恋に落ちてしまえ

伊藤クロエ

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ジェイデンの秘密と真実【完】★

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 ふと気が付くと、キーガンは一人寝台に横たわっていた。一糸まとわぬ姿で、力なく手足を投げ出したまま。傍らに小さな明かりが一つだけ点いていた。
 まだ中に硬く大きなモノが入っているような感覚が残っている。呼吸は浅く、腹の奥にはいまだ熾火のようなものが宿り、頭だけがやけにクリアだった。
 足元で人の動く気配がする。だがキーガンは疲労のあまり指一本動かすこともできなかった。
 ギシ、と寝台が軋む音がしてマットが沈む。暗い部屋に大きな男の影が見えた。力強い手がキーガンの膝を掴み、立てさせる。それから水音がして、何かぬるぬるとしたものを股間に塗りたくられる。そしてひんやりと冷たいものが押し当てられた。ぞりぞりと音がして、何かが肌を何度も滑る。

「ジェイ、デン」

 名を呼んだつもりだったが、擦れ切った喉はただひゅーひゅーと息を漏らしただけだった。それでも彼は気づいて顔を上げて、笑った。

「キーガン、ほら、見てみろよ」

 ジェイデンが持っていた何かを近くの鏡台に向かって放り投げる。キーガンが横目で見ると、それは水を満たした盥の中に投げ入れられた鋭い剃刀だった。なぜそんなものがここに? と思うより先にジェイデンが濡らした布でキーガンの股間を拭って囁いた。

「剃ったからよく見える。俺と本当に繋がった証だ」
「…………あかし……?」
「そうだ。ほら」

 ジェイデンがキーガンの身体を起こし、積み上げた枕の山にもたれさせる。そして綺麗に毛を剃り落したキーガンの下腹部をやさしく撫でまわした。

「おれが祖先から受け継いだ呪いは本当にろくでもないものだったが、これだけは感謝しよう。ようやくここまで育った。ずっと待ってたんだ。この日が来るのを」

 見ると、ペニスの根元のすぐ上に赤い奇妙な紋様が浮き出している。

「長かったな、キーガン。初めてお前とこうした時から……もう十年か? 女じゃないからなかなか根付かなくて、何度も何度も俺の精液をたっぷり注ぎ込んでようやく定着したんだ。キーガンは体格の割に尻が小さいから、たくさん無理をさせた。本当にすまなかった」

 そう言って目を細めたジェイデンの顔を、キーガンは無言で見返した。そして彼の黄金の目が異様な赤さに染まっていることに初めて気づく。

「なあ、キーガン。お前、今までずっと俺に罪悪感を感じていたんだろう」

 ジェイデンの端正な顔に笑みが浮かぶ。

「おかしな奴だ。俺がこんな風に生まれついたのはお前のせいでもなんでもないのに。自分がなんの悩みもない子供時代を送り、ごく普通の健康な身体を持ってるからといって俺に負い目を感じるなんて」

 ジェイデンの輝く黄金の目と綺麗な弧を描く唇は、かつてキーガンが見たことがないほど力強く、美しかった。

「ブラックウェル家に代々受け継がれた呪いは、代を経ることに変容していった。人の命をすすって生き延びたケダモノの子孫は、ついに自らがこんな魔獣になってしまったんだ。この俺みたいにな」

 そう話すジェイデンにぐっと下腹を押されて、キーガンは思わず喘ぎ声を漏らす。そこからじんじんと熱く疼く何かがこみあげてくる。

「この紋様を刻まれた者は、刻んだ者に完全に縛られる。これが完成すればお前は二度と俺から離れては生きていけなくなる」
「…………なん、で」

 なんで、おれなんだ。
 キーガンが震える息の下から問いかける。するとジェイデンはまるで太陽のように晴れやかに笑った。

「俺はな、初めてお前に会った時に気づいていたんだ。そう、あの昼下がりの講義室でな」

 ジェイデンの指がキーガンの頬に触れる。

「お前の匂い、空気、それにあの目。今まで一度も曇ったことがない空のように青くて、恐れるものなど何もないかのようにまっすぐに俺を見た。俺になんてまるで興味がなかっただろうに。俺があの講義室で腹をすかせた様子を見せたら、それまで一度も話したことさえなかったのになんの屈託もなく甘い甘い糖蜜の飴をくれた。そんな甘くて優しいお前だから、あの日、寮の裏でわざと俺は倒れて見せたんだ」

 キーガンは黙ってジェイデンの声を聞いた。

「一か八かの賭けだったが、お前は俺に大事な、大事なものを捧げてくれた。お前の精気は本当に美味かったよ。どこもかしこも甘くて、俺がお前に触れるたびにどんどん濃くなっていった」

