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Ⅰ ”最も優秀なオメガ”カイルのお見合い話
チャールズの報復
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(さすがに言い過ぎたか)
これ以上騒ぎを大きくしない方がいいと思ったカイルは「じゃあ」と言って踵を返す。
「くそっ、オメガのくせに……!」
「きゃ……っ!」
たまたま近くにいた令嬢が悲鳴を上げた。 怒りに真っ赤に顔を染めてチャールズが怒鳴る。
「生意気なオメガめ! さっさと俺のモノになっていればいいものを!」
そう叫んで振りかぶった手に小さな小瓶が握られているのを見て、カイルはとっさに令嬢をかばって前に出た。大きく足を踏み出した勢いのまま、腰から捻って全身の力を拳にこめる。カイルの拳を頬に受け、チャールズがみっともない声を上げて吹っ飛んだ。宙に舞う小瓶をすかさずキャッチしたカイルは緩んだ蓋をきっちりと締め直す。そしてひしゃげたカエルのように地べたに這いつくばった彼を冷たい目で見下ろした。
「とても『立派なアルファ』のすることじゃないな」
「くそ……っ!」
「ああ、ほら。お迎えが来たようだ」
ざわざわとざわめく招待客の間から制服姿の警察官がやって来る。そしてご自慢のコートに鼻血を垂らしたチャールズを引きずり上げた
「離せ! なんで園遊会に憲兵風情が!?」
「知らなかったのかい? 今日このパーティには政府の高官たちもいらしていてね」
カイルの視線の先に慌てたように駆けつけるアラン氏と、そして友人アルフレッドの姿があった。警官に取り押さえられたチャールズの唇が嘲笑の形に醜くめくれ上がる。
「ハッ、もっとも優れたオメガだなんて嘘だ! アルファに従うこともできず、かといって自らアルファを見つけ出す能力もない。お前は出来損ないの、クズのオメガだ!」
「その男を早く連れていけ!」
アランの指示で警官がチャールズを引きずっていくと、入れ違いにアルフレッドが駆け寄ってきた。
「カイル、大丈夫か!?」
「問題ないさ」
アルフレッドがカイルの手の中にある小瓶に目を留める。
「それは?」
「恐らく興奮剤だ。オメガ専用のね」
「な……っ!」
カイルはチャールズが怒りと侮蔑の混じった顔をしてポケットに手を突っ込んだ時点でコレに気が付いていた。
実力や家名、容姿、いろんな点でカイルに勝つことができずプライドばかりが高いアルファの男がこのような卑怯な手を使ってカイルを自分の支配下に置こうとしたことはこれが初めてではない。
うっかり巻き込まれそうになったオメガの令嬢の顔が真っ青になるのを見て、カイルは落ち着かせるように軽く肩を叩いた。
「怖い思いをさせてしまって申し訳ない」
「い、いえ……大丈夫です。それより貴方は……」
震えながらも気丈にカイルを気遣う彼女と目が合う。そして二人の目に同じ感情の色がよぎったことに互いが気づいた。カイルは彼女の手をぎゅっと握る。
オメガにとって、アルファに暴力を振るわれたり意のままに操られたりすること以上の恐怖はない。ましてやこの女性はカイルよりももっと小柄で非力なのだ。カイルの腹の奥にチャールズへの怒りがぐらりと煮え立つ。けれど波打つ感情をすぐに穏やかな顔の影に隠し、微笑んだ。
「大丈夫だ、ありがとう」
駆けつけた母親と思しき婦人の手に彼女を預けると、アルフレッドがひどく激昂しながら声を上げる。
「関係ない女性まで巻き込んで……求婚に応えて貰えないからって、あんなのは立派な犯罪だ! 」
「君のように高潔なアルファはそうはいないってことさ」
「こんな一大事に遅れてのこのこ現れるような間抜けな男だけどね、クソッ」
彼らしくない悪態にカイルは苛立ちを忘れて思わず吹き出す。
「何を言うんだ。君は一度だって僕を馬鹿にしたり、アルファの力で言うことを聞かせようとしたりしたことがない。いつだって信頼できる一番の親友だよ」
「一体何事です!」
