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虎の店長さんの過去。
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「店長、見ました? アレ」
「おう」
副店長の志偉に言われて呉凱は一緒に店の裏口から外に出た。五華路から一本入った路地に面したドアの横の壁に大きく赤いペンキで『怯』、そしてその下に『圓和環』と書かれていた。
「腰抜けとは言ってくれるじゃねぇか」
呉凱が舌打ちをすると、志偉が夜でも掛けっぱなしのサングラス越しにうろんげな眼差しを寄越す。
「やっぱり例のヤツですかね。ゴーグルで目を隠した灰色の犬人、でしたっけ」
「かもな」
最近呉凱を探して円環城市をうろついているという男がついに呉凱の居場所を突き止めた、ということだろうか。
「こっちの『圓和環』というのは……」
「円と環。シャレたこと言ったつもりかよ」
「それか店長へのデートのお誘いじゃないスか」
「……円環大厦か……クソッ、めんどくせぇ」
「いいじゃないですか。あそこなら店長の家の庭みたいなもんでしょ」
「あんなデカくてカビくせェ庭なんかいらねぇよ」
「違いない」
ひひっ、と喉の奥で笑った志偉が一転して真面目な顔で言った。
「けどちょっとこっちはシャレにならないッスね」
「ああ」
足元の黒く煤けた壁とダンボールやゴミの燃えカスを見て呉凱も頷く。
「うっかり早く着き過ぎた義良が見つけて消し止めたそうです。下手すりゃここの並び一帯大火事になるとこだ」
「とは言ってもうちの出勤時間よりちょい前だろ。早々に見つかっちまうことは計算の上に違いねぇ。元々大事にしようとは思ってない証拠だ」
「ってことはやっぱ脅しですかね? それか警告か。ほんとに身に覚えはないんですかい」
「昔はいくらでも思い当たる節はあったがな」
「確かに、ここで働くようになってからはずっと大人しかったッスもんね、アンタ」
「うるせぇ」
呉凱はガシガシと頭を掻くと志偉に向かって言った。
「悪ィが今日はお前に店を任せていいか」
「いいスけど。行くんですかい」
「まさか向こうも今日の今日で乗り込んでくるとは思っちゃいねぇだろ。ちょっと様子見に行ってくるだけだ」
「こう言っちゃなんですが、アンタの『蔓』に頼んじゃどうです。アンタなら今でも円環大厦に仕えるツテの一つや二つ残してあるでしょうが」
そう言ってサングラスの隙間からチラ、と見上げてきた志偉に呉凱は鼻を鳴らす。
「馬鹿言え。俺はもう幇は抜けたんだ。今さらあいつらに借りなんざ作ってたまるかよ」
「あー、確かに」
志偉がニヤリと笑った。
「下手にまた繋がりが出来て、アンタのカワイ子ちゃんに塁が及ぶといけないですもんね」
「………………………………じゃあ後は頼んだぜ」
「お疲れさんです」
これ以上ここにいたら何を言われるかわかったもんじゃない。呉凱はさっさと今いる裏路地から表通りへと出た。
時刻は午後六時半。通りは自動車禁止の歩行路になり、夕飯とちょっとした夜遊び目当てに早くも大勢の獣人たちが歩いている。その両側に並ぶ建物はどれも古く、壁にはところどころヒビが走りどの窓も黄砂と雨で白く汚れている。そしてその足元には裸電球をぶら下げた屋台がずらりと並んでいた。
呉凱は人の隙間を縫うように屋台を一つ一つ見て歩く。凍るような冷たい真冬の空気に覆われた街が、屋台の周りだけ真っ白な湯気に包まれていた。臭豆腐に胡椒餅、覆菜や梅乾菜などの色とりどりの漬物の並ぶ店や湯気の立つ巨大な鍋の周りに多くの人が群がる排骨湯など、その種類は数限りない。
人いきれで熱気さえ感じる人ごみの中を、呉凱はわずかな獣人の隙間をすり抜け歩いていく。その時、人の切れ目に見えた屋台の看板を見て呉凱は足を止めた。小太りの猪の親父が額に汗を浮かべながら鍋をかき回しているその屋台に掲げられた看板には、大きな文字で『湯米粉』と書かれていた。
(……そういえば、初めてここであいつと会った時に食ってたな、あれ)
ふと思い出して呉凱は大きな鍋から立ち上る鶏だしの匂いに鼻を動かす。
