい。
正直なんのためにユニコーンの森に行ったのかわからん。
まあ呪いを解くうんぬんは王子達二人を外に連れ出してレベル上げしたかったから使った言い訳なので別に構わないんだけどもね。
しかしこの人寝る時には外すとか言ってるけど、つまり今までは寝る時も着けたまま寝てたのか?
どんな構造のベッドで寝てんだ?
枕から上が長いんだろうか?
「安田様、そろそろ世界樹の天辺の辺りです」
騎士団の隊長が目的地付近に来たことを教えてくれた。
窓から外を見る。
えーと、あ、あった。
向田さんの国につながる扉だ。
あ、扉の横にインターホンがついてる。
あれはメダカ達のとこにあったインターホンだな。
なにやら新設されたらしい。
「まんじゅう、ちょっとインターホン押してきて」
リンリンリン。
了解のリンリンリンだ。
自在に飛べるまんじゅうに行ってもらう。
飛行船の窓からまんじゅうが扉方面に飛んでいくのが見えた。
マジックハンドでインターホンを押したようだ。
あ、そういやまんじゅう喋れねえけど大丈夫かな?
「ん!?なんだっ?」
「どうした?何事だ?」
ん?なにやら騎士が騒がしい。
騎士達が見ている方向を窓から見渡す。
……ああ、なんか異次元の穴みたいなのがある。
向こう側は見たことある光景、向田さんの国だ。
「安田殿、これは一体」
なんなのか全くわからないだろう王様が聞いてくる。
「ああ、あの穴の向こう側が向田さんの国みたいだからあの穴に入れってことでしょうね」
「……あの穴に?」
王様がビビっている。
まあ異次元の穴に突入しろって言われたらそりゃビビるわな。
でも行ってもらうしかない。
飛行船3機で穴に入る。
通り抜けると向田さんの国の扉ある砦の横に出た。
あ、でっかい金色の魚がいる。
メダカだ。
「や、安田殿、あの魚は」
王様がまたビビってる。
まあ金色のでっかい魚飛んでたらビビるわな。
王様ビビることばっかりだな。
ヒゲがふるふるしてるわ。
「メダカですね。えーとなんだっけ、光樹の大魚とかって呼ばれてるやつですね」
「あ、あれが光樹の大魚様、……ありがたやありがたや」
王様が驚愕してからなにやらおがみだした。
ありがたやとか言って手を合わせている。
「あれが、光樹の大魚様」
「おお、なんと神々しい」
「ありがたや~」
ああ、騎士達もありがたや~とか言ってるわ。
この人らはあれだな。今回初めて向田さん家に来た新規の騎士たちだな。
みんなで飛行船から降りる。
でっかい魚と蟻人の騎士達もいるな。
「わりとすぐに戻ってきたのう」
金色の魚、よく見れば、本気でよーく見れば金色の透明な体の真ん中辺りにちっちゃいメダカがいるのがわかる。
そいつが話しかけてきた。
「王様がね。向田さんに会いたいんだってさ」
「光樹の大魚様、お初お目にかかります。今現在ナピーナップを納めているチャイト・ナピーナップと申します」
「第一夫人のマドリーヌ・ナピーナップざます」
「第二夫人のミルドレット・ナピーナップです」
王様を始め王妃や騎士達も跪いて挨拶をしてる。
「うむ。ただのメダカのワシにそんなにかしこまらなくてもよいよ」
「いいえ、光樹の大魚様方の伝説は神話になって語り継がれております。あなた様は私達にとっては神のような存在です」
「ふーむ、ただのメダカなんじゃがなあ、あれだよワシらなんか仲間同士でも声聞かないと誰が誰だかわからんのじゃよ。同じようなメダカだから」
そうだったのか。
俺たちもどれがどのメダカなんだかわからんかったが、メダカ自身も見分けつかなかったのか。
いやそんな馬鹿な。2万年も一緒にいんのに?
