虹色のプレゼントボックス

紀道侑

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第一章 温室育ちのへっぽこ先生異世界に降臨せり

ムキムキ領主さんのムキムキの息子さん

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「すまなかった!!」

 ダンジョンの魔物の大氾濫を解決して、なにやらそそくさとダンジョン都市の領主の館に帰ってきた。
 なんでそそくさと?と思ってたら、勇者様はハゲで手がたくさんあって浮いてると認識されてるから、その認識を持たれたままの方がいいっていう、ムキムキ領主さんの考えだった。
 ハゲかつらかぶってない普通のかっこなら、勇者だとばれずに余計なアクシデントを避けられるだろうってことだ。

 後日魔物の大氾濫をおさめたってことで表彰されるらしいが、その時にもハゲかつらかぶって浮いててほしいそうだ。
 俺はたくさんの人が居るところでは、化け物になることが確定したらしい。

「すまなかったっ!!許してくれこのとおりだっ!!」

 ちなみに冒頭からすごい大きな声で謝ってるのは、ムキムキ領主さんの息子さんだ。ムキムキ息子。
 ムキムキ領主さんから一通りの事情を聞いたらしく、土下座スタイルですごい謝ってくる。
 この世界にも土下座が存在したんだな。
 ああ、前にピンタさんもやってたかな。

「大丈夫ですよ、俺もまんじゅう大暴れさせるぞって強迫するとか無茶なことやりましたしね。反発する人いても当然ですよ」

「……すまねえ、すまねえ」

 また土下座ですごい謝ってくる。
 もうすげえいたたまれない。
 あ、ムキムキ領主さんがムキムキ息子に近づいてく。
 なにやらムキムキ息子の顔見て頷いてる。

 ボコンっ!!

 あ、また殴った。また気絶しちゃったよ。
 なんでやねん。和解する感じだったじゃん。

「慰めようかと思ったが、やっぱり腹が立った!!」

 ええ……まだ怒りおさまってないの?

「あなた、もうその辺でやめてあげてくださいな」
「ええ、確かに夫が全面的に悪いですが、もう、その辺で」

 おっとりした声の主たちが止めに入る。
 ムキムキ領主さんの奥さんとムキムキ息子さんの奥さんだ。
 おっとりした白髪のおばあちゃんと、おっとりした美人なおばちゃんだった。
 心の中でムキムキ息子さんって呼んでるが、ムキムキ息子さん38だからな、そりゃ嫁くらいいるわな。
 ていうか子供も二人いるらしい。そりゃ38ならいてもおかしくないわな。



 そして次の日には、ちゃんと冒険者の精鋭や町の兵士の人も揃えて、他のダンジョンの氾濫を処理できたらしい。
 らしいっていうのは、あれだ。俺は欠席だったからだ。
 あれ?召喚魔法で処理できるなら、まんじゅうだけいりゃいいんじゃねって空気になったので、素直に欠席した。
 まんじゅうの下級召喚魔法で契約じゃなく、今度は使役して使ってみたそうだ。
 魔物達はでかい蟻や変な色の虎とか、あくまでリアルな感じなのだが、まんじゅうの召喚した魔物はなにやらデフォルメされた人形の形でサイズがでかくなって出てくるらしい。
 まんじゅうの口からカプセルが大量に出てきて、空中でカプセルがパカッと開き、中の人形的な魔物が即でかくなり着地して臨戦体勢に入る感じだそうだ。
 見た目はたいそう可愛らしいと評判だ。
 そして契約した五千匹の魔物人形で、他のダンジョンの魔物達を蹂躙したそうだ。
 他の小さなダンジョンの氾濫はせいぜい千匹程度だったらしいので、楽勝だったとまんじゅうが言っていた。
 ちなみに召喚魔物は、やられると目がバッテンになり、カプセルサイズに戻ってまんじゅうの口の中に自動的に収納されるそうだ。やられ方まで可愛らしい。
 調べたら、ゴーレムの杖のゴーレムと同じで一日経つと復活するそうだ。
 つまりまんじゅうを倒そうと思ったら五千匹の魔物を一日で退治してまんじゅうを倒せなければ、次の日にはまた五千匹出てくるってことだ。
 ファンシーな見た目に反して、とんでもなく恐ろしい能力だ。

 そんな話をまんじゅうが、リンリンリン、リンリン、リンリンリン、リン、リリリリリンリンリンリン、リンリン、リンリンリン、リリンリンリンリン、リンリン。という感じで話してた。
 すごい細かいニュアンスまでまんじゅうの言ってることが伝わる。
 どうなってんだ俺の脳ミソ。
 
