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第三話

第三話 光明院ケイはこういった その13

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 一方、ここは太平洋上に浮かぶ謎の島。
ガミオンと敵対するタイタンメイデンの拠点であるこの島でもすでに日は落ち、
夜の闇が周囲を覆っていた。
切り立った崖に覆われるようにして存在する砂浜の、数台の照明施設が辺りを照らし出す中、
巨大なタイタンメイデンの戦士タオが
足元でイーゼルに向かい作業している人間の少女ウーに声をかける。

「ウーよぅ、とっくに日も暮れたし、そろそろ中に戻らねーとダインが心配すんぜ?」

「え~?もうちょっとだから~」

ごねるウーはタオへの返事も適当だ。

「続きは中でやりゃあいいんじゃねーの?」

元来、めんどくさがりな性格のタオは、一人で絵を描くことに熱中しているウーのお守りにすでに飽きているようだった。
なげやりな態度を隠さないタオに向かってウーは偉そうに御高説を述べる。

「こういうのはね、いんすぴれーしょんがだいじなの!ビビっと来た時にやるべき!」

「そんなもんかねぇ?」

「そんなもんなの!」

その時、切り立った崖の一部が開き、中から一人のタイタンメイデンが現れた。
振り向きその姿を目にしたタオが驚きの声を上げる。

「ニュートゥ!?」

ゲートをくぐり姿を現したタイタンメイデンは誰あろう、技師ニュートゥ。
ガミオンに敗北し昏睡状態にあったはずのニュートゥが今、目の前に現れたことにタオは驚きを隠せない。

「え!ニュートゥ!?」

タオの足元にいたウーがニュートゥの存在に気付き、手にした筆を止めてキャンバスを取り外して小脇に抱え込む。

「お前、頭のほうは大丈夫なのか?」

タオの問いかけにニュートゥは自身の頭部を指で軽くたたきつつ答える。

「ああ。ヨミの手当てが的確だったのでな。少し記憶の欠落があるぐらいだ。
 だが案ずるな、やらなければならない事はきちんと憶えているぞ」

自身の無事をアピールするニュートゥ。
その足元に駆け寄ったウーが、抱えたキャンバスを後ろに隠しつつ見上げると、
それを見たニュートゥはゆっくり膝をつき話しかける。

「ウー、どうした?私に何か用か?」

「えへへ、ニュートゥにプレゼントがありま~す」

ウーは後ろ手に隠したものをばっと掲げ、ニュートゥに差し出す。
それはニュートゥの似顔絵が描かれたキャンバスだった。

「へへへ~、これ!ニュートゥの絵!今、手直ししていたの!力作おぶ力作!」

すると、そのやり取りを覗き見ていた見ていたタオが指摘するように言った。

「おい、ウーよぅ、それ……」

「な~に?」

タオの指摘にウーは掲げた腕を下ろし、キャンバスを確認する。

「ああ!?」

驚き、声を上げるウー。
そこに描かれたニュートゥの顔は、絵の具がにじみ奇妙に歪んでしまっていたのだ。

「絵の具が……」

力作おぶ力作が台無しになってしまいショックで落ち込むウー。

「あ~らら、乾いてないのに抱えたから滲んじまったんだな」

とデリカシーの欠けた言い方でタオが言うと、途端にウーの目に涙がにじみ始める。
ニュートゥはウーを両手でやさしく包み込み慎重に持ち上げた。
一緒に持ち上げられた砂が手のひらからこぼれ、照明のひかりを反射しながらキラキラと風に舞い散る。

ウーを自分の目線に持ち上げるとニュートゥが言った。

「ウーよ、素敵なプレゼントをありがとう」

「でも、こんなになっちゃった……」

べそをかくウー。

「そう落ち込むなウーよ。創作するという行為は素晴らしいものだ。それがたとえ失敗に終わったとしても。
 失敗の経験は無駄ではないぞ。その経験を活かし、次に繋げればよいのだからな」

自身も『技師』という身の上であるからだろう、創作という行為に特別な感情を持つニュートゥのその言葉は本心から出たものだ。

ニュートゥは頭部から細く繊細な精密作業用の触腕を延ばし、ウーの手からキャンバスを受け取る。

「これは君の成長の記録として受け取っておこう」

そしてニュートゥは巨大な人差し指を器用に使いウーの頭をなでた。

ニュートゥは、涙をこらえるウーをゲートへと運ぶと、ゆっくりと床に下ろす。

「さて、ウーよ、私とタオはこれから出かけねばならん。
 だが君から貰ったプレゼントをなくしたりしたらとても残念だ。
 ゆえにこれを君からダインへと預けに行ってもらいたいのだが、頼めるだろうか?
 重大なミッションだぞ?」

「じゅうだいなみっしょん!?」

ウーの曇った表情が一変し好奇心に包まれる。
触腕を伸ばし、ウーにキャンバスを渡すニュートゥ。

「うん、わかった!」

「よろしい。では、お願いしよう」

「らじゃ!」

機嫌を直したウーが頷く。

ニュートゥが軽く口笛を吹くと、周囲の砂の中から銀色の小さな球体が5~6個這い出した。
サッカーボールほどの大きさの球体はウーの下へと集まると瞬く間に結合、変形し、
大人の女性ほどの大きさを持つ人型へと変わる。

人型がニュートゥを見上げ、言語のようにも聞こえる機械音を発するとニュートゥが頷く。
再び機械音を発した人型はウーへと手を伸ばし、今度は明確に人の言語を発した。

「私がご案内します」

「いいよぅ、一人でできるもん!」

ウーが輝くような表情でゲートの奥に走っていくと、人型が困ったようにニュートゥを見上げる。
ニュートゥの目から送られた合図を確認した人型は再び分離し、銀色の球体に戻ると、
そのうちのいくつかがウーを追い、その死角へと静かに転がっていく。
それを確認したニュートゥが扉の外へと引くと巨大なゲートが静かに閉じていき、手を振るウーを覆い隠していった。



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