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31【完】
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あのオリエンテーリングから早くも一週間が経った。
アードラー寮の三学年生のエイリークはあれ以来日課にしているランニングを終えて寮の前庭に戻ったところだった。
「くそう! また負けた!」
同じ学年のトムが性懲りもなくそう叫んで芝生に倒れ込む。
いつも思うことだが、負けた負けたと言う割にこの男はいつもあれこれとおしゃべりしながら楽しそうに寮の裏庭を駆け回り、エイリークが息切れして声を発することもできずにいるのに大声であれこれと無駄なことを話し続けている。
(しゃべりながら走るのをやめれば僕よりずっと早くゴールに着けるって、本当に気づいていないのかな)
だが当然それを教えてやるつもりはない。エイリークが大きく深呼吸をしながら汗を拭っていると、突然トムがまた大声を上げた。
「お! アリスティド先輩だ!」
見れば確かにエイリークたちと同じアードラー寮の筆頭監督生・アリスティドが重そうな本を抱えて寮の入口に立っているのが見えた。
「すごい本だな! あれだけ分厚ければいい枕になるぞ!」
本を枕にするという発想がなかったエイリークは、感心すればいいのか呆れるべきなのか一瞬迷おうとしてすぐに止めた。
「ん? なんか様子がおかしくないか?」
またトムが言うのが聞こえてエイリークは我に返る。確かにいつもキビキビと姿勢も勢いもよく歩いている印象が強いアリスティドが、なぜかぼんやりとどこかを見つめたまま動く気配がない。
「どうしたんだろう、行ってみようぜ!」
そう言って走り出したトムの後をエイリークも慌てて追いかけた。
「どうしたんですか、アリスティド先輩! 先輩がこんなところに立ったままだとみんなが見蕩れてきっと大渋滞起こしますよ!」
相変わらず突拍子もないことをぬけぬけと言って憚らないトムに一周回って感心しながらエイリークはアリスティドの反応を見る。だが、意外なことにアリスティドは怒るどころか淡々と「ああ、そうか。それはすまない」と答えただけだった。
「ああそうか、じゃないでしょう! 我が寮自慢の筆頭監督生ともあろうお方がそんなぼんやりとしたお答えでは、またあのかっこつけの激しいスミス総代やおちゃらけ色男のキャンベル副総代に面白がられ…………」
だが、それ以上トムの口から言葉は出てこなかった。エイリークが不思議に思ってそちらを見ると、トムはなぜかぽかんと口を開けてアリスティドを見ている。
(……?)
エイリークはトムの視線の先を追い、アリスティドの顔を見ておもわず瞬きをした。
恐らく、アリスティドをよく知らない他寮の人間が見れば別にいつもと変わらぬ姿だと思っただろう。だが確かに、何かが違った。
エイリークは今度はアリスティドが見ている視線の先を追う。そしてごくり、と唾を呑み込んだ。
(………………ゲオルグ先輩だ)
アリスティドが見つめているのは確かにアードラー寮の五学年生のゲオルグだった。彼はアリスティドの視線に気づかぬ様子でこちらへと歩いてくる。咄嗟にエイリークの脳裏に、先日のオリエンテーリングの練習中にアリスティドがまるでゲオルグを食い殺そうとでもいわんばかりの目で見ていたのを思い出す。
(……いや、でもテオ先輩にも聞いたけど、別にアリスティド先輩とゲオルグ先輩は特別仲が悪いことはないらしいし。というより二人で何か話をしているところも見たことないくらいらしいし)
(それに、このあいだのオリエンテーリング本番でゲオルグ先輩は行方不明の下級生たちを無事連れ帰ってきた、いわばアードラー寮の英雄だもの。さすがのアリスティド先輩だってゲオルグ先輩に一目置くようになっただろうし、それに元々そんな誰かを特別嫌ったり意地悪したりするような人じゃないし)
いくつも言い訳めいた言葉が浮かぶが、やはり怖いものは怖い。
(おじいちゃんだって得体のしれないものには近づくなっていつも言ってたし)
