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139話「バカでも風邪引く時は引く⑤」
しおりを挟む数十分後、台所。鍋の中で、食材がグツグツと煮られている。関はお玉で掬い上げ、小皿にとりわけ、味見を始める。
関「ん~よしよし。良い感じに仕上がってきてますね~。」
関「......あの二人も、いい感じになってますかねぇ? 彼女は、いつになったら自分の気持ちに気づくんでしょうかね?」
関「でも、傑くんは仲本くんに一方通行ですから、気づかない方がいいのかもしれませんね。気づいた方が、今よりモヤモヤすることが増えますよ。大人しく、愛を注いでくれてる西田くんに振り向いてもいいんじゃないかい? それが、一番辛い思いしなくていい道だと思いますけどね。」
関「でも、あなたが茨の道を突き進むと言うなら...私は、全力であなたを応援しますよ。張間 彩香ちゃん。」
恵「ただいま~。」
関「...ん?」
恵「あやちゃーん、今日は早く帰らせてもらえたのー。今から、ご飯作る...。」
恵「...こんな靴、うちにあったかしら? これ、どう見ても男の人の靴よね?」
恵「......ま、まさか!?」
ーーー
張間の部屋。張間がプリンを食べ終え、横になっている。間宮はベッドにもたれかかり、自分のカバンに入れていた漫画を読んでいる。
張間「......間宮先輩。」
間宮「なに?」
張間「ありがとうございます。」
間宮「ん? なにが?」
張間「お見舞いきてくれて。あと、学校でも電話とかしてくれて。」
間宮「気にしないでいいよ。」
張間「じ、自分でこんなこと言うのあれですけど...嫌じゃなかったですか?」
間宮「......。」
間宮は漫画を閉じ床に置くと、張間近づき軽くこめかみにデコピンする。
張間「あいてっ。」
間宮「嫌だったら、ここにきてないよ。」
張間「......。」
間宮「風邪引いて、一人で家にいて、寂しかったんでしょ?」
張間「...はい。」
間宮「全く、寂しがりやでうるさくて元気な後輩だこと。」
張間「そんな後輩はダメですか?」
間宮「ダメじゃないよ。」
張間「...間宮先輩。」
間宮「なに?」
張間「......か?」
間宮「ん? なに?」
張間「......。」
間宮「張間さん?」
張間「......咲ちゃんと私......どっちが好きですか?」
間宮「え?」
張間(M)私は一体、何を言ってるのだろうか?
張間(M)きっと、熱でボーッとしてるからだ。だから、こんなよくわかんないこと聞いちゃうんだ。
張間(M)あぁ...モヤモヤしてきた。答えを聞くのが怖い。
張間(M)このまま布団に潜り込みたい。
張間(M)...なんで、答えを聞くのが怖いんだろ?
間宮「どっちも好きだよ。」
張間「......。」
張間(私は...何を求めていたのだろう...?)
間宮「でも、どっちかって言われたら...僕は、張間さんが好きかな。」
張間「...え?」
間宮「部活の後輩だから。だから、他の人と比べたら、ちょっとだけ特別な存在かな?」
張間「特別...ですか?」
間宮「うん。でも、僕は風邪で寝込んでる張間さんより、部室でギャーギャー馬鹿みたいにうるさく騒いでる張間さんが大好きだからさ。今日は大人しくゆっくり寝て、月曜日、元気な姿で部室に来てね。」
張間(M)特別な存在。私は、間宮先輩のちょっとだけ特別な存在。
張間(M)それが、とてもとても嬉しい。なんでかわかんないけど、とてもとても嬉しい。
張間(M)身体が少し熱くなってきた。風邪の熱さじゃない。じゃあ、なんなんだろう? この熱さは?
間宮「張間さん? 大丈夫?」
張間「......間宮先輩。」
間宮「なに?」
張間「手、握ってもいいですか?」
間宮「手?」
張間「手。」
間宮「いいけど、どうしたの?」
張間「......。」
間宮「...ほら。」
間宮は、ゆっくりと張間の前に手を差し出す。張間も、ゆっくりと布団から手を出し、間宮の手をギュッと握りしめる。
間宮「張間さんって、思った以上に寂しがりやさんなんだね。」
張間「......。」
張間(M)なんでだろう? 何度か間宮先輩の手は握ってるのに...なんでだろう? 今、すごくドキドキする。
張間(M)ずっと、この手を握ってたい。握りしめてたい。離したくない。
張間「...えへへ。」
間宮「張間さん?」
張間(M)なんだろう? 感じたことのない、この気持ち。名前の知らない、この気持ち。
張間「えへへ...間宮先輩。」
間宮「なに?」
張間(M)あなたの名前は、もしかしてーーー
関「あぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?」
間宮「え!? な、なに!?」
張間「部長の声が! 一体、何が!?」
ーーー
リビングでは、恵が金属バットを持って関を威嚇している。ジリジリと迫ってくる恵から、ゆっくりと後ずさって距離を取っていた関だったが、ついに壁際へと追い込まれてしまう。
恵「お、大人しく、そこでジッとしててください! すぐに楽にしてあげますから!!」
関「楽に!? 私、殺されますよね!? そうですよね!? 落ち着いてください! まず、その金属バットを下ろしてください! 怪しい者じゃありませんから!」
恵「人ん家で勝手にご飯作って、さらにうちの食材勝手に使ってる人のどこが怪しくないんですか!? 反論は!?」
関「ありません!!」
恵「あ、彩ちゃんは...私が守るぅぅぅぅぅぅ!!」
関「あぁぁぁぁぁ!?!?」
張間「お、お姉ちゃん!? なにしてるの!?」
恵「彩ちゃん!? ダメ! ここにきちゃダメだよ! すぐに終わらせるから、待っててね!!」
間宮「先輩、大丈夫ですか!?」
恵「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!? 新たな敵が!? 彩ちゃんから、離れろぉぉぉぉぉ!!」
間宮「え!? ちょっ、待って待って待って!!」
張間「お姉ちゃんんんんん!! 落ち着いてぇぇぇぇぇぇ!!」
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