虹色のプレゼントボックス

紀道侑

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第二章 向田さんちの無花果の樹

いきなりクライマックスってなに?クライマックスならクライマックスに持ってこいよ。なんでスタートからクライマックスなんだよ。

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「龍臣っ、あと何時間だ!?」

「1時間15分っ」

 京の呼び掛けに大声で答える。
 わけのわからない国家滅亡の急展開を受けて俺達は今空を飛んでる。
 成層圏にある異空間の中に住んでる死にかけのおじいちゃんをぶっとばすために……。

 ホントに意味がわからん。
 ついさっきまで遠足気分だったのに。
 なんでいきなりカウントダウンつきのクライマックスなんだ。

 鑑定結果が出てすぐにみんなに説明してダンジョンを出てきた。
 そして飛行船じゃ絶対に間に合わないので、まんじゅうに運んで貰って時速300キロで飛んでる。
 今飛んで三時間位だ。

「それで!?なんだっけ?安田くん僕たちはなにすればいいの?」

 同じくまんじゅうに運ばれてる鈴木さんから大声で疑問を叫ばれる。
 まんじゅうのウインドウォールがあるが風がごうごう言ってて大声でないと聞こえづらいのだ。
 ちなみにまんじゅうに運んで貰ってるのは、ダンジョンにいた全員だ。
 まんじゅうのマジックハンドは最大で手が100個出せるので俺達パーティー全員と騎士団も全員運べる。

「わかんないっ、説明する時間があれば何にもしなくていいけど、時間なかったら昔の侍よろしく押しとおるって叫びながらおじいちゃんのとこまで邪魔する奴等はみんなぶっ飛ばして行くっ」

「うそでしょ!?みんなぶっ飛ばすの!?」

 俺も嘘だと思いたいよ。
 俺なんてこれから現れるであろう色んな難関をぶっ飛ばしながら乗り越えた先で最終的に死にかけのおじいちゃんぶっ飛ばすんだよ。
 ただの鬼畜の所業だよ。
 心が痛むなんてもんじゃないよ。

「儂らがいればなんとかならんか?」
「そうじゃ、儂らは勇者向田のパーティーメンバーじゃぞ」

「一万五千年も経ってっから、さすがに無理っ、メダカのこと覚えてんのおじいちゃん本人しかいないから、その本人ももう意識がなくなってるっ」

 ダンジョンからはメダカも一緒についてきた。
 まあ向田さんがやばそうだって話をしたらついてくるだろうなとは思ってたよ。
 ……しかしメダカ凄いな。
 今はとんでもないことになってる。
 外に出た時にメダカ達の周りに水が集まってそれが魚の形になった。しかもなんか金色に光ってる。
 遠くから見たら数十メートルのデカイ魚が数十匹群れをなして空飛んでるように見えるだろう。
 そりゃ光樹の大魚とか中2っぽい名前で呼ばれるわ。


「安田様っ、私達はついていって役に立ちますかっ!?」

「人手はあればあるほどいいからっ、助かるよっ」

 今度は騎士団の隊長だ。
 人手があればあるほどいいのは確かなんだが、ほんとは彼らには王子二人を連れて避難して貰いたかった。
 だが王子二人を含めてみんな絶対についていくと聞かなかった。
 あのダンジョンからなら、なんとか放出されるらしい電磁波とやらの範囲外に逃げられるんだが。
 
 どうやら電磁波とやらはよっぽどの範囲に効果を及ぼすらしく、ダンジョンを出た時点で王都に避難勧告しても間に合わなかった。
 爆発寸前の核から逃げるようなもんなんだろうな。
 だからもうなんの策もなくただひたすらにおじいちゃんに向かう最短距離を進むのみだ。


