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第一章 温室育ちのへっぽこ先生異世界に降臨せり
俺の人生に盗賊なんて人種が関わってくることがあるなんて思いもしなかった。いやマジで。いやマジでっていうかみんなそうじゃね?
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朝起きてカワウソ達が普通に居たことに、なんかちょっとほっとした。
ていうかカワウソ達は、俺が起きるまで出発せずに飯も食わずに待ってくれていたらしい。
すいやせん。
みんなで米と塩焼きの鮭っぽい魚と味噌汁に漬物っていう、超スタンダードな和風の朝食とってから出発。
今は魔法の部屋にできた窓から、外の様子を眺めながら紅茶を飲んでいる。
馬車に接続されている魔法の部屋は、もはや動く一軒家だ。
魔法の部屋の機能なんだろうが、馬車の揺れも一切感じない。
移り変わる窓の外の景色、すっきりとした味わいの紅茶、すごい優雅な空間、異世界転移数日目にして世○の車窓からばりのマッタリ感を味わっている。
もうまつ毛とかも、少女漫画に出てくるお嬢様位伸びてる感じになってるんじゃないだろうか。
そのくらい優雅さを体現してしまっているんではないだろうか。
コンコン
優雅にまったりしていると、ドアがノックされた。
「勇者様ー入れてえ」
「入れてえー」
「入っていいよ」
なにやらカワウソの子供達が四人とも来たようだ。みんな部屋に入ってくる。
「どうした」
「向こうの部屋、カンカンうるさいの」
「今武器作ってんのか、いいよこっちいて」
今カワウソ達の魔法の部屋では、戦力向上に向けて鍛冶師モンブランさんが鋼のインゴットで盾やら鎧やらを作っている最中だ。
でかい釜みたいのやらでかい金槌、金床だかも部屋に設置してたからな。
移動しながらそんなことも出来るって考えると、やっぱすげえな魔法の部屋。
しかしこの部屋のキッチンの換気扇とかもそうだが、つくづく魔法の部屋の換気やら排水はどうなってんのか不思議だ。
鑑定したら亜空間がどうだとかの説明でてきて理解すんの放棄したんだよな。
まあいいや、ぺぺちゃんたちに果物でも剥いてやるかな。
「果物あるけど食べるかい?」
「果物!?食べるっ」
「食べるー」
俺はキッチンで紫リンゴというまんま紫色のリンゴらしい果物を剥いて切る。この世界だと高級なリンゴらしい。
ぺぺちゃんのペットのカブトムシ、アクゲンタヨシヒラにも切ってやろう。食べるがよい源氏の猛者よ。
「ありがとう、……甘いっ紫リンゴだ、すごい、はじめて食べた」
「美味しいね」
「美味しいー」
「……勇者様なにしてたの?」
リンゴ君の娘さんで、寡黙なミカンちゃんがリンゴを頬張りながら聞いてくる。ややこしいな。
「優雅にまったりしてた」
「優雅?まったり?」
「みんなもやってみな、椅子に座って景色を見ながら、優雅に果物食べるんだ」
そうして俺たちは優雅にまったりする。
……なにやら景色が変わってきたな。
木が多くなってきた気がする。
コンコン。
「勇者様おられますか」
扉の向こうからノックとピンタさんの声が聞こえる。
「開いてますよ、入って下さい」
「失礼します勇者様、もうすぐ山に入ります。魔物も出るので気を付けて下さい。山を抜ければこの辺りで一番大きな街、マリアシリールに着きます」
ピンタさんが扉を開けて教えてくれる。
そうか景色変わった理由は、山の近くだからか。
俺は一度部屋から出て、馬車に貼ってある不思議な地図を見る。
お、部屋から出るとやっぱ揺れるな。まさに馬車って感じ。
この地図は通った場所が細かく地図に記入されていく、ゲームの定番の魔法の地図だ。付近数キロくらいが書き込まれる範囲。
ちなみにこの地図は異空間にある魔法の部屋の中だと記入されないので、部屋の外の馬車に貼っている。
フム、地図にミルク山って記載が増えてるな。
よしウルトラ鑑定。
場所名 ミルク山
説明
標高950メートルの山、タナカ平原に住むカワウソ族がマリアシリールに向かう時に使うため山道はある程度整備されている。
山道付近にはバネ野良犬、刺手草などの低級の魔物が出る。
山頂付近には鋼猪、巨人カマキリなどの中級の魔物も生息している。
なお山頂で、青菜草、赤菜草、などの初級魔法薬の材料が採取できる。
稀に色彩花という中級魔法薬の材料も採取できる。