 ジェイデンが身を屈めて覗き込みながら、その手をキーガンの両足の間にそっと這わせる。

「明るくて誰にでも優しく隔たりがなく、そのくせ絶対に自分の弱さや本当の内側は見せようとしなかったな。驚くくらい曇りがなくて、人の痛みに敏感で、すぐに茶化したような話し方をするけれど本当は誰よりも情に厚くて死ぬほど友に甘い、不器用なお人よしだ」

 根こそぎ精気を吸い取られ、霞むキーガンの目に映るその姿。この世で最も美しく、最も凶暴な獣が瀕死の獲物に勝利の笑みを浮かべていた。

「かわいそうなキーガン。騙されて、付け込まれて。こんな、もう二度と女も抱けないような身体にされてしまったな」

 どろどろに蕩けた秘腔をちゅぷちゅぷと弄られてキーガンの息が甘く濡れる。

「絶対に逃がさない。何度もチャンスはあったのに逃げ出さなかったお前が悪いんだ、キーガン」

 黄金の中に赤い炎が宿る目を一層細めて、ジェイデンが舌なめずりをした。そしてキーガンの膝裏を持ち上げる。彼の血の色をした紋様をぐっ、と押しながらぐずぐずに融けたままの孔に再び己のモノを咥え込ませた。

「~~~~~~ッツ!」

 ジェイデンの手の圧迫感と中に潜り込んでくる圧倒的な質量にキーガンは思わず仰け反るが、何年にも渡るこの捕食関係によって完全にジェイデンの形を覚え込まされたキーガンの後腔はずぶずぶと最奥まで剛直を受け入れてしまう。

「キーガンにもいっぱい飲ませてやるからな。俺の精液」

 ゆっくり腰を打ち付けながらジェイデンが囁いた。

「あ…………っ、は…………っ、あ、う…………っ」

 再び奥をぬくぬくと突かれて、根こそぎ食いつくされた後だというのにまた蘇る快感の波に、キーガンは弱々しく首を振りながら喘いだ。

「あ……、ひ……っ、あぁ……、はぁ……っ」
「キーガン、気持ちいいか?」
「は、ん……っ、あ、う、んっ、ん…………っ」
「ふふ、愛らしい声だ。普段の強くて格好いいお前しか知らない人たちが聞いたら驚くな、きっと」
「ひぐっ!」

 ずん、と重たい一撃を打ち込まれて一瞬息が止まった。そのまま最奥をこじ開けるようにこねくり回され、結腸をくぷくぷと何度も抜かれて視界が白く弾ける。

「気持ちがいいな、キーガン。ここが好きなんだろう? 言ってみろよ。ほら、気持ちいい、気持ちいい」
「ん……っ、はぁ、……ぁ……っ……、ぁ、あぁ……っ」

 キーガンは熱に浮かされたように声を漏らしながら、重くてたまらない腕を必死に持ち上げる。

「どうした? キーガン」

 キーガンを見下ろし、ゆるゆると中を穿ちながらジェイデンが問い返した。その黄金の目は血の色に染まって強烈な太陽のフレアに似た光を放っている。

 ジェイデンは人を食らう。
 父親の血、キーガンの精液。心を、身体を、すべてを貪り食らう。
 それこそがジェイデンに背負わされた呪いの魔獣のサガなのだから。

「ジェイデン」

 力の入らない手で、ジェイデンの頬に触れる。

「……泣きたきゃ、泣いてもいいんだぜ」
「…………は?」

 心底驚いた顔をして、ジェイデンが動きを止めた。それを見上げて、キーガンは擦れた声で囁く。

「どうせここには、おれと、お前しかいないんだ。泣きたきゃ泣けよ」
「……なにを言っている。別に泣きたくなんかない」

 ジェイデンが呆れたように答えた。

「ジェイデン」

 キーガンの呼びかけに、ジェイデンの目がこれ以上ないほど大きく見開かれる。

「ジェイデン」

 あの日寮の裏で、ただ騎士として自分が誇りに思える生き方がしたいだけなのに、と言ってきつく拳を握りしめて蹲っていたジェイデンの震える背中を忘れたことは一日たりとてなかった。
 薄暗い学院の寮の部屋で、埃っぽい騎士団の石造りの物置の隅で、野営の天幕の中でキーガンを犯すジェイデンの縋りつくような目を思い浮かべない日はなかった。

「ジェイデン、俺のために泣かなくていい」

 喘ぎすぎてひりつく喉から声を絞り出し、震える手でジェイデンの頬を撫でる。

「ずっと前から、とっくに、おれはおまえのものだから」

 そしてなんとか口の端を持ち上げて笑った。

「だから、そんな、心配すんな」

 どうか、この不器用で臆病で貪欲な手負いの獣の心に届くように、と祈りながら。

「ここまで来たら、毒を食らわば皿までってやつだぜ、ジェイデン」

 ジェイデンの唇がかすかに震える。

「なあ、ジェイデン。何があったって、今更お前を一人にはしねぇよ」
「………………キー、ガン」

 突然、ジェイデンの目から大粒の涙が転がり落ちた。
 初めて彼が見せた涙がキーガンの胸に落ち、そのまま心臓に染み込んで溶けていく。
 これこそまさに呪いであり毒だ。それも致死量の。
 キーガンはジェイデンの顔を引き寄せて、流れる涙を舐めた。

