【完】酔っ払いオオカミくんと片思い赤ずきんちゃん

伊藤クロエ

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09★ 赤ずきんちゃん、罠を仕掛ける。

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「ドルフー、いるー?」
「おう」

 あれから一週間が経った。僕が実家から持ってきた大荷物を抱えて、警備隊の寮のドルフの部屋まで行くと、ドルフが中からドアを開けてくれた。相変わらずの三白眼でギロッて睨まれたけど、元々こういう顔なだけで別に怒ってるわけじゃないことくらいなら僕でも一応わかる。

「遅い時間にごめん。もう寝るとこだった?」
「いや」
「外、結構寒くなってきたね。また冬が来るの、やだなぁ」

 そんなことを言いながらドルフの横を通って部屋に入らせてもらう。
 ドルフは王都の守護警備隊の二番隊の隊長をしてるから、狭いけど個室を貰ってるのだ。僕は同期のやつとの二人部屋だけど。
 部屋の半分くらいを締めてるベッドの横のテーブルに持ってきた荷物をどさっと置いて一息ついた。

「これ、キリュウから預かってきたよ。東方諸国の風土誌、頼んでたんだって? ドルフこういうの読むの好きなんだね。知らなかったよ。あ、ナナセからも最近ギルドに持ち込まれた初見の素材の一覧表だって。で、こっちは特別にお持ち帰りしてきた浮かれカササギ亭のミートパイね。ドルフ好きでしょ? そうそう、カササギ亭のおじさんがアウールの滝んとこの魔獣、退治してくれてありがとうって言ってたよ。あとこれ、葡萄酒も持ってきた。よかったら今ちょっと飲まない?」

 布包みから次々に持ってきた物を並べるけど、ドルフは興味なさげな生返事をしてベッドにどさりと腰掛けた。そんでキリュウから借りたらしい綴じ本をめくり始める。

「このパイさ、今日僕が休暇終わって寮に戻るって言ったらおじさんが作ってくれてさ。ほら、まだあったかいよ。せっかくだから一切れだけでも出来たて食べようよ。ね?」
「ん」

 僕はいつも通り愛想の欠片もないドルフに構わず、普段持ち歩いてるポケットナイフでパイを切り、葡萄酒を開ける。

「この葡萄酒、こないだうちで飲んだやつよりずっと安いんだけど美味しくて気に入ってるんだ。赤だし、きっとミートパイにも合うと思うよ」
「オレ、味とかよくわかんねぇぜ?」
「まあ、ちょっと試してみてよ。あ、あとこないだキリュウが置いてったにごり酒の残りも持って帰ってきちゃった」
「なら、そっちでいい」
「せっかく買ってきたんだから両方飲んでよ」

 それから行儀悪く本を読みながらおっきな口でパイをもぐもぐ食べてるドルフにお酒を勧めた。
 ドルフは普段はもっぱら麦酒エール派で、飲み慣れない葡萄酒と結構度の強い東方のにごり酒を交互に飲んで、さすがに酒に強いドルフの目がいつも以上にすわってきてるのが傍目にもよくわかった。

「明日はドルフ、非番なんだよね。どうせ自分の部屋なんだし、ちょっとくらい飲み過ぎてもいいじゃん。外じゃ飲めないんだしさ」
「あー…………、じゃあ」
「ね。今日は僕とドルフだけだし、酔っぱらっちゃっても誰にも言わないよ」
「ん」

 遠い異国の歴史とか特産物とか、あとそっちに生息してる魔獣なんかについてが載ってるらしい本から目も上げずにドルフが答える。
 重たい剣を振り回して戦ってる時のドルフも文句なくカッコイイけど、本を読んでるドルフってのもめちゃくちゃカッコいいなぁ、なんてバカみたいなことを考えながら、僕はまたドルフのグラスに酒を注ぎ足してやった。


