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キーガンの献身(1)★
しおりを挟むジェイデンが二十代半ばの若さで史上最年少のロンダーリン騎士団団長に任命されたばかりの頃にそれは起こった。
その時ジェイデンは思いがけない傷を負い、キーガンは彼の呪いの業の深さを改めて思い知らされた。
数年に一度、国境の森で起こる魔獣の異常発生スタンピードを鎮めるためにジェイデンは騎士団を率い、隣国エラルドと共同討伐に臨んだ時のことだ。
どんな魔獣相手でも怯むことなく自ら剣を抜き戦うことを少しも恐れないジェイデンだが、今の彼はあくまで騎士団を纏める団長だ。この時もジェイデンはこれまでの経験や過去に起きたスタンピードの記録を元に騎士団を指揮し、見事魔獣ダンダギアの群れの討伐に成功した。
けれど東側から群れを掃討する手はずだったエラルド側に何か不慮の出来事があったらしい。エラルド側の領土からはぐれて飛び出したダンダギアの成獣の群れは矢傷を負って怒り狂い、負傷者を守りつつ森から撤収しようとしていた後詰めの騎士たちに襲い掛かった。その時キーガンは団の先頭にいて、最後尾にいたのはジェイデンだった。
「くそ……っ! ジェイデン! そっちは俺たちが引き受ける! おまえは早く後退しろ!」
背後の異常に気が付いてすぐさま駆け付けたキーガンの言葉に、傷ついた部下を背負いながら魔獣を斬り倒したジェイデンは首を振った。
「今は総力をもって当たらなければ後方は全滅する。俺だけが逃れるわけにはいかない」
「あのなぁ!」
キーガンはいつも下がり気味の眦を吊り上げて怒鳴ろうとした。
(お前の命は俺たちと同じじゃない)
(お前が倒れたら誰がこの騎士団の指揮を執るんだ。例え俺たちが全滅したって、お前さえ無事ならロンダーリン騎士団はどうとでも立て直せる。こんなところで失っていい命じゃないんだ)
けれどその言葉をギリギリのところで飲み込んだ。その代わりジェイデンが背負っていたけが人を自分が担いで一旦下がり、輜重隊の馬車にけがした兵を乗せて再び槍を手に駆け戻る。そして無我夢中で戦った。
視界の端でジェイデンが無類の剛腕で魔獣を叩き斬り、倒れた騎士の腕を掴んで背後に押しやり、再び襲い掛かる魔獣に立ち向かう姿が映る。
どれほどの修羅場であっても、ジェイデンは常に自分が戦いの先頭に立とうとする。
騎士団長でありブラックウェル家の人間である自分の命が一介の騎士たちと比べてずっと重いものであると頭で理解してはいても、それでもジェイデンは決して誰かを見捨てたりしない。
大勢の人の上に立つ者としては致命的な甘さだ。けれどそれこそが彼を彼たらしめる正義であり、信条なのだろう。
ジェイデンは、普通の人間なら頭がおかしくなってしまいそうなとてつもない秘密を抱えている。
人に知れればバケモノとして恐れられ、嫌悪され、彼を”清く正しく美しい騎士の鑑”と崇めたてる人々から追い立てられ排斥されるだろう。人の体液を糧にして生きる者など、栄えある王国の騎士として認められるはずもない。
ジェイデンはまだ十にもならない頃に国や人を守る騎士として生きることを自らの心に誓ったのだという。そのために自らを鍛え律してきた。けれど戦えば戦うほど、懸命に勤めをまっとうしようと努力すればするほど彼の乾きは激しくなり、その身を苛む。
いつ秘密が露見するかわからない。いつまで騎士として生きていけるのかわからない。ジェイデンにとって一日一日が騎士として生きられる最後になるかもしれない貴重な時間だ。
だからこそジェイデンは身を焼き焦がすような飢えと戦いながら、好きでもない同性の男の前に跪き、その精液を飲み下すことさえして生きてきたのだ。
そうまでして騎士として生きようとするジェイデンを自分が支えなくてどうするのだと、キーガンはいつもただそれだけを考える。
魔獣ダンダギアの群れを前にして自ら先頭に立って戦うジェイデンの姿に鼓舞され、騎士たちはみな獅子奮迅の働きを見せた。そしてなんとか荒れ狂う魔獣たちを倒し、エラルド側へ早馬を出し連携を取りながら負傷者たちを連れ王都に戻った。
そしてジェイデンはまだ若い騎士を庇って脇腹に怪我を負ってしまった。
「副団長! 一刻も早くブラックウェル団長を医務棟へ……!」
周りの騎士たちがそう言うのをなんとか躱し、キーガンはジェイデンを抱えて詰所の彼の部屋へと戻る。扉の鍵を下した瞬間、キーガンは恐ろしいほどの力でジェイデンにベッドに引きずり込まれた。
