恋に落ちてしまえ

伊藤クロエ

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夜会にて(2)★

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 もう一つ階段を上がり手近な部屋に忍び入ったとたん、ジェイデンが後ろから羽交い絞めにするようにキーガンを壁に押し付けた。そして顎を掴んで後ろからキーガンの唇にむしゃぶりついてくる。

「んん……っ、ふ、は……っ、ん、……っ」

 指で口をこじ開けられ、舌が中へ入り込んでくる。そのままジェイデンが身体の位置を入れ替え、今度は前からキーガンを抱え上げるようにして口づけてきた。

「ふ、ん……っ、ジェイ、んん…………っ」

 キーガンはどんどん熱くなっていく下腹部をジェイデンの硬い腹に擦りつけたいのを必死に堪え、なんとか手を伸ばして扉の錠をおろした。それから肩の力を抜いてジェイデンが望む通りに唾液をその口に流し込んでやる。

「ん、ちゅ、ん、ふ、ぁ…………っ」

 キーガンとジェイデンは背の高さは同じくらいだが、身体の厚みはジェイデンの方がずっと上だ。これはもう生まれつきのものらしく、キーガンも諦めている。ジェイデンは太く力強い腕でキーガンの身体をいとも簡単に持ち上げると、そのまま部屋の奥の寝台に押し倒した。今夜この城に泊まる地方領主たちのために整えられた織地の美しいカバーに皺が寄る。

「ま、まて、って……っ!おれ、まだ、身体拭いてな……っ!」
「しなくていい」

 低い、擦れた声が耳孔に吹き込まれる。その温かい息が掛かっただけで、また腹の奥底の熱が一層強く疼いた。とはいえ一日の汗や埃をそのままに身体のあちこちを舐められるのは絶対に嫌だった。

「ジェイデ……っ、おい、身体だけは、ぜったい拭かせろ、って、いっただろ……っ!」

 そう言うと、ジェイデンが苛立たし気に舌打ちをした。だがもう一度キーガンに深く口づけ舌を吸い上げると、もどかし気に服を脱ぎ捨てる。そしてキーガンの身体からも服を引き剥がした。
 寝台の横の鏡台の下に置かれた琺瑯の大きな水差しから乱暴に盥に水を注ぎ、掛けてあった布を投げ入れる。

「おい、ちょっと!」

 キーガンの抗議をものともせずに、ジェイデンが絞った布でキーガンの身体を拭き始めた。

「いや、自分でやるって」
「いいから黙っていてくれ」

 ジェイデンが片手でキーガンの左の膝裏を掴み上げ、反対の手に握った布で乱暴に腹や股間を拭う。まだあちこち拭いていないところがあるのに、ジェイデンは布を投げ捨てると再び激しく口付けてきた。

「ジェイ……ジェイデン……!」
「わかった、キーガン。待つから、こっちを……くれないか」

 ジェイデンがそう呟くと、またキーガンの口内を舌で掻き回して呼吸ごと唾液を掬い取った。
 激しく脈打つ鼓動と、じんじんと疼く腹の中と絶え間ないジェイデンの口づけとで頭がくらくらしてくる。キーガンは力が抜けて全身寝台に沈みそうになるのをジェイデンに支えられながら、なんとか手を伸ばして布を掴み、汗ばんだ下半身をぬぐおうとする。するとそれに気づいたジェイデンがその布をひったくると、キーガンの手を掴んでぬるぬると性器の根元を擦り始めた。

「…………っ、あ…………ッ」

 鼠蹊部から陰嚢の裏。濡れた陰毛を掻き分け奥へ、奥へ。自分の指と彼の指とが一緒に中に入り込み思わず身じろぎする。するとジェイデンが焦れたように身を屈めてキーガンの口に食らいついてきた。
 一週間、精気を摂取していなかったジェイデンは今、疲れと飢えの極致にあるのだろう。なりふり構わず望むものを得ようとするジェイデンにキーガンは吞まれそうになる。だがキーガンは必至に理性を叩き起こして深く息を吐き、覚悟を決めて自ら深く指を潜り込ませた。