レディーらしからぬ速足でやってくる母親の姿を見つけて、カイルは密かにため息を呑み込んだ。
これ以上騒ぎを大きくしない方がいいと思ったカイルは「じゃあ」と言って踵を返す。
「くそっ、オメガのくせに……!」
「きゃ……っ!」
たまたま近くにいた令嬢が悲鳴を上げた。 怒りに真っ赤に顔を染めてチャールズが怒鳴る。
「生意気なオメガめ! さっさと俺のモノになっていればいいものを!」
そう叫んで振りかぶった手に小さな小瓶が握られているのを見て、カイルはとっさに令嬢をかばって前に出た。大きく足を踏み出した勢いのまま、腰から捻って全身の力を拳にこめる。カイルの拳を頬に受け、チャールズがみっともない声を上げて吹っ飛んだ。宙に舞う小瓶をすかさずキャッチしたカイルは緩んだ蓋をきっちりと締め直す。そしてひしゃげたカエルのように地べたに這いつくばった彼を冷たい目で見下ろした。
「とても『立派なアルファ』のすることじゃないな」
「くそ……っ!」
「ああ、ほら。お迎えが来たようだ」
ざわざわとざわめく招待客の間から制服姿の警察官がやって来る。そしてご自慢のコートに鼻血を垂らしたチャールズを引きずり上げた
「離せ! なんで園遊会に憲兵風情が!?」
「知らなかったのかい? 今日このパーティには政府の高官たちもいらしていてね」
カイルの視線の先に慌てたように駆けつけるアラン氏と、そして友人アルフレッドの姿があった。警官に取り押さえられたチャールズの唇が嘲笑の形に醜くめくれ上がる。
「ハッ、もっとも優れたオメガだなんて嘘だ! アルファに従うこともできず、かといって自らアルファを見つけ出す能力もない。お前は出来損ないの、クズのオメガだ!」
「その男を早く連れていけ!」
アランの指示で警官がチャールズを引きずっていくと、入れ違いにアルフレッドが駆け寄ってきた。
「カイル、大丈夫か!?」
「問題ないさ」
アルフレッドがカイルの手の中にある小瓶に目を留める。
「それは?」
「恐らく興奮剤だ。オメガ専用のね」
「な……っ!」
カイルはチャールズが怒りと侮蔑の混じった顔をしてポケットに手を突っ込んだ時点でコレに気が付いていた。
実力や家名、容姿、いろんな点でカイルに勝つことができずプライドばかりが高いアルファの男がこのような卑怯な手を使ってカイルを自分の支配下に置こうとしたことはこれが初めてではない。
うっかり巻き込まれそうになったオメガの令嬢の顔が真っ青になるのを見て、カイルは落ち着かせるように軽く肩を叩いた。
「怖い思いをさせてしまって申し訳ない」
「い、いえ……大丈夫です。それより貴方は……」
震えながらも気丈にカイルを気遣う彼女と目が合う。そして二人の目に同じ感情の色がよぎったことに互いが気づいた。カイルは彼女の手をぎゅっと握る。
オメガにとって、アルファに暴力を振るわれたり意のままに操られたりすること以上の恐怖はない。ましてやこの女性はカイルよりももっと小柄で非力なのだ。カイルの腹の奥にチャールズへの怒りがぐらりと煮え立つ。けれど波打つ感情をすぐに穏やかな顔の影に隠し、微笑んだ。
「大丈夫だ、ありがとう」
駆けつけた母親と思しき婦人の手に彼女を預けると、アルフレッドがひどく激昂しながら声を上げる。
「関係ない女性まで巻き込んで……求婚に応えて貰えないからって、あんなのは立派な犯罪だ! 」
「君のように高潔なアルファはそうはいないってことさ」
「こんな一大事に遅れてのこのこ現れるような間抜けな男だけどね、クソッ」
彼らしくない悪態にカイルは苛立ちを忘れて思わず吹き出す。
「何を言うんだ。君は一度だって僕を馬鹿にしたり、アルファの力で言うことを聞かせようとしたりしたことがない。いつだって信頼できる一番の親友だよ」
「一体何事です!」
レディーらしからぬ速足でやってくる母親の姿を見つけて、カイルは密かにため息を呑み込んだ。
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