紆余曲折を経て、呉凱はミナミと付き合うことになった。そうなる前に二度も寝てしまったのは一生の不覚と言いたいが、これもまあ縁なのだろう。
呉凱は『縁』という言葉が好きだ。一つのところから出て幾重にもわかれてはまた出会う窓の雨だれのように、獣も人も出会っては別れ、『縁』があればまた再び巡り合うこともある。
この円環城市でニンゲンの界客であるミナミと出会ったのは山ほどの偶然と縁とが重なった結果だろう。本来ならミナミのようなカタギのニンゲンは呉凱の人生からは一番遠いところにあるような存在だ。
この街へ来た理由こそ突飛で物珍しいが、ミナミ本人は至って普通で真面目でこの旧市街のスラムに住む自分たちに比べるとはるかに育ちがいい。
それが何の因果か二人は出会って、まるで毛糸玉のようにこんがらがったあれこれをなんとか解きほぐして心を通じ合わせ、結果付き合うことになった。なんと不思議な『縁』だろうか。
(……つってもあれから一週間、ほったらかしにしちまってるけどな)
呉凱の店で初のニンゲンの泡姫『純情可憐なミナミちゃん』のファンは結構多く、彼が突然店を辞めたことで予約していた客への連絡やお詫び、キャンセル処理や代わりの嬢の手配などいろいろとごたついていた上に年末の伝票の締めと例の不審な犬人の件で時折入る情報屋からの連絡などが重なって、あれから一度もミナミと話していない。
ミナミの携帯番号は初めに受け取った履歴書で知っているが、ミナミは呉凱の番号をまだ知らない。だから呉凱の方から電話の一本もしてやれば良かったのだが、つい雑事に紛れて一週間が経ってしまっていた。
(次会った時に俺の番号教えてやんねぇとな)
そう思いつつ、ミナミが店を辞めたのはいいタイミングだったとも思う。
あのくるくると表情を変える顔が見られないのはつまらないが、奇妙なゴーグルとフードで顔を隠した不審な犬人にミナミが目を付けられるようなことがなくて本当に良かった、と内心安堵していた。
◇ ◇ ◇
呉凱が店から十五分ほど歩いた距離に、円環大厦の入口がある。
いくつもの元商業ビルが違法に増築された通路や渡り廊下で繋がれて一つの巨大な街のようになっているそのビル群の中でも『龍津道』と呼ばれる辺りは表通りに面した、いわば一番『外』に近い場所だ。円環大厦へはそこから入っていくのが一番安全と言え、ミナミを連れて眼医者に行った時もここから入って行った。だが今日はそちらへは行かず、さらに奥の通路を目指す。
壁にペンキで『至、松隆路三巷』と書いてあるのを横目に呉凱は昼間でも暗いすえた臭いの漂う薄暗い階段を上り、見落としそうなほど暗くて狭い角を曲がる。途端に外の喧騒は遠くなり、やがて聞こえなくなった。
かつては店舗やオフィス、会議室やショールームだった箱型の部屋は全て、今は住居や商店や病院や工場や廟などになっている。そしてそれらを繋ぐ細い通路には、後から住人たちがつけ足した電気や電話の線、上下水道のパイプや排気管などあらゆるコードや配管がむき出しのまま縦横無尽にのたくっていた。呉凱はそれらを引っ掛けぬよう気を付けて歩いていく。違法増築を繰り返したせいで排水がうまくいっていないのか、床はいつも水浸しで住人が捨てた果物の皮や肉の食べかす、紙屑やその他いろんなものが落ちていた。
(さて、来てやったぜ。さっさとツラを見せろ)
さらに奥へと進んでいった辺りは外からの電波も入らない。念のためポケットの携帯を確認したが、やはりアンテナ表示は立っていなかった。
ビルとビルとを繋ぐ中途半端な階段を通って飛び出した配管をくぐるともう少し大きな路に出る。
さらに階段を上ると突然けたたましいニワトリの声が響いた。すぐ横の部屋で薄汚れたランニング一枚の老人が何羽ものトリを捌いている。雞丸か何かの工場らしいその中で、老婆が羽根をむしっては大きな籠へ投げ入れていた。白い羽根が暗い廊下にふわふわと漂ってくる。
その時、ふとどこからか視線を感じた。呉凱はそ知らぬ顔をしてそこを通り過ぎ、角を曲がって背中を壁に押し付ける。そしてそっと来た路を覗き見た。
(気のせいか?)