「……ほんとだ。甘ぇ」

 ジェイデンがいぶかし気に瞬きをする。そして笑った。

「だろう?」

 ジェイデンの手がキーガンの顎を掬い上げ、口づける。舌を絡ませ、漏れる吐息ごとその喘ぎを飲み込むと、キーガンの中をいっぱいに埋め尽くす楔をゆるやかに動かし始めた。たまらずにキーガンは彼の首にしがみつく。

「は……っ、あっ、ジェイデン、ジェイ、デン……っ」
「……っ、キーガン、キーガン」

 キーガンはあらゆる思考を放棄し、ジェイデンに与えられる快楽を追いかけ、溺れていく。

「あっ、なあ……っ、ジェイデン。お前、おれを好きになれよ……っ」

 そう、もっと俺を欲しがって、俺に恋をすればいい。
 誰かの血を、精を、飲んで喰らってこの先も生きていくなら相手は俺だけにすればいい。

「俺がお前を愛していて、お前も俺を愛しているなら、この行為は呪いではなく愛のための交わりだ。そうだろう……? ジェイデン」

 そう呟くとジェイデンが突然キーガンの身体を引っ張り、自分の膝に座らせた。自重のせいで今までで一番奥まで彼の怒張を呑み込んでしまってキーガンは息を止める。そんなキーガンをジェイデンは抱きしめて、甘く優しく腰を揺らし始めた。

「ぁぅうっ……んっ、ぁんっ、ぁあ……っ」
「キーガン、キーガン」
「ハッ、あっ、ジェイデン……っ、おれが、お前の呪いをといてやる」

 ごつごつと最奥を穿つ膨れ上がった亀頭の大きさを痛いほど感じる。

「だから、俺に恋してみろよ」
「恋だって……っ? そんなもの、とっくの昔に落ちている。本当にわかっていないのか?」

 寝台が軋み、身体を揺さぶられるたびにジェイデンに刻まれた血の色の紋様からとてつもない快感が生まれ、キーガンの全身を駆け巡る。

「あ、イく、また、イく、ナカ、あ、あぐ…………んっ!!」
「いくらでも感じてくれ、キーガン、俺のモノを腹いっぱい咥え込んで、いっぱい精を飲んで、そうすればもっと綺麗な紋様がお前のココに浮かび上がってくる」
「ハッ、あっ、そ、んなん、なくても、おれは、あ、ヒッ! あ、おく、おく…………っ!」
「ん、わかっている。キーガン、奥、好きか?」
「あ、す、すき、すげ、キてる、あ、はら、あつい……ッ」
「…………好きだ、キーガン」

 きつくきつくキーガンを抱きしめて、ジェイデンが言った。

「……ようやく言ったな。この臆病者」

 腹いっぱいに熱い精液を注ぎ込まれて息も絶え絶えになりながらそう囁いて、キーガンは一途で不器用なケモノに初めて自分からキスをした。


**************************
エール送って下さった方ありがとうございました~!
繁忙期終わったら今度こそ『仲良くしたいの。』の最終章更新します…!

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感想 7

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みんなの感想(7件)

さとうあけみ

クロエ様🙇‍♂️
ジェイデンお名前間違え‼️(*_*)すみません😢⤵️⤵️
スマホ📱難しい😭
🙇‍♂️🐸👋

解除
さとうあけみ

クロエ様💗ギーガン&ジェイドカップル💑ありがとうございます( *´艸`)
ガチムチカップルに当てられっぱなしの🐸でございます(笑)☺️
お互いの思惑に感涙😭💗
ジェイドが嵌めたように装いますが😀その実は純愛です😭💗
どんなに言い繕って蹂躙したように見える形にしてもギーガンには通用しません‼️
根底に有るものがこれまでのお互いに過ごした歪な時間を心から素直に思えば「愛」しかない💖( =^ω^)
ギーガンを望み離れられないように嵌めた事が!何よりも物語っています😭💗
お互いの望みが噛み合ってあとは幸せに…😆😍
もう少し💗ラブラブな二人を堪能したいです~😆🥰
🐸👋💖

解除
しんちゃんまま

久しぶりのジェイデン‪‪✕‬キーガン‼️
待ってました大好きです( ˘͙ ᵌ ˘͙ )💕
男らしい受けが好き過ぎてもう堪らん♥
やっぱり最高でした〜(*´﹃`*)💕💕
アップありがとうございました💗

伊藤クロエ
2023.02.27 伊藤クロエ

こちらでも読んでくださってありがとうございます…!
強くて強い攻めさんと拳で語り合えそうな受けくんも大好きなんですが、精神的に攻めさにんより強い受けくんいいですよね♡

解除

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