 ちなみに俺は、まんじゅうたちががんばってる時に呑気に領主の館で焼き肉をごちそうになってた。
 なんでもダンジョン都市の近くの牧場で育てているブランド牛だそうで、ダンジョン都市の名物らしい。
 ダンジョンのドロップアイテムに動物を豊かに育む飼料的なやつがあるらしく、牛だの豚だのがすごい育つらしい。
 しかしまさか一人焼き肉デビューを異世界でするなんて思ってもみなかった。
 超おいしかった。
 ロース、タン、カルビ、ホルモン、一通り揃ってた。
 多分どっかの日本人が広めたんだろうな。

 そんな数日を過ごしている内にすべてのダンジョンを処理できた。
 まんじゅうの人気もうなぎ登りでまんじゅうの銅像が建てられることになった。
 またまんじゅうが遠くにいってしまった。





 ……これただのたくさんガ○ャポン入ってるだけの箱だな。
 

 それからさらに数日後、表彰式が行われた。
 ぶっちゃけ地獄のような表彰式だった。
 町中の人間が集まってるが静まりかえってた。
 それはそうだろう。勇者と呼ばれてるが、頭から光の柱出してて手がたくさんあって、宙に浮いてるわけのわからない生き物の表彰式だ。
 よく人が集まったよ。

 表彰されて金一封を貰う段になって、俺が調子こいてロシア語で意味不明なことを叫んだのも悪かったな。
 今考えるとテンパってたのかもしれない。
 なんかしんないけど、この際化け物感に拍車をかけようってテンションになって、市民のほう向いて両手挙げながら「スパコーィナイノーチ!!!!ダスヴィダーニャ!!!!」ってすごいでっかい声で叫んでしまった。
 異世界人も急にロシア語で、おやすみなさい!!!!さよなら!!!!とか言われてもな。
 ロシアどころかユーラシア大陸も知らんだろうにな。
 なんであんなことしたんだ俺?
 市民はみんなそれはそれは怯えた顔をしてた。
 ムキムキ領主さんもカワウソ達もドン引きしてたからな。
 そして静まり返った表彰式は静まり返ったまま終わった。



 そんな色々があり、今は領主の館でカワウソ達を見送ろうとしているところだ。

「先生、本当にいかないんですか?」

 もう何度も同じやり取りをしてるがピンタさんがまた聞いてくる。

「まあ、足引っ張っちゃいそうですしね。みんなだけでいってくださいな」

 そもそもダンジョン都市に来ようと思った最初の目的はカワウソ達のレベル上げが目的だった。
 今はそれをやろうとしてるわけだ。
 ダンジョンに潜る為にはテンプレ通り冒険者ギルドに登録する必要があるらしい。
 そしてこれまたテンプレ通りに冒険者にはランクがあり銅、銀、金、ミスリル、オリハルコンって順で高くなるそうだ。
 カワウソ大人組はみんな登録済みでピンタさんとパニニさんに至っては金ランクなんだそうだ。
 ミスリルやらオリハルコンってのは勇者や勇者の従者クラスのランクで一般的には金が天辺って印象らしい。
 ちなみに二千年前の勇者で俺と同じアパートの隣に住んでた田中君はオリハルコンだった。
 おかしい、あいつはでんぐり返りですらちゃんとできないこっち側の人間だったはずなのに。

 俺はダンジョン都市ではハゲた手がたくさんある化け物で通ってるので、どうやって登録すんのかな?化け物スタイルで冒険者ギルド行くのかなって思ってたんだが、ムキムキ息子さんはなんとダンジョン都市の冒険者ギルドのギルドマスターだったらしい。
 領主の館で登録からなにから全部できるそうだ。
 そしていざ登録しますか?って段になったときに俺は言った。

「登録しますん」

 んん、どっち?って空気になったが、登録しませんが正解だ。
 お膳立てされまくってるのに断わるのもなあ、という気まずさから変な返事になったが、断わった。
 だって俺はレベル上げいらない。
 何より職業冒険者が嫌だ。
  冒険者たたかうひと、みたいな物だろう。ルビでたたかうひとって書かかれててもなんの違和感もない。
 異世界に来たからといってそんな職業につくつもりはさらさら無いのだ。
 あと、カワウソ達と一緒に居たら四六時中化け物スタイルでいかなきゃいけないのもかなり嫌だ。
 だから断った。