そう思った瞬間、呉凱はその男を見た。男は呉凱と目が合った途端、踵を返して走り出す。呉凱はすぐさまその後を追った。男は薄汚れたコートのフードを被り、目にはゴーグルのようなものを嵌めている。
(間違いない、アイツだ)
呉凱は突然横から飛び出してきたニワトリをすんでのところで避けて、男が走って行った路に滑り込んだ。路というよりはただの隙間のようなそこは一人通るのがやっとの狭さで、床を埋め尽くすようにゴミや瓦礫が落ちていている。どこまでも伸びるヒビだらけの壁に挟まれてひどく暗かった。
大柄な呉凱は壁にぶつからぬよう体を斜めにして走る。男は擦り切れたコートの端を翻しながら勝手知ったる庭のように路地を曲がり、無理矢理壁をぶち抜いて隣と繋げたような路の一つに飛び込んだ。
呉凱は男が入って行った非常口に張り付き、しゃがみ込んで目を凝らす。案の定、中はまともに生きている電灯がほとんどないほど荒れていた。一面さび付いた配管が天井を走り、壁の割れ目から水が床に滴り落ちている。
(こういう時は夜目が利いて助かるぜ)
呉凱は昔取った杵柄で器用に足音を殺しながらひた走った。
角を曲がると鼻をたらした子供が三人、床に白墨で絵を描いている。その中の一人が目ざとく呉凱を見つけて『老虎! 老虎!』と歓声を上げた。飛びつこうとする子供をギリギリのところでかわして呉凱は階段を一気に飛び降りる。着地した時に床の埃が宙に舞って呉凱の視界をわずかに遮った。
男の姿はまだ見えない。気配を読もうにも、住人たちの歩く音や野良犬の吠える声、喧嘩をしているらしい男女の怒鳴る声や物が割れる音が邪魔をする。
(くそっ、どこに行きやがった!)
その時、ずっと先の角に一瞬男のコートの裾が見えた。間髪入れずに呉凱は走り出そうとする。だが突然、鼓膜を突き刺すような発砲音が響いて呉凱は後ろに飛び退った。足元で銃弾がコンクリートを抉る。
(野郎、こんなとこで撃ちやがった)
これほど狭い場所で銃など使えば住民たちに流れ弾が当たる確率は非常に高い。ましてやサイレンサーもつけずに撃てばすぐに円環大厦に数多く潜んでいる幇の者に知れてしまうだろう。
この円環大厦は三つの黒幇が互いに縄張りを取り合っていて、どこからどこまでがどの幇のシマなのかを完全に把握している者は恐らく一人もいない。万が一、幇に繋がる者に弾が当たればそいつは地の果てまでも追われて殺されるだろう。上手く逃げおおせたとしても旧市街には二度と戻れない。
それでも構わないとばかりに撃ってきたということは、男がすでに自分の命を度外視している証拠だ。そういう自暴自棄になった敵は行動が読みにくい分、非常に面倒な相手だと呉凱は知っていた。
(こんなことなら狸の言う通り、手槍の一つも持ってくるべきだったか)
だがすぐにその考えを否定する。今は曲がりなりにもカタギを通している呉凱が下手にそんなものを使えば、すぐさま元の仲間が再び呉凱を連れ戻そうとしてくるだろう。
(まあ、昔ならそれも縁かと思っただろうな)
だが今の呉凱には昔のような生活には戻りたくない理由がある。
(……店だけじゃなく、あいつまで巻き込むわけにはいかねぇからな)
思えばずっと根なし草できた呉凱が、自分以外の何かのために、と思うようになったのは初めてのことだ。
(とはいえ、こんなとこでハジキ使う傻子野郎をどうするか)
そっと角から顔を覗かせようとすると、またすかさず撃ってくる。呉凱は舌打ちをすると相手に向かって声を上げた。
「おい、俺を探してるってヤツはてめぇか」
だが男は答えなかった。
「俺に何の用だ」