このまま気づかぬ振りでトムを生贄に置いて自分は脱出するべきか、それとも一触即発を回避するために自分がなんとしても割り込むべきか、一瞬迷う。
ちら、と視線を送ってもアリスティドはじっとゲオルグを見たままだったが、幸い相手の方はまだアリスティドの視線に気づいてはいないようだった。
(………………どうしよう………………)
トムはと見れば相変わらずのんきに首を傾げてアリスティドの顔を見、また首をひねっては何か話しかけている。
やはりこれは自分がなんとかしなければ。エイリークは冷や汗をかいている拳をぎゅっと握り締めた。
元々北方の狩猟民族であった祖父を持つエイリークは、この王国に生まれ育った人間たちよりももっと直観や感覚的な判断を重んじている。その祖父の忠告に背くことにはなるがどうしようもない。エイリークはエイリークなりにこの学院が気に入っているのだ。ならばアードラー寮で一、二を争う気迫と目力を持っている二匹の虎の戦いをどうにかして回避し、なんとしてもおのれの陣地はおのれが守らねばならない。
その時、ふいにゲオルグが顔を上げた。そしてまっすぐにアリスティドを見つめ返す。
あまりの緊張感にエイリークはその場で凍り付いた。だがふと風が頬をかすめたような気がして我に返る。すると驚いたことにアリスティドがいつもと同じ滑るような足取りでなんとゲオルグの元へと歩いて行き、その目の前で立ち止まった。
「あれ? ゲオルグ先輩か?」
ようやく気づいたトムが素っ頓狂な声を上げる。
「ああして見ると、アリスティド先輩も結構背が高くて立派な体格してるよなぁ。普段はもっとひょろっとした感じに見えるのに」
エイリークは、あの鉄壁すぎる精神力とあまりに堂々とした姿勢のせいでアリスティドが時々巨大なシロクマのように見えさえするというのに。実はトムという男はとんでもない大人物なのかと一瞬勘違いしそうになる。だが確かにアリスティドとゲオルグが並んで立っている姿は、なんというか、ひと言でいえば非常に絵になった。
すらりと背が高くピンと背筋を伸ばして立つ美貌の筆頭監督生と、いにしえの戦士のように大きな身体と鋭い目をした黒髪の男。
そんな絵姿のような彼らが今から取っ組み合いの大げんかを始めたらどうしよう、と固唾をのんで見守っていると、アリスティドを見下ろしていたゲオルグがふと口を開くのが見えた。そして常に沈黙を守る黒い目をわずかに細めて何かを言った。
(…………あ)
その瞬間、アリスティドの目元がパッと色づいて思わずエイリークは目を奪われる。
『笑わないプリンス』と陰で呼ばれている彼は、硬質な美貌と色の薄いプラチナ色の髪と薄氷色の目を持っている。そんな彼の白い肌にほんのりと宿った色は、唯一間近でそれを見たゲオルグの目をひどく楽しませたらしい。その男らしい、くっきりとした口角を上げて微笑んだゲオルグを見て、アリスティドの顔が文字通り真っ赤に染まった。
(うわぁ……凄い。リンゴンベリーの実の色だ)
そう思った途端、ふいにアリスティドが踵を返して寮の方へと歩き去る。よくはわからぬが白と黒の虎同士の対決は避けられたようだった。
「一体何を話してたんだろうな。後でゲオルグ先輩に聞いてみよう」
ゲオルグと同室のトムがそんなことを言っているのを聞き流して、エイリークはようやく強張る肩から力を抜いた。そして自分もトムと同じように(さっき、ゲオルグ先輩はなんて言ったんだろう)と思った。
頬を赤らめたアリスティドと、それを見て微笑んだゲオルグという天変地異の前触れかと思うほど貴重な瞬間を目撃した者はほかにいないかと辺りを見回してみたが、どうやら誰も二人の様子に気づいた者はいなかったらしい。
(それにしても、ゲオルグ先輩が何か言ったら、たったそれだけでアリスティド先輩が変わってしまったのは本当に凄かった)
ふとエイリークは祖父が昔語ってくれた、一振りの鞭と一輪の赤いバラの花で獰猛な白虎を大人しくさせた男のおとぎ話を思い出して呟く。
「……ゲオルグ先輩ってさ、猛獣使いみたいだよね。サーカスの」
すぐさまトムから「それは先輩と同室の俺に対して何か含みのある発言なのか!?」と憤然とした声が返ってくる。
