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302話「摩訶不思議な現象、ごくごくたまに起こる件について④」
しおりを挟む二人が入れ替わってしまった現場へと辿り着いた三人。
関「やっぱり入れ替わってましたか、あなたたち。」
張間「は、はい...。」
新沼「ってか部長、よく気づきましたね?」
関「あれだけのことをしておいて、気づかれないと思っていたんですか?あれで気づかないのは、どこぞの鈍感男だけですよ。」
新沼「ですね。あの男は全く気づかないでしょうね。」
張間「「張間さんと新沼さん、どうしちゃったんだろ?」とは思うけど、それ以上は深く考えないですよね、傑先輩は。」
関「いやしかし、信じがたいことでしたが、本当だったとは...。」
張間「わ、私たち、これからどうすればいいでしょうか...?」
新沼「頭の良い部長なら、なにか良い案ありますよね!?」
関「こんな非現実なことで頼られても、困る一方なんですけど...。」
新沼「えぇ~!?そんなこと言わずに、お願いします部長ぉ~!」
関「...新沼くんの姿でそんなことされると、なんか違和感すごいですね。」
張間「部長さん、お願いですからこのバカの姿から元に戻るまでは、目と耳と鼻と口を塞いでおいてください。」
関「それだと私死んじゃうんですけど、張...新沼くん。」
新沼「おいおい咲ちゃんや...!発言には気をつけようねぇ...!今、あなたの身体は私のものなんですよ、わかってます? 次、バカとかなんとか言ったら、綾小路くんの告白を秒でオーケーしちゃいますからね?わかったか、こら!」
張間「あんた確か、西田くんだっけ?あのイケメンに好かれてるのよね?末長くお幸せにね。」
新沼「待て待て待てぇぇい!!やめんか、バカもの! 私が告白なんてしたら、100%オーケーされるでしょうがい!!」
関「自信が満ち溢れすぎですよ、張間くん。」
張間「ねぇ、西田くんって何部なの?今、どこにいるの?」
新沼「早速実行しようとするな! いいのか!?綾小路くんにかわいこぶって告白するぞ!いいのか!?」
張間「そんなことしたら、あんたを殺した後に舌噛みちぎって死ぬわ。」
新沼「やめんか、ばかもの!ってか、そこまで嫌なの!?綾小路くんが可哀想に思えてくるよ!!」
関「落ち着きなさい、あなたたち。今は告白よりもやるべきことがあるでしょうに。」
張間「そ、そうですね...!」
新沼「部長、早くなんとかしてください!」
関「なんとかしろと言われましても......あなたたち、階段から落ちて入れ替わったんですよね?」
張間「はい、そうです。」
関「でしたら、もう一度同じことをしてみてはどうでしょうか?」
新沼「やっぱりそれしかないか!いくぞ、咲ちゃん!」
張間「うん!」
二人は、勢いよく階段を駆け上がっていく。
上りきり、身体を反転させーーー数秒ジッと下を眺めた後は、ゆっくりと一段一段丁寧に階段を降りていく。
関「おや、どうしました?」
新沼「どうしました?じゃないですよ、部長。」
張間「結構高いです。打ちどころ悪かったら、元に戻る前に死にます。」
関「まぁ、その可能性も無くはないですね。うーん、どうしましょうねぇ...?」
張間「も、もしかして、私はずっとこのままバカのままなの...!?そんなの、絶対に嫌...!!」
新沼「部長、早くなんとかしてください!何か他の案を!早く!」
関「...やはり、これしかないか...!この方法は、古来より伝わる伝説のーーー」
張間「部長さん、前置きはいいですから、早く。」
新沼「早く教えろ!はーやーくー!」
関「その方法とは...!」
関「キスです。」
張間「...へ?」
新沼「キ、キス?」
関「はい。キスには、眠る姫君を起こしたり、呪いを解いたり、入れ替わったりと不思議な力があるものです。ですので、試してみる価値はあるかと。」
張間「あ、いや、それは流石に...ね、彩香ちゃーーー」
新沼「やろう...!」
張間「え!?ちょっ、本気で言ってるの!?」
新沼「本気だよ、本気!このままだと、私たちずっとこのままなんだよ!? 咲ちゃんは、それでもいいの!?」
張間「よくないわよ!私だって、さっさとこのバカの身体から元に戻りたいわよ! でも...!」
新沼「咲ちゃん、さっきからバカバカ言わないでくれる?私、傷ついてるのよ?」
張間「今はそんなことどうでもいいでしょ!」
新沼「よくないよ!というか、何が問題なのさ!やりたくない理由でもあるの!?」
張間「だ、だって、その......わ、私、まだしたことないし...!は、初めてだし...!」