それでも何も言わない男に再び問いかける。
「てめぇ、誰だ」
「無駄だ。お前は俺を知らねぇ」
そのひび割れたようなしゃがれ声がどこから聞こえてくるのか、聴覚をフルに動かして気配を探る。
「ならなぜ俺をつけ回す」
「決まっている。お前を殺すためだ」
「……正体どころか理由も言わねぇつもりか? 誰かに頼まれたのか」
「違う」
間髪入れずに返ってきた言葉に、これは男自身が何らかの意図を持って呉凱を狙っているのだと確信する。
(俺への恨みか?)
確かにガキの頃から荒れた生活をしていればどこかで誰かの恨みを買っている可能性はゼロではない。だが特にこれといって思い当たる節もない。
すると奥から再び男のしゃがれた声が聞こえてきた。
「お前は俺を知らねぇ。だが俺はお前を知っている。皮肉な話だなァ」
じりじりと角ににじり寄りながら呉凱は尋ねた。
「何がだ」
「この場所さ」
遠くからかすかに聞こえた足音に呉凱は耳をそばだてる。すると階段の影からやせこけたノラ犬が一匹餌を探して現れた。
「円と環。まさにお前の死に場所に相応しいだろうよ」
それきり男の声は途絶え、気配が遠ざかった。
犬が床に落ちたみかんの皮の臭いを嗅いでいる。壁に古びた一枚の絵が貼ってあった。棗のごとき赤ら顔と豊かな髭。すっかり色褪せた関公の札の前を、薄汚れた下着姿の猪が腹を掻きながら通り過ぎる。そして胡乱げな目で呉凱を見た。
猪が手に提げている傷だらけのラジオからひび割れた歌が聞こえてくる。
――――雨夜花 雨夜花 受風雨吹落地
その脇をすり抜けると、再び先の曲がり角から声がした。
「この世は環だ。この世の全ての理は繋がっている。てめぇの因果は回りまわっててめぇに返るのさ」
男はぜえぜえとしゃがれた声で笑う。
「だが一人で死ぬんじゃ泰山への道も寂しかろうよ。安心しな、道連れを一人つけてやる」
その言葉に呉凱の腸が一気に冷えた。
「……てめぇ、誰に手ェ出した」
「そりゃあお前が一番会いたい子さ。今、この円環大厦にいるぜ」
ミナミ。
呉凱はギリギリと牙を鳴らして噛みしめる。
「どうだ? てめぇのせいで罪もないニンゲンのガキ一人が死んじまうってのは」
「……あいつになんかしてみろ。五寸刻みでてめぇの五体を食いちぎってやる」
「嘿嘿、こわやこわや」
それきり男の気配は消えた。
すぐ右手の部屋で男たちが麻雀牌をかき回しながら口々に閩南語で何かを言っている。テーブルの隅に置かれた古いラジオからひどく音のひずんだあの歌が流れていた。
――――雨夜花 雨夜花 受風雨吹落地
雨降る夜に咲く花は、風に吹かれてホロホロ落ちる。
―――――無人看見 毎日怨嗟 花謝落土 不再回
見取る者もなく思いは絶えず、落ちた花は二度と戻らない。
呉凱は暗い円環大厦の最奥を睨みつけ、爪が食い込むほどきつく拳を握り締めた。
「おう」
副店長の志偉に言われて呉凱は一緒に店の裏口から外に出た。五華路から一本入った路地に面したドアの横の壁に大きく赤いペンキで『怯』、そしてその下に『圓和環』と書かれていた。
「腰抜けとは言ってくれるじゃねぇか」
呉凱が舌打ちをすると、志偉が夜でも掛けっぱなしのサングラス越しにうろんげな眼差しを寄越す。
「やっぱり例のヤツですかね。ゴーグルで目を隠した灰色の犬人、でしたっけ」
「かもな」
最近呉凱を探して円環城市をうろついているという男がついに呉凱の居場所を突き止めた、ということだろうか。
「こっちの『圓和環』というのは……」
「円と環。シャレたこと言ったつもりかよ」
「それか店長へのデートのお誘いじゃないスか」