ジェイデンの脇腹の傷は深く、出血はおびただしい。痛みのせいかそれとも血が減っているせいか、ジェイデンの飢えは激しく、その黄金の目はひどく暗く翳っていた。
「ハッ、ハッ、……、キー、ガン……ッ」
まるで飢えたケモノのように、ジェイデンが息を荒げながらキーガンを組み敷き、貪ろうとしている。だがキーガンは抵抗しなかった。
「なあ、それってやっぱり怪我した動物とかがいっぱいメシ食って治そうってするやつ?」
土埃や魔獣の返り血に塗れた鎧を無理矢理剥がし、スラックスを引きずり降ろしてキーガンの股間に顔を埋めるジェイデンの頭に向かってそう聞いてみる。だが当然返事はなく、ジェイデンの熱く濡れた口に咥え込まれた感触に息を詰めた。
キーガンに対していつもの謝罪一つせずむしゃぶりつく彼を見れば、三日間に及ぶ戦いと寝不足と負傷のせいで渇きが限界を超えていると容易にわかる。
「んん……っ、ちゅ、は……ふ……っ、……っ」
ジェイデンはいやらしい音を立ててキーガンのモノを舐めしゃぶり、先走りを啜った。まさに貪り食う、と言うにふさわしいその激しい行為にキーガンは必死に声を飲み込んだ。
「…………ッ!」
ぢゅうっ、ときつく亀頭を吸われてキーガンは一度目の絶頂にきつく目をつぶる。いつものように一滴残らず飲み干したジェイデンは、まだキーガンのモノを掴んで離そうとしなかった。再び舌を這わせ、唾液を塗りこめて大きな手でキーガンのものを扱き始める。
「……すまない、すまない、キーガン……ッ」
「だから、謝るな、って……っ」
わずかでも理性が戻ってきたのか、ジェイデンのひどく掠れた弱弱しい声に思わずそう言い返す。
「謝る必要なんてない。お前のせいじゃない」
キーガンだって今付き合っている女はいないし、精液を飲まれたってその分命が脅かされたりするわけじゃない。友なら、彼の言う”無二の親友”だったらあたりまえにすることだ。そう言おうとした時、落ちかかる前髪の隙間からジェイデンの目がキーガンを見た。いつも黄金色に輝いている目の奥に、奇妙に赤い光が揺らめいている。なぜかキーガンの背筋がぞくり、と震えた。
「……キー、ガン」
「な、なんだ?」
「こっちも、ほしい」
そう言ってジェイデンがキーガンの上に伸しかかり、唇を奪う。
「んん……っ!?」
熱く濡れた舌が這い込んできてキーガンを絡め取り、唾液を啜る。
「キーガン、キーガン、もっと、のんでも、いいか……?」
そう尋ねる間もぬるぬるとキーガンのペニスを扱く手は止めない。
「……ああ、いいぜ、好きなだけ、飲めよ」
キーガンがそう答えると、ジェイデンの黄金の目の奥の赤い光が強く輝いた。
それから気が遠くなるほどの時間、キーガンはジェイデンに貪られ続けた。もう何度目かもわからない絶頂にキーガンは寝台に背中を沈ませ、指一本動かすことさえできずに完全に息が止まる。するとまたジェイデンの重い身体が覆いかぶさって来て、深く口づけてきた。
「ふ…………は……ぁ……っ」
もはや抗う力もなく、されるがまま横たわるキーガンの舌を舐めて吸うジェイデンの唾液が流れ込んでくる。それを飲み込むとまたいつかのように下腹に奇妙な熱が生まれる。
「…………ッハ…………っ、あつ…………っ」
「キーガン、キーガン」
ジェイデンがどろどろに溶けた声でねだった。
「もっと、もっとほしい」
「…………っ、って、もう、出ねーよ……」
ジェイデンがまたキーガンの下半身に屈みこむ。とっくに下衣のすべてをはぎ取られて剥き出しになったキーガンの足を抱え込み、吸いつくされて赤く腫れて力なく垂れたペニスをまた口に含んだ。
「ジェイデン、もう、ムリだって……」
そう言いながらも、キーガンは一向に消えない腹の奥底の得体の知れない疼きに身をよじる。
(なんだこれ……また、ハラんなか、ずくずくする……)
ざり、とジェイデンの指が陰毛を掻き分けてペニスの根元のすぐ上を撫でる。途端に下腹の疼きが強くなって思わずキーガンは背を反り返らせた。
「やめ……っ、ジェイデン、ソコ、さわん、な……っ」
「……なぜだ……?」
だがジェイデンはキーガンのモノを扱きながら今度は舌でそこを舐めてくる。
「ハッ、あ…………っ、な、なんか、ソコ、ヘン……っ!」
「ヘンって、どんな?」
「どんな、って、なんか、ナカが」
「ナカ?」
「すごく、ずくずく、して…………ひっ!?」
キーガンの尻を抱え込んだジェイデンの親指が、突然後ろを撫でた。
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