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第三話

第三話 光明院ケイはこういった その1

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 神社の境内では光明院ケイが心肺停止状態の武石乙女に対しAEDを使用して心臓の再動を試みるも、
その効果が現れることなく、周囲にはさらに張り詰めた緊迫感が覆い始める。

ケイが腕を伸ばし再びAEDを作動させようとした時、いきなり乙女が上体を起こしケイの腕を掴んだ。

「うわっ!?」

「……」

一瞬見つめ合う乙女とケイ。

突然の事に驚くケイをよそに乙女は周囲を見回した後、呟いた。

「なるほど理解した」

「え?な、なるほど?」

「君の救命活動に礼を言う。ありがとう、光明院ケイ」

「え!?」

「私はもう大丈夫だ」

「だ、大丈夫って、キミ……」

乙女は何事もなかったかのように立ち上がり、すぐに立ち去ろうとするが、

「ま、待って!胸!胸!!」

慌てて追いすがったケイが自分の上着を使って乙女の豊満な胸を隠す。

「いや、それよりもキミ、本当に大丈夫?もうじき救急車が来るから、
 一応、病院で見てもらったほうが……」

「結構。急いでいるので、これにて失礼する」

ケイが引き止めようとするが乙女は聞かず、ジャケットのボタンを締めながら
ブルーシートをかき分け周囲に目を配り、鈴鹿キョーコを探す。

「キョーコ!」

「タケシ!」

走り寄ったキョーコに乙女がグイっと顔を寄せる。

「な、何?」

さらに顔を近づけてきた乙女に赤面し、思わず目をつぶるキョーコ。

「ふわわわわ!?」

「…………」

乙女はキョーコの耳元に唇を寄せ、何やら呟くと、キョーコの表情が一変し、戸惑う。
「え……なんで……」

「詳しい説明は後だ。取り敢えず行こう」

「え!ええ!?ちょっと待って!?」

急いで荷物を手に取るキョーコを乙女は構わず連れて行こうとする。
引っ張られ転びそうになりながらもキョーコはなんとか振り返り、
呆然と成り行きを見守っているケイたちに一声かける。

「い!色々と、ありがとうございました。私たちはもう大丈夫なんで行きますね。
 それじゃあ……」

「急ぐぞ」

「おおおおおお!?」

言うが早いか乙女はキョーコを両腕に抱え、そそくさと走り出す。
今や用済みとなったブルーシートを手にしたまま女生徒達が困惑し、
目配せしながらケイに声をかける。

「あの、どうしますかね?これ?」

だが、光明院ケイは答えず、遠ざかる乙女たちを見つめながら呟いた。

「タケシ……?」

あとに残されたケイたちが立ち尽くす中、遠く響く救急車のサイレンの音が虚しく耳に響くのだった。


 乙女は街を駆け抜け、人目を避け裏通りに来ると
キョーコを抱えたまま、驚異の脚力で遥か上空へと跳躍した。

「うわわわわわ~!!」

悲鳴を上げるキョーコ。
乙女は気にも留めず、まるで映画の忍者のような身のこなしで
ビルの壁面や平屋の屋根を飛び交い、ひたすら目的地へと進む。
その身のこなしで大きな敷地を持つ女子高を抜け、
やがて人気のない裏山へと景色は移っていった。

「ちょ、ちょっと待って!」

乙女にかかえられたキョーコがたまらず声を上げる。

「いいかげん待ってったら!!」

キョーコの呼びかけに応えず、走り続けていた乙女の動きが突如ピタリと止まった。

「ついた。ここだ」

「へ?」

乙女の声に、キョーコが周囲を見回すと、
そこはうっそうとした木々が生い茂る森の中。
さらに下を見れば清い水をたたえた池が目にはいる。

「って、うわわわわ?!」

キョーコが驚くのも無理はない、何故なら乙女はキョーコを抱えたまま空中に立っていたのだから。

「う、浮いてる?!」

キョーコは思わず乙女に強く抱きつく。
すると、それが合図だったかのように、
乙女の足元を中心に、徐々に巨大な影が浮かび上がってきた。
その手のひらに乗る乙女とキョーコの視線が巨大な腕から肩、先の顔へと向けられる。

完全に姿を表したそれを見たキョーコが叫ぶ。

「ガミオン!」

が、キョーコはすぐさま自分の発言を訂正した。

「じゃなくって、えと、今は、アンタがタケシ……なんだよね?」

「そう!僕がタケシ。
 どうやら説明は済んでるみたいだね?」

キョーコの問に、ガミオンが満面の笑みを浮かべて答えるが、
その頭の一部には光学迷彩機能を使ったモザイクがかかっていた。

「うむ」

「うむ、じゃない!済んでないでしょ!?話は!!
 私、詳しい話、まだ聞いてないんだけど!!」

しれっと答える乙女に対し、ムッとして頬を膨らませ、ジタバタと手足を振りながらキョーコが抗議する。

「今、乙女の中身がガミオンで、ガミオンの中身がタケシで、って、それ以外聞いてない!!
 一体全体どうなってるの!?何が起こってるのか、詳しく説明してよ!!」

「うむ、では答えよう。私が海底を調査していると……」
「え~っとですね、ガミオンが海底を調査している時に……」

「聞き取れんわ!二人いっぺんに話すな!余計混乱する!!順番に話しなさい、順番に!」

「では、私から」
「じゃあ、僕から」

再び二人揃って話始めようとしたが、
ガミオン=タケシがハッと口を片手で抑え乙女=ガミオンに目配せする。
その意図を読んだ乙女=ガミオンが改めて話し始める。

「では、私から話そう」


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