「もういいか、キーガン」

 ジェイデンが肩で息をしながら聞いてくる。キーガンが「もう少し」と身体を起こそうとすると、それを許さぬかのようにジェイデンの重たい身体が圧し掛かってくる。再び上から口づけられて、ジェイデンの舌と息と唾液がキーガンに注ぎ込まれた。

(あつい、あつい、あつい)

 まただ。体温が一気に上昇する。鼓動はますます早くなり、全身の血液が股間に集中し始める。そして腹の奥底の、あのとてつもなく熱い何か。ずくずくととぐろを巻く熱がますますキーガンの中で煮えたぎっていく。

「……やっぱり……甘いな。キーガンの」

 わずかに開いた唇の隙間から、ジェイデンが呟いた。

「んなわけねぇだろ……っ」
「本当だ」

 小さく笑う声。そしてジェイデンが髪を乱し、恐ろしく獰猛で、性的な顔をして言った。

「なあ、はやく、キーガンの、あつくて濃い精液、腹いっぱい、のませてくれないか」

 それからキーガンは分不相応に立派な寝台で、文字通り精魂尽き果てるまで貪り尽くされた。

「は……ぁ……っ、あっ、う、ん………………っ」

 大きくて貪欲な口に何度も何度も扱かれ、吸いつくされて、キーガンのペニスは真っ赤に腫れている。疲れ果てて勃起しなくなると、またいつかのように後腔に指を入れられ中のしこりを刺激されて無理矢理射精させられた。それでもキーガンは一切泣き言も文句も言わず、ただジェイデンのしたいようにさせた。

「ハッ、ハッ、あ、う、う゛う゛~~~~~んっ!!」

 もう何度目かもわからぬ絶頂にキーガンは全身を震わせる。そして強く先端を吸い上げられて息を止めた。
 頭がくらくらする。視界が暗い。手も足もまるで力が入らない。だが、キーガンの顔を覗き込むジェイデンの目は、まだ満足していなかった。

 ジェイデンが背負うブラックウェル一族の呪いは、年とともにさらに強くなっている。彼の身体がより大きく、強くなるにつれ、必要となる精気が一層多くなっているのだろうか。
 初めてジェイデンの秘密を知って以来、ジェイデンはいつも己の呪われた血を憎み、キーガンを利用している自分を罵りさえしていた。そんなジェイデンをキーガンは時に励まし、半ば脅してその胸中のわだかまりや秘密を吐き出させてきた。それが自分を”唯一無二の友”と呼ぶ彼のためにできる数少ないことだと思った。

「キーガン、大丈夫か……?」

 少しは理性が戻ってきたのか、未だ満たされない渇きを必死に押し隠した声でジェイデンが問いかける。だがそんな誤魔化しがキーガンに通用するはずがないことにジェイデンは気づいていないのだろうか。

(……もう十年超えてるんだぜ……?)

 キーガンがジェイデンの秘密を知ってから。
 ジェイデンを守るために、キーガンが自らの身体を与えるようになってから。

「キーガン……?」

 ジェイデンの大きくて硬い手が伸びてくる。汗ばんだ前髪を掻き上げられる。
 ジェイデンが触れるたびに、その声を聴くたびに、腹の熱が一層キーガンを苛む。何度ジェイデンの手や口で暴力的とさえ言えるような絶頂に突き上げられても、その熱と疼きはまるで治まらない。

「ひょっとして、ここ、まだ辛いのか……?」

 ジェイデンがキーガンの下腹をそっと撫でる。ただそれだけでキーガンの口からはみっともないほど甘く蕩けた声が漏れる。

「……すまない、キーガン。まだ足りないんだ」

 ジェイデンがようやく自分の欲求を口に出せるようになったことが嬉しくて、キーガンはうっすらと微笑んだ。
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