      ◇   ◇   ◇


 消灯時間をとっくにすぎて、さすがに騒がしい寮内も静まり返ってる。
 ランプを消した真っ暗なドルフの部屋のベッドに、すっかり酔っぱらったドルフが倒れ込んで眠っている。ゆるやかに上下する逞しい胸板を見下ろして、僕はそっとズボンと下着を落としてドルフを見下ろした。

「………………ドルフ……?」

 ドルフの上に屈み込んで、聞こえるかどうかわからないくらいの小さな声で囁く。そんでついこないだのように目を閉じたドルフの顔をこっそりと堪能した。

「ごめん。初めっからドルフのこと酔い潰すつもりだったって言ったら、きっと怒るよね」

 けどかなりの量のアルコールをちゃんぽんにして飲まされたドルフは、ぐっすりと眠り込んだまま何も答えなかった。

 久し振りにみんなで集まったあの夜、僕はガクガク震えて使い物にならない身体に鞭打って、必死にあの淫らな行為の痕を消し去った。
 ナナセを起こさないように、すっかり熟睡してるドルフの重たい身体をなんとか転がしてシーツを剥いで、また変な気が起きそうになるのを堪えながらドルフの身体を拭いて。
 でもどんなに証拠を隠滅したって僕の記憶は消えてはなくならなかった。

 あれから何度も何度も思い出しては、夜が来るたびに一人で苦しんで身悶えてた。
 あの夜に僕の部屋に響いてた、どっちのものかもわからない荒い息遣い。足を広げられて、あんな場所に太いペニスを突き入れられて気持ちよがって喘ぐ恥ずかしさと、耳をふさぎたくなるくらいいやらしい濡れた音。耳の後ろを這うざらついた舌の感触とか、僕の肩を押さえつけた手の力強さとか。そして僕がどんだけ腕を突っぱねてもビクともしなかったドルフの身体の重みとか。
 必死に声を押し殺して、ドルフに触っちゃわないように、声が漏れないように両手で口を押えながら感じてた、僕のナカを何度も何度も行き来してた極太の楔。そして奥をぐりぐりと突き上げ、捏ねまわす亀頭の感触。

「…………ッ」

 眠るドルフを間近に見下ろしながら、ゾクゾクと背筋をあのたまらない震えが這い上がってくる。お腹が熱い。鼓動も、体温も思考も何もかもが激しく乱れてぐちゃぐちゃになる。

「ドルフ……」

 ふと、ドルフの閉ざされた目蓋が薄っすらと開いて、その下からあの焦がれてやまない金褐色の目が覗く。酔いと眠気にぼんやりと揺らぐその目を、僕はじっと見つめた。

 ねえ、僕をみてよ、ドルフ。
 ぴくっ、ってドルフの大きな口が開いて、小さく息が漏れる。半分だけ開いた目蓋から見える綺麗な目に見蕩れながら、僕はゆっくりとドルフのズボンと下着を引きずり降ろして深々と顔を埋めた。

 僕のモノとは色も形も全然違うドルフの男根を口に含んで愛撫する。飽くほどに太い幹より幾分細い先端をできるだけ喉の奥まで飲み込んで、きゅう、と締め付ける。そのままゆっくりと頭を動かしてドルフのモノを口で扱くと、頭の上からドルフの低い唸り声が聞こえてきた。

 根元の瘤のようなところを手で愛撫しながら、すでに勃ち上がったペニスを舐めしゃぶる。ドルフの大きな手が僕の頭に触れたけど、いつもと全然違って力が入ってないから多分半分寝てるんだろう。

 あらかじめ見よう見まねで香油を仕込んでおいた後腔を手で覆いながら、ドルフの上に跨る。もう手で支えなくてもドルフのモノは完全に勃起しててビクビクと震えてるみたいだった。