新沼「私だって初めてだ馬鹿野郎が!というか、こんなところで乙女出してくるな!!」
張間「いいの!?あんたはいいの!?こんな形で初めてをなくして!?」
新沼「元に戻る可能性があるのであれば、やらなきゃいけないでしょうが!! さぁ、やるぞ!いくぞ!」
張間「ちょっ、ちょっと待て!心の準備をーーー」
新沼「こういうのは時間かけた方が恥ずかしくなるんだ、馬鹿野郎が!さっさと観念しろぉぉぉぉ!」
張間「い、いやぁぁぁぁ!?離してぇぇぇ!!」
関「一部のマニアには大ウケしそうですね、これ。」
新沼「ジタバタするな!元に戻るため!さぁ、やるぞ!」
張間「やるなら早くして!お願いだから、早くして!」
新沼「するからジッとしてなさい!!」
動きを止め、ギュッと目を閉じる張間。お互いに顔を真っ赤に染めながらも、新沼は張間へと唇を近づけていく。
張間「......。」
新沼「......。」
関「...どうですか?」
張間「......。」
新沼「......。」
関「...ダメだったみたいですね。」
新沼「ダメだったじゃねぇんだよ、このやろうがぁぁぁ!!なぁぁにが、キスには不思議な力があるだ、ボケェェェ!!」
張間「返してください!私のファーストキスを、今すぐに!!返してくださいぃぃぃ!!」
関「落ち着いてください。キスの一つや二つや三つ...大事なのは、回数じゃありませんよ。シチュエーションとか、その場のーーー」
新沼「うるせぇぇぇぇ!!」
張間「キスしたこともないのに、うだうだと語らないでください!語ってる暇あるなら、さっさと謝って返してください!!早く!!」
関「こらこら、決めつけはいけませんよ。私にだって、甘酸っぱいキスをしたことくらいありますよ~。あっはっはっは~!」
新沼「それならば、なおのこと許せるかぁぁぁぁ!!」
張間「この罪は、とっっっても重いですよ...部長さん...!!」
関「罪どうこうの前に、他の方法を考えましょう。お二人は、なにかいい案がーーー」
新沼「咲ちゃん...!」
張間「私は、右半身をやる...! 彩香ちゃんは、左半身をお願い...!」
新沼「オーケー...!任せな...!」
関「あなたたち?やるべきことが違いますよ? まずは、元に戻ることを優先ーーー」
張間「女の子にとって、ファーストキスというのはとても大切なものなんですよ...!」
新沼「私たちのファーストキスを奪いやがって...!」
関「その言い方だと、私が奪ったみたいになりますよ?違いますからね? 私は、こうしてみたらと案を出しただけーーー」
新沼「問答無用ぉぉぉぉ!!」
張間「地獄に叩き落としてやるぅぅぅ!!」
関「え、えらいこっちゃえらいこっちゃぁぁぁ!!」
二人に背を向け、関は全力疾走で階段を駆け降りていく。
新沼「待てごらぁぁぁぁ!!」
張間「逃しませんよぉぉぉ!!」
関「今あの二人に捕まってしまったら、手足が引き裂かれても不思議ではない!! し、静まりたまえぇぇぇ!そなたたちは、なぜ私を襲う!?そなたたちには、他にやらねばいけぬことがーーー」
新沼「ぬがぁぁぁぁ!!」
張間「うわぁぁぁぁ!!」
関「全く話が通じない!あの子たちには、もう人の心は残っていないのか!? というか、そんな急いで階段降りたら危ないですよ!もっとゆっくりーーー」
新沼「お前には言われたくないわぁぁぁぁ!!」
張間「捕まえたら、四肢を引きちぎって瓶に詰め込んでやるぅぅぅ!!」
関「ファーストキス奪った罪、重すぎではぁぁぁ!?」
新沼「そんだけ、女の子のファーストキスはーーー」
勢いよく階段を降りる新沼ーーー勢い余って階段を踏み外す。
新沼「あっ!?」
張間「へ...!?」
バランスを崩した新沼は、咄嗟に張間の腕を掴む。
当然張間も踏ん張ることは出来ず、二人は悲鳴を上げながらゴロゴロと階段を転げ落ちていく。
関「張間くん、新沼くん、大丈夫ですか!?」
張間「い、いたたたた...!」
新沼「ちょっと、あんた!ふざけんじゃないわよ!何度私を巻き込んだら気が済むのよ!?」
張間「ま、待って待って!咲ちゃん落ち着いて!私たちには、倒さねばならぬ相手がーーー」
新沼「うっさいわ!まずはあんたを...。」
張間「...あれ?」
新沼「......私、新沼 咲。」
張間「私は、張間 彩香ちゃんです。」
新沼「...も、もしかして...!?」
張間「元に...!」
張間・新沼「戻ったぁぁぁ!!」
関(M)これにて、摩訶不思議な入れ替わり事件は、無事?幕を閉じたのであった。
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