鑑定結果

あと約47分です。
異空間の扉を破ると青森県位広い空間に、地球から異世界に転移した蟻が進化した蟻人と向田さんが保護した人間の子孫達が作った王国が広がっており、大体その中心部に王都さらにその中心部に王城があり、その最上階に向田さんが寝てます。
現在蟻人の王族達に看取られている最中です。
強硬突破する場合蟻人には気をつけて下さい。
地球から転移した蟻の子孫ですので、人間よりも優秀です。
メダカとまんじゅうとパーティーメンバーと騎士団をフルで活用すればギリギリで犠牲者を出さずにいけます。


「蟻人ってのがいて、結構強いらしいからみんな気をつけてなっ」

「蟻人か」
「うむ、うちの庭に居た蟻たちじゃな」
「彼らの子孫か」
「感慨深い」

 メダカたちによると蟻達は昔は向田さんのパーティーメンバーだったらしい。
 向田さん家の庭に居た蟻が一万五千年で進化して王国作ってるとか、壮大なんだかなんなんだか。

 あ、空の色が濃くなってきた。
 異空間の入り口あんの成層圏らしいからな。
 これまんじゅうの魔法無かったら寒いんだろうな。

 ていうかざっくり成層圏って言ってもな、どこにあんだか……。

「龍臣っ」

 俺が鑑定しようとした瞬間に、京が叫びながら何かを指差してる。
 ……ああ、あれっぽいな。
 なんか光ってるわ。

 まんじゅうが光に近づいてくと、だんだんはっきり見えてきた。
 うん。でっかい光ってるドアだわ。
 空中に浮いてるから違和感が凄い。

「おお、異空間の入り口じゃ」
「間違いない」
「こんなところにあったのか」
「見つからぬわけじゃな」

 メダカ達が感慨深く話してる。

「ていうか、これ君らの家なんだろ、なんで入れないのよ」

 自分の家に入れないって変だろ。

「主は用心深い」
「昔泥棒が入ったんじゃ」
「それ以来鍵が三つ無ければ主でも中には入れなくなった」

 泥棒って。

「よし、じゃあ行くぞ、なんか全力でひっぱたけば開くらしいから」

 手が痛そうだなあ。
 じゃあ、せーの……。


 ビターーーーーーーーーーンッ!!!!


 痛いっ、凄く固い壁に思いきり平手打ちした痛みだっ。
 あまりに想像そのままな痛み。


 ……ギイッ。

 あ、ホントに開いたっ。
 分かりやすい扉開く音たてて開きやがったっ。
 え!?おかしくないっ!?
 刑事ドラマみたいに体当たりしてドアぶち破るなら開くのわかるけど、なんで扉ビターンッて殴っただけで鍵閉まってる扉開くんだよっ!!

「ぎゃあっ」
「うぐうっ」
「イダダダダっ」

 今度はなんだっ。
 え!?急にメダカの何匹かが騒ぎだしたっ。
 イダダダダとか言ってるっ。
 でもメダカだから表情とかわからんっ。
 何が痛いの!?

「年甲斐もなくはしゃぎすぎたーっ」
「扉開く時に力みすぎたーっ」
「ぎっくり尾骨じゃあーっ」

 ぎっくり尾骨っ!?
 なにそれっ!?ぎっくり腰の魚バージョンっ!?

「何をやっとるんじゃササダンゴ、スアマ、サクラモチっ本番はこれからじゃぞっ」

 そんな名前!?
 さりげに一番最初に遭遇したメダカも混じってるっ。
 おいっ、ちゃんとしろよっ。

「す、すまん一ミリも動けそうにない」
「儂らは足手まといじゃ」
「すまん、儂らは置いていけ」
「治すのにも数分かかるっ、時間が惜しいっ、行けっ」


 ええーっ!?
 本番始まる前に戦力一割位減ったじゃねえかっ!!
 なんだこれっ!!

