上 下
19 / 64
第二話

第二話 パラダイム・シフト その10

しおりを挟む
 「ちょ、ちょっと?!なにしてんの?いきなり……」

突然の出来事に鈴鹿キョーコが声を上げる。
神社に設置されたベンチに二人ならんで腰掛け、一休みしていたキョーコと乙女タケシであったが
いきなり乙女タケシがしなだれかかってきた為、キョーコは驚いて声を上げてしまったのだ。

「こ、こ、こんな、まだ、真昼間だってのに、ちょっと、ひと目も多いのに……」

突然のアプローチにどぎまぎと戸惑うキョーコだったが
直ぐに我に返り顔を赤らめつつ乙女タケシを睨む。

「じゃなくて!チョーシにのんなっつーの!」

意外と満更でもない面持ちも醸し出しつつも、キョーコが肩に寄りかかる乙女タケシの頭を軽く叩くと、
乙女タケシの体がぐらりと揺れ,
前のめりに倒れこんだ。

「え?」

力なく地面に倒れた乙女タケシを見て慌てふためいくキョーコ。

「ちょ?!ちょっと?!タケシ、どうしたの?!」

キョーコは急いで乙女タケシの上半身を抱き起こす。

「ねえ!タケシ!タケシったら!」

虚ろな表情で、ピクリともしない乙女タケシ
瞬間、キョーコの脳裏に様々な思いがよぎる。

 いきなりなんで?分体の故障?
 タケシはどうしたの!?大丈夫なの!?

「タケシ!タケシ!」

呼びかけても一向に反応がなく、
まるで魂が抜けてしまったかのような乙女タケシを見てキョーコは直感する。

「そういえばタケシとガミオンは一心同体も同然だって言ってた……
 ってことは、今、ガミオンの身になにか起きてるのかも?!」

その様子に周囲の人がざわつき集まり始める。

 どうしよう……どうしよう……

乙女タケシの有様に加え、さらに周囲の人の目にキョーコがますます混乱していると
人をかき分け、一人の少女が走り寄ってきた。

「大丈夫ですか!?ちょっと失礼します!」

光明院女学院の制服を着たその少女は、乙女の様子を一目見るなり跪き、
脈や呼吸を確認し始めた。



 先程までの激戦が嘘のように静まり返った海底では、
ガミオン・ケンタウロスを囲み、タイタンメイデン達が静かに佇んでいた。

「イテテテ……ガミオンだけじゃなくお前まで乱暴に扱いやがって」

変形を解いたタオがダインの手を借り、立ち上がりながら愚痴をこぼす。

「すまんな、タオ。だが、ご苦労だった、お前のおかげでニュートゥの作戦がうまくいった」

「へへへへ、だろっ?」

「メガミオンはもはや戦うどころか自分の意志で動くことも出来ぬわ」

得意げな表情で、ダインに寄りかかりながら自分の足を弄りまわし、ダメージの有無を確認するタオ。
バランスを崩したタオがガミオン・ケンタウロスにぶつかりそうになるがダインが支える。

「おっと!気をつけろ!今、ニュートゥはメガミオンと同調している、
 少しの衝撃さえ精神に影響する可能性があるからな」

「お、おう。わりぃわりぃ」

ダインとタオがガミオン・ケンタウロスを見上げる。
意識を失ったかのように立ち尽くすガミオンは無表情に虚空を見つめ、動く気配がない。
その背中に張り付くニュートゥも同じように無表情でガミオンの頭部に食らいついていた。
頭部に差し込まれた赤い舌に光が走り続け、ガミオンが小刻みに痙攣する。