余談
カワウソ族の通らないミルク山西域にある空洞には現在盗賊が住み着いており、盗賊のアジトにはマリアシリールの子爵令嬢パダルダワン・パンナが囚われている。
ちなみに盗賊は、サイカ国の悪事すべてに関わっているとまで言われる暗闇卿の依頼で動いている。
暗闇卿とはサイカ国の第二王子サイカ・ミナツキ、第三王子サイカ・ジューン、のどちらかではないかと国民には噂されているが、その正体は病弱を装い表舞台に出てこない、サイカ国の第一王子サイカ・ムツキである。
………………くっそう、またネタバレ地雷踏んだ。
裏の裏みたいなとこまでネタバレ食らった。
しかも地味に急を要するに案件じゃねえか、盗賊に誘拐された子爵令嬢とか……うわあ、重たいわあ。
「ピンタさん、この山って盗賊とか出ます?」
「この山に盗賊ですか?私達カワウソ村の連中とごくたまに行商が使う程度の山道ですから、今まで盗賊が出ることはありませんでしたな。どうかされたのですか?」
さて、暗闇卿とかいうワケわからん黒幕の話ははしょるにしても盗賊の話はしよう。
「いや、今ちょっとスキルで調べたんですけどね。どうやらいるみたいですね、盗賊。何やら子爵令嬢のパダルダワン・パンナさんとやらが誘拐されてる。という鑑定結果が出まして」
「パダルダワン卿の娘のパンナさんが!?なんてことだ!?」
「えっ?知り合いなの?」
はい、助けにいくことになりましたとさ。
西域には山道無いらしいので、何人かで歩いて行くことになった。
パニニさんとピンタさんとクレープさんと、俺とマンジュウだ。
やはり俺も行くことになった。
カワウソ達の中では、勇者の俺はもう当たり前に行く雰囲気になっていたのだ。
パワーレベリングしただけの、荒事に対してなんの経験も無いぼんぼんの俺が人質奪回か……不安しかないな。
でもカワウソ達だけで行かせるのも、またなにかあったらと不安だ。
ジレンマだな。ヘタレボンボン思考のジレンマだ。
ちなみに残りは子供達と留守番だ。ゴーレム召喚の銀杖も置いて来たので問題は無いだろう。
さて、目的地に到着。
山の斜面に洞窟がある。
誰か立ってる。見張りか?
あ、人間だ。人間のオッサンだ。
うわー……はじめて遭遇した人間が盗賊とはな……。
嫌な気分だわ。
人相も悪いわ、スキンヘッドで顔に傷があるわ、ピアスしてるわでもう最悪だ。人を見た目で判断したらダメと教わったし、生徒にも教えてるがアイツは絶対ろくでもないやつだ。
あ、唾吐いた。
ウルトラ鑑定
名前 ドルマン・ブルッケ ♂
年齢 34才
職業 強盗
称号 盗み上手
レベル 9
HP 88/88
MP 6/6
STR 28
AGI 40+5
VIT 25
INT 18
MND 12
DEX 33
装備
ダガー
軽業のピアス
所持スキル
短剣術レベル2
突き刺し、瞬刺、二連突き
体術レベル1
財布スリ、壁登り
余談
ろくでなし。
ほらやっぱろくでなしだった。ていうかろくでなしってしか書いてないわ。
「どうですか勇者様」
俺が鑑定スキルを使ってることに気づいたピンタさんが聞いてくる。
「レベル9の強盗だそうです。短剣術レベル2と体術レベル1のスキル持ってますね」
「レベル9じゃと……盗賊にしては随分高いのう」
「しかし勇者様の鑑定スキルはとんでもないですな。盗賊のスキルや山の鑑定をしただけで、盗賊のアジトまでわかってしまうのですから」
カワウソたちに聞いたが鑑定スキルはやはりこの世界にもあるらしい。結構珍しいスキルだって話だ。
普通は対象の名前だけわかったり、高レベルの鑑定スキル持ちでも、精々レベルとかアイテムのレア度位しかわからないスキルのようだ。
まあ、俺のウルトラ鑑定はアホみたいな名前のウルトラな鑑定スキルだからね。
「ええ、まあなんか知りたくないことまで知っちゃったりしますけど……」
わけのわからん神様とか、黒幕関連までなにからなにまでまるっと全部お見通しになってしまうからね……。
たまに、なんだかよくわからない女の人と電話みたいなやりとり出来るときもあるよ。
ピンタさんと鑑定スキルについて話してると、横でピンタさんのお父さんのパニニさんが顎に手をあてて何かを考えてる。
盗賊のレベルが高いって言ってたけど、パニニさんのレベル21だから半分以下だよね。
レベル9で高いって認識なら、もしかしてカワウソ村の人達ってレベルかなり高いエリート集団なのか?
