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01 赤ずきんちゃん、オオカミくんと出会う。
しおりを挟む「なに泣いてんだ、お前」
街の初等学校に入学したばかりの10歳のころ、いじめられて学舎の裏で泣いてた僕にそう声を掛けてくれたのは、真っ黒な毛並みと金褐色の目をした狼獣人の男の子だった。
僕と同じ青色のタイをしてたから同級生なんだとすぐにわかったけど、人間とはまったく違うスッと伸びた鼻先とか目尻の吊り上がった鋭い目つきとか、いかにも大型獣人の子どもらしい大きな身体のせいでずっと年上みたいに見えた。
国中から人が集まるこの王都で獣人は数は少ないとはいえめちゃくちゃ珍しいというほどじゃない。でも彼の、瞳孔が小さいせいでちょっと怖そうに見える目と後ろで揺れてるふさふさの尻尾に目を奪われて、涙なんてあっという間に引っ込んでしまったのをよく覚えてる。
「なんだよ、誰かになんかされたのか?」
その子は、僕みたいな鈍くさい子どもとは全然違うってひと目でわかるような子だった。力が強そうだし走るのも速そうで、もしいじめられてもこの子なら反対にやり返しちゃうんだろうな、って子がわざわざそんな風に聞いてくれたのが嬉しくて、僕は思わず正直に話してしまった。
「み……みんなが、僕の髪の毛、派手すぎだし、いやな色だって……」
「髪の毛?」
僕の髪の毛はお母さんの金髪にそっくりで、女の人ならいいけど男の僕がそんな色してると確かに派手だなって自分でも思う時がある。だから、同じ新入生の子たちに囲まれてそう言われた時もとっさに言い返すことができなかった。
そしたらその獣人の子が鼻先にぎゅっとしわを寄せて怖い顔をした。宝石みたいに綺麗な目がギラリと光って思わず僕が固まると、その子が「ほかにもなんか言われたのか」って聞いてきた。
「え、ええと……僕の目玉、飴玉みたいに転がして食ってやろうかって……」
「はぁ?」
今度はびっくりしたみたいに目を丸くして、その子は首を傾げた。そんで僕の顔をじっと見たかと思うと急に何か納得したみたいに頷いて、そんで膝を抱えて蹲ってた僕の前にしゃがんだ。その拍子に真っ黒でふさふさした尻尾がくるんと動いて、そんで初めて間近に見る狼の顔に僕は瞬きするのも忘れて見入ってしまった。
「あのよ、お前の髪は確かに目立つけどいやな色なんかじゃないぜ」
「……っ、ほ、ほんと?」
「ああ。それに目玉は……」
そこでなんでか、またじーっと僕の目を見たかと思うと、真っ白な牙をちら、と見せて笑った。
「……確かにうまそうだな。薄荷みたいだ」
「えっ!?」
「ハッ、冗談に決まってんだろ」
「そ、そう……?」
そしたらその子は黙ってニヤッて笑って腰を上げたから、僕も慌てて立ち上がった。
「今度また言われたら教えろよ。ぶっ飛ばしてやるから」
そう言って差し出してくれた手のひらは僕よりずっとおっきくて、やっぱりきれいな黒い毛に覆われていた。
「オレは黒狼族のドルフだ。お前は?」
「ヒ、ヒイラギだよ! 人族の」
「そんなのは見りゃわかるぜ」
ちょっと呆れたみたいな顔しながらも僕の手をぎゅっと握ってくれたのがとっても嬉しかったのを、大人になった今でも僕ははっきりと覚えている。
そして次の日、また僕のことあれこれ言ってきた子たちをドルフは本当にこてんぱんにやっつけてくれて、唖然とした僕に牙を剥き出しにしてニヤッて笑ったのだった。
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