ニュートゥは舌を通じ、ガミオンの脳にアクセスしてその記憶をのぞき見ようと試みていたが
ガミオンの強固な意志に阻まれその記憶を覗くことが出来ないでいた。

 なんという精神力だ、ここまでされてもなお守りたい秘密があるということか。
 仕方ない、少々遠回りだが、まずはメガミオンの意思そのものを塗り替えてやる。

ニュートゥの目が妖しく光る。
するとガミオンが激しく痙攣し始める。

「しかし、コイツは結構やばい方法なんじゃないのか?」

ニュートゥを見守るタオの問いかけにダインが答える。

「ああ、危険すぎて、本来は戦場いくさばで行うような行為ではないが、
 ニュートゥもそれだけ本気だということだろう。
 ならば、我々はニュートゥを信じて、ただ待つしかあるまい」

そう言いながらも、ダインの表情が硬くなった。
そして、タオも同じようにニュートゥを見上げ、静かに見守るのだった。



 少し立ちくらみを覚え、こめかみを抑えたタケシが意識を取り戻すと
自分が神社の境内ではなく、機械的な小部屋にいることに気づいた。

「こ……ここは、ガミオンの?」

分体とのリンクが切れ、ガミオン内に保護されている自分の本体へ精神が戻されたことを理解するタケシ。

「タ……タケシ、君が何故、意識を?
 そ、そうか、今の攻撃の影響で、リンクが切れてしまったのか」

「ガミオン?!どうしたの?なにがあったの?!」

問いかけるタケシの脳内にガミオンの答えが映像となって直接流れ込む。
タオの挑発、ダインとの決闘、
『あの力』を使うことが出来ないガミオン、加えてニュートゥの策略、
そしてついに喫した敗北。
流れ込んだ映像とタケシの目とガミオンの視線が重なる。
そして今、タケシはガミオンが置かれている状況を一瞬で理解した。

「こんな……ひどい、脳を弄るなんて」

「あの力さえ使えれば勝利は容易かっただろう、
 だが、どうやらあの力はタケシ、君と私の精神が一緒でなければ使えないらしい」

「ガミオン!なら、なんで直ぐに僕を呼ばなかったんだ?!」

「それは……君の本体に負担がかかる可能性があったからだ。
 いまだ単体での生命維持活動不能状態の君に頻繁に意識を戻すことを繰り返せば、
 なにか不都合が起こる可能性がないとは言い切れなかった」

「そんなこと気にしてる場合じゃないだろ!僕だって覚悟は出来ている!
 君と僕とは運命共同体なんだから!」

「それだけではない。私は、そんな風に君を便利な道具のように使うのが嫌だった。
 ブラブーバとの戦いの時は不可抗力だったが、むやみに君の意思を呼び戻すことはしたくなかったんだ」

「ガミオン……」

「すまない、タケシ、もう時間がない。
 これより生成機を分離、従者に託し、君を安全な場所まで避難させる」

「なにいってるんだ?!今、ここに僕がいる!なら、あの力だってつかえるはずだ!!」

「残念ながらそれは無理だ……今、私の意思は70%敵に侵食されている……
 あの力どころか……動くのも……こうして君と会話するのも……困難になってきた……」

「意識を乗っ取られれば、記憶も奪われる……だが、敵にこれ以上、情報を渡すことはできない……
 わたしは……まだ……意識あるうちに……自分の頭部を、完全に破壊する」

「ガミオン?!」

ガミオンの腕が動きボウガンを強く握り締める。

「72%……78%……お別れだ、タケシ、最後に君と話せてよかった……」

「駄目だ!まだ何か方法があるはずだ!」

考えを巡らすタケシ。

 ガミオンも、僕も二人で助かる方法……何かないのか?何か……

その時、苦悩するタケシの脳裏に閃光のようにあるヒラメキが舞い降りる。

「ある!ガミオンと僕、二人が助かる方法がッ!」 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

♡蜜壺に指を滑り込ませて蜜をクチュクチュ♡

x頭金x
大衆娯楽
♡ちょっとHなショートショート♡年末まで毎日5本投稿中!!

若妻の穴を堪能する夫の話

かめのこたろう
現代文学
内容は題名の通りです。

鬼畜兵器 斉藤

よもつひらさか
SF
ー満開の桜の花が散り始めた頃、その男はその木の下に佇んでいた。ー彼の名は斉藤。目からビームが出る。

処理中です...