80 / 161
【第二部】東の国アル・ハダール
93 神殿での夜のやり直し★(ダルガート)
しおりを挟む黒い髪が眼に当たるのだろうか、手の甲でしきりに眼を擦る様子が、 起きている時と違って幼い子供のような仕草で、エリザベスは思わず微笑み、アークの前髪をそっと眼の上から払った。
その瞳は…愛する人を見つめるエリザベスの瞳は…慈愛に満ちた紫の瞳、そして愛された胸元には紫の髪が揺れ、両腕には咲き乱れる花模様が浮き上がっていた。
エリザベスの《王華》とアークフリードの中にあった《王華》が…エリザベスを包んでいたのだ。
ー叔母様の言っていた通り、こうして体を繋ぐと…《王華》は、王家の血に誘われてくるんだ。
私の中の二つの《王華》…。
だが、まだこの姿を見せたくないエリザベスは呟くかのように呪文を唱え、アークの眠りを深く夢の中へと誘うと、鮮やかな赤みがかった紫色のバラが咲き乱れる右腕を両腕に触れながら
「いつもは私の中で大人しくしてくれているのに、今日はお父様の《王華》が心配で出てきたの?」
そう言って、左腕の薄い紫色の萎れたバラに触れ
「…叔母様が一部を奪ったことで…色も花も…こんなになってしまったのね…。」
―…お父様…。お父様がアークに預けた《王華》が戻ってきました。…遅くなってごめんなさい。
13年前のあの日、お父様がアークに《王華》を預けたことを感じた。
それは…お父様の最後を意味していた。
今でも、あの時の震えるような恐怖を思い出す、お母様の気配が消え、そしてお父様とアークの異変を感じた時、私はコンウォールの父の手を振りほどいて二人の下へ行った。
覚えているのは…お父様の気配が…炎の中から消えていくのを感じた事と、血の海の中アークが数人の兵士に痛めつけられていたこと。
私は…冷静さを失っていた。
我を忘れた私は、野に返った野獣を同じで、とても人間の仕業とは思えないことを平然とやっていた。
すべてを憎み…アーク以外を…すべて破壊して、ようやく私は冷静さを取り戻したが…その惨状に立ち尽くした。
「これは…私が…?」
燃え盛る炎と、血と肉の塊が散乱する中で、幼い私の声が響いた。
魔法は日々使っていた。紫の髪と瞳をマールバラ王一族の色のブロンドの髪と青い瞳に変えることや、アークの様子を知りたくて、ノーフォークに瞬間移動したり…と…。
でも人を…こんなことには魔法を使ったことはない。
怖かった、《王華》を持っている事を初めて恐れた。
二つの《王華》は何を望んでいるのだろうか。
ひとりしか生まれない王家に双子の兄妹が生まれたことで、妹は心を壊し、代々受け継いできた《王華》を生まれながらにしてその身に宿す子が生まれたことで、その子は幼くして人を殺めた化け物となった。
この世界に二つの《王華》が存在することの意味はなんなのだろう…。
あれから13年。私はずっと考えていた。いや…お父様もずっと考えていらした、それは《王華》を捨てること。
マールバラ王一族は《王華》に怯え、そしてその力に酔っていた…そう狂っていたんだ、双子の片方に怯え、どうしたらいいのかわからず地下牢に閉じ込める所業はまさしく狂っている。
その出来事だけでも言える、この世界に二つの《王華》が存在することの意味は…終焉だ。
私に後始末をしろという意味。代々受け継いできた《王華》と私の中の《王華》をこの世界から始末する。
…私の中の《王華》は代々受け継いできた《王華》とは違う、私の魂に刻み込まれたものだから…《王華》を始末することは…おそらく…私も一緒にってことだろう。
覚悟はある。あの日の野獣のような自分を知ったから、この世界に居てはいけないことが分かったから。
叔母様に奪われた《王華》を取り戻したら…やる。《王華》をこの世界から始末する。
その瞳は…愛する人を見つめるエリザベスの瞳は…慈愛に満ちた紫の瞳、そして愛された胸元には紫の髪が揺れ、両腕には咲き乱れる花模様が浮き上がっていた。
エリザベスの《王華》とアークフリードの中にあった《王華》が…エリザベスを包んでいたのだ。
ー叔母様の言っていた通り、こうして体を繋ぐと…《王華》は、王家の血に誘われてくるんだ。
私の中の二つの《王華》…。