そういえば最近、アリスティドの周りで他にもいくつもの異変が起こっている。
基本、自分たちの寮以外には立ち入らない他寮の筆頭監督生が出入りしてアリスティドやゲオルグと何かを話していたり、皆顔を赤くして誰も詳しくは教えてくれないが評議会メンバーたちが関わる何かでひと騒動あったという噂がまことしやかに流れているらしい。
総代のアーサーがニヤニヤ笑ってアリスティドを見ていたり、それに気づいたアリスティドになぜかウィリアムが小突かれていたり。
すべての異変の中心にはアリスティドがいる。恐らく彼だけが今このグランディールで密やかに囁かれている秘密の全貌を把握しているのに違いない。
エイリークはここしばらく考えていたことに、ここでようやく決着をつけることにした。
(やっぱり、アリスティド先輩という人はよくわからない、謎の塊のような人だ。関わらない方がいい)
『得体の知れぬものには近づくことなかれ』
エイリークにとって祖父の言うことは絶対なのだ。
エイリークはこの何よりも血統と名を重んじる国で異彩を放つ彼の姿を思い浮かべる。
常にまっすぐに前を見据えている、氷の岸壁が聳える北の海と同じ色の目をした異邦人。
エイリークと同じく明らかに異国の血が色濃く現れているのに、純粋なこの国の血族である総代や副総代よりもはるかに生徒たちの憧れと尊敬の眼差しを注がれ、ついには容易に心を見せない黒い猛獣使いまで手なづけて、まるでこの学院の王子様のように皆に崇められている。
(あんな不思議でよくわからない人はいない。そしてなんでこんなに皆があの人に心惹かれるのかも)
きっと彼こそが、このグランディール学院の謎であり秘密なのだろう。
エイリークはそう頭の中で結論づけると、今度は腹が減ったと叫んでいるトムを連れて食堂へと戻って行った。
END
アードラー寮の三学年生のエイリークはあれ以来日課にしているランニングを終えて寮の前庭に戻ったところだった。
「くそう! また負けた!」
同じ学年のトムが性懲りもなくそう叫んで芝生に倒れ込む。
いつも思うことだが、負けた負けたと言う割にこの男はいつもあれこれとおしゃべりしながら楽しそうに寮の裏庭を駆け回り、エイリークが息切れして声を発することもできずにいるのに大声であれこれと無駄なことを話し続けている。
(しゃべりながら走るのをやめれば僕よりずっと早くゴールに着けるって、本当に気づいていないのかな)
だが当然それを教えてやるつもりはない。エイリークが大きく深呼吸をしながら汗を拭っていると、突然トムがまた大声を上げた。
「お! アリスティド先輩だ!」
見れば確かにエイリークたちと同じアードラー寮の筆頭監督生・アリスティドが重そうな本を抱えて寮の入口に立っているのが見えた。
「すごい本だな! あれだけ分厚ければいい枕になるぞ!」
本を枕にするという発想がなかったエイリークは、感心すればいいのか呆れるべきなのか一瞬迷おうとしてすぐに止めた。
「ん? なんか様子がおかしくないか?」
またトムが言うのが聞こえてエイリークは我に返る。確かにいつもキビキビと姿勢も勢いもよく歩いている印象が強いアリスティドが、なぜかぼんやりとどこかを見つめたまま動く気配がない。
「どうしたんだろう、行ってみようぜ!」
そう言って走り出したトムの後をエイリークも慌てて追いかけた。
「どうしたんですか、アリスティド先輩! 先輩がこんなところに立ったままだとみんなが見蕩れてきっと大渋滞起こしますよ!」
相変わらず突拍子もないことをぬけぬけと言って憚らないトムに一周回って感心しながらエイリークはアリスティドの反応を見る。だが、意外なことにアリスティドは怒るどころか淡々と「ああ、そうか。それはすまない」と答えただけだった。
「ああそうか、じゃないでしょう! 我が寮自慢の筆頭監督生ともあろうお方がそんなぼんやりとしたお答えでは、またあのかっこつけの激しいスミス総代やおちゃらけ色男のキャンベル副総代に面白がられ…………」
だが、それ以上トムの口から言葉は出てこなかった。エイリークが不思議に思ってそちらを見ると、トムはなぜかぽかんと口を開けてアリスティドを見ている。
(……?)
