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祝福されし太陽の神子の役目
07 夜の訪問者
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(モブに対して少しグロテスクな描写があります)
-------------------------------------------
つ……疲れた…………。
それから食事もそこそこにベッドに戻って、ドサッとうつ伏せに寝転ぶ。思わず大の字になって息を吐き出すと、背後からまたかすかに笑う気配がした。そうだった。ここでも俺は一人じゃなかった。
鉛みたいに重い身体を起こして足元を見ると、広い寝台の隅にあの男前が胡坐をかいて座っている。ベッドの柱の一つには太い蝋燭が載った皿が取り付けられていて、揺れる炎が彼の顔を照らし出していた。
彼はトナティルの従者で、だからいつだってずっと俺の傍にいる。風呂も食事も寝室でも、だ。
風呂場ではあんな恥ずかしいところを見られてしまったのは恥ずかしいが、それでもあのとんでもなく痛かった脱毛後のやり取りで覚えた親近感は今でも消えてなかった。
相変わらず言葉は一言も交わしていないけれど、なんとなく目でやり取りできているような気がする。夕食の時だって女たちが次から次に肉や果物を盛った大皿を運んできたり、たくさん食えとしきりに勧めてくる司祭長に俺が辟易していると、ちらと目が合っただけでそれを悟ったかのように司祭長に向かって首を振り、終わりのないご馳走攻撃を止めてくれた。
風呂場でのあれこれと満腹になった腹のおかげで猛烈に眠気がやってくる。でもその時ふと食事の終わりにあの司祭長が言っていた言葉を思い出した。
『祝福されし****よ。今宵は寝所に**をお届けしよう』
一日過ごしているうちに少しずつ理解できる単語は増えているが、それでもまだ抜けているところがあるようだ。
司祭長が言っていたのは一体なんのことだったんだろうか。
ベッドにうつ伏せになってうとうとしかけた時、閉じられたベールの向こうに人の気配がして思わず跳ね起きた。何? なんだ?
そろそろとベッドの隅に逃げても、すぐ傍に座っている彼は警戒するどころか顔色一つ変えていない。するとするするとベールが開いて若い女が一人、ベッドに上がってきた。
透けるように薄い布で胸と股間をかろうじて覆い隠した女は、猫のように四つん這いになって俺の方へと近づいてくる。思わず背後に座っている彼を見上げると、なぜか穏やかな顔のまま俺に頷いた。
これって、もしかしなくてもアレ? 夜這い? ラッキースケベ?
突然のことにそんなアホな言葉を頭に浮かべながらごくり、と唾を呑み込む。
何度も繰り返すが俺はごく普通の健康な大学生だ。こんな風にあからさまに色気をムンムン漂わせて異性に迫られたら、理性や良心とは関係なく簡単にその気になってしまう。これはもう男の条件反射みたいなものだ。
ドクドクと心臓がうるさいくらいに高鳴る。でもさすがに自分から彼女に手を出す度胸はなくてただ固まっていると、ほんの目と鼻の先まで女が近づいてきた。俺の前に這いつくばった彼女の赤い唇がエロティックに弧を描く。そっと伸びてくる手が俺の股間に近づいてきて、童貞の俺の身体は否が応にも期待に昂りつつあった。
俺の薄い夜着の裾をそっとめくり、露わになったペニスに女が深々と顔を寄せる。そしてにんまりと笑うと俺に向かって口を開けた。
小づくりな顔に似合わぬ大きな口の中、そこに見えたのはいやらしく蠢く長い舌と、ピンク色の歯茎にズラリと並んだ小さな黒い穴だった。
「ヒッ!!」
歯……歯がない……!?
抑えきれなかった悲鳴が喉から漏れる。そんな、なんで。なんで歯が。
急に視界が真っ暗になって一気に血の気が引いていくのが自分でもわかる。なんで、まさか、無理矢理引っこ抜いた……?
