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後日談やおまけなど
カイの過去と未来と緑の大地(完)
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「しっかし、ほんと広いなぁ……」
空も広いが地面も広い。日本で普通に高校生をやっていた頃は、こんな地平線を実際に見ることがあるなんて思いもしなかったことだ。
「カイ!」
後ろから声が飛んできて、僕は手綱を持ったまま振り返る。そして大きく手を振った。
「サイードさん! こっちの方にはやっぱりいないみたいです!」
「そうか。一体どこへ行ったんだ」
馬に乗ってやってきたサイードさんが困ったように眉を顰めてごちる。すると反対の東の方から別の馬に乗って誰かがやってくるのが見えた。
「あ、あれじゃないですか?」
僕より断然視力のいいサイードさんがそっちを見て頷く。
「ああ、やっぱりいるな」
「そうですか。良かった」
やがて僕たちの目の前で止まった大きな黒い馬に乗っているのはもちろんダルガートだ。そしてその前にちょこんと座った男の子が一人、ふくれっつらでそっぽを向いている。
サイードさんがその子に向かって言った。
「黙っていなくなったら駄目だろう。皆が心配する」
けれど黙ったまま目を合わせようともしない男の子の代わりに、ダルガートが言った。
「どうやらはぐれた仔を探しに一人で幕家を出たようですな」
「そうか。で、見つかったのか」
サイードさんが尋ねると、男の子はふくれた顔のまま上着の懐を開いて見せる。そこには小さな仔羊がのんきそうな顔を覗かせて男の子の服をしゃぶっていた。それを見てサイードさんが彼に言う。
「そろそろ春の嵐がやってくる季節だ。もしも今日中に見つからなければこの仔はもう二度と連れ帰ることができなかったかもしれない。よくやった、アルタワ」
褒められたのが思いがけなかったのか、彼の丸い頬が真っ赤に染まる。そして俯いたまま小さな声で「……だまっていなくなって、ごめんなさい」と呟いた。
「次から気を付ければいい。では戻ろうか。お前の母も姉もひどく心配している」
「僕、ダルガートたちと一緒に戻るので、サイードさん先に行ってシャディーヤさんにアルタワが見つかったって教えてあげて下さい」
「ああ、わかった」
サイードさんは頷くと、片手で手綱を引いて馬首を変え、あっという間に走り去っていく。その後姿をアルタワがじっと見送っていた。
「ほんと、サイードさんが走らせる馬は速いよね」
こくり、とアルタワが頷く。
「きっとアルタワもすぐ大きくなって、あんな風に馬と一緒にイシュカル中を走れるようになるよ」
「……うん!」
キラキラと目を輝かせてまっすぐに前を見るアルタワは、いずれこのイシュカルを纏める長になる。そのためにサイードさんはたくさんの馬や羊たちを育てていく方法と、この地に生きる人たちを率いていく覚悟とを教えようとしている。この子がもう少し大きくなったらダルガートが敵と戦う方法を教えてくれるだろう。
僕がこの子とイシュカルのためにできることはなんだろうか。この頃よくそのことを考える。
「カイさん」
突然名前を呼ばれてアルタワの方を見る。すると彼はちょっと照れたように唇を尖らせて「……うちに帰ったらチーズの入ったクマージュが食べたいです」と言った。
「ああ、そうだね。たくさん作って今度お母さんのところにも持って行ってあげようね」
「あと、手紙の続きも書きたいです」
「じゃあ一緒に文字の練習もしよう」
「はい」
ダルガートが後ろからアルタワと仔羊が落ちないように抱いて僕を見る。それに頷いて、僕は乗っている馬の脇腹を軽く蹴った。
広い広い草原を走りながら、僕はいまだに信じられないようなこの景色に目を細める。
恵み豊かな大地とどこまでも続く蒼天の美しさも、風に流れ形を変える白い雲の楽しさも、突然現れるオアシスの湧き水の清らかさも、そしてそこに住む人々とたくさんの生き物たちすべてが目に眩しい。これこそがこの《物語》の中で僕が手に入れた奇跡なのだと思う。
いずれすべてがこのフィールドから消される運命であっても、それまで僕は絶対に物事を投げ出したり努力することを止めたりしない。
この大地にちゃんと足をつけて、たとえ小さな一歩でも自分の力で歩いて行く。
それが、いつか来る最期の瞬間に僕自身が誇りに思える生き方なんだと思うから。
おわり
---------------------------------
この連載を始めた時に書きたかった内容はこれで全部になります。
削除前にここまでアップできてホッとしました。
またそのうち草原で楽しく暮らす三人&おちびさんやウルドの話など書けたらいいなと思います。
ここまで読んで下さってありがとうございました。
(書籍刊行後、ご購入者様限定でおまけSSが読めるタグ企画をTwitterでやる予定なので、もし良かったらそっちも覗いてみてください)
※すみません、これの前の話が投稿されておりませんでした💦
今朝6:30頃に前の話をupしました~!
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