エイリークはトムの視線の先を追い、アリスティドの顔を見ておもわず瞬きをした。
恐らく、アリスティドをよく知らない他寮の人間が見れば別にいつもと変わらぬ姿だと思っただろう。だが確かに、何かが違った。
エイリークは今度はアリスティドが見ている視線の先を追う。そしてごくり、と唾を呑み込んだ。
(………………ゲオルグ先輩だ)
アリスティドが見つめているのは確かにアードラー寮の五学年生のゲオルグだった。彼はアリスティドの視線に気づかぬ様子でこちらへと歩いてくる。咄嗟にエイリークの脳裏に、先日のオリエンテーリングの練習中にアリスティドがまるでゲオルグを食い殺そうとでもいわんばかりの目で見ていたのを思い出す。
(……いや、でもテオ先輩にも聞いたけど、別にアリスティド先輩とゲオルグ先輩は特別仲が悪いことはないらしいし。というより二人で何か話をしているところも見たことないくらいらしいし)
(それに、このあいだのオリエンテーリング本番でゲオルグ先輩は行方不明の下級生たちを無事連れ帰ってきた、いわばアードラー寮の英雄だもの。さすがのアリスティド先輩だってゲオルグ先輩に一目置くようになっただろうし、それに元々そんな誰かを特別嫌ったり意地悪したりするような人じゃないし)
いくつも言い訳めいた言葉が浮かぶが、やはり怖いものは怖い。
(おじいちゃんだって得体のしれないものには近づくなっていつも言ってたし)
このまま気づかぬ振りでトムを生贄に置いて自分は脱出するべきか、それとも一触即発を回避するために自分がなんとしても割り込むべきか、一瞬迷う。
ちら、と視線を送ってもアリスティドはじっとゲオルグを見たままだったが、幸い相手の方はまだアリスティドの視線に気づいてはいないようだった。
(………………どうしよう………………)
トムはと見れば相変わらずのんきに首を傾げてアリスティドの顔を見、また首をひねっては何か話しかけている。
やはりこれは自分がなんとかしなければ。エイリークは冷や汗をかいている拳をぎゅっと握り締めた。
元々北方の狩猟民族であった祖父を持つエイリークは、この王国に生まれ育った人間たちよりももっと直観や感覚的な判断を重んじている。その祖父の忠告に背くことにはなるがどうしようもない。エイリークはエイリークなりにこの学院が気に入っているのだ。ならばアードラー寮で一、二を争う気迫と目力を持っている二匹の虎の戦いをどうにかして回避し、なんとしてもおのれの陣地はおのれが守らねばならない。
その時、ふいにゲオルグが顔を上げた。そしてまっすぐにアリスティドを見つめ返す。
あまりの緊張感にエイリークはその場で凍り付いた。だがふと風が頬をかすめたような気がして我に返る。すると驚いたことにアリスティドがいつもと同じ滑るような足取りでなんとゲオルグの元へと歩いて行き、その目の前で立ち止まった。
「あれ? ゲオルグ先輩か?」
ようやく気づいたトムが素っ頓狂な声を上げる。
「ああして見ると、アリスティド先輩も結構背が高くて立派な体格してるよなぁ。普段はもっとひょろっとした感じに見えるのに」
エイリークは、あの鉄壁すぎる精神力とあまりに堂々とした姿勢のせいでアリスティドが時々巨大なシロクマのように見えさえするというのに。実はトムという男はとんでもない大人物なのかと一瞬勘違いしそうになる。だが確かにアリスティドとゲオルグが並んで立っている姿は、なんというか、ひと言でいえば非常に絵になった。
すらりと背が高くピンと背筋を伸ばして立つ美貌の筆頭監督生と、いにしえの戦士のように大きな身体と鋭い目をした黒髪の男。
そんな絵姿のような彼らが今から取っ組み合いの大げんかを始めたらどうしよう、と固唾をのんで見守っていると、アリスティドを見下ろしていたゲオルグがふと口を開くのが見えた。そして常に沈黙を守る黒い目をわずかに細めて何かを言った。