「…………っふ、…………んっ」

 ぬち、と先っぽが入って来る。ドルフの肉棒はすごく太くて大きいけど狼族のモノは先端が細いから、僕の慣れていない狭い入口も容易くこじ開けられる。
 ドクン、ドクン、といつかみたいに僕の心臓が激しく暴れ出すけど、絶対に絶対に声を出しちゃいけない。息も殺して漏れそうになる喘ぎも全部呑み込んで、僕は思わずドルフに抱きつきたくなる手をきつくきつく握りしめて口を押えて少しずつ、少しずつドルフのモノを腹の奥まで呑み込んでいく。
 ようやく根元まで咥え込んで、あまりの苦しさに息が詰まりそうになりながら、ドルフの逞しい胸と綴じた目蓋を見下ろした。

 はあ……やっぱりすごい、おおきい、熱くて太い熱の塊が、ぎちぎちに埋め込まれてるみたいで身動きとれない。ああ、でも。

 その時、ドルフがひときわ深い息を吐いて、また目を開けた。僕は息を呑んでそれを見守る。はっきりと焦点を結ばなかったドルフの視線が、ぼんやりと僕に向けられる。
 ずっとずっと憧れてた、鋭くて僕の嘘や隠し事なんか全部見透かしてるみたいな綺麗な目に射貫かれて、お腹がきゅうぅううっっ、って引き絞られる。すると根元まで呑み込んだドルフの男根の熱さとか太さとかがますます伝わってきて、僕の理性をどろどろに溶かしていった。

 ぐる、とドルフが低く唸る。きっと酔っぱらって寝ぼけたドルフには、これは夢か、それとも誰か女と寝てるんだって思ってるんだろうな。だってもし上に乗っかってるのが僕だってわかってたら、すぐに跳ねのけられて拳の一発や二発は飛んできてるだろうから。

 もう、女と勘違いされてたっていい。なんでもいい。嘘でも夢でもきみが僕を見てくれるなら。
 あれからずっと僕は毎晩夢見てる。
 酔っぱらって朦朧とした意識の中、あらゆる獣が生まれながらに持つ原始の欲求だけが目覚めて、その獣の牙に深々と貫かれる瞬間を。

 ずく、と僕のナカのモノが動いて思わず息を呑む。慌てて口を塞いだ手に力を籠めたのと同時に、ドルフがゆっくり、ゆっくり腰を揺らしてきた。

 ああ、きもちいい。
 いたくてくるしくてつらいけど、しにそうなくらいきもちがよくて、みたされる。

 ドルフが動く度に、くちゅ、くちゅ、って濡れたいやらしい音が聞こえてくる。それを聞きながら倒れ込みそうになる身体を必死に支えて声を飲み込む。
 ハァ……って漏れたドルフのため息とか、ベッドが軋む音だとか、跨いだドルフの腰の太さとか、僕の奥をぐちぐちと突いてる男根の熱さだとか。
 絶対に忘れない。一生大事に覚えてる。何より、今だけ僕を見てくれてる、その怖いくらいに綺麗な目を。

 ねえ、僕はきみのとくべつになりたい。
 まだ子どもだった僕の目を一瞬で奪った、誰よりも速くしなやかに走って行ってしまう綺麗な綺麗な黒い狼。
 そんなきみの、ただひとりのとくべつに。

 君と一緒に走って、君に認められて、その綺麗な金色の目で僕を見て欲しかった。
 その夢は叶わなかったけど、違う光を宿した目に、今僕は確かに見つめられている。

「んっ、っふ、フッ、んぐ……っ」

 耐えきれずにベッドに手をついた僕の腰をドルフが掴んで、だんだん強く下から突き上げてくる。
 羽織ったままのシャツ越しに触れてるドルフの大きな手の強さに胸が激しく高鳴る。期待と興奮とで下腹からじわじわとこみ上げてくる熱く甘い疼きに頭がくらくらしてくる。
 もっと。もっと突いて。もっときみに、めちゃくちゃにされたい。
 ぐっ、と強く奥を突かれて思わず声が漏れそうになる。僕は必死に唇を噛んで、ドルフに触らないようにベッドについた右手を強く突っぱねて目を閉じる。
 頼むから、どうか気づかないで。
 本物の獣みたいに一言も言葉を発せずに、ハッ、ハッって発情した荒い息だけを吐いて下から突き上げてくるドルフの気配を全身で感じながら、僕は強く強く願う。
 お願いだから、今きみが抱いてるのが僕だって、どうか気づかないで。

