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クルンの町~カンダルの町へ(3)★
しおりを挟む「い……いや、だ……、はな、せ……っ」
「ああん? 聞こえねぇなァ」
指先で胸の突起の周りをカリカリと引っかかれて声が漏れる。同時に下衣の中に潜り込んできた手に足の間を嬲られて、リツは力なく首を振った。
「こいつ、なんかいい匂いすんな」
「へぇ……珍しい、傷や痘痕の痕もねぇ。ここなんてすべすべしてやがるぜ」
「俺にもよく見せろ。足をもっと開け」
「は……っ、ハッ、あっ」
自分よりも大きな身体に挟まれてもみくちゃにされて息ができない。汗臭い男たちの体臭にぐらり、とめまいがする。
「おいおい、何も知らなさそうなおぼこいツラして、乳首弄られて勃起してるぜ。こいつ」
「薬が効いてんだろ。なんせイヒラの干したのは相当ヤバイからな」
「おい、こりゃ初物じゃねぇな。濡らせば指の一、二本くらいならすぐ入りそうだぜ?」
「なら遠慮はいらねぇな」
(いやだ、いやなのに、なんでか、からだが、あつい)
真っ暗な森の中、欲望に塗れた荒い息遣いと密着してくる他人の体温。そして身体のあちこちを這いまわる大きな手。
リツの脳裏に、よく似た感触や身体の重みが蘇る。
(いや、ちがう、おれがしってるのは、これより、もっと)
「い、いやだ……、はなせ……っ」
無遠慮な男たちの手がリツのモノを扱き、その奥に触れてくる。何かで濡らされた指が後ろの小さな穴をこね、縁を引っ掛けては無遠慮に中に入り込んできた。同時に服の下から這い上がる手がリツの胸を揉みしだき、指の腹で先端をこね回す。
「は……っ、ハッ、や、やだ、あ……っ」
嫌なのになぜか身体が熱くて、あちこち擦られたり揉まれたりするたびに腹の奥の熱がますます煽られる。耳の後ろをねろり、と舐め上げられて小さく悲鳴を上げた。そのくせ勝手に足が開いてもっと奥に、中に触れて欲しくて力が入る。
(なんで、なんで)
どうして突然こんな風になっているのかわからない。こんな誰ともわからない男に触れられてどうして感じてしまっているのか。頭がぐちゃぐちゃで、きちんと考えることもできない。その時、濡れた後腔に触れている指先がさらに奥へと潜り込んできた。
「い、いや、だ……ぁ……っ」
耐えられずに必死に声を押し出した時、ぶおん、と空気を薙ぎ払うような音がして男の手がリツから離れた。そしてもう一人の手も急に消えてリツは背中から地面に投げ出される。
ぶつけた後頭部が痛い。起き上がろうにも手足が重くて動かせない。それに腹の中で沸々と煮えたぎり、脳がぐらぐらとゆだるような熱で意識さえ曖昧になる。目を開けているはずなのにぼんやりとしてよくわからない。
リツはあおむけに倒れたまま、片手を胸に載せてハアハアと浅い呼吸を繰り返した。
ふと、何か重いものが地面に落ちる音がした。そしてむわり、とむせかえるような何かの匂いが立ち込める。
(ああ、これは、しってる)
(これはまえにも、もりで、かいだことのある、)
(これは、そう、血のにおい……?)