田中君の手紙だと、確かレベル5を超えた辺りから結構な強者って話だったが。
二千年の間に、効率的なレベル上げのやり方でも見つかったのかと思ってたわ。
エリートのカワウソ達だったのか?
なんだろうな。エリートのカワウソって……。
「勇者様いかがいたしますか?何か考えがおありに?」
俺が人質奪回について考えてると勘違いしてそうなピンタさんが、意見を求めてきた。
ごめんなさい、今事件と全然関係無いカワウソ達のレベルについて考えてた。
まあ一応来るまでに色々考えてみたアイディアは、あるにはある。
だけども、俺全くの素人だからなあ。
「マンジュウの魔法に迷彩ってのがありまして、マンジュウとマンジュウが触ってるヤツの姿を透明にする魔法なんですけど。それで姿見えなくして、そのまま洞窟入ってやろうか、みたいなことを素人ながらに考えてました」
「ほう、そんな魔法があるのですか」
「そ、そんな魔法があるの?私聞いたこと無いけど」
ピンタさんがちょっと驚いて、クレープさんがものすごく驚いてる。
マンジュウの魔法って珍しいのかな?
「んで潜入してから上手く令嬢さん見つけられれば、マンジュウの魔法で盗賊全員痛風の呪いにしてから、子爵令嬢さん助けようかなと」
ピンタさんとパニニさんがドキッとした感じで体を一瞬震わせた。
「な、なんですかなその更年期のわれわれが寒気を覚える痛風の呪いとは」
「お、おそろしいネーミングだのう」
クレープさんはあんまりドキッとはしてないが、何か気づいたのか首を傾げている。
「呪い……マンジュウちゃんてまさか闇魔法を使えるの!?」
「あれ、言ってませんでしたっけ?闇魔法と風魔法と水魔法と雷魔法が使えますよ。うちのマンジュウは」
ちょっとどや顔で言ってやった。
「4属性も使えるの!?勇者ってやっぱり規格外なのねえ……」
「……本当にすごいのう」
「そんな魔法の使い手聞いたことありませんな」
リンリンリンっ。
恥ずかしいよ、照れるじゃあねえか、のリンリンリンだな。
「まあ、というわけなんでこの人間を襲うためだけに生まれた存在であろう魔物、宝箱ミミックのマンジュウを連れて、ちょっとだけ様子見に行ってこようかなとか思ってるんですけど、まずいですかね?」
リンリンリンっ。
嫌な言い方するね、のリンリンリンだ。
「……うむ、そんな便利な魔法があるのなら問題あるまい。4属性もの魔法が使えるのなら、臨機応変に対処できるじゃろうしな」
パニニさんの意見にクレープさんとピンタさんも頷く。
「では、勇者様よろしくお願いね」
「パダルダワン子爵は我々カワウソ村の者達とも馴染みがあり、個人的にも友人なのです。お願いいたします勇者様」
子爵と友人なのか、貴族と平民の身分の立ち位置がわからんな。
……いや、もしかしてエリート疑惑のあるカワウソ達が身分高いのか?
……まあ、今考えることじゃねえやな。
「じゃあ、ちょっくら行ってみます。行くぞマンジュウ」
リンリンリンっ。
合点っ!!のリンリンリンだ。
よし、そっと足音を立てずに近づいていく。
おお、10メートル位の距離まで近づいてみたらまあ人相悪いオッサンだわあ、うわあ、スキンヘッド、あたまつるつる。
しかもピアス、34才の禿げてるオッサンが耳に穴開けてピアス。
見た目で人を判断したらいけないって育てられたけども、もう完全なる悪人。救いようがないっ。
すごいろくでなし感が漂ってる。
「ん?」
……っ!?
ハゲが座ってる石から立ち上がってキョロキョロしだした。
気づかれた?まじで!?
俺は息を殺して立ち竦む。
「おーいっちょっと来てくれー」
ヤバイっ、ハゲが洞窟の方に呼び掛けて仲間を呼んだ。
ど、どど、どどどどうしよう。
俺がテンパってる間に洞窟から三人程仲間が出てきた。
……ああ、みんな見事な悪人面だわ。
「なんだよどうした?」
「いやなんか気のせいかもしんねえが、誰かに見られてる気がすんだよ」
「ホントか?」
盗賊達がキョロキョロと周りを見回す。
「……何にも居ねえと思うが、気のせいじゃねえか?」
「いや、居る気がするんだよ」
「でも実際居ねえだろうが」
「いや、居る気がする。とんでもない魔物ととんでもなくワケのわからない失礼なヤツが居る気がするんだ」
「……なんだよその具体的な例え」
……なんだこのハゲ、盗賊の見張り番っていう三下の代表みたいなポジションのくせしやがって、なんでこんな勘がいいんだ。
でもまあ気づいてはいないようだな。
そもそもコイツら洞窟の中と合わせて何人位居るんだ?