だが、まだこの姿を見せたくないエリザベスは呟くかのように呪文を唱え、アークの眠りを深く夢の中へと誘うと、鮮やかな赤みがかった紫色のバラが咲き乱れる右腕を両腕に触れながら
「いつもは私の中で大人しくしてくれているのに、今日はお父様の《王華》が心配で出てきたの?」
そう言って、左腕の薄い紫色の萎れたバラに触れ
「…叔母様が一部を奪ったことで…色も花も…こんなになってしまったのね…。」
―…お父様…。お父様がアークに預けた《王華》が戻ってきました。…遅くなってごめんなさい。
13年前のあの日、お父様がアークに《王華》を預けたことを感じた。
それは…お父様の最後を意味していた。
今でも、あの時の震えるような恐怖を思い出す、お母様の気配が消え、そしてお父様とアークの異変を感じた時、私はコンウォールの父の手を振りほどいて二人の下へ行った。
覚えているのは…お父様の気配が…炎の中から消えていくのを感じた事と、血の海の中アークが数人の兵士に痛めつけられていたこと。
私は…冷静さを失っていた。
我を忘れた私は、野に返った野獣を同じで、とても人間の仕業とは思えないことを平然とやっていた。
すべてを憎み…アーク以外を…すべて破壊して、ようやく私は冷静さを取り戻したが…その惨状に立ち尽くした。
「これは…私が…?」
燃え盛る炎と、血と肉の塊が散乱する中で、幼い私の声が響いた。
魔法は日々使っていた。紫の髪と瞳をマールバラ王一族の色のブロンドの髪と青い瞳に変えることや、アークの様子を知りたくて、ノーフォークに瞬間移動したり…と…。
でも人を…こんなことには魔法を使ったことはない。
怖かった、《王華》を持っている事を初めて恐れた。
二つの《王華》は何を望んでいるのだろうか。
ひとりしか生まれない王家に双子の兄妹が生まれたことで、妹は心を壊し、代々受け継いできた《王華》を生まれながらにしてその身に宿す子が生まれたことで、その子は幼くして人を殺めた化け物となった。
この世界に二つの《王華》が存在することの意味はなんなのだろう…。
あれから13年。私はずっと考えていた。いや…お父様もずっと考えていらした、それは《王華》を捨てること。
マールバラ王一族は《王華》に怯え、そしてその力に酔っていた…そう狂っていたんだ、双子の片方に怯え、どうしたらいいのかわからず地下牢に閉じ込める所業はまさしく狂っている。
その出来事だけでも言える、この世界に二つの《王華》が存在することの意味は…終焉だ。
私に後始末をしろという意味。代々受け継いできた《王華》と私の中の《王華》をこの世界から始末する。
…私の中の《王華》は代々受け継いできた《王華》とは違う、私の魂に刻み込まれたものだから…《王華》を始末することは…おそらく…私も一緒にってことだろう。
覚悟はある。あの日の野獣のような自分を知ったから、この世界に居てはいけないことが分かったから。
叔母様に奪われた《王華》を取り戻したら…やる。《王華》をこの世界から始末する。
169
お気に入りに追加
4,862
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)

身体検査
RIKUTO
BL
次世代優生保護法。この世界の日本は、最適な遺伝子を残し、日本民族の優秀さを維持するとの目的で、
選ばれた青少年たちの体を徹底的に検査する。厳正な検査だというが、異常なほどに性器と排泄器の検査をするのである。それに選ばれたとある少年の全記録。
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

お荷物な俺、独り立ちしようとしたら押し倒されていた
やまくる実
BL
異世界ファンタジー、ゲーム内の様な世界観。
俺は幼なじみのロイの事が好きだった。だけど俺は能力が低く、アイツのお荷物にしかなっていない。
独り立ちしようとして執着激しい攻めにガッツリ押し倒されてしまう話。
好きな相手に冷たくしてしまう拗らせ執着攻め✖️自己肯定感の低い鈍感受け
ムーンライトノベルズにも掲載しています。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。