「……円環大厦か……クソッ、めんどくせぇ」
「いいじゃないですか。あそこなら店長の家の庭みたいなもんでしょ」
「あんなデカくてカビくせェ庭なんかいらねぇよ」
「違いない」
ひひっ、と喉の奥で笑った志偉が一転して真面目な顔で言った。
「けどちょっとこっちはシャレにならないッスね」
「ああ」
足元の黒く煤けた壁とダンボールやゴミの燃えカスを見て呉凱も頷く。
「うっかり早く着き過ぎた義良が見つけて消し止めたそうです。下手すりゃここの並び一帯大火事になるとこだ」
「とは言ってもうちの出勤時間よりちょい前だろ。早々に見つかっちまうことは計算の上に違いねぇ。元々大事にしようとは思ってない証拠だ」
「ってことはやっぱ脅しですかね? それか警告か。ほんとに身に覚えはないんですかい」
「昔はいくらでも思い当たる節はあったがな」
「確かに、ここで働くようになってからはずっと大人しかったッスもんね、アンタ」
「うるせぇ」
呉凱はガシガシと頭を掻くと志偉に向かって言った。
「悪ィが今日はお前に店を任せていいか」
「いいスけど。行くんですかい」
「まさか向こうも今日の今日で乗り込んでくるとは思っちゃいねぇだろ。ちょっと様子見に行ってくるだけだ」
「こう言っちゃなんですが、アンタの『蔓』に頼んじゃどうです。アンタなら今でも円環大厦に仕えるツテの一つや二つ残してあるでしょうが」
そう言ってサングラスの隙間からチラ、と見上げてきた志偉に呉凱は鼻を鳴らす。
「馬鹿言え。俺はもう幇は抜けたんだ。今さらあいつらに借りなんざ作ってたまるかよ」
「あー、確かに」
志偉がニヤリと笑った。
「下手にまた繋がりが出来て、アンタのカワイ子ちゃんに塁が及ぶといけないですもんね」
「………………………………じゃあ後は頼んだぜ」
「お疲れさんです」
これ以上ここにいたら何を言われるかわかったもんじゃない。呉凱はさっさと今いる裏路地から表通りへと出た。
時刻は午後六時半。通りは自動車禁止の歩行路になり、夕飯とちょっとした夜遊び目当てに早くも大勢の獣人たちが歩いている。その両側に並ぶ建物はどれも古く、壁にはところどころヒビが走りどの窓も黄砂と雨で白く汚れている。そしてその足元には裸電球をぶら下げた屋台がずらりと並んでいた。
呉凱は人の隙間を縫うように屋台を一つ一つ見て歩く。凍るような冷たい真冬の空気に覆われた街が、屋台の周りだけ真っ白な湯気に包まれていた。臭豆腐に胡椒餅、覆菜や梅乾菜などの色とりどりの漬物の並ぶ店や湯気の立つ巨大な鍋の周りに多くの人が群がる排骨湯など、その種類は数限りない。
人いきれで熱気さえ感じる人ごみの中を、呉凱はわずかな獣人の隙間をすり抜け歩いていく。その時、人の切れ目に見えた屋台の看板を見て呉凱は足を止めた。小太りの猪の親父が額に汗を浮かべながら鍋をかき回しているその屋台に掲げられた看板には、大きな文字で『湯米粉』と書かれていた。
(……そういえば、初めてここであいつと会った時に食ってたな、あれ)
ふと思い出して呉凱は大きな鍋から立ち上る鶏だしの匂いに鼻を動かす。
紆余曲折を経て、呉凱はミナミと付き合うことになった。そうなる前に二度も寝てしまったのは一生の不覚と言いたいが、これもまあ縁なのだろう。
呉凱は『縁』という言葉が好きだ。一つのところから出て幾重にもわかれてはまた出会う窓の雨だれのように、獣も人も出会っては別れ、『縁』があればまた再び巡り合うこともある。
この円環城市でニンゲンの界客であるミナミと出会ったのは山ほどの偶然と縁とが重なった結果だろう。本来ならミナミのようなカタギのニンゲンは呉凱の人生からは一番遠いところにあるような存在だ。