ウルトラ鑑定
場所名 ミルク山西部にある洞窟
説明
ミルク山の西部にある全長53メートルほどの洞窟
奥には少量だが痺れ茸、目眩茸などの下級魔法薬の材料が採取できる。
現在盗賊がアジトにしており、今ヤスダが見ている4人を加えて計13人ほどの盗賊がいる。
入口には対魔結界の札が目立たないように張られており、洞窟外からの魔法などの攻撃に対処がしてある。
洞窟奥に小さな抜け口があり、盗賊たちは何かあればそこから抜け出す算段をつけている。
余談
対魔結界をものともしない高レベルの魔物であるマンジュウの闇魔法、眠りの呪いなら伯爵令嬢に危険もなく速やかにかつ安全に制圧できる可能性が高い。おすすめ。
……おお、まさかの解決法が載ってる。
まじか、チートだわウルトラ鑑定。
大分予定と違うけども、こっちのが手っ取り早そうだ。
よし、採用っ。
「マンジュウ、眠りの呪いだ。洞窟の中にもおもいっきりやってくれ」
そっと小声でマンジュウに指示をだす。
マンジュウもこそっと口を開けて、魔法を発動する。
マンジュウの口からもわっと灰色の煙が溢れだし、周囲に広がる。
「なんだ!?なんか煙が出てんぞ!!」
「うお!なんだこれ、なんかいい匂いがすんぞこの煙」
「え、これなんなんだ?煙くも苦しくもねえが、お頭に報告した方がいいのか?すげえいい匂いなんだけ……ど」
ドサドサドサっと煙の中で盗賊が倒れた音がした。
よし、倒した。
ちなみにマンジュウの眠りの呪いってのは、ウルトラ鑑定するとこういう魔法だ。
魔法名 眠りの呪い
種類 攻撃
効果 状態異常
発動条件及び説明
MPを消費して発動。
発動者の任意で動き広がる呪いの煙を撒き散らし、煙を吸った者に眠りの呪いをかける。
ちなみに眠りの呪いとは、地球の物語にも頻繁に出てくるヤツと同じもの。愛する者の口づけで解けるという最上位の呪い。光魔法の最上位解呪でも解くのは不可能。
実際に愛する者など中々居ない故に解くのが非常に困難。
もちろん発動者であるマンジュウには解ける。
煙はフランキンセンスの香りがする。
ていう便利な魔法だ。あれだな有名物語の姫様たちがかかる呪いだな。王子様のキス的なあれだな。
ていうかフランキンセンスってなんだろうね?
まあ、とりあえず解決だ。
……あ、煙が晴れてきたら盗賊三人倒れてるわ。
おお、なんだこれ三人並んで川の字で寝てるわ。
ていうかみんなお腹で手を組んで、すごい安らかな眠りについてるわ。外国の棺入ってる人と同じポーズだわ。
人相超悪い三人のオッサンの安らかな眠りとか、見てても一ミリも面白く無いので洞窟の方見に行くかな。
ウルトラ鑑定だとこれで解決らしいけど。
……あ、なんか洞窟の入り口の石の影にお札みたいの貼ってある。
あれが結界がどうだこうだってやつか。
なんか電気みたいのバチバチいってるわ。
壊れてるってことなのかな。感電みたいのこわいから近づかんとこう。
さてさてだんだん奥に入ってきたけど、真っ暗ではないな。
なんか所々うっすら光る石みたいのが置いてある。照明器具みたいなもんかな。
あ、何人か倒れてるわ。
みんな人相悪いわー。
でもみんな安らかな眠りだ。
あ、なんかちっちゃい檻がある。
……え、なにこれ、檻の中にはドレスを着たトイプードルが安らかな眠りについてる。
ウルトラ鑑定
名前 パダルダワン・パンナ ♀
年齢 28才
職業 令嬢
称号 おしとやかな踊り手
レベル 13
HP 87/87
MP 79/79
STR 18
AGI 34
VIT 21
INT 59
MND 48
DEX 25
装備
桃精のドレス
所持スキル
舞踏術レベル1
やすみの踊り
光魔法レベル3
癒しの光、解呪の光、フラッシュボール、ビーム、治癒の光柱
余談
トイプードル型のそれはそれは可愛いご令嬢です。
あ、人間じゃなかった。
ていうかカワウソ達は、俺が起きるまで出発せずに飯も食わずに待ってくれていたらしい。
すいやせん。
みんなで米と塩焼きの鮭っぽい魚と味噌汁に漬物っていう、超スタンダードな和風の朝食とってから出発。