「や、安田くんどうするの!?」

 いつも冷静な鈴木さんでも焦ってる。
 俺もだけどっ。
 ちょっとまてよ、さっきまでの戦力でギリギリだったんだぞっ。


鑑定結果

異空間の扉の先には砦があり、開かないように蟻人の騎士団が砦に常駐して管理しています。
彼ら緑旗騎士団は左遷された騎士団で王国に対して多少思うところがあります。
彼らの上位十数名を仲間に引き込んでください。
メダカ分の戦力をギリギリ補填できます。
キーワードは「主を救える。今こそミカルコ山での恩を返せ」
勇者スズキの話もしてください。
あと約43分です。


 またキーワード出たっ。
 す、鈴木さんの話!?なんで鈴木さん!?
 まあいいや、急ぐぞっ!!

「なんとかなるっ、行くぞっ」

 宙に浮いてる扉から中にみんなで飛び込む。
 メダカもちっちゃくなった。
 いや、メダカ本体は元々ちっちゃいんだけども水で作った魚体がちっちゃくなった。
 何匹かは腰痛だか尻尾痛で居残りだ。

 扉の中は部屋だ。
 鉄の柱やらレンガで出来た無骨な部屋だった。

 ん!?、なんかいるっ、俺達が入ってきた部屋の扉を囲むように何かが取り囲んでる。
 これが蟻人か?
 蟻っぽくない……ロボットっぽい。



「何者だ!?」
「虚空の扉から来たぞ」
「であえいっであえいっ」
「人間か!?」

 のりと勢いで機先を制してやるっ。

「ここにいる太ったおじさんをどなたと心得るっ、勇者鈴木義一様ぞっ」

 急にふられた鈴木さんが、今まで見たこともない位、え!?って顔してる。

「す、スズキっ!?」
「あ、主様の昔話に出てくる元町二丁目の神童」
「凄い大学にいったという、主様の近所に住む自慢の子供」

 元町二丁目の神童!?
 凄い大学にいったという近所に住む自慢の子供!?

「ど、どうも勇者鈴木です」

 この人いい大学行ってたらしい。

「「「は、ははあーっ」」」

 ああ、印籠出された下っぱみたいにみんな土下座ポーズだ。
 よし。

「主を救えるっ、今こそミカルコ山での恩を返せっ」

「あ、主様を救える?我々の命を救われた恩を返せる?」

「「「うおおおおおっ!!!!!!」」」

 雄叫びをあげる蟻達が仲間になりました。
 いやなんだこれ?





「王都はあっちですっ」

 蟻人の騎士が王都の場所を教えてくれる。
 蟻人の騎士を連れて飛んでから今で十数分くらいだ。
 蟻達にはきちんと何をするのかを説明した。
 ていうか鈴木さんとこの騎士団長に頼んだら穏便になんとかなるんじゃねえか?


鑑定結果

あと約17分です。
ちなみに鈴木と騎士団長でもなんとかなりません、もう17分しかないのに王族に話し通してうんちゃらかんちゃらしてる時間なんてありません。
一直線に押し通ってください。


 ああ、まあそうよね。

「まんじゅう、大丈夫か!?まだもつか!?」

 リ、リンリンリンっ。

 も、もうへっとへとだけど頑張るっ。のリンリンリンだ。
 数十人運びながら成層圏まで空飛んで、今はほぼ百人を同時に運んで時速300キロで魔法使いながら飛んでるからな。
 すまんまんじゅう。
 もう少し、もう少しだけ頑張ってくれ。

「王都ですっ」

 蟻人の一人が叫んだ。
 確かに町が見えてきた。
 キノコみたいな独特の建物が建ち並んでる。
 中央にある一際でかくて高い建物が王城だろう。

鑑定結果

王城の最上階には向田の守護がかかっており最上階から直では入れません。
城の中庭から突入してください。
あと約15分です。

「まんじゅう中庭に降りろっ」

「隊長さんっ、ピンタさんっ、本番だっ、怪我させんなよっ」

「「はっ」」

「子供組はあんまり前に出ずにカワウソ達の指示を聞けっ」

「うんっ」
「任せよ先生、余は我が国を守るっ」

 よし、ブーちゃんもやる気満々だ。
 期待してるぞ金太郎のポテンシャル。

 ズサアアアアッ!!

