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第一話 鋼鉄の女神 ─デア・エクス・マキナ─ その六
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翌朝、目覚めた少女タケシがリビングへ降りていくと、
キッチンからは朝食の良い香りが漂い、
コンロの火にかけられたヤカンのお湯が湧き、激しく音を立てていた。
少女タケシはコンロのスイッチを押して火を止めるとリビングを覗き込む。
そこでは、大型のTVの前でキョーコとキョーコの母親が神妙な面持ちで画面を凝視していた。
「おはようございま~す」
恐る恐る少女タケシが声をかけると、キョーコの母親が無理に笑顔を作り振り返る。
「あ、乙女ちゃん、おはよう~、昨日はよく眠れた?」
乙女とはキョーコがつけた少女タケシの仮の名前で
フルネームは『武石乙女』
タケシが今後約9000時間付き合うであろう名前である。
一瞬遅れで自分の名だと気づいた乙女が笑顔で返す。
「へ、あ、はい、おかげさまでぐっすりと眠れました」
「そう、良かったわ~、あ、ごめんなさいね、すぐに朝食の用意するから」
キョーコの母親はTVの映像を気にしつつキッチンへ向かっていった。
乙女は、なおも神妙な面持ちで画面を食い入るように見つめるキョーコに声をかける。
「どうしたの?」
キョーコが無言でTVを指差すと、その画面には都市部での火災の様子が映し出され、
画面の隅にライブ映像とのテロップがあった。
「ニュース?」
「うん、静岡の方で何かあったみたい」
『ヤツらだ』
「え?」
乙女の頭に響くガミオンの声。
その時、TVからアナウンサーの慌ただしい声が流れてきた。
「あ!今映像で捉えました!あれが現在破壊活動をしている物体のようです!」
画面の中では黒煙を上げ燃え上がるビルを押し崩しながら
銀色の卵のような巨大な物体が這いずり進む様子が映し出されている。
「ご覧いただけてますでしょうか?
本日未明、静岡市に突如として現れた物体は進路方向にある建物などを押しつぶしながら
市内を北上し……」
「お父さんが行ってる」
「え?」
「あそこ……今、お父さんが出張で行ってるとこの近く……」
「……」
キョーコは握り締めた電話の子機を下ろす。
「電話も繋がらない……」
「あ!今、現場で動きがありました!
え~、怪物体の他に複数の機械の獣のようなものが現れ、光線状の閃光を発射、
自衛隊の無人偵察機を撃ち落とした模様です!」
「!」
キョーコが座り込み呟く
「大丈夫だよね、お父さん……大丈夫だよね」
いつの間にかリビングに戻ってきていたキョーコの母親が
キョーコの肩を抱きソファーに座らせる。
無言でそれを見ていた乙女が脳内でガミオンに語りかけた。
『あれが、君の言っていた敵なのか?』
『そうだ、規模から言って恐らくは戦士クラスの何者かだろう』
『戦士?あの丸っこいのが?』
『アレはコクーン形態、自動修復機能では修復不能なダメージを負った体を修復させる為に取る形態だ。
簡易移動機能と自衛機能がある』
『何故、周囲を破壊しているんだ?自己修復するならジッとしてりゃいいじゃないか』
『攻撃を受けての防衛反応か、もしくは修復速度を上げるため、周囲の物質を取り込んでいるのだろう』
『にしてもやり方が無茶苦茶すぎる!止める方法はないの?』
『人類の装備では不可能だろう』
『……君なら止められる?』
『おそらく』
『なら、アレを止めてくれ!』
『いいだろうタケシ、君が許可してくれるのなら。だが君は本当に覚悟は出来ているのか?』
『覚悟……?』
『そうだ。私はアレに勝てる自信はある。
だが、それでも完璧と言い切ることは出来ない。