いやまあメダカだからなあ、なんか自意識みたいのが薄いのかな。
「まあよい主様が待っておる。馬車に乗りなさい」
「早く行こう、父上」
「早く~」
王子二人は大人達が跪いてるのなんかそっちのけでもう馬車に乗っている。
この二人は大物になるかもしれない。
馬車に乗って向田さんの国の王都に向かう。
意外に遠いから馬車だと何時間もかかるのよな~これ。
暇なのよね。
「よし、暇だからトランプでもやろう。罰ゲームつきで」
みんなで心がひりつくババ抜きでもやろうぜ。
「いいけど、罰ゲームは何?」
鈴木さんも暇だから乗り気だ。
「ババ抜きで負けた人は今後十五年間語尾にぬらべっちゃってつけて会話すること。挨拶はこんにちわぬらべっちゃ、寝る時はお休みなさいぬらべっちゃになります」
「……安田くん、移動時間の暇潰しなのに罰ゲームが人生単位なのはいかがなものだろうか?」
「私はやらないぞ」
「安田さんぬらべっちゃってどこの方言ですか?」
勇者勢からの総すかんによりもっと気軽なババ抜きになりました。
俺たちがババ抜きに興じる中でも馬車はがらがらと道を進む。
あ、外に松の木がある。
向田さん家の庭にあった世界樹の松の木だな。
……んん?
「どうした龍臣?」
京がなにか見つけた顔してる俺を見て気になったらしい。
「変わった松の木があるなあ、と思って」
「……あれは松の木なのか?」
「龍臣、あの松の木トレンチコート着て葉巻持ってないか?」
あいつダンディーキャラだったらしい。
この間向田さんと来たときは普通の松の木だったのにな。
「な、変わった松の木だろ」
「……龍臣、変わったで済ませていいのか?葉巻どうやって吸うんだあれ?」
そんなん知らんよ。
確か松の木ってよく燃えるんじゃなかったかな。
植物の癖にリスキーな生き方してんな。
「なんかちょっとホラー感もあるな。タイトルつけるなら魔法で木にされた探偵の巻」
そして、おかしな松の木を見送って、ババ抜きをしてるうちに向田さんの城に着いた。
「龍臣、お前ちゃんと今日一日語尾にポリンってつけてしゃべれよ。お前が考えた罰ゲームなんだから」
くそう。
吸血鬼め、ニヤニヤしやがって。
「……わかったポリン」
「ぶふっ、あ、ごめん」
太ったオジサンにも笑われちまった。
「やあ、よく来たね」
馬車から降りると向田さんと蟻人の王族が出迎えてくれた。
彼らが一番偉いさんなのにな。
「救い主様でしょうか?」
後ろの馬車から降りてきた王様が跪きながら向田さんに語りかける。
王妃さん達や騎士達も跪いている。
王子二人は、ボーッとしながらなにか食ってる。
「顔をあげなさい、わしはただのじじいだよ。そんなに大層なものじゃない」
「……はい」
王様が震えながら向田さんの顔を見る。
「……おお、カールティクくんに似ているねえ」
「……っ、カールティクは初代の王の名でございます。私はチャイトと申します。チャイト・ナピーナップと」
王様めっちゃ緊張。
「……そうか、ナピーナップの血はまだ残っていたんだねえ。彼に本当によく似ている。そうか……うん、そうか。カールティクくんも君のようにくるんとした立派な髭をしていたよ」
向田さんが笑う。
「……はい、ナピーナップの王族は先祖代々髭を蓄えろと教えられて育ちます、神話には髭を見て笑ってしまった救い主様のお詫びで世界樹を賜ったとあります」
ええ、そんな神話だったの?
ていうかその髭そういうことだったのか。
ほんとに絵本かなんかの昔話みたいだな。
「……ハハハ、そうか、彼は面白い子だったからね。民を思いやり、守る気持ちもすごく強かった」
「……はいっ、はいっ、偉大な先祖だったと思っております」
「……うん、その子孫達をこの目で見れたことは本当に嬉しい。生きていてくれてありがとう」
「なにをおっしゃいますか、救い主様に救われた我等に礼など必要ありません」
「……ふふふ、私はね。日本で生きていた時から救えなかったもの、守れなかったものは数えきれんほどあるのだよ」
……スパイ時代の話かな?
