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【第三部】西の国イスタリア
閑話 ひそやかな夜★(サイード・ダルガート)
しおりを挟む長らくお待たせして申し訳ありませんでした💦
この閑話はTwitterですでに読んでいる方もみえるので、特別にもう一話同時更新しました。
明日からは毎朝6時、一日一話の更新になります。
よろしくお願いします。
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東の帝国アル・ハダール。その宮城の奥深くにある一室から傍仕えの者たちを下がらせると、ウルドは慎重に重い扉を閉ざした。
扉の向こうの廊下で夜番についているのは近衛騎士のタリークという男だ。元は皇帝カハルの主騎であるダルガートの部下だったが、同じ近衛騎士のイシルとともに神子が西の辺境から戻ってすぐに神子の護衛騎士として任じられた。今から一年半ほど前のことだ。それ以来昼の護衛はヤハルに、夜間の護りはその二人に任せられている。
ウルドは居間の明かりを一つだけ残して窓の戸締りを確認し、奥の寝間へと続く扉を開けて静かに中へと滑り込んだ。夜、この部屋の中に控える者はウルドだけだ。いつものように扉の横に跪き、視線を足元に落としながらも呼ばれた時にはすぐに動けるようにじっと耳を澄ませた。
「……ぁ……っ、ん、あ、っふ、……っ」
天蓋から床まで届く薄いベール越しに、甘く濡れたような声が漏れ聞こえてくる。時折低い声が何かを囁き、巨大な寝台がわずかに軋んだ。ウルドが傍らに置いた燭台の火が時折揺れては寝台の中を照らす。
その時、扉の向こうに微かな靴音を聞いてウルドは顔を上げた。そして立ち上がると音を立てぬよう静かに扉を開ける。すると薄暗い居間を背の高い堂々たる体躯の男が歩いてくるのが見えた。
「サイード様」
深く頭を下げるウルドに男が頷く。アル・ハダール第三騎兵団の長であり、神子の《守護者》と呼ばれるサイードだ。ウルドは扉を押さえて彼を寝間へと通す。サイードは寝台から漏れ聞こえる声にわずかに目を細めると、ウルドに言った。
「汗を流して来る。着替えを」
「畏まりまして」
神子の寝間の奥には蒸し風呂が備え付けられている。神子の恩寵によりかつてとは比べ物にならぬほど水が豊かになった帝都ではいつでも沐浴が可能になった。ウルドはハマームの中で頭から湯を被り土埃を落としているサイードの衣服や長靴を集めると、彼のために用意してある寝衣を出してハマームから続く小部屋に置いた。
サイードは二十日程前に西で起こった盗賊との小競り合いを治めに行き、今しがた戻ってきたところのようだ。サイード自身もカハルより宮城内に部屋を賜わっているが、そちらに戻ることは稀で、帝都にいる夜のほとんどをこの神子の部屋で過ごしてる。今も帝都に戻るなり更衣する間もなくここへ来たのだろう。なぜなら、この部屋の主がそれを望んでいるからだ。
やがてサイードが沐浴を終え、更衣のための小部屋にやってきた。ウルドはその鍛え上げられた褐色の身体を拭い、軽い亜麻布でできた寝衣を着せる。だがサイードはウルドが用意した長衣を上に羽織らず、足早に寝台へと行ってしまった。
(サイード様もお早く神子様のお顔を見たいと思われているのだろう)
そう考えてウルドは小さく微笑んだ。
神子がこのイシュマール大陸に現れてから早二年と半年が経った。神子とその守護者であるサイードとの仲の睦まじさを、ウルドはよく知っている。
(いや、神子の守護者たる騎士はもう御一方)
公にそうとは認められていなくても、神子にとってのイシュクは二人いる。サイードと、ハリファ・カハルの筆頭近衛騎士ダルガートだ。
ウルドはサイードが脱いだ衣服を手早く片付け、神子の寝間へと戻る。するとちょうどサイードが天蓋から下がるベールを開けて中を覗き込んだところだった。
「ん……っ、はぁ、……はぁ……っ……、ぁ、あぁ……っ」
薄いベール越しに見える揺れる白い肢体とそれに覆いかぶさる大きくて逞しい巨躯。細くてすんなりした神子の両足をこじ開けるように太い胴をねじ込んで、ダルガートがゆっくりと腰を打ち付けている。疲れを知らぬように絶え間なく続くそのこね上げるような動きは、どこをどうすれば神子が最も深い快楽を得られるのかを知り尽くしたものだった。
「あ……、や、おく、やだ、イく、、またイっちゃう……っ」
