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Ⅰ ”最も優秀なオメガ”カイルのお見合い話
【閑話】一日の終わり
しおりを挟む◇ ◇ ◇
中天にあった太陽が少しずつ西へと傾いていく。カイルは腹が一杯になったせいか、またうとうとと居眠りをし始めた。ヴィハーンはそんな彼を放っておいて一人で火の始末をし食べた骨や残骸を地中深くに埋め、カイルが山のように持ってきた細々とした者を籠に入れてやる。
「そろそろ起きろ」
『うーん、なんだって……?』
寝ぼけているのか、カイルはムニャムニャとわけのわからぬことを呟いている。面倒で荷物と一緒にカイルを小脇にぶら下げて歩きだした。
『ちょ、ちょっと待った! 起きた! ちゃんと起きたから!』
慌てたようにカイルが何か叫んでいるが、ヴィハーンは一刻も早く帰りたかったのであえて無視する。崖を登り細いけもの道を通って近道をし、やがてカイルが住んでいる家に着いた。
ロバのいる囲いの横を通って荷物とカイルを抱えたまま扉を開けて家の中に入る。こういう時は腕が四本あるのは大変便利だ。どさどさと抱えたものを床やテーブルに下ろすと足元から『んぐ』とカイルのうめき声が聞こえて来た。
『お、起きてるって言ったのに……まるで暴れ馬の馬車に乗ったみたいだ……』
「ならば休め。明日は外をうろうろするな」
そう言ってヴィハーンは家を出ようとする。するとカイルが『帰る前にお茶でもどうだい?』と聞いてきた。
「いらん。これから用がある。すでに一日潰れてしまったからな」
『そうか……それはすまなかった」
カイルが床にへたり込んだままニッと笑う。
「わたし、楽しい、今日、とても」
そう言って手を挙げるカイルを一瞥して、ヴィハーンは扉を閉めた。庭の木戸の手前でロバを一瞥してから細い道に出て走りだす。けもの道を駆け下り、崖を飛び降り、藪を抜けてさきほどカイルと肉を食べた場所まで戻る。さらに奥へ進んでヴィハーンがいつも籠っている洞窟にたどり着いた。
陽は沈みかけていて舌打ちをする。入口近くに積んである松明を一本取って火打石で火をつけ、暗い洞窟の中へと入っていった。
どんどん奥に進み、突き当りで止まる。そして持っていた松明を掲げた。
今日は実に奇妙な一日だった。こんなにあっという間に日が暮れてしまったのは初めてではないだろうか。だがヴィハーンは今日という日をまだ終わらせるつもりはなかった。
たいして知っているわけでもない相手と丸一日一緒にいてひどく気疲れしているはずなのに頭は妙に冴え、気分はやけに高揚している。
ヴィハーンは目の前の洞窟の壁をじっと見つめていたが、ぐっと唇を噛み締めると松明を持ったまま壁に立てかけた梯子を掴み寄せる。そして地面に散らばる鑿と鏨を拾って口に咥え、勢いよく梯子を登り始めた。
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