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Ⅰ ”最も優秀なオメガ”カイルのお見合い話
プロローグ
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「オメガらしくないオメガ」と「アルファらしくないアルファ」のわくわく異文化交流BLです。
割とほのぼのしてのんびりしたお話になります。
ゆっくり更新になってしまうかもしれませんが、お楽しみいただけたら嬉しいです。
----------------------------------------------------
『誰にでも、この世に一人だけの運命の人がいる』
もちろんそんなのは少女たちが憧れる夢物語かただのお伽噺だ。でも《アルファ》《オメガ》と呼ばれる者にだけ、それが真実となる。
非常に優れた頭脳と身体機能を持ち、容姿にすぐれ、生まれながらにして絶大なカリスマを持つ《アルファ》
そのアルファと強固な親和性を持ち、アルファとつがうことで新たなるアルファを産むことができる《オメガ》
アルファとオメガはそれぞれ特有のフェロモンを持っていて互いに強く惹き合うが、この世で互いに一人だけ《完璧な相性》を持つ相手がいるという。
――――運命のつがい。パーフェクト・マッチング。
それは新大陸において最も美しく最も優秀なオメガと名高いカイル=ヴァンダービルドにも当てはまるはず……だった。
◇ ◇ ◇
――――私たちオメガにはね、世界にたった一人の《運命の人》がいるのよ。
母はいつも夢見るような顔をしてそう言うが、カイルにはそれが信じられない。
なぜならアルファのフェロモンをどれだけ浴びせられても、カイルが心惹かれる相手は一人もいなかったから。
――――僕たちでは君とは釣り合わないということさ。だから君はいまだに誰のフェロモンにも惹かれず、発情期だって訪れないんだ。
いつもカイルを笑わせてくれていたアルファの幼馴染は、なぜか目を合わさずそう言った。
(僕のような風変りなオメガには『運命の相手』はいないということか)
それならそれで構わない。いくらアルファだろうが自分より劣った相手の女になって子どもを生むなんてまっぴらごめんだ――――そう思っていたはずのに。
《運命》とやらは時々とんでもない方向に人を引きずり込むらしい。
(まさかはるばる大西洋を渡り、異種族のアルファとお見合いすることになるとはね……)
カイルはごくりと唾を呑み込んで回想を打ち切ると、大きく首をのけぞらせて目の前に立つ男を見上げた。
はるか太古の昔より連綿と続く竜蛇の一族。どの大陸とも国交を結ばず、神秘のベールに閉ざされ続けてきた《旧大陸》の民。
その王族の一人であるという彼は、本国では見たことがないほど大きかった。その背はゆうに八フィートは超えていて、ゆったりとした服に覆われた浅黒い肌の下に太い筋肉の束が大きく盛り上がっている。剥き出しの腕はカイルの胴くらいありそうだ。しかもそれが四本もある。
(腕が四本だって?)