 みんなで中庭に着地。
 ほぼ同時にまんじゅうが力尽きた。

「ピンタさん、まんじゅう頼む」

「承知っ」

 優しく抱えてまんじゅうをピンタさんに託す。

「まんじゅう、よくやったな」ナデナデ。

 リンリンリン。

 いいから早く行ってのリンリンリンだ。
 よし、まかせとけ。

「メダカ達っ、頼んだぞ、怪我人すら無しなっ」

「任せよっ」
「主を頼むっ」
「たぎるわいっ」

 予定通り一番不慮の事故が起きそうなここに最大戦力のメダカを配置する。

「なんじゃ貴様らあっ」
「くせ者じゃあっ」
「主様の安寧を妨げさせるなっ、罰当たり共を引っ捕らえよっ」

 城から中庭にわらわら蟻人が出てくる。人間の兵士もいるな。
 向田さんの見取りを邪魔されてみんな激おこだ。

「貴様は左遷になった騎士クサダンゴっ」
「王都に反旗を翻す気かっ」

 そんな名前だったのかこの騎士。

「反旗を翻すつもりなどないっ!!今も昔もこの命は主様のためにあるっ、今こそ主様に大恩を返す時っ、立て緑旗騎士団、正義は我にありっ」

「「「おおおっ!!!!」」」

 おお、連れてきた蟻騎士団がやる気満々だ。

「行ってくだされっ、勇者様方っ!!」

 勇者勢みんなでうなずいて走り出す。

 みんなで城の入り口に飛び込む。

鑑定結果

あと約12分です。
真っ直ぐ進めば階段があります。
そこを上ると女王の間です。
国一番の腕利きの近衛騎士たちがいます。鈴木にゴーレムの銀杖を渡してこの場を任せて下さい。
勇者安田と勇者唯川、勇者東はそのまま進んで玉座横にある階段から上へ。


 階段を上って魔法の袋から出したゴーレムの銀杖を鈴木さんにパスする。
 階段を上り終わるとやたらでかいきらびやかな部屋に着いた。
 ここが女王の間か、広い。
 で、その広い部屋にやたらでかい蟻人が何人かいる。

「くせ者か」
「騒がしいと思ったが」
「主様の安寧を妨げる者は絶対に許さん」

 おおう、このでかい蟻人達はなんか落ち着いてて雰囲気がある。
 お!?急に体が引っ張られた。
 なんだと思ったら京が俺を抱えながら駆け出してた。
 凄いスピードででかい蟻人の横を通り抜けようとする。

「行かせんっ」

 でかい蟻人も俺達を阻止しようと動く、でかい癖に早っ。

 ガンッ!!

「ぐっ!?」

 急に出てきた透明な壁にでかい蟻人が阻まれる。
 これは鈴木さんのスキル、絶対破れない壁を作り出すバリアっ。
 久しぶりの登場だ。

「さすが元町二丁目の神童っ」

「やめてっ、それ言わないでっ」

 俺達は無事に玉座横の階段を上ることが……。

「ぬおおっ絶対に行かせんっ」

 なんかでかい蟻人の一人が急に光って尋常じゃないスピードでバリア回り込んで通せんぼされた。
 なんだこれ、なんかのスキルか。

「おおっ、なんだこれはっ、力がみなぎるっ」

 光ってる本人がなんか戸惑ってる。
 なんだこいつ、まさか今この瞬間になんかの力に目覚めたのか?
 漫画の主人公みたいに!?
 はあ!?そんなんある!?
 そういうの起きるの普通こっち陣営じゃね!?

「どけえっ!!」

 ガゴォッ!!

