23 / 161
web版【第一部】おまけ&後日談
回想 ダルガートからの手紙
しおりを挟む
カイがこの国の文字が読めると気づいたのは、ダルガートの書いたメモがきっかけだった。
三国間での合議が行われていた三日間、カイは一度もダルガートに会わなかった。
というのも元々ダルガートは皇帝陛下のすぐ傍にいて敵から守る筆頭近衛騎士で、カイの護衛をしていたのは相当イレギュラーなことだったらしい。
ちなみにサイードは、身体が鈍らぬように騎士たちが常に行っている訓練や神殿周りの哨戒の傍ら、時間を見つけてはカイに付き添ってくれている。
そのサイードの話では、カハル皇帝は合議の合間を縫ってめったに来れないダーヒル神殿領を精力的に見て回ってるらしく、ダルガートも常にそれに付き従っているらしかった。
(サイードさんとはご飯の時や夜寝る時とかに割と会えてるけど、ダルガートとはほんとにあれっきりだなぁ……)
カルブの儀式で山に登った時は朝から晩までずっと一緒にいたから、こう何日も顔さえ見ていない日が続くとやはり少しばかり気になってしまう。
(なんかあの皇帝陛下の護衛をずっとしてるのは結構大変そうな感じだけど……)
とは言え、カイと違ってあれだけ鍛えた身体をしているし、精神的にも相当強そうな彼にとっては大した事ないのかもしれない。
(でもちょっと、顔くらいは見たいかなぁ)
などと思っていたらどうやらサイードがそのことをどこかでダルガートに話したようで、今朝、サイードの部下である騎士のヤハルがダルガートから預かったと言って小さな包みを持ってきた。
ちょうどサイードと朝食を取っていた時で、カイはその場で包みを開けてみる。すると出てきたのは、いくつかのオレンジ色をした手のひらサイズの果物だった。
「これは珍しい」
サイードがそう呟く。
「そうなんですか?」
「ああ、これは神殿領の西の端にあるセラウというオアシスの辺りにしかない果実だ」
そう言ってサイードはいつも腰に挿してるナイフを器用に操って分厚い皮を剥いた。
「甘くてみずみずしい。美味いぞ」
例の、カイがどうにも弱いあの微笑みを口元に浮かべたサイードが、いつぞやのように剥いた果肉をそのままカイの口元に持ってくる。
(う……、ほんとにウルドたちが近くにいても全然気にしないな……。というか、この程度で一々動揺する僕がおかしいんだろうか?)
互いに想いを伝え合った仲とはいえ、なかなかこの距離感には馴染めない。
とはいえサイードに特別扱いされること自体はとても嬉しい。カイが気恥ずかしく思いながらもおっかなびっくり口を開けると、サイードが皮と同じオレンジ色の果肉を舌に乗せてくれた。確かにメロンのように果汁たっぷりで柔らかくて美味しい。
するとサイードがもう一切れナイフでこそぎ取りながら「……しかし、合議の合間にセラウまで往復しておられるのか……」と呟いた。
「それって遠いんですか?」
「ああ、結構あるな」
(……皇帝陛下ってやっぱり、かなり破天荒な人みたいだな……)
それはともかく、普段は随分と不愛想というか、何を考えてるかわからないような無表情のダルガートがわざわざそんな珍しい果実を自分宛てに言付けてくれたということが嬉しい。
思わずにやつきそうになる顔を引き締めてカイが包んであった布を見ると、何か文字らしき物が書いてあった。
(……ってか、これ文字だよね? なんか記号にしか見えないけど)
カイが首をひねっていると横からサイードが覗き込んできて、かすかに笑った。
「え、あの、なんて書いてあるんです?」
するとサイードがさらに笑みを深くして答える。
「……果たして俺の口から伝えていいことなのか」
「って一体何書いてんだあの野郎?!?」
突然のカイの叫びに驚くサイードから布を隠し、カイは文字らしき記号の羅列をギリギリと睨みつけた。その時、ふいに頭の中に言葉が浮かんできて驚く。
「……あれっ!?」
「どうした、カイ」
「…………あの、これってもしかして」
カイがウルドたちに聞こえないように小声でその言葉を言うと、サイードが目を見開いた。
「カイはこの国の文字が読めるのか」
「……み、みたいです」
と言っても、ただ漫然と文字を見ていても意味はわからない。頭の中でその文字を理解しようと頭だか目だかに微妙に力を籠めると、ふっと言葉の意味が頭に浮かぶような感じだ。
本などのまとまった量をすらすらと読むには恐らく多少の訓練は必要だろう。それでもカイにとってはとてつもない朗報だった。
(うわ、これは大発見だ……! なら、ここ神殿なんだから本とかたくさんありそうだし、読ませて貰えないかな!?)
いい加減なんでもいいから活字が読みたくて読みたくて仕方がなかったカイはオタならではの喜びに打ち震える。
だが、それより何より、カイは大声でダルガートに言ってやりたかった。
(僕がうっかりウルドに「これなんて書いてあるの?」って聞くかもしれないようなところにこんなことを書くな!!!!)