 ダンジョンでのカワウソ達のレベル上げと安全確保はまんじゅうとゴーレムの杖とカワウソ村が入った魔法の部屋に任せようと思う。

「まんじゅう、みんなを頼んだぞ」

 リンリンリンっ。

「わかりました。では娘達を頼みます。先生」

 ピンタさんが渋々といった感じで他のカワウソ達とダンジョン行きの馬車に乗り込む。

「いってらっさーい」
「パパーお土産わすれないでねー」
「いってらー」

 カワウソ子供組が別れの挨拶をしている。
 カワウソ大人組はダンジョンに1週間ほど籠ってレベル上げするらしい。
 魔法の部屋があるから長期滞在もできるとのことだ。
 そして俺とカワウソ子供組は留守番だ。

 大人組を見送って領主の館に戻り用意して貰った自室に入る。

「先生、なにする?」

 ピンタさん娘のペペちゃんが話かけてくる。

「じゃあ、漢字の書き取りの続きだな。途中だったろ」

「えー、遊ぼうよ」
「えー勉強ー?」
「……遊びたい」

 子供組のブーイングがすごい。

「書き取り終わったら焼き肉食わせてやるから」

「えっ、焼き肉!?」
「よしっあちしやるよ」
「……やる」

 カワウソだろうが人間だろうが異世界だろうが焼き肉は子供達のアイドルなんだなあ。
 俺が用意してる訳でもないムキムキ領主さんが振る舞ってくれる焼き肉だが。
 漢字の書き取りをしようがしまいが、今日は焼き肉だった訳だが。


 そして、俺たちは焼き肉に舌鼓を打ち、ぐっすり寝て一夜が明け、朝昼食べて、カワウソ子供組に勉強させ、ゲームをやり、焼き肉を食べて舌鼓を打ち、ぐっすり寝て一夜が明け、朝昼食べて、カワウソ子供組に勉強させ、青いポケットついてるロボの大長編の方のDVDを見せ、焼き肉を食べて舌鼓を打ち、ぐっすり寝て一夜が明けた辺りで飽きた。

「外でよう」

「ええ?でも先生、領主様がなるべく外に出ないようにって言ってたよ」
「うん、言ってた」

「いやもう飽きたわ、インドア派だが何日も一切屋内から出ないで焼き肉食って寝て、焼き肉食って寝て、ではなんかおかしくなる、ちょっと言ってくる」

 何よりカワウソ子供らが心配だ。ここ三日の食っちゃ寝食っちゃ寝でなにやら丸くなってる気がする。少々運動させねば。
 そもそもなぜ夕食は焼き肉オンリーなのか、いや特に何も言わない俺も悪いんだが、もう人生で初めてだよ1週間連続焼き肉。
 まんじゅうがダンジョンの氾濫処理してる時も俺は焼き肉食っちゃってたからな。
 レベルが上がって体が頑丈になったのを、胃がもたれるかどうかで実感することになるとは思わなかった。

 俺は落ち着かないから部屋の外に待機してくれと頼んだ執事さんに外出たいって伝えてみる。

「少々お待ちください。領主様に連絡を取ります」

 しばらくしたらムキムキ領主さんとムキムキ息子さんが来てくれて、外出が許された。

「本来はあまり外出してほしくはないのだが、部屋の中ばかりにいては勇者様もつらいですな」

「勇者様、これ持っていきな、これを見せれば冒険者や兵士は助けてくれっからよ」

 と言ってなにやらカードみたいのを渡された。


アイテム名 ダンガンポート家身請け証明(黒)

説明

貴族の後ろ楯がありますよ。というカードの最上位版。
赤、青、銀、金、黒の五色があり色でその貴族の家の支援がどれ程のものかわかるようになっている。
最下級の赤でも貴族との友好の証として効力は絶大。
最上位の黒になるとそのカードの持ち主に何かあった場合一族の総力をあげて何があろうとも地の果てまでも追い詰めて刺し違えても八つ裂きにするぞって意味のカードになる。
領主家のカード故にダンガンポートでは逆らえる貴族すらいなくなる。


 おお、とんでもないものさらっと貰っちまった。
 まあ、使う機会ないべ。
 俺はカワウソ大人組がダンジョンに行ってる間、カワウソ子供組の面倒を見る為に王都から呼ばれた教師タツオミ君として活動することになった。

 よし、じゃあ観光だ。
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