それだけじゃない。耳の端は尖り硬く厚そうな爪は黒く、なんと尻からは鱗に覆われた極太の尾まで生えている。あまりに自分たち人間とは違う姿にカイルは思わず二度瞬きをした。横に並んでいる政府からの随行者たちなどは全員完全に気圧されている。
男は一対の手を腰に当て、もう一対の腕を分厚い胸の前で組んだまま、竜蛇族の王族とステイツからの使節団が居並ぶ前でカイルを一瞥もせず言い放った。
「俺は見合いなどしない」
まるで地面から足を伝ってカイルを揺るがすような太い声が腹の奥底に響く。
「俺はオメガなどいらん。だからお前も必要ない」
その時初めて男の目がカイルに向けられた。粗削りな鑿で穿たれたような彫の深い顔立ちの中、真っ黒な目と金色の光彩が息を呑むほど鮮やかに輝いている。その美しさにカイルは一瞬息を止めた。だがカイルが何か言う前に男はくるりと踵を返して行ってしまった。
(これは……前途多難だな……いろいろと)
それが古の蛇神の血を引くというアルファ、ヴィハーンとカイルの最初の出会いだった。
割とほのぼのしてのんびりしたお話になります。
ゆっくり更新になってしまうかもしれませんが、お楽しみいただけたら嬉しいです。
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『誰にでも、この世に一人だけの運命の人がいる』
もちろんそんなのは少女たちが憧れる夢物語かただのお伽噺だ。でも《アルファ》《オメガ》と呼ばれる者にだけ、それが真実となる。
非常に優れた頭脳と身体機能を持ち、容姿にすぐれ、生まれながらにして絶大なカリスマを持つ《アルファ》
そのアルファと強固な親和性を持ち、アルファとつがうことで新たなるアルファを産むことができる《オメガ》
アルファとオメガはそれぞれ特有のフェロモンを持っていて互いに強く惹き合うが、この世で互いに一人だけ《完璧な相性》を持つ相手がいるという。
――――運命のつがい。パーフェクト・マッチング。
それは新大陸において最も美しく最も優秀なオメガと名高いカイル=ヴァンダービルドにも当てはまるはず……だった。
◇ ◇ ◇
――――私たちオメガにはね、世界にたった一人の《運命の人》がいるのよ。
母はいつも夢見るような顔をしてそう言うが、カイルにはそれが信じられない。
なぜならアルファのフェロモンをどれだけ浴びせられても、カイルが心惹かれる相手は一人もいなかったから。
――――僕たちでは君とは釣り合わないということさ。だから君はいまだに誰のフェロモンにも惹かれず、発情期だって訪れないんだ。
いつもカイルを笑わせてくれていたアルファの幼馴染は、なぜか目を合わさずそう言った。
(僕のような風変りなオメガには『運命の相手』はいないということか)
それならそれで構わない。いくらアルファだろうが自分より劣った相手の女になって子どもを生むなんてまっぴらごめんだ――――そう思っていたはずのに。
《運命》とやらは時々とんでもない方向に人を引きずり込むらしい。
(まさかはるばる大西洋を渡り、異種族のアルファとお見合いすることになるとはね……)
カイルはごくりと唾を呑み込んで回想を打ち切ると、大きく首をのけぞらせて目の前に立つ男を見上げた。
はるか太古の昔より連綿と続く竜蛇の一族。どの大陸とも国交を結ばず、神秘のベールに閉ざされ続けてきた《旧大陸》の民。
その王族の一人であるという彼は、本国では見たことがないほど大きかった。その背はゆうに八フィートは超えていて、ゆったりとした服に覆われた浅黒い肌の下に太い筋肉の束が大きく盛り上がっている。剥き出しの腕はカイルの胴くらいありそうだ。しかもそれが四本もある。
(腕が四本だって?)
それだけじゃない。耳の端は尖り硬く厚そうな爪は黒く、なんと尻からは鱗に覆われた極太の尾まで生えている。あまりに自分たち人間とは違う姿にカイルは思わず二度瞬きをした。横に並んでいる政府からの随行者たちなどは全員完全に気圧されている。
男は一対の手を腰に当て、もう一対の腕を分厚い胸の前で組んだまま、竜蛇族の王族とステイツからの使節団が居並ぶ前でカイルを一瞥もせず言い放った。
「俺は見合いなどしない」
まるで地面から足を伝ってカイルを揺るがすような太い声が腹の奥底に響く。
「俺はオメガなどいらん。だからお前も必要ない」
その時初めて男の目がカイルに向けられた。粗削りな鑿で穿たれたような彫の深い顔立ちの中、真っ黒な目と金色の光彩が息を呑むほど鮮やかに輝いている。その美しさにカイルは一瞬息を止めた。だがカイルが何か言う前に男はくるりと踵を返して行ってしまった。
(これは……前途多難だな……いろいろと)
それが古の蛇神の血を引くというアルファ、ヴィハーンとカイルの最初の出会いだった。
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