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67話「男とは、単純な生き物である」
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大賀 雄太:♂ 一年生。野球部の部員。
甲柱 光:♂ 一年生。野球部の部員。
西田 聖也:♂ 一年生。サッカー部の部員。
ーーーーー
お昼前、東咲高校のグラウンド。一年A.Bクラスの男子が、体育でソフトボールを行なっている。
大賀「どぉぉぉらぁぁぁ!!」
グラウンド内に、大賀の雄叫びが響き渡る。マウンドに立っている大賀から放たれたボールは、下手投げにもかかわらず、勢いよくキャッチャーミットめがけ伸びていく。
バッターボックスに立っていた男子生徒は、負けじと勢いよくバットを振るが、擦りもすることなくバットは空を切る。
先生「ストライークッ! バッターアウトッ!」
大賀「おっしゃぁい!」
生徒A(攻撃側)「おい、大賀てめぇぇ! 少しくらい、手を抜けぇぇぇ!」
生徒B(攻撃側)「あんなボール、打てるわけねぇだろうがぁぁ!」
大賀「うるせぇぇ! 遊びだろうがなんだろうが、全力で獲物を狩るのが男だろうが! 悔しかったら、当ててみろや!」
先生「おい大賀~これは遊びではなく、授業だぞ~。そこ、間違えるな~。」
西田「あ、あははは...。すごいね、大賀くん...。」
甲柱「あぁ。あんな乱暴なこと言って...敵作るのがやっぱり上手いな、あいつは。」
西田「あ、いや...そういう意味ですごいって言ったわけじゃないんだけど...。」
周りから怒号が飛び交う中、冷静さを保ちながらマウンドを見つめる二人。マウンドに立つ大賀には、攻撃側...さらには、味方の守備側からも「ボールが飛んでこねぇぞ!」「打たれろ、バカが!」「つまんねぇぞ!」と、怒号が飛んでいる。
先生「おーい、次のバッター! 早くこーい。」
甲柱「おい、西田。次、お前だぞ。」
西田「あっ、そっか。」
西田はスッと立ち上がり、バットを持ってバッターボックスに立つ。
生徒A(攻撃側)「やったれ、西田ぁぁぁ!」
生徒B(攻撃側)「あのプライド高男の長っ鼻、へし折ってやれぇぇぇ!」
西田「無茶言わないでほしいなぁ...。」
大賀「おーおー出てきたな、イケメン野郎が! てめぇも、無様に...三振しろやぁぁぁ!!」
大賀は、一切手を抜かずにボールを放つ。先ほどよりも球威が増しており、ゴォォ!と音を立てながら、キャッチーミットに吸い込まれていく。
西田「ふっ!」
ボールと金属がぶつかり、鈍い音が響く。ふらふらと高く上がったボールは、左中間にぽとりと力なく落ちていく。
大賀「んなっ!?」
西田「よかった、落ちてくれて。」
生徒A(守備側)「大賀、てめぇぇぇ! なんで打たれてんだよ、ごらぁぁ!!」
生徒B(守備側)「ここまできたら、打たれんなよ! 空気読め、空気!」
大賀「うるせぇぞ、お前ら! 打たれても打たれなくても、結局ギャーギャー言ってんじゃねぇか!! つーか、サボってんじゃねぇぞ! 死ぬ気で走りゃとれただろうが!」
生徒A(守備側)「こんなお遊びソフトボールに、命賭けられるわけねぇだろうが! 少しくらい考えろ!」
生徒B(守備側)「そうだそうだ! 口に出す前に、ちゃんと頭で考えてから発言しろや!!」
先生「だから、遊びじゃなくて授業だって言ってんだろ、お前らぁぁぁ! 真剣に取り組め、真剣に!!」
甲柱「西田のやつ、すげぇな。大賀の球を打ち返すなんて。やっぱり、イケメンはすげぇな。」
生徒A(攻撃側)「なんで打ってんだよ、西田このやろぉぉぉ!」
生徒B(攻撃側)「ここで打ったら、カッコいいだけだろうがぁぁぁ!」
生徒A(攻撃側)「これ以上、イケメンになるんじゃねぇよ!!」
生徒B(攻撃側)「顔も良くて、運動もできるとか! どれだけ俺たちを傷つけたら気がすむんだ、馬鹿野郎がぁぁ!!」