今は魔法の部屋にできた窓から、外の様子を眺めながら紅茶を飲んでいる。
馬車に接続されている魔法の部屋は、もはや動く一軒家だ。
魔法の部屋の機能なんだろうが、馬車の揺れも一切感じない。
移り変わる窓の外の景色、すっきりとした味わいの紅茶、すごい優雅な空間、異世界転移数日目にして世○の車窓からばりのマッタリ感を味わっている。
もうまつ毛とかも、少女漫画に出てくるお嬢様位伸びてる感じになってるんじゃないだろうか。
そのくらい優雅さを体現してしまっているんではないだろうか。
コンコン
優雅にまったりしていると、ドアがノックされた。
「勇者様ー入れてえ」
「入れてえー」
「入っていいよ」
なにやらカワウソの子供達が四人とも来たようだ。みんな部屋に入ってくる。
「どうした」
「向こうの部屋、カンカンうるさいの」
「今武器作ってんのか、いいよこっちいて」
今カワウソ達の魔法の部屋では、戦力向上に向けて鍛冶師モンブランさんが鋼のインゴットで盾やら鎧やらを作っている最中だ。
でかい釜みたいのやらでかい金槌、金床だかも部屋に設置してたからな。
移動しながらそんなことも出来るって考えると、やっぱすげえな魔法の部屋。
しかしこの部屋のキッチンの換気扇とかもそうだが、つくづく魔法の部屋の換気やら排水はどうなってんのか不思議だ。
鑑定したら亜空間がどうだとかの説明でてきて理解すんの放棄したんだよな。
まあいいや、ぺぺちゃんたちに果物でも剥いてやるかな。
「果物あるけど食べるかい?」
「果物!?食べるっ」
「食べるー」
俺はキッチンで紫リンゴというまんま紫色のリンゴらしい果物を剥いて切る。この世界だと高級なリンゴらしい。
ぺぺちゃんのペットのカブトムシ、アクゲンタヨシヒラにも切ってやろう。食べるがよい源氏の猛者よ。
「ありがとう、……甘いっ紫リンゴだ、すごい、はじめて食べた」
「美味しいね」
「美味しいー」
「……勇者様なにしてたの?」
リンゴ君の娘さんで、寡黙なミカンちゃんがリンゴを頬張りながら聞いてくる。ややこしいな。
「優雅にまったりしてた」
「優雅?まったり?」
「みんなもやってみな、椅子に座って景色を見ながら、優雅に果物食べるんだ」
そうして俺たちは優雅にまったりする。
……なにやら景色が変わってきたな。
木が多くなってきた気がする。
コンコン。
「勇者様おられますか」
扉の向こうからノックとピンタさんの声が聞こえる。
「開いてますよ、入って下さい」
「失礼します勇者様、もうすぐ山に入ります。魔物も出るので気を付けて下さい。山を抜ければこの辺りで一番大きな街、マリアシリールに着きます」
ピンタさんが扉を開けて教えてくれる。
そうか景色変わった理由は、山の近くだからか。
俺は一度部屋から出て、馬車に貼ってある不思議な地図を見る。
お、部屋から出るとやっぱ揺れるな。まさに馬車って感じ。
この地図は通った場所が細かく地図に記入されていく、ゲームの定番の魔法の地図だ。付近数キロくらいが書き込まれる範囲。
ちなみにこの地図は異空間にある魔法の部屋の中だと記入されないので、部屋の外の馬車に貼っている。
フム、地図にミルク山って記載が増えてるな。
よしウルトラ鑑定。
場所名 ミルク山
説明
標高950メートルの山、タナカ平原に住むカワウソ族がマリアシリールに向かう時に使うため山道はある程度整備されている。
山道付近にはバネ野良犬、刺手草などの低級の魔物が出る。
山頂付近には鋼猪、巨人カマキリなどの中級の魔物も生息している。
なお山頂で、青菜草、赤菜草、などの初級魔法薬の材料が採取できる。
稀に色彩花という中級魔法薬の材料も採取できる。
余談
カワウソ族の通らないミルク山西域にある空洞には現在盗賊が住み着いており、盗賊のアジトにはマリアシリールの子爵令嬢パダルダワン・パンナが囚われている。
ちなみに盗賊は、サイカ国の悪事すべてに関わっているとまで言われる暗闇卿の依頼で動いている。
