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web版【第一部】おまけ&後日談

回想 市場にて 4

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(それって結構若死にしてるってことか? いやでも五十年前に召喚されてその三十年後に亡くなったってことだから別に早逝したってこともないのかな……)

「あの、そのお二人はどういった理由で亡くなられたんですか?」
「先代の神子殿は病で、三代前の神子殿はエラル山の噴火に巻き込まれたと聞いている」
「ふ、噴火!?」

 予想もしなかった死因に思わず声が出た。

(そ、そんなこともあるんだ……)
(……それに、どんだけ力を持ってたって神子もいつかは当然死ぬんだな……)

 ならば自分も、と思うと、当たり前のことなのに少し怖くなる。すると自分の言葉にカイが怯えたと思ったのか、クリスティアンが少し優し気な声音で言った。

「この大陸ではめったに山が火を噴いたりはしない。エラル山の噴火も当時八百年ぶりだったとか」
「そ、そうですか……」

 カイは慌てて表情を取り繕う。そしてちら、と視界の端でクリスティアンの端正な横顔を盗み見た。

(こうしてみると、意外と話しやすい人だな)

 いつも睨まれていたせいで自分から近づこうとは思いもしなかったが、予想に反して普通に受け答えしてくれていることにホッとする。

(……そういえばこの人は知ってるんだろうか)

「あの」

 訝し気な顔するクリスティアンに、カイは尋ねた。

「クリスティアンさんは、地図を見たことはありますか?」
「地図?」
「ええ、その形が……」

 と言いかけた時、しゃがんだ足元にぶつかるように突然何かが飛び出してきてカイは思わず飛び退った。

「ひゃっ!?」
「おっと」

 バランスを崩して尻もちをつきそうになったカイを、咄嗟にクリスティアンが支えてくれる。思わずカイもその腕にしがみついた。

「な、なんか今、黒いものが……っ」
「ああ」

 クリスティアンがどこかを見てから答えた。

「野良猫だな」
「…………猫……?」

 確かに黒い猫が向かいの店の隅からこちらをじっと見ている。たかが猫一匹に慌てふためいてしまった自分が恥ずかしくてカイは真っ赤になって俯いた。

「神子殿は猫が苦手か?」
「……いえ、かわいいですよね……猫ちゃん……」

 震え声でそう答えた時、突然胴に誰かの腕が回されて勢いよく引っ張り上げられた。

「どひゃっ!?」

 驚いて思わず声を上げると、頭の上から聞きなれた声がした。

「どうした、カイ」
「サ、サイードさん?」

 慌ててサイードを見上げるが、なぜか彼はカイではなくクリスティアンの方を見ていた。するとクリスティアンも立ち上がり、例の尖った目つきに戻ってサイードを睨み返す。

(あ、あれ? なんかサイードさんまで顔が険しくなってる?)

 今まではやたらと険のある目つきで睨んできていたのはクリスティアンの方だけで、サイードの方はいつもと変わらぬ涼し気な表情で受け流していた。なのに今はなぜか二人の間に見えない火花のようなものがバチバチと飛び散っている幻覚が見える。

(え? な、なに?? なにが起きてんの???)

 しかもどちらも身体が大きくて背も高く、皆が思わず振り返るほどの美形のサイードとクリスティアンにぴったりと挟まれて、一般人代表のようなカイは居たたまれないことこの上ない。
 ナゾの緊張感にカイがミュウツーとグラードンに挟まれたコイキングの気持ちを味わっていると、突然朗らかな笑い声が響いて空気が緩んだ。

「二人とも、かような往来で何を始めるつもりじゃ? 物見高い見物人が集まってきておるぞ」

 えっ!? と思ってカイが辺りを見ると、確かに市場を行き来していた人たちが興味深そうにこちらを見ている。そしてなぜか超至近距離でにらみ合ってる二人の周りに確実に人だかりが出来始めていた。

「サ、サイードさん? あ、あの……」

 それこそ猫の子のように片腕で抱えられたまま恐る恐る声を掛けてみたが返事がない。そのかわりにさらに強くぎゅっと抱き寄せられてしまった。

(え、な、なに? なんなのコレ???)

 咄嗟にレティシア王女に視線で助けを求めるが、なぜか王女はにっこり微笑むだけで何も言ってくれない。するとクリスティアンがひどく冷たい笑みを浮かべて言った。

「そのように目くじら立てるほどなら、貴兄が1ファル逃さず懐に抱いておけば良かろう」
「言われなくとも」

 そう答えるサイードの声がやけに冷え冷えとしている。そんなサイードの声を聞いたのは初めてのことで、カイの背筋に冷や汗が流れた。

(な、なんか怒ってる!? クリスティアンさんに? あ、もしかして僕がビックリして倒れそうになったの、クリスティアンさんが何かしたせいだと勘違いしたとか?)

 だがすぐに頭の中でそれを否定する。

(でもその後、普通に猫の話してたのサイードさんだって聞いてたと思うし……。じゃあなんで……)

 と、そこまで思った時、殺伐とした空気をぶち抜くようにレティシア王女がそれはそれは楽しそうに笑って言った。


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