「う、ぐ…………っ」
身体をくの字に折り曲げて、こみあげてくる吐き気を必死にこらえる。心臓が暴れてガンガンと鼓動がこめかみを叩く。我慢できない、そう思った時、力強い手に抱きとめられた。ぐらぐらする身体を逞しい腕に抱えられて、震える背中を大きな手でさすられる。
硬くて分厚い胸に額を押し付けて必死に呼吸を繰り返すと少しずつ吐き気も治まってきた。その時、頭の上で低く張りのある声が響いた。
「下がれ。**はお前たちの奉仕を望んでいない」
それが彼が発した声だと気づく前に女が急いで去っていった。またベールが閉じられて彼と二人きりになる。彼がわずかに身じろぐと、不意に部屋が真っ暗になった。寝台のどこかに置いてあった明かりを吹き消したのだろう。
暗闇の中で、さっき見た女の歯茎にぽっかりと開いた黒い穴を思い出す。とっさに目の前の大きな身体にしがみつくと、彼はぎゅっと俺を抱きしめて背中を撫でてくれた。
そのまま俺は疲れと緊張がピークに達して気絶するように意識をなくしてしまうまでずっと、彼の腕の中でガタガタと震えていた。
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つ……疲れた…………。
それから食事もそこそこにベッドに戻って、ドサッとうつ伏せに寝転ぶ。思わず大の字になって息を吐き出すと、背後からまたかすかに笑う気配がした。そうだった。ここでも俺は一人じゃなかった。
鉛みたいに重い身体を起こして足元を見ると、広い寝台の隅にあの男前が胡坐をかいて座っている。ベッドの柱の一つには太い蝋燭が載った皿が取り付けられていて、揺れる炎が彼の顔を照らし出していた。
彼はトナティルの従者で、だからいつだってずっと俺の傍にいる。風呂も食事も寝室でも、だ。
風呂場ではあんな恥ずかしいところを見られてしまったのは恥ずかしいが、それでもあのとんでもなく痛かった脱毛後のやり取りで覚えた親近感は今でも消えてなかった。
相変わらず言葉は一言も交わしていないけれど、なんとなく目でやり取りできているような気がする。夕食の時だって女たちが次から次に肉や果物を盛った大皿を運んできたり、たくさん食えとしきりに勧めてくる司祭長に俺が辟易していると、ちらと目が合っただけでそれを悟ったかのように司祭長に向かって首を振り、終わりのないご馳走攻撃を止めてくれた。
風呂場でのあれこれと満腹になった腹のおかげで猛烈に眠気がやってくる。でもその時ふと食事の終わりにあの司祭長が言っていた言葉を思い出した。
『祝福されし****よ。今宵は寝所に**をお届けしよう』
一日過ごしているうちに少しずつ理解できる単語は増えているが、それでもまだ抜けているところがあるようだ。
司祭長が言っていたのは一体なんのことだったんだろうか。
ベッドにうつ伏せになってうとうとしかけた時、閉じられたベールの向こうに人の気配がして思わず跳ね起きた。何? なんだ?
そろそろとベッドの隅に逃げても、すぐ傍に座っている彼は警戒するどころか顔色一つ変えていない。するとするするとベールが開いて若い女が一人、ベッドに上がってきた。
透けるように薄い布で胸と股間をかろうじて覆い隠した女は、猫のように四つん這いになって俺の方へと近づいてくる。思わず背後に座っている彼を見上げると、なぜか穏やかな顔のまま俺に頷いた。
これって、もしかしなくてもアレ? 夜這い? ラッキースケベ?
突然のことにそんなアホな言葉を頭に浮かべながらごくり、と唾を呑み込む。
何度も繰り返すが俺はごく普通の健康な大学生だ。こんな風にあからさまに色気をムンムン漂わせて異性に迫られたら、理性や良心とは関係なく簡単にその気になってしまう。これはもう男の条件反射みたいなものだ。
ドクドクと心臓がうるさいくらいに高鳴る。でもさすがに自分から彼女に手を出す度胸はなくてただ固まっていると、ほんの目と鼻の先まで女が近づいてきた。俺の前に這いつくばった彼女の赤い唇がエロティックに弧を描く。そっと伸びてくる手が俺の股間に近づいてきて、童貞の俺の身体は否が応にも期待に昂りつつあった。
俺の薄い夜着の裾をそっとめくり、露わになったペニスに女が深々と顔を寄せる。そしてにんまりと笑うと俺に向かって口を開けた。
小づくりな顔に似合わぬ大きな口の中、そこに見えたのはいやらしく蠢く長い舌と、ピンク色の歯茎にズラリと並んだ小さな黒い穴だった。
「ヒッ!!」
歯……歯がない……!?
抑えきれなかった悲鳴が喉から漏れる。そんな、なんで。なんで歯が。
急に視界が真っ暗になって一気に血の気が引いていくのが自分でもわかる。なんで、まさか、無理矢理引っこ抜いた……?
「う、ぐ…………っ」
身体をくの字に折り曲げて、こみあげてくる吐き気を必死にこらえる。心臓が暴れてガンガンと鼓動がこめかみを叩く。我慢できない、そう思った時、力強い手に抱きとめられた。ぐらぐらする身体を逞しい腕に抱えられて、震える背中を大きな手でさすられる。
硬くて分厚い胸に額を押し付けて必死に呼吸を繰り返すと少しずつ吐き気も治まってきた。その時、頭の上で低く張りのある声が響いた。
「下がれ。**はお前たちの奉仕を望んでいない」
それが彼が発した声だと気づく前に女が急いで去っていった。またベールが閉じられて彼と二人きりになる。彼がわずかに身じろぐと、不意に部屋が真っ暗になった。寝台のどこかに置いてあった明かりを吹き消したのだろう。
暗闇の中で、さっき見た女の歯茎にぽっかりと開いた黒い穴を思い出す。とっさに目の前の大きな身体にしがみつくと、彼はぎゅっと俺を抱きしめて背中を撫でてくれた。
そのまま俺は疲れと緊張がピークに達して気絶するように意識をなくしてしまうまでずっと、彼の腕の中でガタガタと震えていた。
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