この街へ来た理由こそ突飛で物珍しいが、ミナミ本人は至って普通で真面目でこの旧市街のスラムに住む自分たちに比べるとはるかに育ちがいい。
それが何の因果か二人は出会って、まるで毛糸玉のようにこんがらがったあれこれをなんとか解きほぐして心を通じ合わせ、結果付き合うことになった。なんと不思議な『縁』だろうか。
(……つってもあれから一週間、ほったらかしにしちまってるけどな)
呉凱の店で初のニンゲンの泡姫『純情可憐なミナミちゃん』のファンは結構多く、彼が突然店を辞めたことで予約していた客への連絡やお詫び、キャンセル処理や代わりの嬢の手配などいろいろとごたついていた上に年末の伝票の締めと例の不審な犬人の件で時折入る情報屋からの連絡などが重なって、あれから一度もミナミと話していない。
ミナミの携帯番号は初めに受け取った履歴書で知っているが、ミナミは呉凱の番号をまだ知らない。だから呉凱の方から電話の一本もしてやれば良かったのだが、つい雑事に紛れて一週間が経ってしまっていた。
(次会った時に俺の番号教えてやんねぇとな)
そう思いつつ、ミナミが店を辞めたのはいいタイミングだったとも思う。
あのくるくると表情を変える顔が見られないのはつまらないが、奇妙なゴーグルとフードで顔を隠した不審な犬人にミナミが目を付けられるようなことがなくて本当に良かった、と内心安堵していた。
◇ ◇ ◇
呉凱が店から十五分ほど歩いた距離に、円環大厦の入口がある。
いくつもの元商業ビルが違法に増築された通路や渡り廊下で繋がれて一つの巨大な街のようになっているそのビル群の中でも『龍津道』と呼ばれる辺りは表通りに面した、いわば一番『外』に近い場所だ。円環大厦へはそこから入っていくのが一番安全と言え、ミナミを連れて眼医者に行った時もここから入って行った。だが今日はそちらへは行かず、さらに奥の通路を目指す。
壁にペンキで『至、松隆路三巷』と書いてあるのを横目に呉凱は昼間でも暗いすえた臭いの漂う薄暗い階段を上り、見落としそうなほど暗くて狭い角を曲がる。途端に外の喧騒は遠くなり、やがて聞こえなくなった。
かつては店舗やオフィス、会議室やショールームだった箱型の部屋は全て、今は住居や商店や病院や工場や廟などになっている。そしてそれらを繋ぐ細い通路には、後から住人たちがつけ足した電気や電話の線、上下水道のパイプや排気管などあらゆるコードや配管がむき出しのまま縦横無尽にのたくっていた。呉凱はそれらを引っ掛けぬよう気を付けて歩いていく。違法増築を繰り返したせいで排水がうまくいっていないのか、床はいつも水浸しで住人が捨てた果物の皮や肉の食べかす、紙屑やその他いろんなものが落ちていた。
(さて、来てやったぜ。さっさとツラを見せろ)
さらに奥へと進んでいった辺りは外からの電波も入らない。念のためポケットの携帯を確認したが、やはりアンテナ表示は立っていなかった。
ビルとビルとを繋ぐ中途半端な階段を通って飛び出した配管をくぐるともう少し大きな路に出る。
さらに階段を上ると突然けたたましいニワトリの声が響いた。すぐ横の部屋で薄汚れたランニング一枚の老人が何羽ものトリを捌いている。雞丸か何かの工場らしいその中で、老婆が羽根をむしっては大きな籠へ投げ入れていた。白い羽根が暗い廊下にふわふわと漂ってくる。
その時、ふとどこからか視線を感じた。呉凱はそ知らぬ顔をしてそこを通り過ぎ、角を曲がって背中を壁に押し付ける。そしてそっと来た路を覗き見た。
(気のせいか?)