なんか向田さんの一人称が「私」になった。
話し方がきりっとしてる気がする。
「……」
王様は無言で向田さんの話を聞いてる。
「この世界に来て大層な力を得ても、守れぬものはあまりに多く、手の届かぬところで零れ落ちる命はあまりに儚い」
「……人は弱い生き物です。救い主様が気にやむことではありません」
「ふふ、そうかもしれないね。だが私は力を得てしまった。救える力を、救い上げる力を、だが結局はいつも通り何も守れなかった。私が感じる無力感は日本にいた時から何も変わらなかった」
「……」
「私がわずかながらに救えた命、守れた国、今生きている君たちはその証左だ。それをこの目で見れたことは本当に嬉しいのだよ」
「……はい、はいっ、……ありがどうございばす」
「己の子すら満足に守れぬ下らぬ人生、下らぬ人間だが、少しは生きた甲斐があった。そう思えるのだ。だから本当にありがとう。心から、そう言えるのだ」
向田さんがちょろっと鈴木さんを見た気がする。
鈴木さんは気づいているんだろうか?
「ごちらこそ、本当に、あ、ありがどう、ございばすっ」
王様、泣きまくりだな。
途中から言葉がまともに出ないほど泣きまくりだわ。
王妃も騎士もみんな泣いてるわ。
鈴木さんも上を見て涙がこぼれないようにしてるわ。
鈴木さんはぐっときているらしい。
「先生、なんでみんな泣いてるの?」
ブーちゃんと弟が話しかけてきた。
子供ってこういう時わりとけろっとしてるよね。
「先生も泣いてるの?泣きそう?」
弟がやたらこっちを見てくる。
「俺は目にゴミが入っただけだポリン」
「……ポリン?」
変な罰ゲーム考えた自分をひっぱたいてやりたい。
そして俺達は王族含めて、また何日か向田さん家に滞在することになった。
今は俺のパーティーの主要メンバーと王様達の飛行船にお邪魔させて貰っている。
王族が乗る飛行船はやはりきらびやかだった。
なんか装飾とかすごく凝ってる。
ところで無花果石を取ってきたのは角王妃様の呪いを解くためだったのだが、角王妃様の首から上にはいまだに角の被り物が乗ったままだ。
無花果石を砕いてその粉を振りまけばユニコーンの呪いは完全に解ける。
そして俺達はばっさばっさと確かに粉を振り撒いたはずなのに「では寝る時には外しますね」の一言で終わってしまった。
呪いは完全に解けているはずなのに被り物を取らない。
この角王妃、この被り物を心底気に入ってるらしい。
正直なんのためにユニコーンの森に行ったのかわからん。
まあ呪いを解くうんぬんは王子達二人を外に連れ出してレベル上げしたかったから使った言い訳なので別に構わないんだけどもね。
しかしこの人寝る時には外すとか言ってるけど、つまり今までは寝る時も着けたまま寝てたのか?
どんな構造のベッドで寝てんだ?
枕から上が長いんだろうか?
「安田様、そろそろ世界樹の天辺の辺りです」
騎士団の隊長が目的地付近に来たことを教えてくれた。
窓から外を見る。
えーと、あ、あった。
向田さんの国につながる扉だ。
あ、扉の横にインターホンがついてる。
あれはメダカ達のとこにあったインターホンだな。
なにやら新設されたらしい。
「まんじゅう、ちょっとインターホン押してきて」
リンリンリン。
了解のリンリンリンだ。
自在に飛べるまんじゅうに行ってもらう。
飛行船の窓からまんじゅうが扉方面に飛んでいくのが見えた。
マジックハンドでインターホンを押したようだ。
あ、そういやまんじゅう喋れねえけど大丈夫かな?