(…………あ)
その瞬間、アリスティドの目元がパッと色づいて思わずエイリークは目を奪われる。
『笑わないプリンス』と陰で呼ばれている彼は、硬質な美貌と色の薄いプラチナ色の髪と薄氷色の目を持っている。そんな彼の白い肌にほんのりと宿った色は、唯一間近でそれを見たゲオルグの目をひどく楽しませたらしい。その男らしい、くっきりとした口角を上げて微笑んだゲオルグを見て、アリスティドの顔が文字通り真っ赤に染まった。
(うわぁ……凄い。リンゴンベリーの実の色だ)
そう思った途端、ふいにアリスティドが踵を返して寮の方へと歩き去る。よくはわからぬが白と黒の虎同士の対決は避けられたようだった。
「一体何を話してたんだろうな。後でゲオルグ先輩に聞いてみよう」
ゲオルグと同室のトムがそんなことを言っているのを聞き流して、エイリークはようやく強張る肩から力を抜いた。そして自分もトムと同じように(さっき、ゲオルグ先輩はなんて言ったんだろう)と思った。
頬を赤らめたアリスティドと、それを見て微笑んだゲオルグという天変地異の前触れかと思うほど貴重な瞬間を目撃した者はほかにいないかと辺りを見回してみたが、どうやら誰も二人の様子に気づいた者はいなかったらしい。
(それにしても、ゲオルグ先輩が何か言ったら、たったそれだけでアリスティド先輩が変わってしまったのは本当に凄かった)
ふとエイリークは祖父が昔語ってくれた、一振りの鞭と一輪の赤いバラの花で獰猛な白虎を大人しくさせた男のおとぎ話を思い出して呟く。
「……ゲオルグ先輩ってさ、猛獣使いみたいだよね。サーカスの」
すぐさまトムから「それは先輩と同室の俺に対して何か含みのある発言なのか!?」と憤然とした声が返ってくる。
そういえば最近、アリスティドの周りで他にもいくつもの異変が起こっている。
基本、自分たちの寮以外には立ち入らない他寮の筆頭監督生が出入りしてアリスティドやゲオルグと何かを話していたり、皆顔を赤くして誰も詳しくは教えてくれないが評議会メンバーたちが関わる何かでひと騒動あったという噂がまことしやかに流れているらしい。
総代のアーサーがニヤニヤ笑ってアリスティドを見ていたり、それに気づいたアリスティドになぜかウィリアムが小突かれていたり。
すべての異変の中心にはアリスティドがいる。恐らく彼だけが今このグランディールで密やかに囁かれている秘密の全貌を把握しているのに違いない。
エイリークはここしばらく考えていたことに、ここでようやく決着をつけることにした。
(やっぱり、アリスティド先輩という人はよくわからない、謎の塊のような人だ。関わらない方がいい)
『得体の知れぬものには近づくことなかれ』
エイリークにとって祖父の言うことは絶対なのだ。
エイリークはこの何よりも血統と名を重んじる国で異彩を放つ彼の姿を思い浮かべる。
常にまっすぐに前を見据えている、氷の岸壁が聳える北の海と同じ色の目をした異邦人。
エイリークと同じく明らかに異国の血が色濃く現れているのに、純粋なこの国の血族である総代や副総代よりもはるかに生徒たちの憧れと尊敬の眼差しを注がれ、ついには容易に心を見せない黒い猛獣使いまで手なづけて、まるでこの学院の王子様のように皆に崇められている。
(あんな不思議でよくわからない人はいない。そしてなんでこんなに皆があの人に心惹かれるのかも)
きっと彼こそが、このグランディール学院の謎であり秘密なのだろう。
エイリークはそう頭の中で結論づけると、今度は腹が減ったと叫んでいるトムを連れて食堂へと戻って行った。
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