ちなみに果物が包んであったその布には『これは貴方と同じ味がする』と書いてあった。
絶対、間違いなくダルガートは面白がってこれを書いている。
そう確信を持ったカイは真っ赤な顔をでその布をぐしゃぐしゃに握りつぶし、それを見たサイードはそれはそれは楽しそうに笑ってウルドたちをひどく驚かせた。
三国間での合議が行われていた三日間、カイは一度もダルガートに会わなかった。
というのも元々ダルガートは皇帝陛下のすぐ傍にいて敵から守る筆頭近衛騎士で、カイの護衛をしていたのは相当イレギュラーなことだったらしい。
ちなみにサイードは、身体が鈍らぬように騎士たちが常に行っている訓練や神殿周りの哨戒の傍ら、時間を見つけてはカイに付き添ってくれている。
そのサイードの話では、カハル皇帝は合議の合間を縫ってめったに来れないダーヒル神殿領を精力的に見て回ってるらしく、ダルガートも常にそれに付き従っているらしかった。
(サイードさんとはご飯の時や夜寝る時とかに割と会えてるけど、ダルガートとはほんとにあれっきりだなぁ……)
カルブの儀式で山に登った時は朝から晩までずっと一緒にいたから、こう何日も顔さえ見ていない日が続くとやはり少しばかり気になってしまう。
(なんかあの皇帝陛下の護衛をずっとしてるのは結構大変そうな感じだけど……)
とは言え、カイと違ってあれだけ鍛えた身体をしているし、精神的にも相当強そうな彼にとっては大した事ないのかもしれない。
(でもちょっと、顔くらいは見たいかなぁ)
などと思っていたらどうやらサイードがそのことをどこかでダルガートに話したようで、今朝、サイードの部下である騎士のヤハルがダルガートから預かったと言って小さな包みを持ってきた。
ちょうどサイードと朝食を取っていた時で、カイはその場で包みを開けてみる。すると出てきたのは、いくつかのオレンジ色をした手のひらサイズの果物だった。
「これは珍しい」
サイードがそう呟く。
「そうなんですか?」
「ああ、これは神殿領の西の端にあるセラウというオアシスの辺りにしかない果実だ」
そう言ってサイードはいつも腰に挿してるナイフを器用に操って分厚い皮を剥いた。
「甘くてみずみずしい。美味いぞ」
例の、カイがどうにも弱いあの微笑みを口元に浮かべたサイードが、いつぞやのように剥いた果肉をそのままカイの口元に持ってくる。
(う……、ほんとにウルドたちが近くにいても全然気にしないな……。というか、この程度で一々動揺する僕がおかしいんだろうか?)
互いに想いを伝え合った仲とはいえ、なかなかこの距離感には馴染めない。
とはいえサイードに特別扱いされること自体はとても嬉しい。カイが気恥ずかしく思いながらもおっかなびっくり口を開けると、サイードが皮と同じオレンジ色の果肉を舌に乗せてくれた。確かにメロンのように果汁たっぷりで柔らかくて美味しい。
するとサイードがもう一切れナイフでこそぎ取りながら「……しかし、合議の合間にセラウまで往復しておられるのか……」と呟いた。
「それって遠いんですか?」
「ああ、結構あるな」
(……皇帝陛下ってやっぱり、かなり破天荒な人みたいだな……)
それはともかく、普段は随分と不愛想というか、何を考えてるかわからないような無表情のダルガートがわざわざそんな珍しい果実を自分宛てに言付けてくれたということが嬉しい。
思わずにやつきそうになる顔を引き締めてカイが包んであった布を見ると、何か文字らしき物が書いてあった。
(……ってか、これ文字だよね? なんか記号にしか見えないけど)
カイが首をひねっていると横からサイードが覗き込んできて、かすかに笑った。
「え、あの、なんて書いてあるんです?」
するとサイードがさらに笑みを深くして答える。
「……果たして俺の口から伝えていいことなのか」
「って一体何書いてんだあの野郎?!?」
突然のカイの叫びに驚くサイードから布を隠し、カイは文字らしき記号の羅列をギリギリと睨みつけた。その時、ふいに頭の中に言葉が浮かんできて驚く。
「……あれっ!?」
「どうした、カイ」
「…………あの、これってもしかして」
カイがウルドたちに聞こえないように小声でその言葉を言うと、サイードが目を見開いた。
「カイはこの国の文字が読めるのか」
「……み、みたいです」
と言っても、ただ漫然と文字を見ていても意味はわからない。頭の中でその文字を理解しようと頭だか目だかに微妙に力を籠めると、ふっと言葉の意味が頭に浮かぶような感じだ。
本などのまとまった量をすらすらと読むには恐らく多少の訓練は必要だろう。それでもカイにとってはとてつもない朗報だった。
(うわ、これは大発見だ……! なら、ここ神殿なんだから本とかたくさんありそうだし、読ませて貰えないかな!?)
いい加減なんでもいいから活字が読みたくて読みたくて仕方がなかったカイはオタならではの喜びに打ち震える。
だが、それより何より、カイは大声でダルガートに言ってやりたかった。
(僕がうっかりウルドに「これなんて書いてあるの?」って聞くかもしれないようなところにこんなことを書くな!!!!)
ちなみに果物が包んであったその布には『これは貴方と同じ味がする』と書いてあった。
絶対、間違いなくダルガートは面白がってこれを書いている。
そう確信を持ったカイは真っ赤な顔をでその布をぐしゃぐしゃに握りつぶし、それを見たサイードはそれはそれは楽しそうに笑ってウルドたちをひどく驚かせた。
160
お気に入りに追加
4,862
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました
まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。
性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。
(ムーンライトノベルにも掲載しています)
【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。
桜月夜
BL
前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。
思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】

獣のような男が入浴しているところに落っこちた結果
ひづき
BL
異界に落ちたら、獣のような男が入浴しているところだった。
そのまま美味しく頂かれて、流されるまま愛でられる。
2023/04/06 後日談追加

ハッピーエンドのために妹に代わって惚れ薬を飲んだ悪役兄の101回目
カギカッコ「」
BL
ヤられて不幸になる妹のハッピーエンドのため、リバース転生し続けている兄は我が身を犠牲にする。妹が飲むはずだった惚れ薬を代わりに飲んで。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。