「ん!?なんだっ?」
「どうした?何事だ?」
ん?なにやら騎士が騒がしい。
騎士達が見ている方向を窓から見渡す。
……ああ、なんか異次元の穴みたいなのがある。
向こう側は見たことある光景、向田さんの国だ。
「安田殿、これは一体」
なんなのか全くわからないだろう王様が聞いてくる。
「ああ、あの穴の向こう側が向田さんの国みたいだからあの穴に入れってことでしょうね」
「……あの穴に?」
王様がビビっている。
まあ異次元の穴に突入しろって言われたらそりゃビビるわな。
でも行ってもらうしかない。
飛行船3機で穴に入る。
通り抜けると向田さんの国の扉ある砦の横に出た。
あ、でっかい金色の魚がいる。
メダカだ。
「や、安田殿、あの魚は」
王様がまたビビってる。
まあ金色のでっかい魚飛んでたらビビるわな。
王様ビビることばっかりだな。
ヒゲがふるふるしてるわ。
「メダカですね。えーとなんだっけ、光樹の大魚とかって呼ばれてるやつですね」
「あ、あれが光樹の大魚様、……ありがたやありがたや」
王様が驚愕してからなにやらおがみだした。
ありがたやとか言って手を合わせている。
「あれが、光樹の大魚様」
「おお、なんと神々しい」
「ありがたや~」
ああ、騎士達もありがたや~とか言ってるわ。
この人らはあれだな。今回初めて向田さん家に来た新規の騎士たちだな。
みんなで飛行船から降りる。
でっかい魚と蟻人の騎士達もいるな。
「わりとすぐに戻ってきたのう」
金色の魚、よく見れば、本気でよーく見れば金色の透明な体の真ん中辺りにちっちゃいメダカがいるのがわかる。
そいつが話しかけてきた。
「王様がね。向田さんに会いたいんだってさ」
「光樹の大魚様、お初お目にかかります。今現在ナピーナップを納めているチャイト・ナピーナップと申します」
「第一夫人のマドリーヌ・ナピーナップざます」
「第二夫人のミルドレット・ナピーナップです」
王様を始め王妃や騎士達も跪いて挨拶をしてる。
「うむ。ただのメダカのワシにそんなにかしこまらなくてもよいよ」
「いいえ、光樹の大魚様方の伝説は神話になって語り継がれております。あなた様は私達にとっては神のような存在です」
「ふーむ、ただのメダカなんじゃがなあ、あれだよワシらなんか仲間同士でも声聞かないと誰が誰だかわからんのじゃよ。同じようなメダカだから」
そうだったのか。
俺たちもどれがどのメダカなんだかわからんかったが、メダカ自身も見分けつかなかったのか。
いやそんな馬鹿な。2万年も一緒にいんのに?
いやまあメダカだからなあ、なんか自意識みたいのが薄いのかな。
「まあよい主様が待っておる。馬車に乗りなさい」
「早く行こう、父上」
「早く~」
王子二人は大人達が跪いてるのなんかそっちのけでもう馬車に乗っている。
この二人は大物になるかもしれない。
馬車に乗って向田さんの国の王都に向かう。
意外に遠いから馬車だと何時間もかかるのよな~これ。
暇なのよね。
「よし、暇だからトランプでもやろう。罰ゲームつきで」
みんなで心がひりつくババ抜きでもやろうぜ。
「いいけど、罰ゲームは何?」
鈴木さんも暇だから乗り気だ。
「ババ抜きで負けた人は今後十五年間語尾にぬらべっちゃってつけて会話すること。挨拶はこんにちわぬらべっちゃ、寝る時はお休みなさいぬらべっちゃになります」
「……安田くん、移動時間の暇潰しなのに罰ゲームが人生単位なのはいかがなものだろうか?」
「私はやらないぞ」
「安田さんぬらべっちゃってどこの方言ですか?」
勇者勢からの総すかんによりもっと気軽なババ抜きになりました。
俺たちがババ抜きに興じる中でも馬車はがらがらと道を進む。
あ、外に松の木がある。
向田さん家の庭にあった世界樹の松の木だな。
……んん?