そう思った瞬間、呉凱はその男を見た。男は呉凱と目が合った途端、踵を返して走り出す。呉凱はすぐさまその後を追った。男は薄汚れたコートのフードを被り、目にはゴーグルのようなものを嵌めている。
(間違いない、アイツだ)
呉凱は突然横から飛び出してきたニワトリをすんでのところで避けて、男が走って行った路に滑り込んだ。路というよりはただの隙間のようなそこは一人通るのがやっとの狭さで、床を埋め尽くすようにゴミや瓦礫が落ちていている。どこまでも伸びるヒビだらけの壁に挟まれてひどく暗かった。
大柄な呉凱は壁にぶつからぬよう体を斜めにして走る。男は擦り切れたコートの端を翻しながら勝手知ったる庭のように路地を曲がり、無理矢理壁をぶち抜いて隣と繋げたような路の一つに飛び込んだ。
呉凱は男が入って行った非常口に張り付き、しゃがみ込んで目を凝らす。案の定、中はまともに生きている電灯がほとんどないほど荒れていた。一面さび付いた配管が天井を走り、壁の割れ目から水が床に滴り落ちている。
(こういう時は夜目が利いて助かるぜ)
呉凱は昔取った杵柄で器用に足音を殺しながらひた走った。
角を曲がると鼻をたらした子供が三人、床に白墨で絵を描いている。その中の一人が目ざとく呉凱を見つけて『老虎! 老虎!』と歓声を上げた。飛びつこうとする子供をギリギリのところでかわして呉凱は階段を一気に飛び降りる。着地した時に床の埃が宙に舞って呉凱の視界をわずかに遮った。
男の姿はまだ見えない。気配を読もうにも、住人たちの歩く音や野良犬の吠える声、喧嘩をしているらしい男女の怒鳴る声や物が割れる音が邪魔をする。
(くそっ、どこに行きやがった!)
その時、ずっと先の角に一瞬男のコートの裾が見えた。間髪入れずに呉凱は走り出そうとする。だが突然、鼓膜を突き刺すような発砲音が響いて呉凱は後ろに飛び退った。足元で銃弾がコンクリートを抉る。
(野郎、こんなとこで撃ちやがった)
これほど狭い場所で銃など使えば住民たちに流れ弾が当たる確率は非常に高い。ましてやサイレンサーもつけずに撃てばすぐに円環大厦に数多く潜んでいる幇の者に知れてしまうだろう。
この円環大厦は三つの黒幇が互いに縄張りを取り合っていて、どこからどこまでがどの幇のシマなのかを完全に把握している者は恐らく一人もいない。万が一、幇に繋がる者に弾が当たればそいつは地の果てまでも追われて殺されるだろう。上手く逃げおおせたとしても旧市街には二度と戻れない。
それでも構わないとばかりに撃ってきたということは、男がすでに自分の命を度外視している証拠だ。そういう自暴自棄になった敵は行動が読みにくい分、非常に面倒な相手だと呉凱は知っていた。
(こんなことなら狸の言う通り、手槍の一つも持ってくるべきだったか)
だがすぐにその考えを否定する。今は曲がりなりにもカタギを通している呉凱が下手にそんなものを使えば、すぐさま元の仲間が再び呉凱を連れ戻そうとしてくるだろう。
(まあ、昔ならそれも縁かと思っただろうな)
だが今の呉凱には昔のような生活には戻りたくない理由がある。
(……店だけじゃなく、あいつまで巻き込むわけにはいかねぇからな)
思えばずっと根なし草できた呉凱が、自分以外の何かのために、と思うようになったのは初めてのことだ。