暗闇卿とはサイカ国の第二王子サイカ・ミナツキ、第三王子サイカ・ジューン、のどちらかではないかと国民には噂されているが、その正体は病弱を装い表舞台に出てこない、サイカ国の第一王子サイカ・ムツキである。
………………くっそう、またネタバレ地雷踏んだ。
裏の裏みたいなとこまでネタバレ食らった。
しかも地味に急を要するに案件じゃねえか、盗賊に誘拐された子爵令嬢とか……うわあ、重たいわあ。
「ピンタさん、この山って盗賊とか出ます?」
「この山に盗賊ですか?私達カワウソ村の連中とごくたまに行商が使う程度の山道ですから、今まで盗賊が出ることはありませんでしたな。どうかされたのですか?」
さて、暗闇卿とかいうワケわからん黒幕の話ははしょるにしても盗賊の話はしよう。
「いや、今ちょっとスキルで調べたんですけどね。どうやらいるみたいですね、盗賊。何やら子爵令嬢のパダルダワン・パンナさんとやらが誘拐されてる。という鑑定結果が出まして」
「パダルダワン卿の娘のパンナさんが!?なんてことだ!?」
「えっ?知り合いなの?」
はい、助けにいくことになりましたとさ。
西域には山道無いらしいので、何人かで歩いて行くことになった。
パニニさんとピンタさんとクレープさんと、俺とマンジュウだ。
やはり俺も行くことになった。
カワウソ達の中では、勇者の俺はもう当たり前に行く雰囲気になっていたのだ。
パワーレベリングしただけの、荒事に対してなんの経験も無いぼんぼんの俺が人質奪回か……不安しかないな。
でもカワウソ達だけで行かせるのも、またなにかあったらと不安だ。
ジレンマだな。ヘタレボンボン思考のジレンマだ。
ちなみに残りは子供達と留守番だ。ゴーレム召喚の銀杖も置いて来たので問題は無いだろう。
さて、目的地に到着。
山の斜面に洞窟がある。
誰か立ってる。見張りか?
あ、人間だ。人間のオッサンだ。
うわー……はじめて遭遇した人間が盗賊とはな……。
嫌な気分だわ。
人相も悪いわ、スキンヘッドで顔に傷があるわ、ピアスしてるわでもう最悪だ。人を見た目で判断したらダメと教わったし、生徒にも教えてるがアイツは絶対ろくでもないやつだ。
あ、唾吐いた。
ウルトラ鑑定
名前 ドルマン・ブルッケ ♂
年齢 34才
職業 強盗
称号 盗み上手
レベル 9
HP 88/88
MP 6/6
STR 28
AGI 40+5
VIT 25
INT 18
MND 12
DEX 33
装備
ダガー
軽業のピアス
所持スキル
短剣術レベル2
突き刺し、瞬刺、二連突き
体術レベル1
財布スリ、壁登り
余談
ろくでなし。
ほらやっぱろくでなしだった。ていうかろくでなしってしか書いてないわ。
「どうですか勇者様」
俺が鑑定スキルを使ってることに気づいたピンタさんが聞いてくる。
「レベル9の強盗だそうです。短剣術レベル2と体術レベル1のスキル持ってますね」
「レベル9じゃと……盗賊にしては随分高いのう」
「しかし勇者様の鑑定スキルはとんでもないですな。盗賊のスキルや山の鑑定をしただけで、盗賊のアジトまでわかってしまうのですから」
カワウソたちに聞いたが鑑定スキルはやはりこの世界にもあるらしい。結構珍しいスキルだって話だ。
普通は対象の名前だけわかったり、高レベルの鑑定スキル持ちでも、精々レベルとかアイテムのレア度位しかわからないスキルのようだ。
まあ、俺のウルトラ鑑定はアホみたいな名前のウルトラな鑑定スキルだからね。
「ええ、まあなんか知りたくないことまで知っちゃったりしますけど……」
わけのわからん神様とか、黒幕関連までなにからなにまでまるっと全部お見通しになってしまうからね……。
たまに、なんだかよくわからない女の人と電話みたいなやりとり出来るときもあるよ。
ピンタさんと鑑定スキルについて話してると、横でピンタさんのお父さんのパニニさんが顎に手をあてて何かを考えてる。
盗賊のレベルが高いって言ってたけど、パニニさんのレベル21だから半分以下だよね。
レベル9で高いって認識なら、もしかしてカワウソ村の人達ってレベルかなり高いエリート集団なのか?