 おうっ!?俺のこと抱えてる京が飛び蹴りして光ってる蟻人ぶっとばした。
 そのまま俺を抱えて東くんと共に階段を上る。

「京っ、怪我させたらだめだ」

「あのくらいなら多分怪我せんっ」

「自分もそう思いますっ、多分あの人凄い強いですよっ、ていうか安田さんあとどのくらいなの!?」

鑑定結果

あと約10分。


「あと10分っ」

「っ、急ぐぞっ」

「急ぎましょうっ」

 俺を抱えた京と東くんが凄い早さで階段を上る。
 階段を上がると長い一本道のドアがたくさんある廊下だ。
 廊下のつきあたりにはでかい扉が見える。

鑑定結果

あのでかい扉過ぎたらまた階段。
そこを上れば最上階です。


「あの奥の扉だっ、そこ上れば最上階っ」

「よしっ、なんとか間に……っ!?」

 なんだ?京が急に止まった。
 ……ん?なんだ?廊下の先になんか黒いモヤみたいのが見える。
 なんだあれ、黒いモヤがだんだん何かを形作ってく。

 人だ。なんかお爺さんになった。
 この人が向田さんか?え?なんで?

「お、おじいちゃん」

 え!?東くんの口から信じられない単語出なかった!?
 あれ東くんのおじいちゃん!?
 はあ!?まてまてまてまてっ。
 これなんなんだっ!?向田さんの能力か!?


鑑定結果

向田は関係ありません。
誰かの意思でもなく全てをなるようにならせようとする宇宙の波です。


 おい、訳わかんねえ鑑定結果出たぞっ!!


鑑定結果

とあるクラゲ型の神に何かの力と呼ばれるものです。


 わけわからんっ!!


鑑定結果

生命を守れない神々が悩み続けているものの正体です。


 はあ!?

「さっぱりわからんっ」

「っ!?どうした龍臣、目が光ってるぞ!?」

「ええ!?俺目光ってんの!?」

 俺を含めてわけわからんっ。
 くそ、なんだっつうんだいったい。
 なんだか知んないけど東くんのじいちゃん出てくるしよ~。
 じいちゃんはげてるしよ~。
 もうなにこれ、全部めんどくさくなっちまうぞ。


鑑定結果

要は宇宙を形作る再生と崩壊のサイクル。
それの崩壊の方の流れです。
崩壊に進ませる力がヤスダ達の邪魔をしようとしています。

宇宙規模で見た場合惑星に住む生命は恐ろしく儚い存在です。
雨が降り注ぐ大地にいる蟻が溺れ死ぬとしても雨は蟻を殺す為に降っているのではなくただの自然現象で降っています。
それと同じように宇宙規模で起きている自然現象のサイクルに巻き込まれて消える生命は神にすらどうしようもありません。
むしろ宇宙規模では神すら自然現象の再生と崩壊のサイクルの一部になってしまうのです。
宇宙が高次元宇宙に移行する時は殆どが崩壊の流れになっています。
だから守れないし救えない。
そして神も数が増えません。
今回は始めにメダカのぎっくり尾骨、次に近衛騎士の急な覚醒、そして絶対に越えられない壁として、勇者東の祖父の姿を形作って現れました。


 おいおい、なんか途方もない鑑定結果でてきたぞ。
 それはなんとかなるもんなの?


鑑定結果

なります。
空にヨウ化銀を撒いて雨を降らせられるように、天候すらも理論上は操作できます。
宇宙のサイクルに巻き込まれないほどわけのわからない強固でちんぷんかんぷんで天の邪鬼な自己をもつヤスダがいるので、まちがいなく解決できます。
本来生命の殆どが絶滅しているはずの地球で多くの人間が神に至れたのはヤスダのようなちんぷんかんぷんな神が関わっていたからです。
今回もできます。