敵がコクーン内で修復をほぼ完了していたとしたら、機能不全状態の私では勝てない場合もある。
その場合、逆に私が破壊されるだろう』
グッと息を呑む乙女。
『その結果、タケシ、君の体も私と共に生命活動を停止することになる。
すなわちタケシ、君は命を賭ける覚悟があるのか、ということだ』
乙女はキョーコたちの方を見た。
不安に曇っている彼女らの表情。
TVには被害が拡大するさまが映し出され、アナウンサーの上ずった声が流れて続けている。
「…………」
乙女は二人に気付かれなうように、そっと部屋を出ると
そのまま玄関をくぐりぬけ道路へ向かって歩き出す。
見上げるとそこには光学迷彩をといたガミオンが静かに立っていた。
「ガミオン、僕も一緒に連れっててくれ、この体なら何かの役に立てるはずだ」
「いいんだな?タケシ……」
ガミオンの言葉に強く頷く乙女。
「行こう!ガミオン!二人でアレを止めるんだ!」
うなづくガミオンの手のひらに乙女が飛び乗るとガミオンは軽やかに走り出す。
軽い地響き音を立てて走り続けるガミオン。
徐々に足音が小さくなり、やがて消えていく。
だが、ガミオンは走るのをやめたわけではない。
乙女が下を見下ろすとガミオンの脚は何もない宙を蹴り走り続けていた。
「重力制御だ。今は移動ぐらいにしか使えないが、万全の状態なら多少の攻撃を防ぐことにも使える」
ガミオンはひときわ大きく宙を蹴り、高空へ飛び上がる。
「タケシ、君は私の中に入れ」
言うとガミオンの下腹部がスライドし始める。
顕になったタケシの本体を収容したカプセルがさらに奥へと引っ込むと、
そこに人一人が入れるぐらいのスペースが空いた。
「人間一人ぐらいは収納できる、さあ!」
乙女がそのスペースに飛び乗ると、乙女の体を挟み込むように機械部品がまとわり着き、
ガミオンの開いた下腹部が閉じていく。
「す、すごい!」
何の違和感も、衝撃も感じず、むしろ心地よい感触に乙女が感嘆の声をあげた。
「では、急ぐぞ、タケシ」
するとガミオンの体が複雑に蠢き、みるみる形を変える。
一瞬のうちに二つの機首を持つ航空機のような姿に変わったガミオンは速度を上げ
空高く一気に飛び立っていった。
キッチンからは朝食の良い香りが漂い、
コンロの火にかけられたヤカンのお湯が湧き、激しく音を立てていた。
少女タケシはコンロのスイッチを押して火を止めるとリビングを覗き込む。
そこでは、大型のTVの前でキョーコとキョーコの母親が神妙な面持ちで画面を凝視していた。
「おはようございま~す」
恐る恐る少女タケシが声をかけると、キョーコの母親が無理に笑顔を作り振り返る。
「あ、乙女ちゃん、おはよう~、昨日はよく眠れた?」
乙女とはキョーコがつけた少女タケシの仮の名前で
フルネームは『武石乙女』
タケシが今後約9000時間付き合うであろう名前である。
一瞬遅れで自分の名だと気づいた乙女が笑顔で返す。
「へ、あ、はい、おかげさまでぐっすりと眠れました」
「そう、良かったわ~、あ、ごめんなさいね、すぐに朝食の用意するから」
キョーコの母親はTVの映像を気にしつつキッチンへ向かっていった。
乙女は、なおも神妙な面持ちで画面を食い入るように見つめるキョーコに声をかける。
「どうしたの?」
キョーコが無言でTVを指差すと、その画面には都市部での火災の様子が映し出され、
画面の隅にライブ映像とのテロップがあった。
「ニュース?」
「うん、静岡の方で何かあったみたい」
『ヤツらだ』
「え?」
乙女の頭に響くガミオンの声。
その時、TVからアナウンサーの慌ただしい声が流れてきた。
「あ!今映像で捉えました!あれが現在破壊活動をしている物体のようです!」
画面の中では黒煙を上げ燃え上がるビルを押し崩しながら
銀色の卵のような巨大な物体が這いずり進む様子が映し出されている。
「ご覧いただけてますでしょうか?