田中君の手紙だと、確かレベル5を超えた辺りから結構な強者って話だったが。
二千年の間に、効率的なレベル上げのやり方でも見つかったのかと思ってたわ。
エリートのカワウソ達だったのか?
なんだろうな。エリートのカワウソって……。
「勇者様いかがいたしますか?何か考えがおありに?」
俺が人質奪回について考えてると勘違いしてそうなピンタさんが、意見を求めてきた。
ごめんなさい、今事件と全然関係無いカワウソ達のレベルについて考えてた。
まあ一応来るまでに色々考えてみたアイディアは、あるにはある。
だけども、俺全くの素人だからなあ。
「マンジュウの魔法に迷彩ってのがありまして、マンジュウとマンジュウが触ってるヤツの姿を透明にする魔法なんですけど。それで姿見えなくして、そのまま洞窟入ってやろうか、みたいなことを素人ながらに考えてました」
「ほう、そんな魔法があるのですか」
「そ、そんな魔法があるの?私聞いたこと無いけど」
ピンタさんがちょっと驚いて、クレープさんがものすごく驚いてる。
マンジュウの魔法って珍しいのかな?
「んで潜入してから上手く令嬢さん見つけられれば、マンジュウの魔法で盗賊全員痛風の呪いにしてから、子爵令嬢さん助けようかなと」
ピンタさんとパニニさんがドキッとした感じで体を一瞬震わせた。
「な、なんですかなその更年期のわれわれが寒気を覚える痛風の呪いとは」
「お、おそろしいネーミングだのう」
クレープさんはあんまりドキッとはしてないが、何か気づいたのか首を傾げている。
「呪い……マンジュウちゃんてまさか闇魔法を使えるの!?」
「あれ、言ってませんでしたっけ?闇魔法と風魔法と水魔法と雷魔法が使えますよ。うちのマンジュウは」
ちょっとどや顔で言ってやった。
「4属性も使えるの!?勇者ってやっぱり規格外なのねえ……」
「……本当にすごいのう」
「そんな魔法の使い手聞いたことありませんな」
リンリンリンっ。
恥ずかしいよ、照れるじゃあねえか、のリンリンリンだな。
「まあ、というわけなんでこの人間を襲うためだけに生まれた存在であろう魔物、宝箱ミミックのマンジュウを連れて、ちょっとだけ様子見に行ってこようかなとか思ってるんですけど、まずいですかね?」
リンリンリンっ。
嫌な言い方するね、のリンリンリンだ。
「……うむ、そんな便利な魔法があるのなら問題あるまい。4属性もの魔法が使えるのなら、臨機応変に対処できるじゃろうしな」
パニニさんの意見にクレープさんとピンタさんも頷く。
「では、勇者様よろしくお願いね」
「パダルダワン子爵は我々カワウソ村の者達とも馴染みがあり、個人的にも友人なのです。お願いいたします勇者様」
子爵と友人なのか、貴族と平民の身分の立ち位置がわからんな。
……いや、もしかしてエリート疑惑のあるカワウソ達が身分高いのか?
……まあ、今考えることじゃねえやな。
「じゃあ、ちょっくら行ってみます。行くぞマンジュウ」
リンリンリンっ。
合点っ!!のリンリンリンだ。
よし、そっと足音を立てずに近づいていく。
おお、10メートル位の距離まで近づいてみたらまあ人相悪いオッサンだわあ、うわあ、スキンヘッド、あたまつるつる。
しかもピアス、34才の禿げてるオッサンが耳に穴開けてピアス。
見た目で人を判断したらいけないって育てられたけども、もう完全なる悪人。救いようがないっ。
すごいろくでなし感が漂ってる。
「ん?」
……っ!?
ハゲが座ってる石から立ち上がってキョロキョロしだした。
気づかれた?まじで!?
俺は息を殺して立ち竦む。
「おーいっちょっと来てくれー」
ヤバイっ、ハゲが洞窟の方に呼び掛けて仲間を呼んだ。
ど、どど、どどどどうしよう。
俺がテンパってる間に洞窟から三人程仲間が出てきた。
……ああ、みんな見事な悪人面だわ。
「なんだよどうした?」
「いやなんか気のせいかもしんねえが、誰かに見られてる気がすんだよ」
「ホントか?」
盗賊達がキョロキョロと周りを見回す。
「……何にも居ねえと思うが、気のせいじゃねえか?」
「いや、居る気がするんだよ」
「でも実際居ねえだろうが」
「いや、居る気がする。とんでもない魔物ととんでもなくワケのわからない失礼なヤツが居る気がするんだ」
「……なんだよその具体的な例え」
……なんだこのハゲ、盗賊の見張り番っていう三下の代表みたいなポジションのくせしやがって、なんでこんな勘がいいんだ。
でもまあ気づいてはいないようだな。
そもそもコイツら洞窟の中と合わせて何人位居るんだ?