勇者東にあれは偽物だと伝えて下さい。
おじいさんは全てを察しながら孫の東を心から大切に思っていたと伝えて下さい。

あと約7分です。


 ええ?なんとかなんの?
 東くんが今までに見たことないほど狼狽えてるけど。

「東くん、ありゃ偽物だから」

「ええ!?いや、そりゃ、そうでしょうけど、自分は、俺は……」

 東くんの一人称がぶれぶれだ。
 俺とか言ってる。
 心が乙女で鬼みたいな顔してる東くんは一人称がずっと「自分」だった。

 鑑定に書いてあるなんかわからんことを伝えてやろう。
 いや、ぶっちゃけなんとなく想像つくけどさ。
 東くんのおじいちゃん多分東くんの心は乙女問題知ってたとかそういうことなんだろうけどさ。
 他人が首突っ込むのは野暮だわ。

「東くん、おじいさんは全部察してたみたいだよ」

「え!?」

「全部察してた上で、孫の東くんを大切に思ってたそうだよ」

「……」

 あ!?東くんの偽じいちゃんがなんか飛びかかって……っ!!

 ガッ、ガッ、ガガガガガンッ!!

 おおうっ、東くんと偽物おじいちゃんがカンフー映画ばりのアクションを披露してるっ。
 なんか二人が向き合って構えてるぞ、おお、かっけえ。

「……」

「おじいちゃんの教えてくれた武術のお陰で、異世界でも生き抜いてこれたよ」

「……」

 偽物おじいちゃんはなにもしゃべらない。偽物だからな。

「ごめんね。おじいちゃんの思ってるような孫じゃなくって」

 ガッ、ガガガンッ。

「安田さんっ、先に行ってくださいっ、ここは「自分」に任せてくださいっ」

 鬼みたいな顔した東くんが鬼みたいな顔で笑いながら先に行けって言った。

「いこう京」

「わかった」

 俺を抱えたまま京が走り出す。
 東くんのおじいちゃんが邪魔しようとしてくるがなんか東くんの合気道っぽいやつで壁の反対側に投げられる。

 無事におじいちゃんの横を抜けれた。
 東くんがまた偽物おじいちゃんになんか話してるが、もう聞こえないな。
 聞くべきでもないだろう

「さすが龍臣だな」

「俺なんかしたか?」

「んふふ」

 そして廊下奥の扉からとうとう最上階についた。
 また一本道の廊下だが、突き当たりにある豪華な扉以外に部屋はない。

 ああ、ていうかまた黒いモヤがある。
 そして今度も人の形になる。
 ん?なんだあれ、侍みたいなかっこした女だ。
 片目に刀の鍔を眼帯みたいに着けてる。
 ええ?一昔前の時代劇の女主人公みたいのが出てきた。

「……ほう、私の敵だな」

「……敵なの?」

「あれは柳生十兵衛だ」

「……女じゃん」

「女だったんだ。私はあれに剣術を習った」

 まじでか。
 京がドサッと俺を地面に下ろす。
 ん?なんか一瞬変な顔してこっち見たな。

「行け龍臣、ここは任せろ」

 おおう、京の髪が白くなって伸びて、目が赤く光ってる。
 あ、背中になんか黒い羽根みたいの出てきた。

「……」

 なんか京がこっち見ないようにしてる。
 でも明らかにこっちを意識してる気がする。
 何よ?なんかコメントが欲しいのかな?

「……アメコミのキャラみたいになったな」

「…………ぷっ、あははははははっ、アメコミのキャラみたいか私?」

 うん。

「あははははははっ、心からお前を愛してるぞ龍臣っ」

 ええ!?告白されたっ。
 やだ、なんて男らしい告白。

「!?、あぶねえっ」

 柳生十兵衛らしい女が斬りかかって……。

 ひゅどおおおぉんっ!!

 え!?なに?空中にいた柳生十兵衛が消えた。ええ?廊下の壁にでっかい穴が空いてる。
 全く何があったのかわからんかったが、多分空中にいた柳生十兵衛を京が壁に穴あくほど吹っ飛ばしたんだろうな。
 全く見えなかったけど。
 京が穴から身を乗り出して外を見ている。

「あいつはあの程度では傷もつかんだろうな」

 マジで!?お前らどこの世界の人!?

