Roket Hanabi

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祝砲

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祝砲が響いた月曜日。その音は今日で世界無武装条約成立100周年記念日を迎えたことを伝えた。100年前、全世界戦争真っ只中の頃、人類の存続は危機的な状況に置かれていた。化学の異様な発達による人類の争いは多くの環境と文化、人を殺した。もはやどちらかの勝利ではない。あるのは全ての破滅だ。人類はようやくそのことに気づいた。そこで立てられた条約が全ての国、全人類の武装を禁止とする。世界無武装条約だ。当然、この条約の成立にはいくつもの壁が存在した。まずそのような条約を守る国は存在するのか。その壁は圧倒的な武力的同調圧力により破壊された。意を唱えた国は、その国以外の全てからの攻撃をくらい、国そのものを跡形もなく破壊した。残酷なように思えるがそれが民意であり、それが人類を守るための最善の手段であった。また個人の武装に対しても、同様に対処した。人権を無視し、高性能コンピュータを搭載したロボットにより考えうる限り最大の苦痛を与えて殺した。そんな生活が続いて40年が経った。その時にはこの星に、いやこれからこの星に生まれていく命にも人を傷つけようとするものは存在しなかった。蝶々が辺りを飛び回る。ぴょんと蛙がどこかで跳ねる。煌びやかな日光に照らされてまたそれから60年。そうして今日を迎えた。辺りは緑のみに囲まれ、多種多様な生物が辺りを囲んでいた。カツンと音がする。金属の光沢が100年前と変わらぬ太陽に照らされてキラキラと輝いている。そして透き通るような電子音で辺りに呼びかけた。
「この星に今は害はなく、全てが平和のまま暮らせている。偉大なる日を迎えたことに皆さま拍手をお願いします」100年前に決められた言葉を決められた通りに発し、その言葉はただ空気として流れた。完全なる平和である。空気は透き通り、苦しんでいる人など一人も存在しない。キラキラした何台もの金属の光沢とどこまでも続く緑がこの星を包んでいる。ボン。どこかで祝砲が鳴った。
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