誰かが倒れたリツの身体を抱き起した。さっきの男たちとよりももっと大きくて分厚い身体がリツを抱え込む。その手や身体が触れただけでリツの下腹はキュッと引き攣れ、身体が震えた。
「……っ、……ぁ……は……っ」
(あつい、あつい、だれか、たすけて)
ぼんやりとした視界に真っ暗な森が映っている。
初めてこの世界へ来た時は、寒くて怖くて死にそうなくらい恐ろしかった。あちこちから聞こえてくる葉擦れの音や獣の遠吠えやフクロウのような泣き声が怖くて、まるで腹を空かせてだらだらと唾液を垂らす猛獣たちが、リツが弱って抵抗できなくなるのをじっと待ちながら取り囲んでいるんじゃないかと錯覚した。
けれど今は中途半端に男たちに弄られて放り出されたリツの身体は、どこもかしこも恥ずかしいくらいに熱が灯っている。
「…………て……、たす、…………て……」
じわ、と生理的な涙がにじんでくる。ハアハアと途切れ途切れの息の下から思わず呟く。
身体が動かない、怖い、熱い、あそこがじくじくする。
その時、かさついた大きな手に下腹を撫でられて思わず声が零れた。
「っ、は…………ん……っ」
丸太のように硬くて太い腕が後ろから抱え込む。そして片方の胸の突起を指でくりくりと扱かれ、先走りを零す亀頭を撫でられてリツはあまりの気持ちのよさと切なさに甘い吐息を漏らした。
「ん…ぁ、っ……んっ」
足の間をまさぐる太くて長い指がリツの濡れた孔の縁をめくり、中に潜り込んでは柔らかな肉壁を擦っている。背筋を這う快感に思わずきゅっと締め付けると、今度は濡れた舌で耳の穴をぬちぬちと抜き挿しされた。
「あぁ、ア……っは、あ、ン、はァ……」
(きもちいい、きもちいい……)
中をこね回す指は二本に増え、ぼんやりと煙る脳と耳にくちゅくちゅと濡れた音が忍び込む。
「……き、……きもち、いい…………ょぉ……っ」
我慢できずに呟くと、リツを抱え込んだ誰かが低く笑ったような気がした。
(ああ、でも、これじゃたりない)
リツが欲しいのはもっと太くて、もっと硬くて、もっと大きなものだ。なぜならリツは、恐ろしい夢さえ見ずに朝までぐっすり眠れるほどに身も心も何もかも奪い尽くし、喰らい尽くしてくれるモノをすでに知っているから。
――――あんな風に人間様のふりしてやがるがプンプン匂うぜ。あいつらは半獣のケダモノ野郎だ。
ふと、ついさっき聞かされた言葉が頭に浮かぶ。
人間とは違う、半獣と呼ばれる生き物。『彼』がどれほど大きくて頑丈で、人間なんかじゃ太刀打ちできないくらい強いかリツは知っている。
「たすけ、て……、たす、けて…………っ」
トラックにはねられ、真っ暗な森の中に一人放り出された時。
お腹が空いてお腹が空いて、知り合いもおらずなんで自分がこんな見知らぬ場所にいるのかもわからず、一人膝を抱えてガタガタ震えていた時。
恐ろしい魔獣が地を震わす咆哮と臭い唾液をまき散らしながらものすごい勢いで襲い掛かってきた時。
一体何度心の中で「誰か助けて」と叫んだだろう。でも一度だって誰かがリツを助けてくれたことなんてなかった。唯一リツをその強い腕の中に抱え込んで守ってくれた『彼』は今ここにはいないのだ。そう思っただけで怖くて切なくて胸が引き絞られるように痛む。
「……ッ!」
一緒にいると危ないから。この辺りでは獣人や半獣はひどく憎まれているから。
半獣の彼がひどい目に遭わされるのを見たくなくて、だから別々に別れて町に入ろう、とリツが言ったのだ。
『彼』ほど強い人なら、リツに付き合ってこんな風に大勢の人たちとゾロゾロ街道を歩いていく必要はない。一人で森をまっすぐに突っ切って目的地のカンダルまであっという間にたどり着けるのだ。
(彼にとって、おれはただのお荷物でしかない)
「ひぐっ」
ついに中に潜り込んだ指が三本になり、長く節くれだった指で中を擦られ開かされる。
「ぁぅうっ……んっ、ぁんっ、ぁあ……っ」
いつの間にかリツは、中を指でかき回されてイってしまっていた。とろとろと零れる精液をからめた指でさらに中を突かれ、いやらしい水音が夜の森のしじまに響く。
(ひとりでだいじょうぶなんていわなきゃよかった)
「……っは、……ぁ……っ」
(でも、こんなやつらに、ひどいこといわれるかれを、みたくなかったから)
「あ、あっ、や、やだぁ……っあ、は、……ひぅんッ」
リツの耳たぶを甘噛みしていた誰かが覆いかぶさって来てリツの唇を塞いだ。ぬるぬると絡みついてくる濡れた舌と厚みのある唇の感触にリツは陶然としながら、彼の暗く静かな、けれどどこか恐ろしいものを秘めた目と、そして『彼』と二人だけの旅が始まった日のことを思い出した。
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