「いくらでも、お好きなだけ」
少しばかりからかうような低い声が泣き喘ぐ神子をあやす。
「んっ、ダ、ダルガートも、ダルガートも、いっしょに……っ」
「……可愛らしいお方だ」
そう呟いてダルガートが神子に口づけながらぶるり、と胴震いをした。一回りも二回りも大きな身体にがんじがらめに組み敷かれ、神子が声もなく絶頂を極める。
二人の交合をじっと見ていたサイードが寝台に上がり、ひくひくと震えている神子の額にそっと唇を落とした。
「サ……サイード、さん……?」
「ああ、今戻った」
「お……おかえ……んっ」
そのままサイードに口づけられて神子が言葉を呑み込む。サイードに甘やかに舌を絡め唇を食まれながら、達したばかりの奥を余韻を楽しむようにダルガートに緩やかに突かれてビクビクと背筋を反り返らせた。
「あ、いやだ、うごかないで……っ」
「ダルガートにたっぷりと愛されたようだな。顔が蕩けている」
「そ、そんなこと……っ」
「隠さないでくれ。久しぶりのカイの顔をもっとゆっくり見ていたい」
そう言ってサイードが神子の背中を抱いて起こす。するとダルガートが両脇に手を入れて軽々と持ち上げ自分の膝に座らせた。
「ん……っ」
顔を上げた神子にサイードが優しく口づける。けれどその手は不埒にもとろとろと蜜を零す神子の性器を撫でるように愛撫してからたっぷりの香油とダルガートの精液に濡れた後腔へと潜り込んでいった。
「あ、あ、あ」
ゆるゆると動き出す指に神子が甘い嬌声を上げる。するとダルガートが神子を後ろから抱えてツンと尖った胸の先端を嬲り始めた。
彼らがこのような関係にあることを知っているのは当人たちを除けばウルドだけだ。他の召使いたちは日が暮れてより後は決して寝間には入れず、ウルドだけが侍っている。
神子の主騎であるヤハルや夜番の二人の近衛騎士、そして皇帝カハルなども彼らが互いに特別に信頼し合い、親しくしていることはわかっていても、本当の関係をどこまで察しているかは不明だった。
サイードもダルガートも第三騎兵団の長とカハルの筆頭護衛騎士という立場は二年経った今でも変わらないが、特別に神子の傍近くに付き従う特権を与えられている。それは神子が最初に御業を現した《カルブの儀式》やエイレケの襲撃において自分を守り抜いたこの二人を特別深く信頼しているからだ。
神子が水に恵まれぬ土地を訪れてこれを慰撫する時には必ずどちらかがついて行くし、宮城内での特別な宴や評定の席などでも、本来なら自らが傅かれるべきサイードが神子の傍近くにあって何くれとなく世話をやく姿はすでに見慣れたものになっている。
『この三人は特別だ』という空気がアル・ハダール内には確かにある。それは一年半前にあったイコン河での出来事以来だ。ウルド自身はその光景を目にしてはいないのだが、幸運にもその場に居合わせたヤハルから聞かされたことがある。
――――あれは本当に特別な、目を見張るべき光景だった。
ヤハルは後にウルドにそう話してくれた。
その時神子は、荒れ狂うイコン河を前にして右の手にダルガートを、左の手にサイードを従え、沈黙の祈りをもって見事に大河の濁流を鎮めて見せたのだという。
その時重く垂れこめた雲の隙間からは美しい光が幾筋の差し込み、吹きすさぶ強風はその勢いを弱め、ただ静かに立つ神子のあまりにも神々しい姿に皆はひたすら畏敬の念を抱いて頭を垂れたのだそうだ。
――――あの時神子殿は体調を崩され、今にも倒れそうな顔色であった。そんな神子殿を、サイード様は《イシュク》の力を持ってお支えになり、ダルガート殿もそれに倣われたのだろう。
ヤハルはそう言ったが、それは皇帝カハルを含めその場にいた皆が感じたことのようだった。
それにしても不思議な関係だ、とウルドはつくづく思う。
こことは異なる世界から来た類まれなる力を持つ神子を間に挟んで二人の騎士が彼を守り、そして愛している。普通ならば神子の寵を競って互いに合い争うものだろう。なのにサイードもダルガートも、相手が神子と共にあることをまるでわが事のように喜んでいる節さえある。
(……だが、不思議とこの方々にはこれがお似合いのように思える)
やがて三人で睦み合い始める声を聞いて、ウルドは静かに寝間から下がり交合の後に備えてお茶と果物を用意し始めた。
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