西田(なんでヒット打ったのに、めちゃくちゃ言われてるんだろ、僕...。)
張間「おーおー、さすが西田くんだね! それとも、あの投手がヘボヘボなだけかなぁ~?」
甲柱「ん? 張間、なんでここにいるんだ?」
張間「女子の体育、終わったから。さぁ、こっからこっから! 繋げていこー!!」
先生「こっからじゃなくて、お前はさっさと着替えてこい、張間。つーか、もうこんな時間か...おーい、次の打席で最後な~。」
女子生徒A「男子、まだやってたんだ。」
女子生徒B「次、誰打つの~? カッコいいとこ、見せてねぇ~!」
張間を筆頭に、テニスを終えた女子生徒がぞろぞろとテニスコートから帰ってくる。
その途端、男子生徒たちの怒号は綺麗さっぱり消え去る。そしてーーー
生徒A(攻撃側)「しゃぁぁ! こっからこっから! 逆転してくぞー!」
生徒B(攻撃側)「最後まで手を抜かず、正々堂々戦いぬくぞぉぉ!!」
生徒A(守備側)「大賀ぁぁぁぁ! 打たれても、俺が必ずアウトにしてやる! 思い切り投げろぉぉぉ!」
生徒B(守備側)「俺たちを信じて、気楽に投げろぉぉぉ! さぁ、こぉぉぉい! 声出してくぞぉぉ!」
張間「おーおー! いいねいいね、熱くなってきたねぇ~! ほら、甲柱くんも声出して...って、あれ? もうバッターボックス行っちゃった。甲柱くんは、寡黙な男だねぇ~。その分、私が声出して応援してあげましょう! いっけーいけいけ!いけいけ甲柱! 打ってー打て打て!打て打て甲柱!」
西田(張間さんに応援されてる...羨ましいな。)
大賀「お前と戦うのは久しぶりだな、光!」
甲柱「......。」
大賀「さっさと投げてこいってか? へっ、いいぜ...! 相棒だからって...手ぇ抜かねぇぞぉぉぉ!!」
唸りを上げ、キャッチーミットへと向かうボール。先ほどよりも、速く、速く、駆け抜けていく。
大賀「...え?」
金属の甲高い音が響くと共に、甲柱はバットを軽く放り投げ、ゆっくりと一塁へと歩いていく。
先生「おぉ...マジか。」
西田「すご...。」
N「寡黙な男、甲柱 光。その姿振る舞いから、女の子からの評価を気にしなさそうに見える彼だが...彼もまた、男なのである。」
打ったボールは、外野の頭を超え遥か先へと飛んでいく。誰も一歩も動くことなく、ただただボールの行方を目で追っている。甲柱は塁を回りながら、右拳を高々と突き上げている。
張間「おぉぉぉ! 甲柱くぅぅ~ん! めちゃくちゃカッコいいぜぇぇ!!」
女子生徒A「ボールって、あんな飛ぶんだ。凄っ。」
女子生徒B「ってか、あの速い球よく打てるよね! ねぇ、めちゃくちゃカッコよくない!?」
大賀「う、嘘だろ...? マジかよ...。」
生徒A(守備側)「大賀、ドンマイ! 誰だって、打たれることはある! 大切なのは、次だ!」
生徒B(守備側)「俺たちが、必ず点を取り返してやる! 落ち込むな! 諦めんな! 俺たちが、もう一度お前をマウンドに立たせてやるからな!」
大賀「急に優しい言葉をかけてくんな、お前ら! 気持ち悪いんだよ! 光、てめぇぇ!! もう一回勝負しろやぁぁぁ!!」
先生「さっきの打席で終わりだって言っただろ? 諦めろ、大賀。いや~しかし、これだけ熱くやってくれると、先生も嬉しいぞ! お前ら、次の体育も最初からこんくらい熱くーーー」
生徒A(攻撃側)「しゃぁぁ! 甲柱に続くぞぉぉぉ!」
生徒B(攻撃側)「攻撃の手は、緩めねぇぜぇぇ! 声出して、いくぞぉぉぉ!」
生徒A(守備側)「こっちも、負けてられっか! 声出せ! 大賀の気持ちを盛り立てんぞ!!」
生徒B(守備側)「しゃおら! いくぞぉぉぉ!」
先生「いや、だから! もう終わりだって言ってんだろうがぁぁぁ! やる気出すなら、もう少し早めに出せぇぇぇ!!」
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