(とはいえ、こんなとこでハジキ使う傻子野郎をどうするか)
そっと角から顔を覗かせようとすると、またすかさず撃ってくる。呉凱は舌打ちをすると相手に向かって声を上げた。
「おい、俺を探してるってヤツはてめぇか」
だが男は答えなかった。
「俺に何の用だ」
それでも何も言わない男に再び問いかける。
「てめぇ、誰だ」
「無駄だ。お前は俺を知らねぇ」
そのひび割れたようなしゃがれ声がどこから聞こえてくるのか、聴覚をフルに動かして気配を探る。
「ならなぜ俺をつけ回す」
「決まっている。お前を殺すためだ」
「……正体どころか理由も言わねぇつもりか? 誰かに頼まれたのか」
「違う」
間髪入れずに返ってきた言葉に、これは男自身が何らかの意図を持って呉凱を狙っているのだと確信する。
(俺への恨みか?)
確かにガキの頃から荒れた生活をしていればどこかで誰かの恨みを買っている可能性はゼロではない。だが特にこれといって思い当たる節もない。
すると奥から再び男のしゃがれた声が聞こえてきた。
「お前は俺を知らねぇ。だが俺はお前を知っている。皮肉な話だなァ」
じりじりと角ににじり寄りながら呉凱は尋ねた。
「何がだ」
「この場所さ」
遠くからかすかに聞こえた足音に呉凱は耳をそばだてる。すると階段の影からやせこけたノラ犬が一匹餌を探して現れた。
「円と環。まさにお前の死に場所に相応しいだろうよ」
それきり男の声は途絶え、気配が遠ざかった。
犬が床に落ちたみかんの皮の臭いを嗅いでいる。壁に古びた一枚の絵が貼ってあった。棗のごとき赤ら顔と豊かな髭。すっかり色褪せた関公の札の前を、薄汚れた下着姿の猪が腹を掻きながら通り過ぎる。そして胡乱げな目で呉凱を見た。
猪が手に提げている傷だらけのラジオからひび割れた歌が聞こえてくる。
――――雨夜花 雨夜花 受風雨吹落地
その脇をすり抜けると、再び先の曲がり角から声がした。
「この世は環だ。この世の全ての理は繋がっている。てめぇの因果は回りまわっててめぇに返るのさ」
男はぜえぜえとしゃがれた声で笑う。
「だが一人で死ぬんじゃ泰山への道も寂しかろうよ。安心しな、道連れを一人つけてやる」
その言葉に呉凱の腸が一気に冷えた。
「……てめぇ、誰に手ェ出した」
「そりゃあお前が一番会いたい子さ。今、この円環大厦にいるぜ」
ミナミ。
呉凱はギリギリと牙を鳴らして噛みしめる。
「どうだ? てめぇのせいで罪もないニンゲンのガキ一人が死んじまうってのは」
「……あいつになんかしてみろ。五寸刻みでてめぇの五体を食いちぎってやる」
「嘿嘿、こわやこわや」
それきり男の気配は消えた。
すぐ右手の部屋で男たちが麻雀牌をかき回しながら口々に閩南語で何かを言っている。テーブルの隅に置かれた古いラジオからひどく音のひずんだあの歌が流れていた。
――――雨夜花 雨夜花 受風雨吹落地
雨降る夜に咲く花は、風に吹かれてホロホロ落ちる。
―――――無人看見 毎日怨嗟 花謝落土 不再回
見取る者もなく思いは絶えず、落ちた花は二度と戻らない。
呉凱は暗い円環大厦の最奥を睨みつけ、爪が食い込むほどきつく拳を握り締めた。
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