「どうした龍臣?」
京がなにか見つけた顔してる俺を見て気になったらしい。
「変わった松の木があるなあ、と思って」
「……あれは松の木なのか?」
「龍臣、あの松の木トレンチコート着て葉巻持ってないか?」
あいつダンディーキャラだったらしい。
この間向田さんと来たときは普通の松の木だったのにな。
「な、変わった松の木だろ」
「……龍臣、変わったで済ませていいのか?葉巻どうやって吸うんだあれ?」
そんなん知らんよ。
確か松の木ってよく燃えるんじゃなかったかな。
植物の癖にリスキーな生き方してんな。
「なんかちょっとホラー感もあるな。タイトルつけるなら魔法で木にされた探偵の巻」
そして、おかしな松の木を見送って、ババ抜きをしてるうちに向田さんの城に着いた。
「龍臣、お前ちゃんと今日一日語尾にポリンってつけてしゃべれよ。お前が考えた罰ゲームなんだから」
くそう。
吸血鬼め、ニヤニヤしやがって。
「……わかったポリン」
「ぶふっ、あ、ごめん」
太ったオジサンにも笑われちまった。
「やあ、よく来たね」
馬車から降りると向田さんと蟻人の王族が出迎えてくれた。
彼らが一番偉いさんなのにな。
「救い主様でしょうか?」
後ろの馬車から降りてきた王様が跪きながら向田さんに語りかける。
王妃さん達や騎士達も跪いている。
王子二人は、ボーッとしながらなにか食ってる。
「顔をあげなさい、わしはただのじじいだよ。そんなに大層なものじゃない」
「……はい」
王様が震えながら向田さんの顔を見る。
「……おお、カールティクくんに似ているねえ」
「……っ、カールティクは初代の王の名でございます。私はチャイトと申します。チャイト・ナピーナップと」
王様めっちゃ緊張。
「……そうか、ナピーナップの血はまだ残っていたんだねえ。彼に本当によく似ている。そうか……うん、そうか。カールティクくんも君のようにくるんとした立派な髭をしていたよ」
向田さんが笑う。
「……はい、ナピーナップの王族は先祖代々髭を蓄えろと教えられて育ちます、神話には髭を見て笑ってしまった救い主様のお詫びで世界樹を賜ったとあります」
ええ、そんな神話だったの?
ていうかその髭そういうことだったのか。
ほんとに絵本かなんかの昔話みたいだな。
「……ハハハ、そうか、彼は面白い子だったからね。民を思いやり、守る気持ちもすごく強かった」
「……はいっ、はいっ、偉大な先祖だったと思っております」
「……うん、その子孫達をこの目で見れたことは本当に嬉しい。生きていてくれてありがとう」
「なにをおっしゃいますか、救い主様に救われた我等に礼など必要ありません」
「……ふふふ、私はね。日本で生きていた時から救えなかったもの、守れなかったものは数えきれんほどあるのだよ」
……スパイ時代の話かな?
なんか向田さんの一人称が「私」になった。
話し方がきりっとしてる気がする。
「……」
王様は無言で向田さんの話を聞いてる。
「この世界に来て大層な力を得ても、守れぬものはあまりに多く、手の届かぬところで零れ落ちる命はあまりに儚い」
「……人は弱い生き物です。救い主様が気にやむことではありません」
「ふふ、そうかもしれないね。だが私は力を得てしまった。救える力を、救い上げる力を、だが結局はいつも通り何も守れなかった。私が感じる無力感は日本にいた時から何も変わらなかった」
「……」
「私がわずかながらに救えた命、守れた国、今生きている君たちはその証左だ。それをこの目で見れたことは本当に嬉しいのだよ」
「……はい、はいっ、……ありがどうございばす」
「己の子すら満足に守れぬ下らぬ人生、下らぬ人間だが、少しは生きた甲斐があった。そう思えるのだ。だから本当にありがとう。心から、そう言えるのだ」
向田さんがちょろっと鈴木さんを見た気がする。
鈴木さんは気づいているんだろうか?
「ごちらこそ、本当に、あ、ありがどう、ございばすっ」
王様、泣きまくりだな。
途中から言葉がまともに出ないほど泣きまくりだわ。
王妃も騎士もみんな泣いてるわ。
鈴木さんも上を見て涙がこぼれないようにしてるわ。
鈴木さんはぐっときているらしい。
「先生、なんでみんな泣いてるの?」
ブーちゃんと弟が話しかけてきた。
子供ってこういう時わりとけろっとしてるよね。
「先生も泣いてるの?泣きそう?」
弟がやたらこっちを見てくる。
「俺は目にゴミが入っただけだポリン」
「……ポリン?」
変な罰ゲーム考えた自分をひっぱたいてやりたい。
そして俺達は王族含めて、また何日か向田さん家に滞在することになった。
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