ウルトラ鑑定
場所名 ミルク山西部にある洞窟
説明
ミルク山の西部にある全長53メートルほどの洞窟
奥には少量だが痺れ茸、目眩茸などの下級魔法薬の材料が採取できる。
現在盗賊がアジトにしており、今ヤスダが見ている4人を加えて計13人ほどの盗賊がいる。
入口には対魔結界の札が目立たないように張られており、洞窟外からの魔法などの攻撃に対処がしてある。
洞窟奥に小さな抜け口があり、盗賊たちは何かあればそこから抜け出す算段をつけている。
余談
対魔結界をものともしない高レベルの魔物であるマンジュウの闇魔法、眠りの呪いなら伯爵令嬢に危険もなく速やかにかつ安全に制圧できる可能性が高い。おすすめ。
……おお、まさかの解決法が載ってる。
まじか、チートだわウルトラ鑑定。
大分予定と違うけども、こっちのが手っ取り早そうだ。
よし、採用っ。
「マンジュウ、眠りの呪いだ。洞窟の中にもおもいっきりやってくれ」
そっと小声でマンジュウに指示をだす。
マンジュウもこそっと口を開けて、魔法を発動する。
マンジュウの口からもわっと灰色の煙が溢れだし、周囲に広がる。
「なんだ!?なんか煙が出てんぞ!!」
「うお!なんだこれ、なんかいい匂いがすんぞこの煙」
「え、これなんなんだ?煙くも苦しくもねえが、お頭に報告した方がいいのか?すげえいい匂いなんだけ……ど」
ドサドサドサっと煙の中で盗賊が倒れた音がした。
よし、倒した。
ちなみにマンジュウの眠りの呪いってのは、ウルトラ鑑定するとこういう魔法だ。
魔法名 眠りの呪い
種類 攻撃
効果 状態異常
発動条件及び説明
MPを消費して発動。
発動者の任意で動き広がる呪いの煙を撒き散らし、煙を吸った者に眠りの呪いをかける。
ちなみに眠りの呪いとは、地球の物語にも頻繁に出てくるヤツと同じもの。愛する者の口づけで解けるという最上位の呪い。光魔法の最上位解呪でも解くのは不可能。
実際に愛する者など中々居ない故に解くのが非常に困難。
もちろん発動者であるマンジュウには解ける。
煙はフランキンセンスの香りがする。
ていう便利な魔法だ。あれだな有名物語の姫様たちがかかる呪いだな。王子様のキス的なあれだな。
ていうかフランキンセンスってなんだろうね?
まあ、とりあえず解決だ。
……あ、煙が晴れてきたら盗賊三人倒れてるわ。
おお、なんだこれ三人並んで川の字で寝てるわ。
ていうかみんなお腹で手を組んで、すごい安らかな眠りについてるわ。外国の棺入ってる人と同じポーズだわ。
人相超悪い三人のオッサンの安らかな眠りとか、見てても一ミリも面白く無いので洞窟の方見に行くかな。
ウルトラ鑑定だとこれで解決らしいけど。
……あ、なんか洞窟の入り口の石の影にお札みたいの貼ってある。
あれが結界がどうだこうだってやつか。
なんか電気みたいのバチバチいってるわ。
壊れてるってことなのかな。感電みたいのこわいから近づかんとこう。
さてさてだんだん奥に入ってきたけど、真っ暗ではないな。
なんか所々うっすら光る石みたいのが置いてある。照明器具みたいなもんかな。
あ、何人か倒れてるわ。
みんな人相悪いわー。
でもみんな安らかな眠りだ。
あ、なんかちっちゃい檻がある。
……え、なにこれ、檻の中にはドレスを着たトイプードルが安らかな眠りについてる。
ウルトラ鑑定
名前 パダルダワン・パンナ ♀
年齢 28才
職業 令嬢
称号 おしとやかな踊り手
レベル 13
HP 87/87
MP 79/79
STR 18
AGI 34
VIT 21
INT 59
MND 48
DEX 25
装備
桃精のドレス
所持スキル
舞踏術レベル1
やすみの踊り
光魔法レベル3
癒しの光、解呪の光、フラッシュボール、ビーム、治癒の光柱
余談
トイプードル型のそれはそれは可愛いご令嬢です。
あ、人間じゃなかった。
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