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第二話

第二話 パラダイム・シフト その1

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 翌日、各メディア、マスコミは全て謎の巨人少女事件の報道一色であった。
一般家庭のTVも、街頭の大モニターも、ネットも、通勤電車内のモニターも、
ほぼ全ての話題が突如現れ破壊活動を行った怪物体と、それを倒し何処かへと去った巨人少女の映像で埋め尽くされている。
そして、それは日本だけではなく、世界中の報道機関でも同じだった。
それも当然であろう、
人類は今、歴史上経験したことがないパラダイム・シフトの瞬間を目撃したのだから。

そんなこととは露知らず、武石乙女タケイシ オトメは自室としてあてがわれた部屋に設置された簡易ベッドの上で目を覚ました。
カーテンの隙間から爽やかな日差しが差込み、部屋を明るく彩る。
乙女タケシは上半身を起こすと、今や女性の体となった自身の腕や背中などを撫でた。

「ホントだ、治ってる」

昨日の一件では、この体もダメージを負ったが、ガミオンの言う通り
自動修復機能で一夜にしてその傷も癒えていた。
さらに体のあちこちを撫で回し、傷の有無の確認をしているうちに、
大きく膨らんだ胸の先端に手が当たった時、乙女タケシは驚いて胸から手を遠ざけた。

「おおう!……あ~そうか、この体にも早く慣れないとなぁ」

タケシは現在、『ガミオン』の分体である美少女の肉体に意識を移し、
『武石乙女』と名乗り、鈴鹿キョーコの家に厄介になっている。
あらためてそのことを認識したタケシ=乙女はベッドから降りると、
窓にかかるカーテンを勢いよく開いた。


「おはよう、ガミオン」

「おはよう、タケシ、調子はどうだい?」

窓から体を乗り出して見上げる乙女タケシに、ガミオンが腰をかがめながら答えた。
勿論、その巨大な姿は高度な光学迷彩機能により、乙女タケシの部屋からしか確認する事が出来ない。

「ガミオン、君の言う通り、すっかり元通りになったよ」

「ならよかった、タケシ、君が元気なら私も嬉しい」

「僕よりも君のほうはどう?」

「私も順調に回復している。
 それに、どういう訳だか、タケシ、昨日、君と同調した時から基本的な身体性能が上がっているようだ。
 まだ完全とはいかないが、この調子なら、タケシ、君の肉体の修復も予定より早く完了出来るかもしれない」

「本当に?あ、でもまずは、ガミオン自身の傷を治すことを優先してね」

「ありがとう、タケシ、君は本当に優しいな」

二人は暫く見つめあう。
数秒の沈黙の後、なんだか照れくさくなった乙女タケシが口を開いた。

「さて、ささっとシャワー浴びてくるよ。昨日、帰ってすぐに寝ちゃったからね」

「うむ、それならばタケシ、君の労をねぎらい
 私に『背中を流す』とやらをさせてもらえないだろうか?」

「背中を流すって、お風呂で?」

「うむ、親睦を深めるには良い方法らしい」

「アハハ、ありがとうガミオン。
 でも君の大きさじゃ窓から指を入れる事も出来ないよ。気持ちだけ貰っておくね」

ガミオンの言葉を冗談だと受け取った乙女タケシが笑いながら答えた時、
窓から細い紐状の何かが侵入してきた。

「おおう!?ナニコレぇ!?」

驚いた乙女タケシが尻もちをつく。
見れば紐状の物はガミオンの体に繫がっているようだった。

「精密作業用の繊毛だ。これを使えば問題ない」

「マジか」

思わず呟く乙女タケシに対しガミオンが答えた。

「マジだ」

「うぉ~い……」

若干引き気味の乙女タケシの足にガミオンの繊毛が優しく絡みつき
腿を伝い背中へと至る。

「うぉ!?ちょ、ちょっとガミオン!?」

戸惑い、赤面する乙女タケシの背中を繊毛が優しく擦り上げる。

「えひっ!?」

えもいわれぬその感触に乙女タケシが変な声を上げる。

「すまない、少し強すぎたようだ」

そう言うとガミオンの繊毛がさらに優しく乙女タケシの背中を撫で上げる。
肌に触れるか触れないかの微妙な繊細さに乙女タケシの体がびくんと仰け反った。

「い、いや、ぁ、痛いんじゃ、んんっ、なくて、ぇ、
 き、気持ち、ひ、いい、というか、いや、ダメだってぇ……ガミオンってば、ぁ……」

乙女タケシが体をくねらせていると突然ドアが開かれる。

「コラァ!朝っぱらからナニをやっておるのかー!!」

顔を真っ赤にしたキョーコがずかずかと部屋に入ってきたかと思うと乙女タケシの体に絡みついたガミオンの繊毛をぺしんと叩いた。

乙女タケシの体を離れスルスルと窓から出て行く繊毛を目で追いながらキョーコが言う。

「ガミオン!悪ふざけしすぎ!!」

「すまない、キョーコ。悪気はなかったのだが、少し度が過ぎたようだ。反省する」

正直何がいけなかったのかわからないガミオンだったが
わからない部分で何かまずいことをしたのだろうと思ったガミオンが謝罪の言葉を口にする。

「ったく、もう、以後気をつけるように!」

キョーコがジトっとガミオンを睨んだ後、乙女タケシへと視線を向け言った。

「タケシ!あんたも!」

「は、はい!」

その迫力に押され、タケシは『なぜ自分まで?』と思いつつ姿勢を正すのだった。
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