 ドルフの視線が、関心が、ずっとずっと欲しかった。
 ドルフがほんの数人にだけに与える特別な場所に、僕も入れてもらいたかった。

 けど僕が僕である限りその望みは決して叶わない。そう思ってたから僕はいままでずっとドルフへの執着の正体から目をそらして、気づかない振りをしてたんだ。

 けどあの夜、酔っぱらって正体をなくしてしまったドルフに抱かれて、世界が全部
ひっくり返ってしまった。もう、伸し掛かるドルフの肉体の重みを、黒い毛皮の滑らかさを、手のひらのたまらない熱を、そしてあの猛る男根に貫かれて支配される感覚を知らなかった頃には到底戻れない。

 好き。きみがどうしようもないくらい好きだ。
 ドルフの強くて逞しい身体にしがみつきたい。でも絶対にしちゃいけない。
 きみを僕だけのものにしたくてたまんない。
 こんな風にドルフのモノで奥の奥まで貫かれて、気持ちが良くて、嬉しくてたまんないんだって言いたい。でも絶対に言っちゃいけない。
 だって、そんなことしたらバレちゃうから。
 これがゆめとかじゃなくて、あいてが僕だって、バレちゃうから。

「んっ、っふ、ん……っ」

 僕の腰を掴むドルフの力が強くなる。そんでぐいって持ち上げられながら半ばまで抜かれて、ぐぷっ、って一気に奥まで挿れられる。
 ああっ、すごい、あうっ、やっぱ、おおきい。あっ、おなか、いっぱい、奥までねじ込まれて、突き上げられるたびに、心臓が喉元まで押し上げられてるような感じがする。
 あっ、んぐ、イイ、きもちいい、はぁ、おく、すごい、そんなとこまで……っ!
 声が出せない分、頭の中でもうバカみたいに喘ぎまくる。そうでもしないと本当に声が漏れてしまいそうで怖いから。
 ああ、やだ、そこ、あう、ひんっ! もっと、あっ、あっ、そこ、すき、きもちいい、はぁ……っ
 どうせ、どうせ誰にも聞こえないから何を言ったっていい。

 ハッ、ハッってドルフの吐く息の音が響いてる。快感に細められた金褐色の目が光ってて暗闇の中でもはっきりと見えた。
 はぁ……、すごい、カッコいい、目がギラギラしてて、牙剥き出して、ハアハアして……あ、すご……っ、ああ、カッコいい、カッコいいよお……っ

 ドルフへと伸ばしそうになる手を爪が食い込むくらい強く握りしめて、血が出るくらいきつく唇を噛みしめて、ぐちゅぐちゅと音を立てて腹の中を行き来するドルフの肉棒の感触をかけら残さず記憶に刻み込もうとする。
 あまりにも苦しくて、あまりにも気持ちが良すぎて漏れそうになる声を噛み殺して、涙が滲んでくる目を見開いて自分を抱くドルフの姿を焼き付けようとする。ああどうしよう、涙出てくる。ほんと僕って情けないな。

 さわりたい。すきっていいたい。ずっとずっとだいすきだったっていいたい。

 ドルフの手が突然僕の項を掴んで引き寄せた。太くて鋭い牙が並ぶドルフの大きな口が僕の首筋に当たって、ざらざらとした肉厚な舌が唇がぞろり、と僕の肌を舐め上げる。
 ああ、きもちいい、きもちいい。
 だきしめたい。だきしめられたい。
 このままきみに、たべられてしまいたい。
 ドルフのモノがまた中で膨らんで、低い唸り声に耳を犯されながら僕の中いっぱいに溢れそうなほどたくさんの欲望の証を注ぎ込まれる。その瞬間、僕もビクビクと痙攣する身体と手を必死に抑え込みながら、声もなく果てた。



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 おおかみさんにたべられたい
 あかずきんちゃんのはなし。
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