本日未明、静岡市に突如として現れた物体は進路方向にある建物などを押しつぶしながら
市内を北上し……」
「お父さんが行ってる」
「え?」
「あそこ……今、お父さんが出張で行ってるとこの近く……」
「……」
キョーコは握り締めた電話の子機を下ろす。
「電話も繋がらない……」
「あ!今、現場で動きがありました!
え~、怪物体の他に複数の機械の獣のようなものが現れ、光線状の閃光を発射、
自衛隊の無人偵察機を撃ち落とした模様です!」
「!」
キョーコが座り込み呟く
「大丈夫だよね、お父さん……大丈夫だよね」
いつの間にかリビングに戻ってきていたキョーコの母親が
キョーコの肩を抱きソファーに座らせる。
無言でそれを見ていた乙女が脳内でガミオンに語りかけた。
『あれが、君の言っていた敵なのか?』
『そうだ、規模から言って恐らくは戦士クラスの何者かだろう』
『戦士?あの丸っこいのが?』
『アレはコクーン形態、自動修復機能では修復不能なダメージを負った体を修復させる為に取る形態だ。
簡易移動機能と自衛機能がある』
『何故、周囲を破壊しているんだ?自己修復するならジッとしてりゃいいじゃないか』
『攻撃を受けての防衛反応か、もしくは修復速度を上げるため、周囲の物質を取り込んでいるのだろう』
『にしてもやり方が無茶苦茶すぎる!止める方法はないの?』
『人類の装備では不可能だろう』
『……君なら止められる?』
『おそらく』
『なら、アレを止めてくれ!』
『いいだろうタケシ、君が許可してくれるのなら。だが君は本当に覚悟は出来ているのか?』
『覚悟……?』
『そうだ。私はアレに勝てる自信はある。
だが、それでも完璧と言い切ることは出来ない。
敵がコクーン内で修復をほぼ完了していたとしたら、機能不全状態の私では勝てない場合もある。
その場合、逆に私が破壊されるだろう』
グッと息を呑む乙女。
『その結果、タケシ、君の体も私と共に生命活動を停止することになる。
すなわちタケシ、君は命を賭ける覚悟があるのか、ということだ』
乙女はキョーコたちの方を見た。
不安に曇っている彼女らの表情。
TVには被害が拡大するさまが映し出され、アナウンサーの上ずった声が流れて続けている。
「…………」
乙女は二人に気付かれなうように、そっと部屋を出ると
そのまま玄関をくぐりぬけ道路へ向かって歩き出す。
見上げるとそこには光学迷彩をといたガミオンが静かに立っていた。
「ガミオン、僕も一緒に連れっててくれ、この体なら何かの役に立てるはずだ」
「いいんだな?タケシ……」
ガミオンの言葉に強く頷く乙女。
「行こう!ガミオン!二人でアレを止めるんだ!」
うなづくガミオンの手のひらに乙女が飛び乗るとガミオンは軽やかに走り出す。
軽い地響き音を立てて走り続けるガミオン。
徐々に足音が小さくなり、やがて消えていく。
だが、ガミオンは走るのをやめたわけではない。
乙女が下を見下ろすとガミオンの脚は何もない宙を蹴り走り続けていた。
「重力制御だ。今は移動ぐらいにしか使えないが、万全の状態なら多少の攻撃を防ぐことにも使える」
ガミオンはひときわ大きく宙を蹴り、高空へ飛び上がる。
「タケシ、君は私の中に入れ」
言うとガミオンの下腹部がスライドし始める。
顕になったタケシの本体を収容したカプセルがさらに奥へと引っ込むと、
そこに人一人が入れるぐらいのスペースが空いた。
「人間一人ぐらいは収納できる、さあ!」
乙女がそのスペースに飛び乗ると、乙女の体を挟み込むように機械部品がまとわり着き、
ガミオンの開いた下腹部が閉じていく。
「す、すごい!」
何の違和感も、衝撃も感じず、むしろ心地よい感触に乙女が感嘆の声をあげた。
「では、急ぐぞ、タケシ」
するとガミオンの体が複雑に蠢き、みるみる形を変える。
一瞬のうちに二つの機首を持つ航空機のような姿に変わったガミオンは速度を上げ
空高く一気に飛び立っていった。
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