「いけ、龍臣っ、全て救ってこいっ」

 うん。いやまあ行くけどね。

「あーははははははははっ、今の私は負ける気がしないなあっ」

 バサアっ、みたいな効果音と共にアメコミに出てきそうな女がなにやらはっちゃけながら穴から飛び立って行った。


「……おう、早くいくべ」

 やべ、一瞬ボーッとしちまってた。
 あれ?ていうか穴開けられるんならなんで中庭から突入したんだ?


鑑定結果

勇者唯川京はたった今覚醒して神としての壁を越えたからです。
中庭の時点ではできませんでした。

あと2分です。


 ああ、なにやら今レベル上がったみたいなこと?
 ていうか、あと2分か、これは完全に間に合ったな。
 少し余裕があるくらいだ。

 んん!?
 やべえっ、扉の前にまた黒いモヤがあるじゃん。
 ああヤバイ、今までのパターンだと今度は俺のトラウマ的なのが出てくるはずだ。
 やべえっ抗える気がしない。
 くそう、これが本当のラスボスか……。

 モヤが徐々に形をなしていく。

「……」

 これが俺のトラウマ?
 俺の心の闇が形を成したもの……。






















 こんな変なの見たことない。そして全く怖くない。
 そして普通に横を通れた。


 ……なんだこのイベント……。

 残り時間2分で俺はとうとうゴールについた。
 俺は豪華な扉に手をかけて開く。

「っ、何者ですっ!?」

 部屋の中に入ると何人かの蟻人が居た。
 でっかいベッドを囲むように立っている。
 蟻人の王族ってやつか。

「……人間?」
「なんだ、主様を守れっ」

 周りにいる蟻人達がベッドを守るように移動する。
 ああ、おじいちゃんがいるわ。

「はじめまして、安田龍臣といいます。虚空の扉を通って外から来ました」

 じゃあ失礼して。

「主様に近づくなっ」

 おっと、蟻人の一人が剣抜きそうだ。

「…お止めなさい」

「女王っしかし」

 女王?ああ、そうか蟻だもんな。

「あなたは何者ですか?何をしに来たのですか?」

「……説明めんどくさいんで向田さんを助けてからでいいですか?」

 俺はベッドに無理矢理近づく。
 ああ、おじいさんが寝てるわ。
 うん。優しそうなおじいちゃんだ。

 後一分。

 さて、あと残り数秒とかって言うありがちなカウントダウン展開にはならなかったけど……。
 はあー、気がひけるわ。

「二万年も頑張ってくれたおじいちゃんにまだ頑張って貰わなきゃいけないのは本当にごめんよ。でもまだこの世界には向田さんが必要らしいですよ」

 ……よし、じゃあ。
 俺は息を目一杯吸って腕を振り上げる。
 目の端で蟻人が剣を抜くのが見えたが、女王が止めてくれたみたいだ。
 よし。

「滅っ竜っ烈火っ神殺拳っ!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 ガッゴオォォォッ!!!!!

「女王っ、こいつ滅竜とか言ってますよっ暗殺者でしょう!?」

 うんまあ、そう思うでしょうね。

「いいえっ、見なさい」

 そうね。俺の拳はなにやら向田さんの1センチ位手前でなんか変な壁みたいのに当たってる。
 そしてやたら俺の拳が光ってる。拳から出る光が向田さんを包み込んで部屋中に広がる。
 ああ、このスキルこんな感じになんだ。
 実際には殴らなくてもいいのね。
 よかった。

 そして俺の手から出る光の奔流で何も見えなくなった。

鑑定結果

成功です。お疲れさまでした。


 うん。帰って寝たい。

 ……そういえば、自分の中の闇に打ち勝つみたいなイベントで俺の場合ヤカン一杯持ってるタコが出てきたこと誰かに相談した方がいいかな?
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